~「日米中韓4カ国対話」非公開会議 報告~
午前中の非公開会議に続いて、午後からは公開セッションが行われました。ここでは、北朝鮮から核保有を止めるために米国は軍事行動をとるのか、軍事行動をとることを避けながら、北朝鮮の核保有を止めることは可能なのか、可能だとしたらそのためには何が必要となるのか、などをテーマとした議論が展開されました。
参加者は以下の通り
日本 工藤泰志(言論NPO代表)
香田洋二(元海上自衛隊艦隊司令官)
中谷元(元防衛大臣)
西正典(元防衛事務次官)
アメリカ ジム・ショフ(カーネギー国際平和基金日本部長)
ザック・クーパー(戦略国際問題研究所シニアフェロー)
ブルース・クリングナー(ヘリテージ財団シニアフェロー)
中国 呉莼思(上海国際問題研究所シニアリサーチフェロー)
韓国 李相賢(世宗研究所安全保障プログラムディレクター)
ジョン・ジェソン(ソウル国立大学教授)
会議の冒頭、主催者挨拶に登壇した工藤は、言論NPOが北東アジアに平和秩序を作るという目標を掲げ、日中、周辺各国との対話に取り組んできたことを振り返りつつ、「今年からはいよいよ中国、韓国、そして米国を巻き込んで北東アジアに平和秩序を構築するための作業に本格的に着手する」とした上で、「そのためにはまず北朝鮮問題をどう解決するか。そのシナリオづくりにチャレンジしていく」と宣言し、議論がスタートしました。
セッションではまず、4カ国の6人から問題提起がなされました。
日米韓3カ国の緊密な連携が不可欠
最初に登壇した元防衛大臣の中谷元氏はまず、北朝鮮が核保有国となれば、「それはNPT(核兵器不拡散条約)体制崩壊に直結する。テロリストにも核兵器が渡りかねないが、この『多極化した世界』においてそれは絶対に阻止しなければならない」と強い口調で問題提起。
その上で、自らの防衛相時代を振り返り、「就任当初はまだ北朝鮮政策の基本は『対話と圧力』路線だったが、やがて『圧力優先』に変わった。そして、そのために平和安全法制が整備されたり、日米ガイドラインの見直しが行われた」と語り、これらの政策遂行によって日米同盟の連携がさらに強まり、抑止力、対処力向上につながったとの認識を示しました。また、同じ米国の同盟国である韓国との間でも軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結するとともに、日米韓の合同訓練を実施してきたことを振り返り、「これからのこの日米韓3カ国が緊密に連携して北朝鮮を抑止していく必要がある」と述べました。
今、核不拡散体制の崩壊を食い止めなければ核不拡散体制は崩壊する
続いて、元海上自衛隊艦隊司令官の香田洋二氏はまず、「北朝鮮の核・ミサイルが日米にとって大きな脅威となることなど、当時は想像だにしなかった」と1994年当時を振り返りました。その上で、核・ミサイル開発のスピードが早いにもかかわらず、六者協議や米朝協議など「対話と圧力」路線が功を奏さず、周辺諸国が有効な手を打てないまま後手に回ったことがこのような現状を招いていると問題提起。
そして、中東、さらには南米にも核武装に強い意欲を示す国が複数あることを紹介した上で、仮に北朝鮮を核保有国として認めた場合、「それらの国々も核開発を始めることになるが、もはやその動きを止めることはできなくなる」とし、まさに今が核不拡散体制の瀬戸際であるとの認識を示しました。そして、そうした状況になると、「偶発的ではなく、意図的な核兵器を使用する国が出てくる」とし、「それはまさしく人類にとって地獄だ」と強く警鐘を鳴らしました。
香田氏は最後に、こうした状況の中では「だからこそ、国際社会が歩調を合わせて北朝鮮問題に取り組む必要がある。ようやく出せた安保理制裁決議も、抜け穴がないようにしっかり足並みを揃えて取り組まなければならない」と主張しました。
まず米国が一貫した政策を打ち立てる必要がある
米国・ヘリテージ財団シニアフェローのブルース・クリングナー氏は、北朝鮮は既に日韓に対する攻撃手段を豊富に備え、グアムも狙える中距離弾道弾も保有し、さらに米本土も射程に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)の完成も時間の問題であるなど、日米韓にとって差し迫った脅威になっているとの見方を示しました。しかし、米国ではトランプ大統領の発言が変遷し、相互に矛盾したり、さらには政権内で戦略についての議論もなされていないなど、「非常に危険な状態」であると指摘。こうした中ではまず、圧力にせよ、ミサイル防衛にせよ、外交交渉にせよ一貫した政策を確立することが必要だと語りました。
