7月29日非公開会議:「日韓関係の未来に向けて乗り越えるべき課題」

2017年7月29日

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 7月28日、「揺れる日韓関係と北朝鮮の核開発問題」をテーマに「第5回日韓未来対話」が開幕しました。翌29日は、東京・国連大学での開催となりました。午前の部では、「日韓関係の未来に向けて乗り越えるべき課題」と題し、非公開セッションが行われ、両国の政府関係者、政治家、ジャーナリスト、大学関係者らが意見を交わしました。

YKAA1169.jpg 始めに共催者の言論NPO代表の工藤泰志は、「日韓関係について、両国の知識人や政治家に発言する人がいないので、世論は混迷状態にある。日韓関係は、なぜ大事なのか?何が課題なのか、皆さんで話し合ってもらいたい」と挨拶。


日韓関係改善に向けて重要なことは目的をはっきりさせた交流

YKAA1198.jpg まず、小倉和夫・元駐韓国大使が基調報告として、日韓関係改善のためには、「①少子高齢化、介護など身近な問題について市民対話の場を増やしていくこと、②韓国側は政治を重視しているので、政治家同士、女性同士、族議員同士の対話を行うこと、③国際交流基金は日韓両国民が一緒に会社を作る機会を設けていたが、そうしたように両国国民で同じ目的を持って行動すること、④文化交流といった時の「文化」の意味が両国で違うのではないか、と述べた上で、ターゲットを絞って目的をはっきりさせた交流が必要ではないかと、問題提起しました。


現実に即した市民外交の重要性を強調

YKAA1215.jpg これに対し、元駐日大使の申珏秀氏は「文在寅新政権の発足で、韓日関係をリセットする機会が台頭してきた。文氏は候補時代より前向きな姿勢で安倍首相と2回電話会談し、G20をきっかけに首脳会談も行った。過去の歴史問題と他の問題を分離する実利的なツートラック・アプローチを追求し、シャトル外交を進めていくとしている」と指摘。さらに、北朝鮮の核問題の深刻化で日韓協力の機会が増大しており、文大統領は、日米韓安保協力姿勢を表明している」と韓国の新体制を前向きに捉えていました。

 一方で、申氏は日韓の懸念として①慰安婦問題②相互敬遠③ビジョンとリーダーシップの不在を取り上げました。具体的には、①で、日本は合意の履行を強調しているものの、韓国は、国内世論と合意過程に対する不信を背景に、補完措置をとることが予想されていること、②では日韓関係の悪化期間の長期化で、相手に対する敬遠現象が固定化し定着してしまい、相互認識・期待・理解・信頼の面でかなりの格差が生まれていること、さらに構造的要因としても、世代交代や中国の台頭による地政学的変化で、外交においても制約状況に陥っていることを指摘しました。加えて、③韓日関係の方向性にビジョンがなく、2国間関係だけでなく、東アジアという重層的・包括的な視点が欠けているのでは、と分析しました。

YKAA1232.jpg その上で、望ましい両国関係の課題として申氏は、韓国世論は簡単なものではないが、慰安婦合意の補完措置を真摯に検討し、心の癒しとともに、歴史研究・教育というフォロー措置が必要だと韓国側の立場を強く訴えました。また、来年・2018年の金大中・小渕による日韓新パートナーシップ宣言20周年をきっかけに、新しいビジョンと行動計画を模索し、経済、文化、観光など両国間で打撃を受けている分野での早期回復が急がれ、相互の誤解、偏見、無知を克服するための現実に即した市民外交が重要だと語りました。


市民団体間の交流の活性化が重要だと指摘

YKAA1243.jpg 続いて東アジア研究院院長の李淑鐘氏は、北朝鮮に対する軍事面での対応として、「日米韓三国協力だけでなく、軍事情報共有協定(GSOMIA)の延長はもちろん、両国の安保協力の機会を増やすことが必要。韓国側の脅威感が弱いといわれる国民の認識レベルでも、北朝鮮の挑発を抑止し、お互いに協力して脅威に対処しなければいけない」と語りました。加えて韓日の経済面については、似たような産業構造を持つ両国は、競争、協力の要素をすべて持っており、トランプ政権が環太平洋経済連携協定(TPP)を破棄した状況では、日韓FTAなど、自由貿易体制を維持するための協力を推し進めるべきだと主張。さらに、歴史問題での認識のギャップを減らすためにも、青少年、大学生、メディア、市民団体間の交流の活性化の必要性を指摘しました。


北朝鮮の弾道ミサイル発射に対しては、日韓の協力が必要不可欠

YKAA1567.jpg その後、両国出席者の意見交換となりました。今回の対話の前日(28日)深夜に北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、北海道・奥尻島沖の排他的経済水域(EEZ)内に着水したニュースが流れた直後ということもあり、「高度3500キロ、水平では一万キロ飛ぶ性能を持ち、日々、能力と精度が上がってきている。半島の安保では、多国間より二国間の協力が必要で、今後の対応が重要になってくる」と日本の防衛関係者が言えば、韓国側からは「北の弾道ミサイルは、近い将来、米国に大きな脅威を与える能力がある。GSOMIAなど情報交流で、いい結果が得られるように期待している。また、現在2基あるTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)も4基追加配備されることになっており、スピード感を持ってやっている」との回答がなされました。


日本に対する韓国人の率直な思いとは

 広島、長崎という世界唯一の被爆国として、強い「核アレルギー」を持つ日本人は、「北」に対しては韓国と協調できるものの、「北」を別にすれば韓国との協調に厳しい意見が続きました。

