「東京―北京フォーラム」日本側指導委員会座談会:より課題解決型の思考になってきた中国。日本側も知恵を高めていく努力が不可欠

2017年12月18日

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【座談会出席者】
明石康(国際文化会館理事長、元国連事務次長、同フォーラム指導委員会委員長)
宮本雄二(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使、同フォーラム指導委員会副委員長)
山口廣秀(日興リサーチセンター株式会社理事長、元日銀副総裁、同フォーラム指導委員会副委員長)

【司会】
工藤泰志(言論NPO代表、同フォーラム執行委員会委員長)


k.jpg工藤:皆さん、お疲れ様でした。「第13回北京―東京フォーラム」も今日で終わり、「北京コンセンサス」を発表しました。そこで、今回の対話を振り返っていただきたいと思います。明石さん、どうでしたか。


確かな変化が感じられた今回の対話

明石:議論を聞いていると、明らかに日中関係が相互に生産的な関係に変わりつつあると思いました。互いに前向きな姿勢で具体的な問題を話し合い、行動に移そうという態度が見られたと思います。リラックスしつつも具体性のある議論が行われました。これは今までにない顕著な変化だと思います。

0B9A4520.jpg宮本:13回目を終えて「継続は力なり」という言葉をしみじみと感じました。このフォーラムは、日中の対話の場としてますます大きな意味を持ってきています。そのことが日中双方にとって、とりわけ中国側にはっきりと認識されていたことを強く感じました。言論NPOが続けてきたフォーラムが評価されたのではないでしょうか。

 内容面では、明石さんがおっしゃったように、日中関係の大きな改善が見受けられました。それは今年二度にわたる安倍首相と習近平国家主席との会談、さらにはフィリピンでの安倍首相と李克強首相の会談を経て、日中関係を前に進めるという両国首脳の意思がはっきりと示されたことが背景にあります。とりわけ、党大会を終えて中国側の姿勢も明確になっていたため、日中関係をいかにしてよりよいものにしていくか、という問題意識を背骨に、しっかりと前に進んでいく姿勢を強く感じられました。

y.jpg山口:今回、参加して感じたことは、日中双方で噛み合った議論ができたということです。もちろん、細かい部分で意見が違う場面はありましたが、両国ともそれを克服しようとする強い熱意が表れた対話だったと思います。私が今まで参加した中で、最も充実感のある良い対話でした。

工藤:習近平さんが共産党大会の中で「人類運命共同体」という言葉を使い、平和的な国際環境、安定的な国際秩序維持、マルチやグローバルガバナンスといった問題を意識した姿勢を示していました。私達の議論ではどうしてもテーマが二国間の問題にとどまってしまうことが多いのですが、今回は、二国間関係にとどまらず、もっと視野を広げようという議論の試みが見られました。最終的に習近平さんの言葉が後押しとなり、議論の展開がマルチの方向に向いていきました。それはもともと「東京―北京フォーラム」が目的としていたことで、それがようやく議論されるようになったと思います。皆さんはどう思われますか。


自信をつけ、グローバルなプレイヤーとしての視点を持ち始めた中国

明石:共産党大会を終えて、習近平さんは「新時代」という言葉でこれからのビジョンを鮮明にしました。中国は国内にとどまらず、グローバルなプレイヤーとしての自信を深めています。アメリカの現状と比較しても、中国ははるかにグローバルな視点を持つことができており、グローバルガバナンスに取り組む強い意欲を感じました。その中での日中関係をどう考えるか、ということでより具体的な議論ができるようになりました。日本側も中国の自信を感じとり、今後一緒にやっていこうという姿勢になるのではないかと感じました。

宮本:私が担当した安全保障分科会では、なかなか難しいところがありました。安全保障というものは、人類の歴史が始まる頃からある古い世界で、そう簡単には変わりません。しかし、核の不拡散のような、自国の安全だけでなく、世界全体の安全維持と密接した問題については日中共通の理解に到達しました。世界全体を視野に置いた上で、日中の問題として話し合うという姿勢を顕著に感じました。

山口:経済分科会では、中国がはっきりと経済について自信をつけたという様子を感じました。自信過剰というわけではなく、身の丈にあった意識を持てるようになってきていると思います。今回の対話で彼らの口から、「中国の経済を認めてほしい」という言葉が出てきました。「中国のマーケットを出発点と捉えて議論すれば日本にとっても利益になるのでは」、「日本の企業は中国をもっと活用してください」といったような発言もありました。

工藤:皆さんが感じているように、私も議論が新しい局面に移行してきているのではないかと思います。歴史問題など、日中の間にはまだまだ考えなければならない問題はありますが、世界の課題を共有して、解決に向けて協力し合うという議論に移りつつあるのではないでしょうか。私達日本はそれらにどのように対応していくか、ということを考えなくはなりません。明石さんはどう思われますか。

明石:中国側からは、自国がグローバルな責任を果たす大国であると意識を持ちながら、日本と一緒になってアジアや世界の課題について話し合おうとする意欲が言葉の端々から感じられました。

工藤:そうした変化の中、私達が来年から考えなくてはならない対話とはどのようなものになるのでしょうか


日本側も課題解決に向けた知恵を

明石:私達も十分な準備が必要になります。日本の役割や責任は何であるのか、を考えて、中国だけでなく、他の多くの国々との関係性を重要視すべきです。ひとつの国との関係だけでなく、グローバルな視野で能力を示せるように、日本の立ち位置を考慮する必要があります。

宮本:経済の世界でも、単に商品を売るだけでなく、物事を解決するソリューションやアプローチが重要だと言われています。今後の日中関係においてもソリューションを見出せるかが重要になります。中国は、北朝鮮のミサイル問題などに対して、日中両国でどのように解決するのか、という問題解決型の考え方になってきています。日本も同じ目線で、自ら解決策を出すという考え方への転換が求められているのではないでしょうか。したがって、日本のソフトパワーとしての外交や知恵の勝負を積み重ねて、両国で問題解決の方向を模索していく対話になるのではないかと感じています。

山口:中国側は一般論、抽象論ではなく具体的な意見を述べていました。しかし、私はそれに対する明確な答えを必ずしも持っているとは言えない状態でした。日本がリードしていた時は、「日本についてこい」と言えましたが、立場が変わって、私たちは一歩先のアイデアやイメージをどのように提示できるか考えていかなくてはならないと感じました。来年以降、日本はこれまで以上に知恵を高める努力をしないと、中国から「もうこれ以上日本と議論する価値はない」と思われてしまうのでないか、という危機感も抱きました。

工藤:私は13年前にこの対話を志した時に、「これは課題を解決するための対話だ」と思って始めました。これからは、いよいよ本気で課題に向き合い、共通の利益のために話し合う段階になります。私達が目指したこの対話も、新しい局面に入るのではないかと皆さんのお話を聞いて感じました。

来年はまさに勝負の年となりますので、皆さん是非よろしくお願いします。

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