また、同盟国の間では、「米国はロサンゼルスを危機にさらしてまで東京やソウルを守るのか。北朝鮮からの核攻撃を恐れ、同盟国である日本や韓国に対する防衛を躊躇するのではないか」という「デカップリング(切り離し)」に対する懸念が高まっていることを踏まえ、「韓国国内には2万5000人、日本国内には4万人を超える米兵・軍属がいる。同盟国のため、また自由と平和を守るために今後もコミットメントを続けていくべき」と述べました。
クリングナー氏は最後に、米国の軍事行動や同盟国への戦術核の再配備については、否定的な見方を示しつつも、「オプションとしては持っておく必要がある」としました。
日米韓、さらに中露も加えた協力体制構築が必要
米国・戦略国際問題研究所シニアフェローのザック・クーパー氏は、米国が北朝鮮に対する軍事行動に踏み切る可能性について、「ゼロではないが低い」と予測。やるとしてもそれは限定的な攻撃になるがその場合、北朝鮮からの数千発ものロケットや迫撃砲による集中砲火がソウルを襲うことになるため、「トランプ政権もなかなか攻撃には踏み切れないだろう」との認識を示しました。また、軍事行動を含めて「何でもする」ということをオプションに加えるという戦略は、言い換えれば「何でもあり得る」ということであり、同盟国から見れば不安極まりないものだとも指摘しました。
その上で、日韓の懸念を取り除くため、まず米国は戦略をレビューして確固たる方針を確立することが大事であり、さらに3カ国の協力体制、とりわけミサイル防衛についてはまだまだ十分ではないため、早急に強化すべきと主張しました。
同時に、核不拡散の観点からはやはり中国、ロシアを巻き込むことも重要であると指摘。そのようにして単に脅威を後退させるにとどまらず、はっきりと封じ込めるための戦略こそが本当に必要だと語りました。
軍事行動の前に、経済制裁でやるべきことは残っている
韓国・世宗研究所安全保障プログラムディレクターの李相賢氏は、首都ソウルが非武装地帯から35マイル(約60km)しか離れておらず、さらに250キロトンの核兵器がソウルを襲ったと仮定した場合、70万人が死亡することになる韓国ほど北朝鮮の脅威に直面している国はない、と韓国の置かれている切実な状況をまず訴えました。
その上で、軍事行動をオプションとしてテーブルの上に乗せること自体は否定しないとしつつ、北朝鮮はどんな軍事行動も自分たちの生存を脅かすものだと受け止めるため、事態がエスカレートしてすぐに朝鮮半島全域に戦火が及ぶことになるので、「あくまで軍事行動は最終手段にすべき」と述べました。
李氏は続けて、これまで「対話と圧力」が功を奏さなかったという意見に対しては、「石油禁輸などで資源不足に追い込めば、核・ミサイル開発を止められないまでも、計画を遅らせることはできる」と指摘。これまでの経済制裁には抜け穴が多かったため、セカンダリーボイコットなどまだまだやるべき制裁は多いと主張し、そのために国際社会が連携していけば、「数年のうちに効果が出てくるかもしれない」と期待を寄せました。
中国は政治的解決を最重要視
中国・上海国際問題研究所シニアリサーチフェローの呉莼思氏は、北朝鮮の核開発が「重大かつ危険な状態」にあるとの認識を示しつつ、「軍事行動はオプションとして適切ではない」と主張。その理由としては、北東アジアの平和と協力発展を大きく損なうことになることに加え、「そもそも、北朝鮮の核能力がどの程度なのか、はっきりしていない」、すなわちターゲットが明確ではないため、攻撃しても完全に核能力を無効化できたか判定できないことを挙げました。
そして、中国が追求するのは、政治、経済、外交など包括的なアプローチであるが、その中心となるべきは政治的解決だと強調。また、北朝鮮が核保有を進めるのは、自国の安全に不安があり、現状に不満を抱いているからである以上、圧力をかけるにしてもその不安や不満に響くようなメッセージとなるようにしなければならないと指摘しました。
一方、米国に対しては、「同盟国に対する配慮から少しではあるが方針が軍事オプションから外れてきたのではないか」と分析。世界のリーダーとしてはそのように多くの国々の利害を考慮するのは妥当な姿勢であり、今後も関係各国が結束して北朝鮮問題に取り組めるような政策を打ち出していってほしいと注文を付けました。
