11月2日(水)、言論NPOは記者会見を行い、日中韓3カ国で共同で行った世論調査結果を公表しました。この調査結果を基に、「第2回日中米韓4カ国対話 ~日中韓世論調査で見る北東アジアの将来~」が開催されました。
第1部では、対話の前に公表された日中韓3カ国の共同世論調査結果を踏まえながら、日本から言論NPO代表の工藤泰志、川島真氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)、アメリカからブルース・ストークス氏(米国・ピューリサーチセンター・ディレクター)、中国から袁岳氏(零点研究コンサルテーショングループ董事長)、韓国から孫洌氏(韓国・延世大学校国際学大学院教授・東アジア研究院日本研究センター所長)が参加し、議論が行われました。
世界で最も不安定な地域になる可能性のある東アジア
まず、開会の挨拶に立った、言論NPOのアドバイザリーボードのメンバーでもある川口順子氏(明治大学国際総合研究所特任教授)は、言論NPOが、民主主義の根幹である民の言論を大事にして、それを世論調査という形で実践し、民の声が政治レベル決定に反映させようとしている点に触れながら、「アジアはこれまで経済で世界を牽引してきたが、将来、場合によっては世界で最も不安定な地域になっていくかもしれない。もし、そういう事態になれば、東アジアの経済にも影響を与えるので、非常に大きな関心を持っている」と指摘。その上で、今日の議論が北東アジアの民が何を考えているのかを世論調査結果を読み解きながら、有意義な議論が行われることに期待を示しました。
日本側は世論調査結果をどう読み解いたか
続いて、日本側を代表して今回の調査結果について、工藤が報告を行いました。その中で工藤は、まず昨年の日中韓世論調査と基本的な認識は変わっていないとしながらも、「この一年間で国民間の意識に幾つかの重要な変化が見られる」と指摘しました。その中で、主なポイントとして、①中国の影響力のアジアでの拡大を予想する人が中国も含めた3カ国でいずれも減少したこと、②中国人の対韓意識が大きく、一方的に悪化したこと、③中国世論において、ロシアへの期待が高まっていることを挙げました。こうした変化の背景として、経済的には中国との相互依存関係にありながら、安全保障ではアメリカをベースにしたハブ・アンド・スポークスの同盟関係と中国が対立しているというアジア地域での安全保障環境の厳しさがあるなどの原因を指摘しました。
次に、工藤は、こうした状況下で、東アジアが将来目指すべき価値観は何かという問いに、日中韓で「平和」という回答が多数を占めたものの、東アジアにおいて中国とアメリカも加えた平和秩序が将来、実現できるかという問いに対しては、日本ではわずか14.0%、韓国では27.8%「実現できる」と回答し、一方、中国では、48.7%が「実現する」と回答したことを紹介しました。中国の結果は「実現して欲しい」という願望を示したものと判断した方がいいとの見解を示しました。
また、今回の調査で、アジア太平洋の国の中で最も信頼できるパートナーを3カ国国民に尋ねたところ、日本人は、81.8%がアメリカを最も信頼できるとパートナーと見ているが、中国に対しては、76.1%が、韓国に対しては57.6%が信頼できないと回答しました。これに対して、中国ではロシアと回答したのが80.7%で最も多く、日本に対しては78.9%が信頼できないと回答したこと、さらに、韓国を信頼できると回答した中国人が、昨年の56.3%から34.9%に急激に減少し、信頼できないが36.8%から61.1%に増加した点について触れた工藤は「3カ国の間で信頼関係ができていないことが明らかになった」と紹介しました。
そして、12月に東京で開催される方向で準備が進んでいる日中韓サミットにおいて、議論すべき課題として、日本の51.2%、韓国の38.4%、中国の27%が北朝鮮の核問題を挙げているものの、韓国では、歴史認識問題が44%で最も多く、次いで首脳同士の信頼関係の向上が42.6%となりました。そして、中国では、首脳同士の信頼関係向上を求める声が30.9%と北朝鮮問題の27%を上回ったことを紹介。
今回の世論調査全体を報告した工藤は、「北東アジアの平和の実現に向けた展望が描けない中で、まず三カ国のお互いの信頼関係向上が急務だということを示している」と述べ、報告を締めくくりました。
韓国側は世論調査結果をどう読み解いたか
続いて報告した韓国側の孫洌氏は「韓国は日本や中国に比べて、この地域の安定と秩序、将来に関してより悲観的である」と指摘。その背景として、「韓国では北朝鮮の核開発やミサイル問題で、アメリカの核の傘の中で、アメリカが本当に北朝鮮を抑止できるのか」、「中国の北朝鮮に対する影響力が限られていることがわかり、中国が緊張緩和に役割を果たしているのか」という懸念や不満が高まっていることを紹介しました。さらに、孫洌氏は、グローバル経済が不安定化し、ヨーロッパやアメリカでも保護主義の波が高まる中、韓国では経済的な競争が潜在的な問題だという見解があることなどにも触れ、今の国際的な枠組みに対して、疑問を持っていることを紹介しました。
