言論NPOは10月30日、「北朝鮮の核脅威の解決と北東アジアの平和をどう実現するのか」をテーマにした日米対話を都内の国際文化会館で開催しました。
日本側からは宮本雄二氏(元駐中国大使)、西正典氏(元防衛事務次官)、香田洋二(元海上自衛隊艦隊司令官)ら、米国側からはダグラス・パール氏(カーネギー国際平和財団副所長)、マーク・リッパート氏(前駐韓大使)、ジェニー・タウン氏(「38ノース」編集長兼プロデューサー)ら北東情勢と防衛問題に詳しい各氏が顔を揃えました。
北朝鮮の核保有は認めず、米国の軍事行動も抑えることは両立可能か
まず、午前中に非公開会議が行われ、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、「北朝鮮の核保有は認めないが、米国の軍事行動も抑える。この二つの目的を両立させることは可能か。それを可能にするためには何をなすべきか。この連立方程式を解くために本音で議論し、意見のすり合わせをしたい」と挨拶しました。
工藤から問いかけられた難問に対して、日本側からは「東アジアで安全を確保するには、いかに中国を巻き込んで解決するか、日米間での調整が必要になる。両国が意見を合わせて、同じ考え方で対処すれば、それが中国への圧力にもなる」と、これまで北朝鮮の後ろ盾で、先の共産党大会で世界の強国を目指すと宣言した習近平総書記率いる中国の存在を指摘。そして、「本来なら、今回のような対話を政府レベルで進めていくべきだが、北朝鮮に対しての出口戦略として非核化への条件を出し、それを呑まなければ圧力を強化していき、最終的に条件を受けさせるしかない。トランプ大統領に果たして出口戦略があるのか、一番心配している」と、米側に質問を投げかけました。
これに対して米国側からは、様々な意見が出されました。
「制裁をいろいろやっているが、効果が出るのは、半年から一年はかかるのではないか。交渉も現実的にすぐ出来るとは思わない。我々としては、その間に防衛能力を高めるべきで、同盟国である日韓への拡大抑止のため、戦術核とか核戦略を話し合うのも大切だ」。
「米国の出口戦略を考える機運は高まっている。平壌に目を向けてどうするか考えるべきだが、六者協議も再開すべきではないか。オバマ時代も北朝鮮と米国の高官同士は話してきた。米国が高い条件をつけて、対話が出来ないと言われてきたが、そうではない。トラック1.5もトラック2も大事だが、トラック1は重要で、そうした認識のズレやディスコミュニケーションを減らすことが出来る」。
北朝鮮がおとなしくしている裏側には一体何が
また、韓国から北朝鮮を見てきた関係者からは、「北朝鮮を訪れる外国人は減り、制裁によって現金もなくなり、議論に乗ってくるのではないか。市場の問題も深刻で、一般供給システムも弱体化している」と疲弊する北朝鮮の情勢を指摘しました。
これに対し、日本側からは、「中国と北朝鮮の関係は良くない。中国にとって北朝鮮は重荷だった。中国とのパイプ役だった張成沢が殺されて、情報チャネルがなくなってしまった。また、昨春の核実験では韓国から何の情報もなかった。金正恩が潰しに掛かった韓国のネットワークを試したのではないか。そういうことからも、北朝鮮の本音を探る回路を私たちは持っているのか」と北朝鮮とのチャネルの薄さを指摘。さらに、「北朝鮮は、これまで東海岸からミサイルを発射していたのを、最近は西海岸などいろいろな場所に移してどこからでも打っており、中国に対し敵意を見せ始めている。金正恩としては、トランプ大統領の発想、行動はまったく理解出来ず、"トランプは、馬鹿だ。常識人のオレはどうしたらいいのか"とでも思っているのではないか。それが今の静寂を生んでいるのでは」と推測する声が上がりました。
日本の有識者は日韓両国の核武装について反対の声が多数
非公開セッションの最後に工藤は、言論NPOが実施した日本の有識者に行ったアンケートを紹介。「トランプ大統領の北朝鮮核問題への対応を、どう思うか」との問いについて約50%の人が「適切」と返答し、日米同盟がより強固にしたと理解している人は約70%にまで上っています。
そうした感情を反映しているのか、「日本の核武装の是非」については、8割が反対としているものの、約2割の人が賛成しています。一方、"ソウルを火の海にする"とまで北朝鮮から脅迫を受けている隣国・韓国の核武装に賛成する人は約13%。この数字を上回る賛成の声は何を意味しているのでしょうか。「核保有への態度がぐらつくと、NPT(核拡散防止条約)体制に影響をあたえ、日米同盟も北東アジアで十分な効果を発揮出来なくなるのではないか」と、日本で増えつつある自国防衛のための核武装を危惧する声が挙がりました。さらに、日本が核武装することで、日本は手を汚していいのか、また自分自身の身を切ることになる覚悟があるのか、という防衛関係者の発言もありました。
米朝間で最悪の事態を警告する参加者も存在
また、別の参加者は、「非核化、非軍事の連立方程式が解ければ、ノーベル平和賞、物理学賞が貰える、それくらい難しい問題だ」と語り、「もちろん軍事行動には反対だが、もし攻撃するなら小さいコストで強く、短く攻撃し、そして引く。そうしないとアフガニスタン、イラクの時のように北朝鮮は地下に潜り、戦いは長期化するだろう」と、あってはならない最悪の事熊に対し警告する参加者もいました。
こうして忌憚ない意見交換を経て、日米対話は午後からの公開フォーラムに移りました。