言論NPOは、6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談を前に、この米朝首脳会談に関する見方や北朝鮮の核問題の解決の見通し、さらには朝鮮半島の今後についての緊急の共同世論調査を日本とアメリカで実施した。
日本側の調査は言論NPOが実施し、全国の18歳以上の男女を対象に今年の5月19日から6月3日にかけて訪問留置回収法で行い、有効回収標本数は1000である。
米国側は、今年の6月1日から5日にかけて米国メリーランド大学が米調査会社のパネル標本を基にインターネットにて調査を実施。得られた標本は米国国勢調査に沿う形で、年齢、性別、所得、教育、人種、学歴、地域、支持政党によってウェイトバック集計を行った。有効回収標本数は1215である。
尚、言論NPOと米国メリーランド大学は2017年12月にも共同世論調査を実施しており、いくつかの設問では昨年調査との比較も掲載した。
まず、私たちが聞いたのは、この歴史的な米朝首脳会談がどのような結果になると思うか、である。
米朝首脳会談の見通しは、進展はあるが非核化への具体的な成果にはつながらないというのが両国民の見方。ただ、米国民に日本より積極な期待が多い。
日本では、「朝鮮半島の非核化に向けて決定的な成果が期待できる」との楽観的な見方は6.2%にとどまり、「いくつかの問題について進展はあるが、非核化への成果にはつながらない」が52.2%と半数を超えるなど、進展はあるが具体的な成果にはつながらないとの見方が多い。
これに対して、米国でも、「いくつかの問題について進展はあるが、非核化への成果にはつながらない」との回答が35.9%と最多となったが、今回の米朝会談に期待する見方は、日本よりも多い。「朝鮮半島の非核化に向けて決定的な成果が期待できる」との回答は21.8%と、日本の3倍以上もある。
しかし、「会談は失敗に終わるが、それによるダメージは限定的となる」が日本で10.2%、あるいは、「会談は失敗に終わり紛争のリスクが大きく高まる」が米国で12.6%と、会談自体の失敗を予想する見方は両国民ともに2割程度で、少数派に留まっている。
核問題の解決に向けた進展は認めるものの、懐疑的な見方がまだ両国民に6割程度
先の南北首脳会談や、今回の米朝首脳会談が、北朝鮮の核問題解決に向けた道筋に、どのような影響を与えるのか、それが次の質問である。
両国民共に解決に向けた前進は認めつつも、最終的な核問題の解決にはまだ懐疑的な見方がそれぞれ多い。
日本で最も多いのは「解決に向けて動き出すが、しかし最終的な解決は将来的な課題になる」の36.8%である。さらに、「いくつかの前進はあるが、核問題は未解決のまま」(28.1%)が続いている。この傾向は、米国でも同様で、前者の「いくつかの前進はあるが、核問題は未解決のまま」との見方は30.4%と最多で、「解決に向けて動き出すが、しかし最終的な解決は将来的な課題になる」(25.7%)が続いている。
ただ、日本では、「早期解決に向けて大きく前進する」との見方は2.8%にすぎないが、米国では13.2%とその4倍以上で、米国側の期待する声が相対的に多い。
米朝首脳会談の実現は、北朝鮮がより譲歩したとの見方が米国民に多い
次に、米朝首脳会談の実現にあたり、米国と北朝鮮のどちらがより大きな譲歩を行ったのかである。日本国民は、「わからない」が34.9%で最も多い。さらに、「北朝鮮」(21.7%)、「米国」(21.1%)、「双方が同程度の譲歩を行った」(22%)というように見方が3つにきれいに分かれている。
一方、米国では、「北朝鮮」が譲歩したとの見方が34.3%で最も多い。これは、トランプ氏が一旦、首脳会談の中止をツウコックしながら、金委員長の親書を受け取った後に、当初の予定通り開くと発表。この米国での世論調査が同時期に行われたため、その影響を受けて北朝鮮の譲歩を感じる米国人が多いのは当然のことである。ただ、「米国」が22.8%、「双方が同程度の譲歩を行った」が23.6%という意見も続いている。「わからない」は18.9%だった。
トランプ氏の交渉合意の理由は、「南北の事前交渉で新しいチャンスが出てきたこと」に3割強の米国民。「北朝鮮の脅威が高まったこと」を選んだのは両国民で1割台に過ぎない
トランプ大統領が交渉入りに合意した理由については、日本では、「国際的な問題について、トランプ大統領自身が重要な功績をつくりたかったため」と考える人が33.7%となり、11月の中間選挙に向けた政治的なアピールの一環にすぎないと見ている人が最も多い。
一方、米国では「南北の事前交渉によって、非核化に向けた新しいチャンスが出てきたため」(34.3%)との見方が最も多く、「トランプ大統領自身が重要な功績をつくりたかったため」が29.7%で続いている。
「北朝鮮の核計画の加速で、米国と同盟国に対する脅威が高まったため」が、交渉を決断した理由と考えた日本国民は17.7%、米国民は10.1%しかなかった。