こうした6人からの問題提起を受けて工藤は、「北朝鮮への圧力で中国は何をしようとしているのか、共産党大会を終えて北朝鮮政策の変更はあるのか。トランプ大統領は北朝鮮への方針を固めているのか。軍事攻撃へ時間は残っているのか」と、日・米・韓・中、4カ国それぞれのパネリストに問いかけました。
特に中国に対しては、朝鮮戦争で北朝鮮を軍事的に支援してきた背景もあり、国連安保理決議による経済制裁などで抜け道があるのではないか、と疑念が抱かれているため、厳しい疑問が投げかけられました。
中国は北朝鮮への対応について飴と鞭のバランスをとる必要性があると指摘
これに対して呉莼思氏は、「圧力には最高も最低もない。圧力を高めるのが中国の政策であって、北朝鮮に対しては累積的に高めていくことが必要だ。北朝鮮の態度を何とか変えさせようと、適切なレベルで圧力を深くし、石油の禁輸も強化すべきだ」と北朝鮮への一定程度の圧力は必要だと語りました。その上で、中国の国際問題への対処の仕方は、常にマイナスよりもプラスを活かそうとしている点を指摘し、「中国から見れば北朝鮮の指導者は、自分のことしか考えない若者のようなものであり、北朝鮮の核開発を止めさせるなら、圧力、強制だけでなく、その背中を押すように奨励するのが必要だ。そういうアプローチやムードを醸成出来ないか。圧力も一つの枠組みだけではなく、いろいろな枠組みを組み合わせて北朝鮮に立ち向かう積極的なアプローチを考えることが必要だ」と、かつて"血の同盟"と言われた過去の日朝国関係を踏まえつつも、飴と鞭の両方がバランスよく必要だと冷静に語りました。
こうした中国の立場について、「中国にも同情すべき点はある」と話すのは西氏です。西氏は、「中国を弁護するとすれば、核の恐怖を感じているのは韓国に次いで中国ではないか」と指摘。理由としては、ソウルを除けば、一番近い大都市は北京であること、中国にはミサイルへの備えはないことを挙げました。特に、現在のミサイルの発射状況などを分析しながら、「金正恩になってからは、ミサイルの発射場所が西海岸に移るなど、自在に発射している。これは攻撃能力を見せ付けることで、中国もターゲットに入っているぞ、と一つのメッセージになっている」との見解を述べました。一方で、中国国内でも「今後、危機的シナリオの議論も必要になってくるだろう」と語り、危機的シナリオが現実的になった場合に中国の軍部がどう反応するかを注視する必要があると指摘しました。
さらに西氏は、金正恩については、「これまでの行動を見る限り、いきなりトップギアに入れてみたり、これからは援農作業に入るのでミサイル発射は終わり、と言ってみたり、他とのバランスを考えておらず、とても交渉しにくい相手だ」と語る一方、「トランプ大統領ももっと分からない」とも述べ、米朝それぞれのリーダーの危うさにも触れました。
米国は中国への圧力強化の期待を示さず、
ゆっくりとした圧力は不甲斐ない段階主義だと主張
一方クーパー氏は、中国の立場について否定的な見方をします。「日米韓は同じような利害関係にあるが、中国は違う。中国にとって、北朝鮮は緩衝国として重要であり、そこが崩壊すれば、難民が中国に押し寄せてくることなり、アメリカとは優先課題も違う。核放棄に向け、具体的に絞って圧力を加えていくが、中国にこれ以上の期待は出来ない」と、言い切るのです。
クリングナー氏は、「ハンマーかドライバーという話ではなく、コインの両面として制裁、対話の両方が必要だ。8つの国際的な合意で失敗した後、二者、六カ国協議など全部失敗した。さらに、サッカーチームやチアリーダーチーム、オリンピックの選手の訪問といった社会的な関与でも北朝鮮は変わらなかった。ゆっくりと圧力をかけるべきだという意見もあるが、それは不甲斐ない段階主義だ」と、これまでの対応を非難しました。
北朝鮮がここ最近静かなのは、トランプ大統領に自身と同じ臭いを感じたからか
西氏同様、日本の防衛を担当してきた香田氏は、「1998年8月31日に、北朝鮮がテポドンを太平洋に打つまでは、ここまでに至る過程は感じられなかった。いつか打つだろうが、その能力を疑っていた」と、海上自衛隊員として北朝鮮の動きを監視していた体験を率直に語りました。その後、六カ国協議や米朝対話を通じて対応してきたが、対話、圧力だけでは北朝鮮の核・ミサイル開発を止められなかったことは正確に認識すべき、と反省を込めて言います。「2012年以降、北朝鮮の開発スピードがとても早くなってきた。米国や日本の対応は後手後手に回って今日に至っている。なぜ、北朝鮮はICBMを持とうとするまでになったのか」と、自問するように聴衆に語りかける香田氏。「それは、アメリカに軍事力を使う気がなかったからだ」と、聴衆の反応を伺うように視線を送ります。そして、「『毒をもって毒を制す』ではないが、(言動が不安定な)トランプを見て、"自分と同じようなレベルの言い方"の男が出てきて、"やばいぞ"となり、最近は静かにしているのでは」と説明する香田氏でした。
