座談会(非公開)出席者
A:シンクタンク代表
B:世論調査会社代表
C:シンクタンク・シニアフェロー
D:世論調査会社調査ディレクター
司会:言論NPO代表・工藤泰志
言論NPO代表の工藤はワシントンに戻り、有力政治家、ジャーナリスト、国際問題の専門家などと積極的に意見を交換しています。今回は「トランプ政権の100日評価」を座談会でお送りします。司会は工藤が務めました。
通常、大統領就任から100日間はメディアも批判を控え、蜜月状態が続くのが慣例でしたが、今回はその間もバトルが続くという異例の事態。ロシア問題も深刻化し、座談会は果たしてトランプ政権は次の大統領選挙のある4年後までもつかに、話題が集まりました。
トランプ大統領が弾劾されれば共和党に有利!?
工藤:5月初旬のコミー連邦捜査局(FBI)長官の電撃解任に続いて、今度はトランプ大統領自身が、ロシアの高官に機密情報を漏らしたのではないかという疑惑が浮上している。今やロシア問題は、かつての「ウォーターゲート事件」になぞらえて「ロシアゲート事件」と呼ばれるほどだ。果たしてトランプ政権はこれからどうなるのだろうか。
B:ワシントンポストが、ブレイキングニュースで、情報漏えいを報じた。それに関して民主党の中からは怒りの声、共和党からも一部懸念の声があがっている。ただ、これまでの傾向通りに進むとすると、世論はほとんど変わらないのではないか。新大統領の支持率も過去最低で始まった。過去の大統領は低くてもだいだい60%、これに対してトランプ大統領は40%。ただ、共和党つまり自党の支持者の中での支持率は、民主党の前オバマ大統領とほぼ同じだ。ただ、民主党支持者からから7%しか支持をされていない。ここで支持率に大きな差が開いている。
工藤:ロシアゲートのトランプ政権に与えるインパクトは。
D:若干のインパクトはあるだろうが、逆にニュースの量多過ぎて......。1972年の「ウォーターゲート事件」で職を辞したリチャード・ニクソン大統領ですら、彼が辞任する5日前まで、共和党の49%は残って欲しいと言っていた。この大統領に最後までついていくという人は、やはりかなりの人数いる。これからの疑問は、トランプ大統領の最後はウォーターゲートより小さい規模でも起こるのか、それとも何が起きようとも、一番コアの共和党は支持し続けるのかどうかだが、そこはまだ見続けていかないといけない。
工藤:日本では、首相の支持率が10%ぐらいまで落ちると、自党内で問題が出て失職、辞任に追い込まれることが多い。世論の支持率が政権に与える影響は大きい。アメリカでは世論調査が大統領の辞任に繋がるということはあるか。それとも弾劾という点においては、議会の力のほうが大きいの。
D:実際に共和党が議会の過半数を取っているから、今の時点で大統領に対する弾劾が起こる可能性は非常に小さい。しかし、共和党も世論調査を意識しているし、40%という数字も共和党議員なら全員知っている。それによって、彼らがどこまで行動するかに影響が出る。2018年の中間選挙(上下両院の議会選挙)に向けて、議員はかなり数字を注目しているので、トランプ大統領の次の試練はそこになる。
C:ただ、弾劾についてはもう一つ言わなければいけないことがある。ある共和党の州議会議長に「トランプ大統領は弾劾になるか」と聞いたら「それは共和党にとって良いことだ。弾劾されたら、副大統領マイク・ペンス氏が大統領になるが、彼は非常に信頼のおける保守であるので、18年の中間選挙でも、20年の大統領選挙でも、共和党が上院・下院・ホワイトハウスを失う可能性が低くなるだろう」と言った。恐らく州議会の議長クラスで、そういう考えを持っているのは彼だけではないだろう。
工藤:みなさんはトランプ政権は、これから4年間もつと思っているか。
B:4年はもつと思う。
D:分からない、多分NOだと思う。2018年の中間選挙で下院を民主党が制して、その後、弾劾になると思う。
C:弾劾ではなく、4年を待たずに辞任すると思う。
工藤:Bさんが一番トランプ支持という印象を受けた。
B:物凄く支持している。再びアメリカを偉大に(笑)。
工藤:しかし皆さんの見方はかなり厳しい。世論の動向も厳しいし、ロシア問題も事件の様相を呈してきた。
D:そこが難しいところで、去年の大統領選挙では、みないろいろな予測をしたが、芳しい結果ではなかった。みなあの経験トラウマで慎重になっている。