これに対して、北朝鮮が、朝鮮半島の非核化を含む交渉入りに合意した理由についても尋ねた。日本国民は、「国連の経済制裁や中国の圧力などが影響した」が39.1%で最も多い。さらに、「トランプ政権による北朝鮮に対する強硬な姿勢が影響した」が26%となり、この2つを合計すると米国や国際社会からの圧力が功を奏したとの見方が6割を超える。
ただ、「米国に届く射程のミサイル(ICBM)の実験成功などにより、北朝鮮は核抑止力を獲得し、交渉材料を手に入れたから」という北朝鮮側の自信が背景にあるとの見方も30.8%と3割ある。
これに対し米国民は、「トランプ政権による北朝鮮に対する強硬な姿勢が影響した」が37.5%と自国の影響力の大きさを挙げる見方が最多となり、「国連の経済制裁や中国の圧力などが影響した」が31.4%で続いている。
一方で、「米国に届く射程のミサイル(ICBM)の実験成功などにより、北朝鮮は核抑止力を獲得し、交渉材料を手に入れたから」との見方も28.5%存在している。
米朝首脳会談の実現で、トランプ大統領の評価が上がったと考える米国人は、日本人の3倍近くいる。
米朝首脳会談の合意を受けて、トランプ大統領に対する評価は、日本人でそう変わらず、米国人で大きく改善している。
日本では、「特に変化はない」が68.9%で突出しており、「評価が上がった」は13.3%と1割程度に過ぎない。米国でも「特に変化はない」との評価が46.7%と最多となったものの、「評価が上がった」との回答が34%と日本の3倍近く存在しており、米国民は、今回の米朝首脳会談の合意で、トランプ大統領の役割を一定程度評価している。
米国の軍事行動の可能性に関する懸念は依然、両国民に多い。ただ、米国民には「可能性が低くなった」との見方も3割近くある。
次の質問は、米国の北朝鮮に対する軍事行動の可能性はどう変化したのか、である。
調査では、日米両国で「可能性は変わらない」が最多となり(日本47.5%、米国38.2%)、両国民は、依然として軍事行動の勃発を懸念している。
しかし、米国では軍事行動の「可能性は低くなった」という声が26.8%ある反面、「可能性は高まった」も23.9%あり、まだ見方が分かれている。日本国民では「可能性は低くなった」が16%あるが、「可能性は高まった」は8%にすぎない。
北朝鮮の核問題解決の見通しは、日本国民では「解決は難しい」が昨年同様多いが、米国民には解決の期待が高まる
北朝鮮の核兵器開発問題解決の見通しについて尋ねたところ、日本では「解決は難しいと思う」との回答が65.1%と突出して高く、2017年12月に行った調査とそう変化がない。「わからない」が24.4%で続いている。
一方、米国では、「解決は難しいと思う」との見方が25.8%で最多となったが、昨年の調査より大幅に減少(6.8ポイント)している。これに対して「5年後には解決すると思う」という見方が、25.4%と、昨年の調査よりも10ポイント近く増加している。また「わからない」との回答も23.2%あるが、昨年より半減した。
今回の非核化に向けた功績では、米国民の6割が「トランプ」を推すが、日本では「わからない」が最多。「習近平」も米国民で2割超す。
中朝・南北・米朝などの一連の首脳会談を通じて、朝鮮半島が非核化に向けて動き出したことについて、誰の行動を最も評価するのかを聞いたところ、米国民では「ドナルド・トランプ」を62.9%と6割以上が挙げ、「文在寅」が49.9%で続いている。「金正恩」を推す米国人も27.4%存在している。
これに対して日本国民では、「わからない」が32.3%で最も多く、「誰も評価しない」が22.9%あり、5割以上が特定のリーダーを評価できないでいる。ただ、その中では「ドナルド・トランプ」でも25%であり、「文在寅」が17.5%、「金正恩」は15.4%に過ぎない。
米国では「習近平」との回答が22.4%存在し、日本は9.4%にとどまっていることも興味深い。
現時点では、金正恩氏の平和の意志を日本と米国の国民は「信頼できない」と回答
次に、金正恩氏に朝鮮半島の平和実現に向けた意思があると信頼できるかどうかを尋ねた。日本では、「信頼できない(「どちらかといえば」を含む、以下同様)」という回答が66.2%と6割を超えており、「信頼できる(「どちらかといえば」を含む、以下同様)」は4.1%に過ぎない。米国では、「信頼できない」との回答は72.1%と7割を超えて日本よりも多い。「信頼できる」は6.6%に過ぎない。
米朝国交正常化への支持は、両国民共に北朝鮮の完全な非核化の実現が条件
日米両国民共に、「北朝鮮が完全な非核化が実現した後であれば、賛成する」が(日本52.3%、米国60.8%)で突出しており、「完全な非核化に合意すればその実現前でも賛成する」との回答は日米ともに1割強にとどまっている(日本11.4%、米国13.0%)。
「完全な非核化を実現しても反対する」は日米両国民ともに1割に満たない(日本9.7%、米国8.6%)。
