政治・外交分科会「不安定化する世界や東アジアの平和秩序と日中の役割」前半
<日本側パネリスト>
高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
工藤泰志(言論NPO代表)
逢沢一郎(衆議院議員)
石破茂 (衆議院議員) ※後半のみ
大橋光夫(昭和電工株式会社最高顧問)
玉木雄一郎(衆議院議員) ※後半のみ
中谷元 (衆議院議員、前防衛大臣)
福田達夫(衆議院議員) ※後半のみ
藤崎一郎(上智大学国際関係研究所代表、前駐米国大使)
藤田幸久(参議院議員、元財務副大臣)
<中国側パネリスト>
楊伯江 (中国社会科学院日本研究所副所長)
趙啓正 (中国人民大学新聞学院院長、国務院新聞弁公室元主任)
陳健 (中国公共外交協会常務理事、元国連事務次長、元駐日大使)
周明偉 (中国国際出版集団総裁、全国政治協商会議第12期委員)
黄仁偉 (上海社会科学院副院長)
呉寄南 (上海市日本学会会長、上海国際問題研究院諮詢委員会副主任)
呂小慶 (中国中日関係史学会副会長兼秘書長)
政治・外交分科会前半は「不安定化する世界と平和秩序に向けた大国の責任」をテーマに、高原明生氏の司会で始まりました。高原氏は「戦後の世界秩序がチャレンジを受け、その変動、変容が進行しているという認識があるが、パネリストはどのように感じているか」と、各パネリストの見解を尋ねました。
世界秩序が不安定化する中、日中両国はどのような認識を持っているのか
これに対し、趙啓正氏は「中国としては、秩序を維持しながら部分的に改革していく意識を持っている」として、欧米の一部の学者は中国の意図を誤解しており、覇権に挑戦しているわけではなく、その意図もないとの見解を示しました。さらに、中国の経済発展に伴う軍備増強の懸念に対しても、「中国は歴史的に内向きの国であり、対外的に拡張的ではなく、世界秩序の安定と発展に貢献していく強い意志を持っている」として、世界の目を意識した答えを返しました。
続いて前防衛相の中谷元氏は「軍事バランスの変化が"力の均衡"の変化となり、世界秩序の変更をもたらした」と指摘。特に、米国は世界のことより、国内問題中心の内向きとなり、英国はEU脱退を決め、ヨーロッパ全体より自分のことを考えるようになったことで、ロシアは東西に勢力を拡張し、トルコの統治形態が複雑化し、イスラム過激派のテロリズムは人類全体の懸念になっていると現状を分析しました。さらに、中国の軍事費は、この28年間で215億元から44倍の9544億元となり、東シナ海での領海侵入、戦闘機を含む多数の軍用機による宮古海峡への飛来は、日本にとって大きな懸念材料だ、とした上で、「かつての内向きから遠いところに展開する空軍は拡張的ではないのか」と述べ、こういう状況下だからこそ、「日中が平和安定のために何ができるか」と問い続ける必要がある、と中国側に語りかけました。
逢沢一郎氏は「1945年以降、圧倒的に米国の力が強かったが、その力は低下し、これから世界の警察官にはなりえない。加えて、米大統領選に見られるような、ナショナリズム・ポピュリズムの台頭で内向きになり、今後、どう対応していくのか」と指摘。「国連安保理のあり方の再考、G20重視による、新しい世界秩序の形成が必要であり、日本も新時代にしっかり向き合っていく必要がある」との認識を語りました。
現在の中日関係について呂小慶氏は、歴史問題が議論になった2001年から2006年を第一段階、尖閣諸島の日本による国有化があり、大きな転換点を迎えた06年から12年が第二段階、現在は第三段階だとの認識を示した上で、「中日間は戦略的互恵関係に戻らなくてはならない」と語るものの、現在の歴史問題は、1972年の国交正常化からの矛盾が起こしており、「依然として国民感情の差は大きい」と指摘。駐日大使を務めた陳健氏も呂小慶氏の意見に賛同すると同時に、「今の中日関係の第三段階では、その国民感情が問題である。協力から対抗への流れをどう防ぐか」ということが重要になってくる、と付け加えました。