C:支持率が低いからといって大統領が職を失うことはない、と。私が辞任するんじゃないかと言ったのは、トランプ大統領に近い人間のマネーロンダリング、汚職、ロシアに協力して民主主義を覆すような行為の発覚などが、いくつもいくつも重なって告発されていき、大統領自身が辟易としてしまうということだ。ただ、罪を犯していない人間も、犯罪捜査を妨げるといった逆説的な理由で辞任させられる。だから、それには2年、3年の時間がかかると思う。
トランプ大統領は外交政策に自らの意見なし
工藤:日本の首相も同じだが、人気がなくなると対外的な攻撃姿勢を強めたり、ナショナリスティックになる。だからトランプ大統領も、対外的に危機をつくりだすという形で、世論を動かすという可能性はないのか。
C:危機の状況が訪れると、歴史的に見ても、2001年の9・11テロ事件、03年のイラク戦争などのように、大統領の支持率は上がる。ただ、トランプ大統領はどうかとなると、それは別だろう。
工藤:アメリカに対する危機が発生して支持率が上がるのではなく、自分で危機を作り出すことによって、支持率が下がる可能性があると......。
A:トランプ大統領は危機をつくりだすかもしれない。しかし、それがネガティブなフィードバックの始まりという可能性もある。ウォールストリートの人たちも心配している。トランプ大統領は来週イスラエルのエルサレムに行くが、そこで大使館をテルアビブからここに移すと発言するのではないか、と(イスラエルの首都はエルサレムだが、同地はユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地で帰属関係が複雑なため、どの国も大使館を置いていない)。
ホワイトハウスはそれはやらないとは言っているが、もし大使館をエルサレムに移動するということになると、パレスチナが立ち上がり、中東にもう一つ大きな紛争が起こる可能性がある。あるいは北朝鮮と戦争ということになれば、アメリカ国民は大統領を支持すると思う。
C:これもすごく面白いクエスチョンで、トランプ氏が大統領選に出馬した時に、新しい戦争を始めようなんて考えていなかったと思う。アメリカ国民は今現在、新たな戦争を求めていない。確かに北朝鮮の問題というのは現実的な脅威なわけで、核弾頭を載せたICBM(大陸間弾道弾)を開発し、それがアメリカに到達するかもしれない。
ただ、外交政策で言うと、彼の意見というものは特にはない。今までそうした経験もないし、背景もない。例えば、これまで米国も認めてきた一つの中国政策に対して、これを中国とのバーゲン材料に使うべきだという発想で台湾の蔡英文総統と電話を会談し、次は中国の習近平国家主席と電話会談を行った。これをやったころから、一つの中国政策を支持し始めて、それをもって習近平主席とディールメイキングをする。いわゆるグレートリーダーの間で話をし、北朝鮮に対して何か圧力をかけよう、と。全くもって彼の外交、安全保障チームは何もできない。トランプ大統領が大きな間違いを犯さないためには、ティラーソン国務長官、あとはNSC(国家安全保障会議)のメンバーたちが、辞任すると脅さない限り大統領の行動を抑制できない。
予測ができないという意味で、もっとも危険な大統領。予測ができないということは、外交政策の上では、敵国に対しては使える場合もある。ただ、同盟国に対してはどうなのか。予測ができないということは、日本、韓国などの同盟国に非常に大きな影響がある。基本的にリーダーがいない状態ということになる。
あともう一つは、離れたところから見ている人によると、彼は精神的な疾患を抱えていると言っている人も多い。ただ、健康上の理由ということで辞任の理由ができる。そうであれば政策の話ではなく、勝利を宣言して退任する。2年間で過去大統領よりもより多くのことを達成した、と。就任後100日で他の大統領よりも多くのことを達成したと言っているわけだから。
トランプ大統領は日本に関心なし
C:今度はこちらから質問したい。では、日本ではどのようにトランプ大統領を評価しているのか。安倍首相はトランプ大統領のベストフレンドの一人になることに成功した。ただ同時にヘッジもかけている。例えば中国にも特使を送り、日中関係も好転させようという取り組みも進めている。日本がAIIB(アジアインフラ投資銀行)に参加するかもしれないかのような発言もしている。このように中国との関係でも、トランプ政権の持つリスクをヘッジしているのではないか。
