言論NPOが準備を進めていた北東アジアに平和をつくるための対話が始まりました。まず、9月10日、中国の人民解放軍系のシンクタンクを主体とした訪日団との間で第1回目の議論が行われました。そして、10月末には米国の有力な専門家との協議も決まっています。
その第一弾として行われた第1回日中安全保障対話は9月10日、都内で開かれ、日中の安全保障関係者12名が顔を合わせました。対話の前半では、平和秩序の形成を目的に、日中で作業を開始するという理念を共有。後半では、北朝鮮の核の脅威を押さえ込むために、両国で何が出来るか、その中身について活発な意見の交換となりました
まず、日本側からは、「日中は将来の目標を共有できるのか、ビジョンが一致していなければ、摩擦は起きる」として、2014年11月の安倍首相と習近平・総書記の第一回首脳会談での安倍首相の発言を取り上げました。「これは中国では報道されていないが、安倍首相は①国民の相互理解をいかに深めるか、②経済交流の深化、③東シナ海での協力、④東アジア安全保障の環境整備を提案したことが紹介されました。これに対して、中国側からは「そんな話しは聞いたことがない」と返答があり、「意思疎通のチャンネルが足りない時、両国民の誤解は大きく、うまく情報が伝わらないと、双方の認識のギャップも大きくなってしまう」との説明がなされました。
また、冷戦時代、米ソはお互いの考え方が理解できたので安全保障問題も安定したが、日中で安全保障の枠組みを作っていく時に、両国の信頼関係がないとその構築は難しい。日本と中国人民解放軍の安全保障への考え方の違いを克服する必要があり、そのためにも相互理解が重要だ、という意見が日本側から出されました。
中国側からは多極化との関係で、日米同盟に対し、日中双方で理解の仕方が違うのではないかとの問いかけがあり、お互いの食い違いを整理する必要があり、「大同」を求め、「小異」を残し、「心の障害」を取り除くことが大事だと、日本側に注文。国際法、海洋法などについても、中国側から自国の認識、主張にも耳を傾けて欲しいとの見方が示されました。
対話後半での北朝鮮の核・弾道ミサイル問題では、日本側から、日本人の多くは、中国は北朝鮮の制裁に本気で取り組むのか疑問に思っている、との質問がなされました。これに対して中国側から中国と北朝鮮は同盟関係にあるが、昔とはリーダーも周辺環境も違い、中国の言うことを聞かない状態だとの中国側の本音がこぼれました。また、北朝鮮を核保有国として認めるか、という問いには、NPT(核不拡散条約)体制の崩壊につながるとして容認しませんでした。さらに、ロシアがこのところ見せている北朝鮮への友好的態度については、日中ともその真意を測りかね、中国もロシアに温度差を感じていることが明らかになりました。
最後に中国側は、北東アジアで平和を実現するために、日中でいかに協力するか、北朝鮮の核兵器の脅威をいかに減らすか。北朝鮮が望んでいるものは何か、それを与えて交渉のテーブルに引っ張り出すぐらいの気構えで臨んでいきたいと力強く語りました。これに対して日本側からは、朝鮮半島の危機は安倍首相の言うように、質的に転換し、大きく変わろうとしていること、そうした状況下では日中間で危機管理すべきだと総括して、日中対話で重要な一歩を踏み出しました。
今回の対話を終えて言論NPO代表の工藤泰志は、「北朝鮮問題を解決する意思を両国が共有しながら、具体的な戦略的、戦術的な様々な議論を今後深めていかなければいけない、ということで両国の関係者が合意しているということは非常によかった」と語りました。続けて、工藤は今回の議論でも、日中両国であまりに対話が不足し、様々な誤解が存在しているとことについて、「民間レベルでこうした対話を積極的に行うことが、アジアの平和のためにどうしても必要だ」と語り、対話の継続と、北東アジアの平和構築という成果を出したいと決意を新たにしています。
言論NPOは、こうした対話を継続して実施し、北東アジアの平和構築に向けた動きを進めていきます。その状況は、随時、言論NPOのホームページで公開していきます。