安全保障分科会「北東アジアの平和秩序と日中が果たすべき役割」 報告

2017年12月17日

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 「安全保障対話」の後半では、「北朝鮮問題」について議論が交わされました。

日本は何をすべきなのか

0B9A3651.jpg まず、日本側の問題提起を行った中谷氏は、日本政府の現状の対応として、制裁強化など断固たる措置を進めていることを説明しつつ、「しかし、北朝鮮は核保有を断念しないだろう。それは過去の例から見ても明らか」との見通しを示しました。したがって、原油供給削減も含めて、国際社会がさらなる圧力強化をしていく必要があるが、それと同時に日本としてやるべきことは、巡航ミサイルの配備も含めた「圧倒的な報復力」の構築、日米同盟の強化やその他関係諸国との連携強化、在韓邦人の救出態勢整備、さらにはポスト北朝鮮の混乱対策など、多面的な取り組みをしていく必要があると語りました。

 一方で中谷氏は、中国に対して、「本当に制裁をやる気があるのか。時間的な猶予が少ない中、中国はこれから何をするつもりなのか」と強い口調で中国側に迫りました。


日中協力拡大の好機と障害

0B9A3560.jpg 中国側の問題提起を行った姚雲竹氏は最初に、今後の朝鮮半島情勢においては三つのシナリオが考えられると語りました。まず、中国も目指している「対話による平和的解決」。しかし、その鍵を握る肝心のアメリカ国内で足並みが揃っていないという問題点を指摘しました。

 次に、北朝鮮の核保有を前提とした戦略の再構築も考えられるとしましたが、その場合、北朝鮮の外交的な孤立はさらに深まるであろうことが予想され、それは情勢のさらなる不確実性、不透明性を増すことにつながるのではないかとの見方を示しました。

 最後に、アメリカを中心として軍事行動に出ることを挙げ、現状、この可能性は高まってきていると懸念を示しました。

 その上で、朝鮮半島での軍事衝突のリスクに直面し、多くの懸念を共有する日中両国には共通項が多いため、この北朝鮮問題を足掛かりとして協力関係の拡大を図るべきと提案。特に、核不拡散体制の堅持や軍事衝突回避のための取り組みでは協力できることは多いし、安全保障全域における信頼醸成や危機管理メカニズムの構築にも資すると語りました。

 一方で、アメリカの方針にすべて賛成するということは、日本にとっての選択肢をなくすことと同義であり、望まない行動を強いられたり、アメリカを守るための負担も負わされることになると日本側に警告。また、日米同盟が中国を仮想敵と位置付け、中国を排除する性質のフレームワークであることを指摘。したがって、上記のような協力関係構築よりも、対立につながりやすいため、日米安保体制と中国との距離感でバランスを取ってほしいと要望しました。

 中谷氏の制裁の本気度を問う発言に対しては、制裁は国連の決議に基づいて、きちんと行っていると説明しましたが、同時に、「制裁で解決できるのか」とも疑問を呈しました。

 その後、フリーディスカッションに入りました。


北朝鮮問題は誰の問題なのか

 中谷氏の問題提起を受けて、朱成虎氏は、「北朝鮮の核問題は米朝間の問題であり、日中ができることはないのではないか」と語り、そもそもの問題設定に疑問を呈しました。

0B9A3803.jpg これに対し德地氏が、「北朝鮮の核保有はNPT体制に対する反乱だ」と指摘すると、香田氏も「米朝の問題ではあるが、同時に世界の問題でもある」とし、その背景に中東、さらには南米にも核保有を志向する国々が存在していることを説明しました。したがって、北朝鮮問題をきっかけに核不拡散体制が崩壊すれば、そうした国々にも一気に核が広まっていくリスクがあるため、ここで阻止する必要があると主張しました。


軍事衝突は回避すべきだが、軍事の準備は必要

 次に、姚雲竹氏の問題提起を受けて、德地氏は、軍事衝突を回避するように努力すべきは当然としつつ、圧力の手段として軍事の「準備」は必要なのではないか、と疑問を投げかけました。

0B9A3771.jpg 香田氏も、1994年以降の外交交渉も、そして、制裁も効果が限定的だったことを鑑み、「やはり、最後の手段として軍事手段という『痛み』は準備しておく必要がある」と主張しました。

0B9A3662.jpg 朱鋒氏も、政治的・外交的なアプローチが現状ではなかなか機能していないとした上で、「どの手段までなら許されるのか。日中はそこの『線引き』については議論をしておくべきだろう」と述べました。


関係各国間での対話も急務

0B9A3717.jpg 張沱生氏は、アメリカも北朝鮮も、本気で軍事衝突するだけの覚悟はまだ出来ていないとの見立てをしつつ、「すなわち、我々にはまだ対処するための時間が残されている。その間に、『核を放棄すればあなたの国にとってこんなに良い未来がある』という絵を作って北朝鮮に見せる。そこで国際社会が一致すべきであり、その努力を諦めてはいけない」と主張。そして、そのためにも「包括的なソリューションについて議論する五者協議などの対話の枠組みが必要」と語りました。

0B9A3617.jpg 宮本氏は、圧力は対話に向かわせるための手段であるという点では日中は一致しているはずとしつつ、食い違いがあるように見えるのは、圧力の結果、どうなると考えているのか、すなわち出口戦略が互いに示されていないからだと指摘。そうしたギャップを埋めるためにも、関係各国はすぐにでも対話を始めるべきだと主張しました。

 会場からの質疑応答を経て、最後に宮本氏は、北朝鮮の核問題については、悲観的な見方も多いが、地域の戦略的環境を激変させてしまう北朝鮮の核保有は、日中が協力して断固阻止しなければならないとした上で、「協力を可能とする政府間関係の改善も進んでいる。また、今日の両国の有識者たちの議論はその大きなヒントとなった」と今回の対話を総括しました。

0B9A3620.jpg 陳小工氏も宮本氏に同意しつつ、先般の日中首脳会談における習近平主席の「日中関係の発展は、双方のみならず、アジア、さらには世界にとっての利益になる」という趣旨の発言を紹介し、今後ともこの対話で協力発展のための手がかりを得ていくことへの強い意欲を示し、3時間半にわたる安全保障分科会を締めくくりました。


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