YKAA1452.jpg 韓国のジャーナリストから、"日本は仮想敵国"と見ている韓国の若者もいる現状を踏まえ、「戦略的視点も大事で、"日本にとって韓国とは何? 韓国にとって日本とは何なのか?"と広い視点を持ちながらお互い再定義する必要があるのではないか」との指摘がなされました。さらに、慰安婦問題については、それぞれ国内の反日、反韓に利用されてきた面もあり、「どれが定説なのかわからず、政府も私も混乱しており、政府内でも人によって意見が違う」と、韓国人が抱く思いを率直に口にしました。


日韓両国の識者が語る両国関係についての本音

 非公開の場だけにまっさらな裸の意見が続き、本音がぶつかり合いました。ここでは、特徴あるコメントを紹介します。

・「エリート層が、反日を国内政治に持ち込んでしまう傾向はある。メディアは、それぞれ販売部数、視聴率が大事だろうが、各界でリードするからリーダーなのであって、そこを突破する努力が必要だ。大衆に順応するのではなく、両国民を引っ張っていかなければいけない」

・「韓国には三つのタブーがあった。『親米』、北朝鮮に同情を示す『従朝』、そして『親日』。今も唯一残っているのがこの親日だ。売国奴と言われて非難される」
 このコメントに対しては、他の韓国側出席者から「私も『親日派』と言われ、家族が緊張したことがあった」との声があがりました。

・「安倍首相は、日露戦争で日本が勝った時、『植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけた』という『戦後70年談話』を出した。しかしその日露戦争後、韓国は日本の植民地となった。日本の政治家は発言に注意し、ケジメをつけてもらいたい」

・「トランプ米大統領の登場、英国のEU離脱、反移民などの問題は、これまでのエリート層の支配、これまでの制度に、一般市民がうんざりしているのが原因だ。東京都議選の結果もそうだが、多くの国民の中にフラストレーションが高まっていて、日韓においては、そのフラストレーションが慰安婦問題に向かっている。そうした中で、そのフラストレーションを解消していく仕組みづくりをどうするか。難しいことではなく、双方の留学生を増やすなど、個人的な関係を深めていくことが大事になってくる。国民レベルで日常的に協力関係を深めていき、お互いに友達がいて、顔が浮かんでくる。そうした関係があれば、慰安婦問題があろうと大丈夫。関係という、海の深さを安定させていくことが大事だ」

・「日本が韓国にすべきことは、謝ることではなく、"誠意"、"誠"を示すことだ。これが相手に伝わっているかどうか。また韓国人に特有な概念である、民族的"恨"(はん)を理解してあげる。しかし、現実には、慰安婦の問題を政治・外交問題に持ち込めば、日韓関係は確実に悪化してしまう。これは間違いない。日本の国民、市民の感情は深刻であり、楽観視はできない」と、ソウルに駐在経験のある出席者は警告するのでした。

・「"リベラル・オーダー"という世界の枠組み、秩序は、米・英が主導してきた。しかし、彼らは今、やる気がなくなっている。残された我々は、どうするか。どういう責任を果たすべきか。これは一つのチャンスだ。中国は、習近平思想、つまり、中国の特色ある社会主義を、開発途上国で使って(採用)みたらどうか、という考えを打ち出そうとしている。私たち日韓は、この中国の出方にどう対応するのか。そして、私たちは、新しいアイディアを出していく時代にいる。相手を理解するのは難しいことだが、それこそ"恨"を掘り下げて研究し、相手に対する理解を深いものにしていきたい」との新たな視点も紹介されました。


政府と市民の動きを結びつけることこそ「日韓未来対話」の目的

YKAA1778.jpg 最後に工藤は「日韓対話は今年で5回目だが、今の日本では、日韓問題を話しても意味がないのではないかという風潮があり、『まだやっているのか』と言われることがある。これは非常に危険な段階だ。この状況を一体、誰が作ってきたのか?韓国のジャーナリストの方が話していたが、政治的問題のはけ口に日韓関係を使い、『反日・反韓』に利用し、今の状況を作りあげてきた」と語りました。また、日韓関係改善については、申大使が「政府の役割」、小倉氏が「市民の役割」が大事だと指摘していたが、そのどちらも力を失っている。こうした状況下だからこそ、政府と市民の動きを結びつけるような行動が必要で、そのためにこの「日韓未来対話」があるのだ、とこの対話の意義を強調しました。


「第5回日韓未来対話」を歴史的なスタートの第一歩に

 今年の世論調査を振り返り工藤は、「歴史認識問題を解決することは困難」と考えている韓国人の割合が昨年より増え、「歴史認識問題が解決しなければ日韓関係は発展しない」と考えている日本人も昨年より増えていることを指摘しながら、そういう認識下でも、「日韓問題を解決したい」と両国の7割近くの人が感じているのに、どうして誰も動かないのか、今がチャンスではないかと問題提起しました。そして、新しい関係を始めるための対話を始める必要性を強調し、「いま多くの市民は日韓未来対話のような会議があることすら知らない。そのことを一般に知らせることが大事である。午後のセッションでは日韓両国が関係を深めていこうと、皆さんが真剣に考えているというメッセージを発信してほしい。それが歴史的スタートの一歩となるかもしれない」と今回の対話への意気込みを語り、非公開セッションを締めくくりました。