さらに孫洌氏は、「韓国は中国寄りか」という点について、「韓国は中国を好んでいるわけではないが、経済的、安全保障的に重要な国だと考えており、その根幹には『中国が唯一、北朝鮮に影響力を与えることができる国である』との認識が存在しているのではないか」と述べました。その上で、在韓米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を巡る問題で、韓国は中国から経済的に制裁を加えられるのではないかとの懸念が広がっており、その懸念が、韓国側の対中関係に大きく寄与していることを指摘しました。
中国側は世論調査結果をどう読み解いたか
最後に報告した中国側の袁岳氏は全般的に3カ国共に、中国であればロシア、日本・韓国であればアメリカなど、遠い国にに信頼感や親近感を感じている一方で、3カ国間の信頼度は非常に低い点で一致していること、加えて、「中国の影響が強まる」ということを3カ国で共通しているポイントとして挙げました。
一方で、米国の域内での役割については、日本・韓国としては、より米国の存在をポジティブに解釈しているものの、中国はネガティブに捉えているという結果を紹介。こうした結果は、1週間後に迫ったアメリカ大統領選にも表れていると指摘。日韓両国民の約6割が、米大統領選の結果、「ドナルド・トランプ大統領」が誕生すれば北東アジアの安保環境は「より不安定化する」と考えているものの、中国人ではトランプ大統領によって「より不安定化する」との見方は3割程度であり、「影響はない」が43.6%で最も多く、逆に「ヒラリー・クリントン大統領」によって「より不安定化する」(45.7%)と考える人の方が多い点について触れ、トランプはビジネスマンが故に、政策自体は厳しいが、最終的には交渉の余地あり、という結果が表れているのではないかと指摘するなど、中国側の調査結果について報告を行いました。
グローバル化時代に生まれた若年層が、今後どのような動向を示すか注目
世界的な世論調査機関であるピューリサーチセンターのブルース・ストークス氏(ピューリサーチセンター・ディレクター)は、同センターが行った日米中韓での世論調査結果について紹介を行いました。
ストークス氏は、まず、日本は、アメリカについて非常に好意的であるが、この地域にとってアメリカがより重要な役割を果たしているかという問いについて、日本人の61%が10年前に比べてアメリカの重要度が低下していると回答していることを紹介しながら、「日本はアメリカの同盟国だが、世界の大国としての地位を失いつつあり、日米同盟について懸念し、心配しながら成り行きを見ている」と指摘しました。一方で、中国人がアメリカの重要度が低下していると回答したのは35%であり、同盟国の日本人よりも中国人のほうが、この地域におけるアメリカの影響力が低下していると回答している人が少なかったことは「驚きである」と語りました。
次の、自国が他国の問題を助けるべきか、それとも自国の問題に専念すべきかと尋ねたところ、日本人の59%が他の国を助けるべきと回答したことに触れ、ストークス氏は「日本人というのは、世界中でも数少ない、他の国も助けるべきだと考える、驚くべき結果だ」と指摘しました。
アメリカ人の世界観について、ストークス氏は、全体的に見ればアジアよりヨーロッパが重要という結果だったものの、若年層のアメリカ人はアジアの方が重要と回答し、一方で、中国の若年層はアメリカ好きであることに触れ、今後の潜在的な期待として、グローバル化の時代に生まれて、成人になった若年層が、アメリカではアジア重視、中国ではアメリカ重視、という方向に進んでいく可能性を指摘し、今後の調査結果を注視することの重要性を語りました。
中国人自身が中国に対して疑問を持ち始めた傾向が調査結果に表れた
続いて、ピューリサーチが実施した調査結果も踏まえつつ、今回の調査結果に対してコメントを求められた川島氏は、この地域の平和を考える上で、①領土問題などの短期的な問題をどう処理するか、②この地域で秩序をどのようにつくるのか、③各国間で信頼関係をどうつくるのか、という3つのポイントを指摘。そして川島氏は、世論調査を行う上で、設問自体をグローバルな問題と地域の問題に分け、世界の秩序づくりに対して、世界課題に対して責任ある行動をとるか、地域のこの東アジアの問題については影響力を増しているか、という設問に加えて、「東アジアの課題にどれだけ取り組むのか」という問いを加えることで、「グローバルな空間において貢献しないが、東アジアという地域では影響力を増している中国が、秩序づくり、あるいは地域の秩序に貢献するとみているのか」という、隙間を埋めて、話がつながったのではないか、と次回以降の世論調査の改善に対しての提言を示しました。
さらに川島氏は、今回の調査結果で、国際的な中国の貢献度、あるいは地域への影響力など、様々な面で中国人自身が中国に対して疑問を持ち始めた傾向がはっきり表れ始めていることを紹介した上で、この1年間で、中国が南シナ海問題で直面し、仲裁裁判所が中国の主張を退けたこと、AIIBや一帯一路を巡る状況など、黄色信号、あるいは、赤信号に近い黄色信号がともり始めており、「中国国内で、中国に対する不安が出てき始めたことが、習近平政権が様々な分野で引きしめを行っていることにつながっているのではないか」との見解を示し、コメントを締めくくりました。
その後も、時間を超過するほど、パネリスト間で意見交換が行われ、第一セッションは閉会しました。