非公開会議の第2セッションでは、日韓両国の外交・安全保障の専門家が「北朝鮮問題と日韓両国の役割」をテーマに議論を行いました。
現在、北朝鮮は核・ミサイル開発を止めることなく、国際社会に対して挑発を続けています。では、北朝鮮の核・ミサイル問題はどうしたら解決することができるのか。米中もそのシナリオを持ち合わせていない中で、北東アジアの平和秩序を形成していくために、日本と韓国は何をすべきなのか。日本側司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、「日韓で共に北東アジアの平和秩序構築に向けたシナリオを作りたい。今回の日韓未来対話でもそのためのヒントになるような議論を展開してほしい」と居並ぶパネリストたちに呼びかけ、議論が始まりました。
北朝鮮の核と弾道弾開発にどう対処すべきか
冒頭、日本側の基調報告に登壇した元自衛艦隊司令官・海将の香田洋二氏は、北朝鮮の核と弾道弾開発に焦点を当てて問題提起を行いました。
まず朝鮮戦争の結果、北朝鮮は「米軍及び米韓連合軍の実力と、その支援拠点となった日本の重要性」を認識すると同時に、目標とする軍事力による南北朝鮮統一は、「米軍が駐留する限り不可能」と認識するに至り、したがって、休戦後の北朝鮮の焦点は「金体制の存続と自国の生存保障」であるが、それを働きかける主対象は米国となったと解説。
しかし、米国に影響を及ぼし、自らの要求を認めさせるためには、通常戦力では限界があると認識したため、「米国に直接影響し得る手段としての核兵器と弾道弾、究極的にはICBMの導入」を目標とし、さらに副次的な目標として「日米同盟、米韓同盟の弱体化と日韓の米国に対する信頼低下」を追求するようになったと分析しました。
そのような北朝鮮による核と弾道弾開発は1990年代に入ると顕在化しましたが、それに対する国際社会の対応として香田氏は、「まず中国が主導する『六カ国協議』は、2007年2月13日に発出された共同文書などのように、期待が高まる局面もあったが結局は挫折。クリントン・ブッシュ・オバマと三政権にわたる米国の強い対応も功を奏せず、国連の総会や安保理の度重なる非難決議、経済制裁も一定の効果はあったものの、核・弾道弾開発を停止させるには至らなかった」と振り返りました。
そしてその結果として、北朝鮮はその後も核・弾道弾開発を推進したため、2017年現在においては、「核開発に関しては、核弾頭化に限りなく近い段階に。弾道弾開発に関しては、7月4日の火星14型弾道弾(試作ICBM初号機)のテスト発射を見る限り、9000kmから10000km飛ばせる能力がある」としました。さらに、これまである程度北朝鮮をコントロールしてきた中国の影響力に限界が見えてきたため、北朝鮮の脅威は一段と高まっている状況にあるとの認識を示しました。
こうした状況認識の下、日韓両国がなすべきこととして香田氏はまず、両国が対北朝鮮政策における国家目標・国益の整合性を再確認することの必要性を指摘。そして、北朝鮮にとっての主目標である米国との協調、とりわけ軍事行動における共同体制の構築、さらには、北朝鮮に対する影響力行使に消極的な中国への働きかけだけでなく、「弾道弾の射程が8000kmなら東欧全域、10000kmなら英国を含む西欧戦域も狙われることになる」ため、「新たな当事者となる西欧諸国への働きかけも必要だ」と主張しました。
最後に香田氏は、「米国が北朝鮮を攻撃しないという短期的な最善の結果(現状維持)は、長期的には北朝鮮のICBM保有という最悪の結果につながるかもしれない、ということを銘記する必要がある」と語りつつ、「これまでの北朝鮮の外交は『瀬戸際外交』だと評されてきたが、いまや我々の方が瀬戸際に立たされているのではないか」と警鐘を鳴らしました。
北朝鮮の脅威に向き合うにあたって日韓両国がすべき協力とは
続いて、韓国側の基調報告として、韓国国家戦略研究統一戦略センター長の文聖默氏が登壇。文氏は冒頭で、北朝鮮問題に関して日韓両国が解決していくべき課題として、「北朝鮮の挑発を抑制し、核、ミサイルの脅威から国民を守ること」、「北朝鮮の核問題を根本的に解決すること」、「北朝鮮を国際社会の健全な一員に変化させること」という三つの課題を提示。その上で、「韓国と日本がもっと協力して努力していけば、必ず解決策を見つけることができる」と期待を寄せました。
続いて文氏は、上記三つの課題に取り組んでいく上で、日韓両国に求められることとしてまず、「日韓両国は、北朝鮮問題に関する認識について共感を形成し、共同の目標と共通の価値を維持する必要がある」と語りました。そして、その前提として「何よりも日韓両国間の信頼を築くことが重要である」と指摘し、そのために「両国間の公式、非公式の接触を拡大し、多層で多様な出会いと共同研究の機会、例えば、青少年同士の交流や、北朝鮮関連の共同研究プロジェクトなどを拡大していく必要がある」と主張しました。