工藤:トランプ大統領選が誕生したとき、日本人は驚いた。特に驚いたのは、保護貿易主義的な政策を採るということ以上に、多国間主義に基づく国際協力という姿勢がないことに驚いた。つまり、この大統領は、世界秩序を守る側に立っていない、新しいアメリカは危険だ、と。以前、我々がイギリスのチャタムハウスなどと議論した際に、アメリカはもう国際協調の議論からは外すことも視野に入れるべきだ、というくらい危機感を抱いていた。しかし、対米外交に携わってきたある大使経験者たちは、「トランプさんは勉強すればいずれ変わるだろう。もしくは追い込まれれば変わる。だから、そんなに心配することはない」と言っていた。
今の状況はどうかというと、トランプ大統領が選挙中に言っていたことはかなり修正されたとみている。彼は、現実的な政策にぶつかって、理想を実現できないことの限界を知ったのではないか。では、有効な政策はあるのかというと、ほとんどない。ポピュリズム的な政策しかないために、この政権はいずれ行き詰まる。もしくは、ひょっとしたら暴発してしまうかもしれない。にもかかわらず、日本では今はどうなっているか。北朝鮮への対応などを見て、「何かやってくれるのではないか」というある種の期待感が出てきている。つまり、トランプ政権に対する当初の危機感が麻痺してきている。
逆に、今の質問で私が気になったのは、例えば、中国は安全保障の枠組み関して、つくろうとしているのはユーラシア大陸の内陸部。そこにはアメリカは一切入れない。それに関する会議に韓国が外相を送った時はみな驚いた。もちろん、日本はそんなことしない。だから、アジアの秩序形成では日米同盟対中国グループという対立構図がある。それは中国で実施した世論調査でもはっきりと表れている。日本が一帯一路計画やAIIBに入ろうとしているとすれば、アメリカも巻き込んだ大きな戦略、何かアイデアがあればいいのだが、それが見えない。ワシントンでいろいろな人に聞いてみても、「トランプ大統領は日本が何をやっても気にしないから大丈夫だ」と、言われるばかり。トランプ大統領は日本のことをあまり考えていないのではないか。だんだんそういう認識になってきている。
中国との関係もディールとして捉える
C:トランプ大統領は習近平国家主席ともベストフレンドになっちゃったので、いろいろ言いづらいのではないか。そもそも、AIIBとか一帯一路とか、聞いたこともないだろう。
工藤:ただ、共和党の人に話を聞くと、中国とインフラ開発などの面で、連携したいという人は結構いる。ひょっとしたら安倍首相がAIIBに入ろうとしている動きと、連携しているのではないか。
A:ある中国人は、アメリカの政治をこんなふうに表現していた。中国は、共和党とはやり取りができる。というのも、共和党は、政権を取っていないときは中国とビジネスをやってくれるから。民主党は、シンクタンクを使って、中国を非難するペーパーばかり書かせる、と。トランプ大統領の本質は、共和党でも民主党でもなくビジネスパーソン。中国人が彼のことを好きな理由は、ビジネスを介せば話をできるだろうと思っているから。トランプ大統領の息子も娘も同じ。現に中国とビジネスをやっている。
工藤:私もそう思う。安倍首相が中国との関係を正常化しようとしていることは、トランプ大統領も認めているのだと思う。
C:共和党の中でも、外交のプロは中国に対して強い疑いを持って見ているけれども、中国はトランプファミリーとすごく事業をやりたがっている。娘のイヴァンカに対してもの凄く良い条件のオファーを出しているし、イヴァンカの夫であるクシュナーの妹ニコール・クシュナー・マイヤーも、中国で米国内での事業への50万ドル(約5700万円)以上の投資と10人以上の雇用創出と引き換えに、米国での永住権が付与されるビザ(査証)制度「EB-5」の利用を呼び掛けたりしている。彼女は兄の名前を出してそういうプレゼンテーションをしている。ただ、こういうことをやっていると、憲法違反で大統領が弾劾される可能性もある。
A:さらに、トランプ大統領になって以降、実は南シナ海での航行の自由作戦はまだ一回もやっていない。船を出したことはあるが、航行の自由作戦とは銘打っていない。
工藤:何か取引しているのですか。
C:取引があるかどうかはともかく、トランプ大統領は中国と経済的なディールメイキングをやっているが、それは中国の影響力を北朝鮮にかけさせるためだ、と。中国を為替操作国に指定するのもやめた。元々操作などしていないので、できないのは当然だが、明らかに彼は取引をしている。何でも取引の対象にする。共和党の右寄りの人たちも、実は中国とビジネスがしたい。国益のためだとかそういう話ではないんだね。
工藤: 就任後100日余りで明らかになったことは、何をするか予測不能ということと
全てをディールとして考えるということですね。国際関係はますます不安定化しそうです。
(了)