北朝鮮はアメリカの"本気"に気がついた、と同様の見解を示したのは、元防衛大臣の中谷元氏です。「北朝鮮は、最近おとなしいし、言動もトーンダウンしている。制裁も厳しく、やっとアメリカの本気度に気が付いたのではないか。この3カ月から半年で、話し合いに出てくるのではないか」と予想し、「安保法制の成立でアメリカの同盟国としてサポート体制は出来ているので、これからも制裁圧力を強力に進めていく」と述べる中谷氏でした。
これに対し、ショフ氏は、「この問題は楽観視していないが、この時点での軍事行動はない」述べ、軍事行動が及ぼす悪影響が大きすぎる点を指摘しました。その後も、「日米韓中にロシアを加えて、防衛態勢を調整して前線としての相互理解を深め、連携するようになれば封じ込めは出来る。多国間対話、危機管理対話をもっとやるべきだ」と、トランプ大統領のような勇ましい言辞は聞かれませんでした。
会場からはトランプ大統領の資質に対する質問が相次ぐ
その後の聴取者との質疑応答では、軍事行動の際には"司令官"になり、11月5日に来日するトランプ大統領の資質について質問が続きました。「北朝鮮の金正恩が危険なのはわかるが、それ以上に、トランプ大統領の性格も危険性を含んでいるようだが、それを止めることは可能なのか」という問いには、クーパー氏が、「ノー」と苦笑し、会場の笑いを誘いました。「アメリカ人が彼を選出した。だから少なくとも4年間大統領だし、もしかすると8年間、大統領を務めるかもしれない。だから慣れるしかない。トランプ大統領というのは、自分の意見が、マティス国防長官、ティラーソン国務長官が言ってることと違っているからと言って、口を閉じることはあり得ないし、引き続き彼は発言していく。ただ、安倍首相をトランプ大統領が信頼しているのは事実であり、安倍首相はワシントンで重要人物で、米国の政策に対して影響力を行使出来る人だと思う」と、アメリカ人としての感触を語りました。
「『オバマ前大統領を見習え』とは言わないが」と、話すのはクリングナー氏です。「もっと(言動を)大統領然としてもらいたい。しかし、トランプ大統領は"ソウルを火の海に"なんて言わないし、金正恩の方がもっと酷いことを言っているということを忘れないでほしい。それから北朝鮮という国が、そもそもこの問題の根源なのだ。北朝鮮が国際法に従ってくれれば、人道に対する罪を犯さなければ問題はない。とにかく、問題の根源は北朝鮮であり、平壌である、ということを強調したい」と、アメリカの立場を口にするのです。
ショフ氏が言葉を繋ぎます。「トランプ大統領は、いろいろとツイートしているが、あれはわざと言っている。国防、国務両長官の助けになると思って、あえて"悪役"を演じることが役に立つと思ってやっているのだ」と、大統領に理解ある補足説明をするなど、会場からの質問に対しても、パネリストから積極的な回答が出されました。
トランプ大統領の存在があるからこそ、今回のような民間対話の重要性を改めて感じる
工藤から最後の挨拶を指名されたショフ氏は、「トランプ大統領は強力とは言ないし、指導力も備えていない。地域的アプローチも苦手だ。だから、具体的提言を日米韓中ロ、5カ国で出すことが重要で、定期的な日米韓首脳の対話をもっと持って、制裁措置の強化を図り、防衛体制について、お互いの理解を増進することが重要だと思う」と指摘。その上で、ショフ氏は「今回のような民間の対話が必要だと思うし、こういった機会が持てたことは非常によかった」と今回の対話の成功と、聴衆や関係者への感謝を述べて、3時間位わたる公開フォーラムを締めくくりました。
言論NPOは今回の「日米中韓4カ国対話」に続き、10月30日(月)14時から、「北朝鮮の核脅威の解決と北東アジアの平和をどう実現するのか」と題して、日米対話を開催します。この対話の様子を、今回同様インターネットで中継しますので、ぜひご覧ください。
~「日米中韓4カ国対話」非公開会議 報告~