野党・民進党から参加の藤田幸久氏は「冷戦後も秩序作りが行われてきたが、国の最大の安全保障は、隣の国の信頼関係を勝ち取ることだ」と主張。しかし、その信頼を勝ち取れない現状について、安倍政権は中国の台頭と北朝鮮を強調して安保法制などの政策を話すが、「安倍政権を支援しているのは中国ではないか」と、中国の外交姿勢を皮肉りました。
上海社会科学院副院長の黄仁偉氏は「アジアには3つの秩序が混在している。1つは、カイロ、ポツダム宣言など第二次世界大戦の歴史的文書に基づいて作られ、アジア各国が受け入れた秩序、2番目は朝鮮半島に残っている冷戦対立の秩序、3つ目は米国によるもので、米国と中国とでアジア地域で競争と対立の秩序だ」と、現在の世界の秩序の有り様についての見解を示しました。
民主主義の危機を乗り越えるためにも、国民の覚悟が必要
財界人として出席した大橋光夫氏(昭和電工最高顧問)は、「現在の世界秩序には混乱が生じていると同時に、"民主主義の危機"が叫ばれている」と述べました。その原因として、2011年の"アラブの春"の失敗で、トルコやフィリピンのように、民主的に選ばれたリーダーが独裁者的な政治運営を行ってしまう」点を挙げ、「民主的手法は時間と労力がかかるのが大きな問題だとする一方で、私たちは、民主主義が危機に陥っているのを覚悟して、国民の選択を大事にしていきたい」と、民主主義の危機を乗り越えるためにも、国民に期待したいとの思いを示しました。
上海市日本学会会長の呉寄南氏は、30年前の改革開放以来、中国では貧困層が4億人、減り、「中日は秩序の受益者であり、これを支えていく協力態勢が重要だ」と指摘。「領土・歴史問題など"対立しあう関係"は秩序維持にとってマイナスであり、相互の不信感の悪循環を避け、戦略的な相互関係の構築の必要性」を呼びかけました。
駐米大使を務めた藤崎一郎氏は「20世紀というのは市場経済が勝利した時代。一方で、21世紀は経済的格差が広がり、民族主義がおかしくなってきた。2011年には"アラブの春"からテロ・難民の増加や、EUでは統合がうまく運営されなくなってきた。こうした意味で、今は市場経済・民主主義の行き過ぎを調整する、"大調整の時代"に入ったのではないか」と指摘。日本はアジアだけではなく、アジア太平洋でTPPやAPECなど政治・経済の秩序を作っていけばいいのではないか、との考えを示しました。
中国が考える世界秩序と国内のナショナリズム
次に司会の高原氏は、「世界は、歴史的にどういう時代に立っていて、どの方向に向かおうとしているのか。さらに、国連憲章が秩序の基本であれば、それが調整の段階にきたのかもしれない。この点について、中国はどのように考えているのか」と中国側に問いかけました。
これに対し黄氏は、「英・仏・米のような古典的な欧米の民主主義、戦後の日本など途上国の民主主義、そして冷戦後の第三次民主化の波」という3つの段階が民主主義にはあると主張。その上で、現状について革命なのか、新しい秩序をもたらすものなのか、分からないが、中国はインターネットを通じた新たな大規模な民主主義を構築している」と回答。
その後、中国側から日本では、国内のナショナリズムは内政にどの程度影響を与えるのか、との質問がなされました。
逢沢氏は、「国民感情として、例えば、五輪の熱狂もナショナリズムに含まれる」としながらも、1945年までのあり方を反省し、平和国家に生まれ変わった日本は、メディアなどの普及により国民感情は過激なものにならず、非常に安定している、と国際社会はある程度評価しているのではないか、と説明。大橋氏は、「日本のナショナリズムについては、ほとんど心配していない。日本人としての"寛容と調和"のDNAが生きていると思っている」と語りました。
高原氏はまた、「中国には、ナショナリズムは国内の団結に必要という見方があるが、これについては、どう思うか」と質問。呂氏は、「抗日の歴史教育はあったが、反日はなかった。中国政府は国民に対し"冷静に行動しろ"と言ってきた」と答えました。
最後に高原氏は「世界の情勢の評価という空間的な話だけでなく、歴史的な観点も交えての議論ができた。アジアの現状、日中の現状など一つ一つ確認していく必要があったが、制約がある時間の中では難しかった。しかし、相互理解のために一点一点細かく確認していかないと、感情的に高まる恐れがあることは、よく分かった」と総括し、前半の議論を終えました。