日本人の3割、米国人の4割が、朝鮮半島の非核化の展開の中で、在韓米軍のプレゼンスを下げることを期待している。
在韓米軍の今後については、両国民ともに「在韓米軍は現在と同規模で維持すべき」が最も回答が多い(日本36.3%、米国36.2%)。これに「在韓米軍は拡大すべき」(日本2.2%、米国5.2%)を合わせると4割近く(日本38.5%、米国41.4%)が、現状以上の規模を維持すべきと考えている。
しかし、「在韓米軍は縮小すべき」との見方(日本28.8%、米国31.4%)も両国で3割近く存在しており、これに「基地は閉鎖し在韓米軍は韓国から撤退すべき」(日本4.1%、米国11.3%)を合わせると、日本人の32.9%、米国人の42.7%は在韓米軍のプレゼンスを低減させるべきと考えている。
次に今後、朝鮮半島が非核化しても、米韓同盟は必要なのかを尋ねた。
両国民で最多の回答は、「同盟は現在と同程度に維持すべき」(日本43.5%、米国52.1%)であり、これに「同盟は強化すべき」(日本6.1%、米国20.4%)を合わせると、日本で約5割、米国では7割強の人が現状維持以上を求めている。
「同盟は縮小されるべき」(日本15.9%、米国9.9%)、「同盟は廃止すべき」(日本3.1%、米国1.4%)はそれぞれ2割に満たない。
北朝鮮問題は日米関係を「より強化した」が両国民で大きく減少し、日米関係に「特に影響はない」が昨年より増加した
昨年末に行った調査では、北朝鮮の核脅威が、日米関係をより強化した、との見方が両国民に多かったが、非核化の交渉が大きく動き出す中でこの見方に変化が見られた。
「日米関係をより強くした」と考える日本国民は36.4%で最も多いが、昨年の45.8%からは大きく減少している。逆に、「特に影響がない」が26.7%と昨年の19.7%から増加し、「日米関係を逆に弱くした」という見方が昨年の3.8%から7.6%へと倍増している。
米国民も、昨年最も多かった「日米関係をより強くした」との回答が30.1%で、昨年の41.2%から11ポイントも減少した。この結果「わからない」との回答が32.7%と最も多い回答となった。「特に影響がない」が19.4%で、昨年の11.4%から8ポイント増えている。
アジアにおける米国の軍事力は、この朝鮮半島の非核化の動きの中でも「今後も維持すべき」と両国民は考えている。ただ、日本の軍事拡大には米国民の6割が賛成しているが、日本では5割が反対する
朝鮮半島の変化の中で、日本国民の47.5%(昨年41.8%)と半数近くが、米国は「現状の軍事力を今後も維持すべき」と考えている。ただ、「今後減少すべき」という回答が昨年の13.2%から19.7%へ増加している。
米国民も52.4%と半数を超える人が「現状の軍事力を今後も維持すべき」と考えており、昨年の48.5%から増加している。ただ、「今まで以上にアジアでの軍事力を強化すべき」との回答は16.2%と昨年調査から12ポイントも減少している。
ただ、米国でも「今後減少すべき」が、昨年の8.8%から18.9%へ10ポイント増えている点については留意する必要がある。
これに対して、北東アジアの安定に日本がより大きな役割を果たすため、日本が軍事力をより拡大することの是非を尋ねた。日本では、「反対」が50.9%と半数を超え、「賛成」の17.7%を大きく上回っている。
これに対し、米国では、「賛成」が58.3%と6割近くに達し、「反対」の10.7%を大きく上回り、日米両国で対照的な結果となった。
以下は、米国の動向に焦点を当てた設問である。米国が、「中国」、「ロシア」、「北朝鮮」、「シリア」、「イラン」の5カ国と軍事衝突をする可能性について、両国民がこのタイミングで予測した。
その結果、日本国民で「起こると思う(「どちらかといえば」を含む、以下同様)」との回答が最も多かったのは、「北朝鮮」の44.4%、次いで、「シリア」の42.9%、「イラン」の39%となっている。米国と「中国」、「ロシア」との軍事衝突を予想する見方はそれぞれ約2割程度である。
米国民で「起こると思う」との回答が最も多かったのは、「イラン」の59.9%で、「シリア」57.3%、「北朝鮮」(53.1%)が続き、この3カ国ではいずれも軍事衝突が「起こると思う」との回答が半数を超えている。
「中国」との軍事衝突が「起こると思う」と回答した米国国民は21.1%と2割にとどまった。
最後の質問は、自国の将来を考えるにあたり、世界の中で最も関係が重要だと思う国は、どこか、それを日本と米国の両国民に答えてもらった。
その結果、日本では、「米国」が78.5%で突出して多く、これに「中国」が48.9%で続いている。その他の国々を選択した回答は1割前後である。
一方、米国では、47.0%と半数近くの人が「イギリス」と回答し、「カナダ」(29.9%)、「イスラエル」(23.9%)が2割を超え、「中国」(19.0%)、「ドイツ」(17.2%)が続いている。「日本」との回答は13.9%にとどまり、中国よりも下回っている。