「第13回 東京-北京フォーラム」(主催:言論NPO、中国国際出版集団)の開幕式が12月16日午前、北京で行われ、2日間にわたる本格的な議論がスタートしました。
日本側から基調講演に立った福田康夫・元首相は「より開放的な国際経済秩序とアジアの平和に向けた日中協力」というフォーラムのメインテーマに関連し、「世界やアジアの平和と発展に向けた理念や構想、その具体策を日本と中国がともに議論する時代に入った」とあいさつしました。
日中国交正常化から45年を迎えた2017年。両国は現在、北朝鮮情勢をはじめとして不安定化する地域の平和環境、また世界で一国主義的な動きが広がる中で国際秩序やグローバル経済の将来をどう考えるか、といった共通の課題に直面しています。今回のフォーラムでは、二国間関係の深化だけでなく、こうしたアジアや世界の課題に両国が共同で取り組むことを目的に、日中の各分野を代表する計90名のパネリストが参加しています。
会場のJWマリオットホテルが位置するのは、中国内外の主要メディアや企業が集まるCBD(中央商務区)。500人収容のホールは、午前9時の開会時点でほぼ満席に。氷点下3度という外の寒さとは対照的に、熱気に満ちた中での幕開けとなりました。
日中関係に新しい可能性を提供する「チャンス」を失ってはいけない
開幕式ではまず、中国側の主催者である張福海・中国国際出版集団総裁が挨拶に立ちました。
張福海氏は、今の中日関係は「3つのチャンス」を迎えていると発言。具体的には、45年前の国交正常化を導いた先人の知恵と責任感が注目されていること、10月の共産党大会で「新型国際関係」と「人類運命共同体」の考え方が打ち出されたこと、最近の首脳外交の再活性化を挙げました。張氏は、この3点が日中関係に新しい可能性を提供し、フォーラムの方向性を明確にしていると語り、「このチャンスを失ってはいけない」と、日中の出席者らに呼びかけました。
次に、反グローバリズムが台頭して経済秩序が揺らぎ、安全保障リスクが増大したこの1年間の世界情勢を振り返った上で、「中日関係にはまだ複雑な要素がある。いかに根本的利益に立脚し、全体の構造を把握し、関係改善を推し進めるか。また、いかに手を取って国際問題を解決するか」が重要だと指摘しました。
そして、今年のフォーラムのテーマを決定するにあたり、日本側の主催団体と4度の議論を重ねたことや、国交正常化の今日的意義を論じる特別分科会では、当時の現場を知る人、民間交流に長年尽力した人などをパネリストとして招聘したことを紹介。「初心を忘れず、歴史を振り返り、友好を促進した経験を整理できるだろう」との期待を述べました。
最後に、前々日に発表された日中共同世論調査の結果を受け、中日の人民の共通の願いが「平和共存」と「共同発展」であると強調。それに向けた合意のプラットフォームとしての役割に期待したいと述べ、挨拶を締めくくりました。
「隣国には友好以外の選択肢はない」という45年前の原点に立ち返るべき
続いて、本フォーラムの日本側実行委員長である明石康・元国連事務次長が登壇。
明石氏はまず、「政府外交を鼓舞し補強するため、時には建設的な批判もしながら共通の未来に向かい、半歩ずつでも前進しよう」という立場に立つ本フォーラムが、過去12回を通し、「両国の知的交流と相互理解を進めるため大きな機能を果たし、今やその地位は定着したものになった」と語りました。
その上で、明石氏も張福海氏と同様、国交正常化45年、来年の平和友好条約40年を機として「初心に立ち返ること」をキーワードに挙げました。明石氏は、「日中間には複雑で痛みを伴う問題が存在し、また過去には不幸な戦争や衝突で多くの犠牲を払った。さらに、隣国の間では親近感も生じるが、互いをステレオタイプ化する傾向には便利さと同時に障害もある。にもかかわらず、日中は引っ越すわけにもいかない間柄であり、友好をあたためる以外の選択肢はない」と会場の聴衆に語りかけました。
さらに、国連外交の第一線で活躍してきた経験から、本フォーラムのテーマにも関連し「どんな大国でも、単独で世界に君臨できる時代は終わった。グローバルガバナンスにともに協力する以外に道はない」と断言。
最後に、「日中の共同利益の領域が広がっており、日中が相互の強みを得ながら連携することでアジアや世界の平和繁栄に貢献できる」との見解のもと、「本フォーラムの全ての議論が、その推進に資することを信じている」とフォーラムでの議論に期待を寄せました。
外交の基本は世論の相互理解。その推進に向けたフォーラムの役割に期待する
続いて開幕式は、両国の政府代表による挨拶へ進みます。
