孫 洌(延世大学国際学大学院教授)
相手国への印象が改善した韓国と、悪化した日本
今回の世論調査の結果には、いくつか特徴があると思います。まず、韓国人が日本に対して持つ印象が徐々に改善しているということです。「日本に良い印象を持つ韓国人」は、2013年には12.2%だったのが、今年は26.8%です。まだ低い水準ではありますが、明らかに改善しています。これは肯定的に受け止められると思います。
調査結果の他の箇所を見ますと、様々な分野において日本を脅威として捉える見方が増えていますし、日本社会や政治システムに対する批判的な認識も一定程度存在しています。それにもかかわらず、印象は改善している。さらに、中国と日本を比較した結果、中国よりも日本に対して親近感を抱く韓国人が増えている。
一方、日本側では「韓国に良い印象を持つ人」が、この5年間で徐々に減少しています。「相手国に良い印象を持つ人」が韓国人では増え、日本人では減少したことによって、両国が同じ水準になりつつあります。
そうした中、韓国人の日本への印象が改善している理由を考えてみる必要がありますし、また、日本側の韓国に対する印象が悪化していることをどう解釈するか、よく検討する必要があります。
両国で増加する日韓合意に対する否定的な評価
もう一つ、今回の調査で浮き彫りとなったことは、慰安婦問題を含めた歴史認識問題が解決する可能性は非常に低い、ということです。2015年の慰安婦問題に関する日韓合意に対して、否定的な見方が増加しています。特に、韓国では、肯定的な見方は4人に1人で、4人に3人は否定的です。また、肯定的な人々も、その多くは合意内容そのものに賛成しているから肯定的な評価をしているというわけではなく、「日韓関係がこのまま悪化するのは望ましくない」という考え方の下で、「受け入れざるを得ない」と結論を下した人が多いと思います。ですから、全体的に見ますと、日韓合意は、日韓関係の改善にプラスの影響を与えていない、むしろマイナスの影響を与えていると解釈できると思います。そして日本側もこの日韓合意を評価していない人が多いと思います。
韓国側も再交渉によって望んでいるような合意を得ることは難しいと考えている
では、日韓合意について再交渉すべきなのでしょうか。韓国内では、日韓合意の中の「最終的かつ不可逆的な解決」という文言を「これは受け入れられない」と問題視する意見は多く見られます。しかしそれ以外については、「では、具体的には何をすべきなのか。どこをどのように変えるべきなのか」ということになると、まだ韓国社会の中でも議論は進んでいない状況です。
その背景には、慰安婦問題の解決は非常に難しい、再交渉しても韓国側が望んでいるような方向で新たな合意に至ることは難しい、ということは韓国人も受け入れている、ということがあると思います。
慰安婦問題には慎重に対応し、日韓関係全体へ悪影響が及ぶことを避けるべき
日韓関係の将来を展望する際に、最も重要なのは日韓合意、そしてその再交渉の問題をいかにして賢明に解決していくのか、ということだと思います。この問題によって再び感情的な対立に発展してしまいますと、相当長期間にわたって日韓関係全体が悪影響を受けることになりますので、慎重に対応すべきだと思います。
慰安婦問題以外にも日韓間、そして東アジアには解決すべき外交的な懸案事項はたくさん存在します。北朝鮮の核開発問題をめぐる安全保障協力、FTAなど経済的な協力課題など課題は山積みです。ですから、政治、経済、文化など多面的な協力を積極的に推進していくことで、日韓関係における慰安婦問題の相対的な比重を下げていくようなかたちで、賢明な外交を進めていくべきです。慰安婦問題だけにとらわれ、慰安婦問題によって改めて日韓対立が激化することは望ましくない、賢い選択ではないということを、両国政府はきちんと認識していると思います。両国がより柔軟かつ長期的な視点に立って問題に対して慎重に取り組んでいく。再交渉の問題にも慎重にアプローチしていくことを両国政府には期待したいと思います。