「日韓両国民の相互認識における変化と継続性」
~「第4回日韓未来対話」第1セッション~

2016年9月03日

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⇒安全保障非公式会議「韓国と日本の安全保障の未来」
⇒第4回日韓共同世論調査 日韓世論比較結果


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 9月2日、韓国・ソウルの韓国高等教育財団で「第4回日韓未来対話」が開幕しました。

 午前中に開催された非公開会議に続き、午後からは「北東アジアの平和と未来をどう実現するか」を全体テーマに公開セッションが始まり、第1セッションでは「日韓両国民の相互認識における変化と継続性」と題して、議論が繰り広げられました。


次の日韓関係50年のビジョンを描くことができるような対話に

YKAA1080.jpg まず始めに、今回の「第4回日韓未来対話」の共催団体である韓国高等教育財団総長の朴仁國氏(元連大使)が挨拶に立ちました。朴氏は、同財団で主に中国に関する様々な対話が行われていることを紹介しつつ、「日本に関しての対話は今回が初めてであり、今回開催される『日韓未来対話』が、日韓関係の新しい関係をつくるための対話になれば」と述べ、今回の対話への期待を示しました、

YKAA1088.jpg 続いて登壇した、申珏秀氏(国立外交院際法センター所長、元駐日本大使)は、2013年、自身が立ち上げにかかわった「日韓未来対話」が今年で4回目を迎えることに触れ、「この対話は、世論調査をベースに有識者が集まり、公開型で議論が行われる非常に珍しいアプローチであり、民間レベルで韓日大きく貢献している」と紹介しました。

 その上で、日韓関係は昨年50周年を迎え、今年は次の50年に向けていくことになる、と指摘。そうした中で、「次の50年を見据えた日韓のビジョンをどう描くのか。今回の対話での意見なども反映させた長期的なビジョンをつくることが必要」だと指摘し、今回の対話が、日韓間での大きな夢を実現させるための足場になれるような対話にしたい、との意気込みを語りました。


対話を通じて、日韓の将来に向けて具体的なアイデアを

YKAA1102.jpg 次に挨拶に立った日本側座長の小倉和夫氏(国際交流基金顧問、元駐韓国大使)は、まず、このフォーラムの準備にかかわったスタッフ、ボランティアなど全ての人たちに感謝を述べました。その上で、小倉氏は、イギリスのEUからの離脱、間近に迫るアメリカ大統領選挙、さらに来年、中国では次の5年の体制が決まる共産党大会の開催などを挙げ、「今、世界は様々な形で動き出そうとしている。そうした中で、日韓の関係者が両国間の未来を語るということは非常にタイムリーで、かつ重要なことだ」と語りました。

 その中で重要なこととして、「韓国は過去のことを克服して初めて、未来のことを考えられるという人が多い一方で、日本では未来を語ることで初めて、過去を克服することができるという人が多いが、このアプローチはどちらも正しい」と指摘し、この両方を実現するためにも、「我々は対話しながら行動し、行動しながら考えるということが必要であり、今回の対話を通じて、日韓の将来のために具体的に何をすべきか」というアイデアを出していきたい、と日韓両国のパネリストに語りかけました。


今回の対話が、日韓関係の「未来」を問うための本当の意味での起点の対話に

 続いて、日本と韓国の司会を務める李淑鍾氏(東アジ研究院(EAI)院長)と、工藤泰志(言論NPO代表)から、言論NPOとEAIが7月に共同で実施した日韓共同世論調査結果の説明がなされました。

YKAA1133.jpg その中で工藤は、今回の世論調査結果を紹介しながら、①この数年の行き過ぎた国民感情の悪化が調整に向かっていること、②この改善傾向が確かな改善なのか。結論から言えば、国民はまだその改善に確信を持てていないということ、③国民が確信を持てない理由は何か、④こうした状況をどのように立て直すのか、といった4つのポイントを指摘しました。

 その中で工藤は、特に③の理由として、世論調査でも見られた台頭する中国に対する見方と、安全保障に関する見方について、日韓両国民の間に意識の違いがより大きくなってきていることを指摘し、両国の間で、これまで疑っていなかった日韓両国はお互いが同じ立ち位置に立っている国なのか、民主主義の国同士、アメリカと同盟関係を結ぶ同じ仲間であるという点に対して、「議論が必要ではないかと考えるようになった」と語りました。こうなった理由として、課題解決に挑むためには、世論に政府が行っていることを説明し課題解決の理解を得るための努力が必要であるにもかかわらず、国民感情が悪化し本音の議論ができなくなった点を挙げました。