中国政府からは、孔鉉佑・外交部部長助理が挨拶に立ち、国交正常化45年の節目が持つ意義に言及。「先人が高い戦略的視点と大きな度胸を持って正常化を実現し、その後の45年間で『4つの政治文書』が合意された。それにより各分野で中日の交流・協力が深まり、地域の安定に貢献している」との見方を示しました。
そして、4つの文書で確認された「互いに相手国にとって脅威にならない」という指針を行動に移し、幅広い共通認識にすることが、近年失われた日中の政治的信頼を回復することにつながる、と主張しました。
次に孔氏は、10月の共産党大会で習主席が打ち出した、今後の中国の経済社会と周辺外交の青写真について、「これは周辺国、とりわけ日本との関係の原動力だ。また、孤立主義が広がる中で多国間の貿易体制が直面する障害を解消し、新たなグローバリズムを推進する道を示している」と説明。
さらに、「国の交わりの基本は、国民が親しみを持って付き合うことだ。メディアは両国関係について客観的、等身大の報道をし、プラスの雰囲気を作り出すべきだ。本フォーラムは課題をめぐる冷静な声によって世論を導き、中日間の国民理解に積極的な役割を果たしており、今回も成功を期待している」と締めくくりました。
共通理念の議論が日中社会のイノベーションにつながることを望む
日本の横井裕・駐中国大使は、2005年に開かれた本フォーラムの第1回の報告書を最近読み、「両国間の問題に正面から向かい合い、さらに日中だけでなくアジアの将来についても本音で語り合う新しいコミュニケーションチャネルを作る」というフォーラムの使命を確認。その上で、「こうしたフォーラムの重みは増すばかりだ」と関係者の尽力に敬意を表しました。
一方、中国については「来年は改革開放40周年にも当たる」との視点を提示し、デジタル化の進展など、行動様式や価値観の急速な変化を自ら体験する立場から、「日中関係を新時代のものへとバージョンアップさせる必要があると感じている。中国は多くの問題に直面しつつも生活をより豊かにする仕組みを作り出していこうとしており、それはソーシャルイノベーションの一種だ。そうした新しい世代の活力は両国に共通している」と語るのでした。
そして、「協力発展」の鍵として「共通の理念、ルール、透明で開かれた枠組み」を挙げ、「それは直ちに答えが出るものではないが、他に代わるものがない本フォーラムの場で多くの識者が自由闊達に議論し、イノベーションを追求していくことを祈る」とフォーラムに対して期待を寄せました。
日本は一貫して、中国の国家建設に向けた開放の参加者であり受益者
会議は日中両国の基調講演に移り、中国側からは、蒋建国・国務院新聞弁公室主任が登壇しました。
蒋建国氏はまず、ベトナムでの安倍首相と習近平主席の首脳会談で、二国間の平和・友好・協力という理念で合意に達したことについて、「双方の各分野の協力に方向を示した」意義は大きいと強調し、先の新指導部発足によって、今世紀半ばまでの「開放的、民主的で新しい社会主義国家」の実現に向けた国家建設の新たな道のりがスタートした」と、その意義を述べました。そのために「全面的に改革を深化し、活力を放出する」、その一環として日本については「互恵の戦略を推進し、包摂的なWin-Winの方向に発展するよう後押しする。日本は一貫して、開放の参加者であり受益者だ」と発言しました。そして、多くの経済関係者も列席する日本側参加者に向けて、「一帯一路」など、中国が今後進める経済構想への参加を呼びかけました。
中国はこれからも覇権を唱えず、友好関係を継続する
続いて蒋建国氏は、日中関係をめぐる所見として以下4点を述べました。
(1) 初心を忘れないこと。先人の政治的知恵を学び、それを遠くまで進めるように取り
組むこと
(2) 相互信頼を増進し、政治的相互理解の土台を擁護すること
(3)Win-Winの原動力である経済の実務協力を強化すること。相互補完の優位性を活かして地域経済の統合を推進し、一帯一路における実験を進め、開放型の世界経済を推進すること
(4)中日国民同士の世々代々の友好という強い決心を固めること
このうち、蒋氏は(4)について、「歴史を認識してこそより良い未来を切り開ける」と明言。12月に中国が行った南京大虐殺80年の追悼式典については、その目的を、「憎しみの継続でなく、平和へのあこがれを呼びかけることだ」と説明しました。その上で次のように述べました。
「中国はこれからも、毛沢東が掲げた平和発展を堅持し、覇権を唱えず、拡張路線をとらない。誠意をもって歴史を直視し、悲劇の再現を避け、友好関係を継続する」と。
「民をもって官を促す」ために必要な各界の役割
