安全保障非公式会議「韓国と日本の安全保障の未来」

2016年9月01日

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 「第4回日韓未来対話」の開幕を翌日に控えた9月1日(木)、韓国・ソウル市内のベルエッセンスホテルソウルにおいて、日韓両国の外交・安全保障の専門家による安全保障非公式会議「韓国と日本の安全保障の未来」が行われました。


日韓が共に直面する3つの安全保障課題

YKAA0146.jpg まず、韓国側の司会を務めた河英善・東アジア研究院理事長は、日本と韓国が共に直面している安全保障の課題として、北朝鮮への対応、アジア太平洋地域の秩序の安定化、地球全体レベルの安全保障という3つのレベルの課題を指し、本日の非公式会議や明日の日韓未来対話において、両国の有識者が具体的な方向性を示すことへの期待を寄せました。


日韓は「同じ側」に立っているのか

YKAA0153.jpg 続いて、日本側の司会を務めた工藤泰志・言論NPO代表は、この非公式会議開催の趣旨を説明しました。工藤は7月に公表した「第4回日韓共同世論調査」の結果において、両国民の意識構造の中に、中国に対する態度や地域の安全保障についての考え方に相違が見られたことを指摘した上で、「日韓は本当に価値を共有し、『同じ側』に立っているのか」と問題提起。そして、「なぜ、こうした認識の違いがあるのか。本音の議論によって明らかにしていかないと、両国は共に『未来』に向かうことができない」と語りました。


様々な協力を積み重ねていくべき

YKAA0267.jpg 「日韓安保協力の必要性について」と題して韓国側の基調報告者は、日韓を取り巻く安全保障課題として、河氏と同様の認識に立ち、北朝鮮の核・ミサイルの高度化への対応、アジア太平洋において台頭する中国への対応、グローバルで超国家的な安全保障課題への対応の3点を提示。その上で、こうした課題に直面する中、日韓が双務的な安全保障関係を深化させ、協力していくためには、例えば、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)と物品役務相互提供協定(ACSA)などの締結や、軍事・法執行機関同士の危機管理メカニズムの構築、軍の実務者同士の交流、PKO、軍隊による人道支援・災害救援(HADR)などの協力を積み重ねていくことで安全保障関係深化のための基盤を整えるべきだと語りました。

 さらに、工藤と同様に世論調査に表れた日韓両国民の認識に相違についても言及。このギャップを乗り越えるためには様々なチャレンジが必要とした上で、歴史認識問題の解決や、アメリカ・ワシントンDCを舞台とした非生産的な「告げ口的」公共外交をやめること、そして、中国に対して互いにどう対応するかという3点を挙げました。特に、対中国に関しては、日本側に対して大陸と地続きという韓国の置かれている地政学的な環境についての理解を求めると同時に、対中牽制一辺倒でなく、中国を引き込むような枠組み構築の必要性を指摘しました。

 そして最後に、両国の一般の国民もそうした様々な課題を理解できるようにしていくことが、この日韓未来対話の意義であると語りました。


日韓関係をマネジメントとするための4つの視点

YKAA0433.jpg 続いて、日本側の基調報告者からは、世論調査では昨年12月の慰安婦合意などを契機として日韓両国民の相手国に対する感情が好転しているなど、明るい兆しがあるとしつつ、「北朝鮮の核・ミサイルへの対応の必要性に迫られた反射利益」という要素も大きく、決して安定的・構造的な改善基調ではないため楽観はできないとの見方を示しました。

 その上で、日韓共通の同盟国であるアメリカが孤立主義的傾向を見せるなど変容を始めたことから、アメリカの恩恵を受けてきた両国がこれにどう向き合うかは最大の課題だとした上で、両国が協力していくことの重要性を説きました。

YKAA0440.jpg そして、日韓関係をマネジメントとするための4つの視点として、両国関係を大きな視点で捉え、個々の小さな問題に拘泥しないこと、それぞれの社会の中でヘイトスピーチなどの挑発的なナショナリズムを抑制すること、互いの努力を当然視しないこと、教科書など教育レベルの見直しや青少年の交流など「新しいジェネレーション」の育成を挙げました。


「本音」の議論が展開するも、議論は深まらず

 その後、ディスカッションに入りました。両国の実務経験者からは様々な協力・交流の事例が紹介され、日韓協力の拡大は十分に可能との認識で各氏が一致しました。

 その一方で、日本側から韓国の対中傾斜についての指摘など本当に日本と価値を共有する「同じ側」に立っているのか懸念が相次いで寄せられると、韓国側からはこれを「誤解」とすると同時に、「敵か味方か」とする二分論ではなく、中国を上手く巻き込む視点を求める反論が相次ぎました。

 さらに韓国側からは、日本側に対して安全保障法制についての説明や、安倍首相がこれまで日韓関係や朝鮮半島の将来についてあまり語ってこなかったことから、日本としてのビジョンを語ることを求める声も寄せられました。


YKAA0162.jpg こうした議論を受けて河氏は最後に、二分論ではなく複合的な視点を双方に求めると同時に、日韓安全保障協力を、自由や民主主義などすでに完成している価値だけではなく、「共生」など21世紀の価値を守るためにあると語りました。そして、明日の対話本番にあたっては、「互いに相手の責任を追及するような議論ではなく、まず自分たちの国が何をすべきかという議論をしよう」と出席者に呼びかけ、議論を締めくくりました。