 こうした点を踏まえながら、「私たちの対話は未来対話といいながら、この3年間、過去対話に終始してきた。未来を語りたいが、過去の乗り越えなければならない課題が大きすぎた。こうした状況下で、私たちは誠実に向かい合ってきたが、その結果、本来語らなければいけない未来の課題を解決することができず、時間が過ぎてしまい、その間に空白ができてしまった」と語り、国民間に新しい歪みを作り出してしまったのではないかと問題提起しました。と同時に、今回の世論調査から、今回の対話は、「日韓未来対話」の「未来」が問われる本当の意味での起点になるのではないかと語り、発言を締めくくりました。


日韓両国のメディア報道の在り方と今後の姿勢

YKAA1164.jpg こうした問題提起を受け、毎日新聞社主筆の小松浩氏が発言しました。小松氏は、世論調査の中で、年を追うごとに日韓両国ともにメディアに対する信頼の度合いが低くなった理由として、「日韓両国のメディアが自社の主義・主張を打ち出しすぎて、事実を伝えていないのではないか」という点が存在していることを挙げました。

 その根拠として小松氏は、自身が3年半にわたり論説委員長を務めていた間に、原発問題や安全保障問題など国論を二分するような問題が持ち上がった際、そうした問題においては何があろうとも自身の立場を変えない国民が2割はいるが、2割以外の人たちに、課題解決に向けた提案をすることが言論の役割であるにもかかわらず、そうした提示ができていないのではないかと指摘。その上で小松氏は、「メディアは2割以外の人たちの意見をどう代弁していくか、ということを実践していかないと、今年、改善方向に向かった日韓両国民の意識を、また元に戻してしまうのではないか」と自身の経験を踏まえて、問題提起しました。

YKAA1216.jpg これに対して、朝鮮日報で論説委員を務める鮮于鉦氏は、天皇陛下の譲位の問題やオバマ大統領の広島訪問などを例に挙げながら、日本に対する記事を書く際に「日本に対しては大げさに書いてもいい、許してもらえる」という癖のようなものが韓国メディアの中に存在していると指摘。韓国メディアがファクトをベースにするのではなく、感情をベースに極論的な意見を掲載していることに対する危惧を示すと同時に、韓国メディアの怠惰な面が存在していることを自己反省と共に語りました。

YKAA1231.jpg 池畑修平氏(NHKソウル支局長)は、「韓国メディアが日本を批判することありきで、ファクトファインディングよりも、意見を押し付けるということもあると思う」と鮮于鉦氏に同調しつつ、こうした状況は韓国に限らず、日本でも新聞は売れる、テレビは視聴率が上がる、ということを重視する傾向にあり、日本のメディアも気を付ける必要がある、と日本のメディアについての問題点も指摘しました。

 こうした点を踏まえて池畑氏は、日韓両国のメディアが「ステレオタイプから抜け出して、新しい視点を持って報じていくことが必要だ」と語り、日韓両国の今後のメディア報道の在り方についての見解を述べました。


世論を形成していくための国民の勉強不足は否めない

YKAA1291.jpg 日本青年会議所副会頭を務める青木照護氏(株式会社ノーリツイス代表取締役社長)は、「メディアは、日本・韓国ともに営利企業であって、偏りがあってしかりだ」と、これまでのメディア関係者の発言に同調しつつも、「メディアは『法』と『証拠』と『正義』を兼ね備えていないといけない。今のメディアに足りないのは『正義』ではないのか」と語りました。一方で、情報の受け手である国民自身についても触れ、「メディアも政府も、結局動かすのは世論であり、この世論を動かしていくための国民が勉強不足なのは否めない。そうした点を突き詰めていけば、教育に行き着くのではないか」と指摘し、国民の思考を形成していく日韓両国の教育の在り方について問題提起をしました。

 加えて、青木氏は、今回の対話に初めて参加して、「非常に有意義な対話だ」としながらも、識者の間でだけでなく、日韓の学生や若い世代なども交えながら日韓間の対話の必要性を示しました。


日韓両国間に横たわるコミュニケーションギャップの解消を

YKAA1262.jpg 山口壯氏(衆議院議員、元外務副大臣)は、今回の世論調査結果の中で、韓国人の中に日本を軍国主義だという意見が多いことに驚きを示した上で、日本と韓国は、第二次世界大戦前の日本とアメリカのように、両国間でコミュニケーションギャップがあるのではないか、と指摘。日米が戦後、両国が何を考えているのかということを互いに把握して、戦後の協力関係を築いてきたことを紹介し、日韓両国においても、互いに分かり合っていく余地があるのではないかと語り、今後、北東アジアのフレームワークを描いていく上でも、日韓関係は重要であり、関係改善は必要だと訴えました。

030A1264.jpg 2時間にわたる議論を振り返り工藤は、「日韓関係を考えていくと、やはり最後には『世論』という問題に行き着く。日韓両国が課題を解決するためには、お互いの国民が当事者として考えないと、課題解決のために国家を動かすバックアップにならない」と述べ、日韓両国が課題解決に挑んでいくためにも、世論調査と対話を組み合わせていくことは必要だ、と世論調査の必要性を強調し、議論を締めくくりました。