講演も終盤に差し掛かり、蒋建国氏は改めて国交正常化の精神に言及。「民をもって官を促す」という考え方の重要性を強調し、そのため「メディア」「シンクタンク」「企業」「若者」の4者に中日友好の未来に向けた役割を求めました。具体的には以下の通りです。
(1) メディア:健全な世論作りをする。発展の方向を定め、重要な議題に焦点を合わせ、理性的な声を伝え、中日を互いに脅威とならないという戦略的コンセンサスを、広域な社会のコンセンサスに変える
(2) シンクタンク:中日関係を穏やかに遠くまで進めるため、見識を提供する。関係改善に向けた政策提言という有識者の使命を果たすため、中日のシンクタンク間の率直で誠意ある交流を実現する
(3) 企業:Win-Winのチャンスをともに創造する。互いの長所によって相手国の短所を補い、アジア・世界の発展に向けた互恵協力を強化する。バイオテクノロジー、製造業、新素材、シルバー産業、医用などで交流し、協力して第三国の市場を切り開く
(4) 若者:確固たる信念を継承する。思想を交え、学び合い、ともに向上し、生涯にわたる友人となり、相手国を全面的、リアルに理解して友好の精神を次世代にバトンタッチする
最後に蒋建国氏は、「中日関係は様々な風雨を乗り越え、両国民に大きな福祉をもたらした。さらに、アジアの世界と平和発展を促した」と、この45年の日中関係を総括。各界から集まった中日の聴衆に向け、国交正常化の初心を忘れずに各分野の協力を強めるよう改めて求め、講演を締めくくりました。
我々は今、中国の台頭を軸にした歴史の転換点にいる
開幕式の最後に登場したのは、フォーラムの日本側最高顧問を務める福田氏です。福田氏は笑顔で周囲を見渡し、フォーラムの開催に祝意を表した上で、「世界は大きく変わりつつある。我々は歴史の転換点にある」と切り出しました。福田氏はその最大の要素が「東アジアの経済規模の変化」であり、さらにその中心には「科学技術の発展に呼応するような中国の台頭」があると指摘。日中韓3カ国で米国に匹敵する経済規模にまで発展したこの地域において、ともに安定した政治基盤を持つ日中両国が「世界全体を視野に入れ、両国関係の最も重要な要素である経済をより強固にするチャンスを与えられている」と語りました。
続いて、日中両国の経済について、高度成長の終焉後も生活の質を維持・向上させている日本と、全体のバランスを損なうリスクを抱えるほど急速に成長している中国、という違いはあるものの、「日中は文化の源流をともにし、人の交流が多く、その上、高齢化社会という共通課題に直面している」と指摘。日中はその解決のために互いに協力し合い、必要とするものを提供し合うことが重要だ、と強調しました。
「中国の夢」実現にも不可欠な「平和」と「協力発展」
そして、10月の共産党大会で習近平主席が打ち出した「中国の夢は、平和な国際環境と安定した国際秩序がなければ実現できない」、「各国と協力して相互尊重、公平・正義、協力互恵の新型国際関係をつくる」の2つの指針への支持を表明。
その上で、本フォーラムの議論の役割を「世界が大きな転換期にあるとき、日本と中国が同じアジアの国として世界の将来をともに考える時代がやってきた。日中が、アジアと世界の平和と発展を実現するために大きな理念や構想、それらを支える原則や実現の方法などを建設的に真摯に議論する時代になった」と位置づけました。
父・福田赳夫元首相と習近平主席の共通項とは
福田氏はさらに、父である福田赳夫・元首相と習主席との意外な共通項に言及。それは「Heart to Heart(心連心)」という概念です。
日本の高度成長期にアジア社会で日本への脅威認識が広まり、日本の首相のジャカルタ訪問時に激しいデモが発生。1977年、赳夫氏がその反省から示した外交方針「福田ドクトリン」で「心と心の触れ合う信頼関係を築く」という考えが、今も東南アジア社会に浸透している、というエピソードを語りました。
それからちょうど40年、習主席の党大会演説における、国同士が補い合って平和な国際社会を作る「人類運命共同体」についての発言で「心連心」の文字を見つけ、「我が意を得たり、と思った」と振り返る福田氏でした。
最後に福田氏は、この秋に東南アジアで相次いで実現した安倍-習近平、安倍-李克強という首脳同士の対話を経て「両国政府の関係がようやく一歩前進した。これまでの遅れを取り戻すべく、さらに努力を重ねていただきたい」と発言。日中の明るい未来に向けての建設的な議論が本フォーラムで進むことに期待を示し、講演を締めくくりました。
この後、会場は日中各4人の要人によるパネルディスカッションの準備に入りました。