続いて文氏は、日韓の安全保障協力強化にも言及。まず、「米韓、日米同盟をそれぞれ強化すると同時に、そこから日米韓三カ国の安保協力へ発展させていかなければならない」と指摘しつつ、日韓二国間の協力強化も必要であるため、「2016年に締結した日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)に基づいて、北朝鮮関連の重要な情報を共有し、これを拡大するための努力をすべきだ。また、専門家の交流や会議などを介して共有した情報を評価・分析するための協力も同時に発展させていく必要がある」と語りました。
そして、北朝鮮に対する具体的なアプローチのあり方としてはまず、「骨身にしみる制裁と圧力が緊要」であるが、そのためには中国が強い対北制裁に参加する必要があるため、日韓両国が米国と共に「中国に強い意志を持たせる」ことが重要と語り、とりわけ、「セカンダリー・ボイコット(北朝鮮と合法的取引をする中国など第3国の企業と個人も対象とする制裁)」に取り組む際に、「中国が反発したら共同して対応すべきである」と述べました。
しかし同時に、「北朝鮮が核放棄するのであれば日米との関係改善、経済発展などのビジョンを提示する」など、「鞭」だけでなく「飴」も用意する必要があるとし、そのためには日韓両国が求心的な役割を担うべきとの認識を示しました。
文氏は、他にも北朝鮮からの脱北者への対応や、人道問題(韓国の場合、離散家族と拉北者、国軍捕虜などの送還問題、日本は拉致被害者送還問題など)の解決策について、両国が共同して議論する場を設けることなども日韓協力拡大に資すると指摘し、基調報告を締めくくりました。
国レベルのみならず、個人レベルでも見解の相違が大きい
続いて、ディスカッションに入りました。
今回の「第5回日韓共同世論調査」では、北朝鮮の核・ミサイル開発が解決の困難な問題であるという点では両国民の認識は一致していましたが、解決方法については意識の相違も見られました。
そうした一致と相違は今日の議論でも見られ、それも日韓間だけでなく、各国内部でも見方が分かれる場面がありました。
まず、北朝鮮問題が解決困難であるという点では各氏が一致。そして、北朝鮮問題の解決や北東アジアの平和構築のためには日韓協力の強化が不可欠であるという点でも相違は見られませんでした。また、アメリカが軍事オプションを取ることについても、「反対だが、可能性としてはあり得る」という意見が相次ぎました。
一方、より根本的に問題の原因を探るべく、北朝鮮の核保有の動機については、「純粋に防衛のため」、「対米交渉の切り札とするため」、「国内の体制の維持のため」など、様々な見方が両国から寄せられました。
また解決方法についても、日本側から「もはや北が核保有することは前提として、『それをどう使わせないか』という抑止力を高めることに主眼を置いた方がいいのではないか」という意見が出されると、日本側からも韓国側からも「いまだかつてアメリカや国際社会がこれほど北の核に関心を持ったことはない。今こそ最後のチャンスなので信念を持って取り組むべきだ」との反論が寄せられました。
世論調査では多くの日本人が重視していた中国の役割についても、「中国が重要なので、北の体制崩壊に対する中国の懸念を取り除く必要がある」との見方がある一方で、「我々が中国に頼りすぎると、北朝鮮が中国ばかりを見てしまい、結局相互依存関係を強めてしまう」との意見もありました。
文在寅大統領が志向する対話路線の評価については、日本側パネリストが「今は国際社会が連携して圧力をかけるべき時であるのに、韓国が『対話だ』と言い出せば、中国にサボタージュする良い口実を与えることにならないか」と懸念を寄せると、これに対して別の日本側パネリストは「大統領が対話を打ち出しているのだから、当面は圧力や軍事的な面ばかりに注目すべきではない」と語りました。
経済制裁の効果については、韓国の専門家の間でも、「北朝鮮経済は好調であり、効果は限定的」との見方と、「脱北者の増加は制裁に起因する経済的苦境を反映している」との見方で分かれました。
他にも議論では、相互に突っ込んだ質問のやり取りもあるなど、明日の公開対話を控えて早くも本音ベースの白熱した討論が繰り広げられました。
議論を受けて最後に、韓国側司会を務めた東アジア研究院院長の李淑鍾氏は、「国だけでなく、個人の間でもこれほど見方が異なっている。なぜ北朝鮮問題が解決できないのかよくわかった」と苦笑しつつ、「朝鮮半島情勢がこんなにも不透明な状況だからこそ、日韓協力拡大の好機だ」と語り、今回の「日韓未来対話」がそうした協力のためのヒントを得るような議論になることに期待を寄せ、初日の非公開会議を締めくくりました。