第6回日韓共同世論調査の結果をどう読み解くか

2018年6月18日

2018年6月16日(土)
出演者:
奥薗秀樹(静岡県立大学国際関係学研究科准教授)
澤田克己(毎日新聞外信部長)
西野純也(慶應義塾大学法学部政治学科教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 言論NPOは6月22日の「第6回日韓未来対話」を前に、5月に実施した「第6回日韓共同世論調査」の結果を公表しました。南北、米朝の対話が進む中、北朝鮮の非核化の成否と朝鮮半島の将来、さらにはその中で日韓関係が持つ意味を、両国の国民はどう考えているのか。調査結果からは、様々な興味深い傾向が明らかになりました。この結果をどう読み解けばいいのか、3人の専門家を招いて議論しました。


前半:日本と韓米で大きな差が出た北朝鮮非核化への期待度
    -各国世論の底流には何があるのか

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kudo.png工藤 :言論NPOの工藤です。さて、今日の言論スタジオでは、私たちにとって6回目の日韓共同世論調査の結果をどう読めばいいのか、ということで、専門家の方々に来ていただきました。私たちは、これをソウルで発表することになっているのですが、今回の世論調査は、ちょうど韓国と北朝鮮の南北首脳会談(4月27日)の後に行われた調査ですから、今の北朝鮮の核問題、朝鮮半島の今後に関しても、韓国の国民、日本の国民がどう考えているのかを知る大きな手掛かりになると判断しています。
 では、早速ゲストを紹介させていただきます。まず、私の隣が、慶應義塾大学法学部政治学科教授の西野純也さんです。続いて、毎日新聞外信部長の澤田克己さんです。最後に、静岡県立大学国際関係学研究科准教授の奥薗秀樹さんです。

 私たちがこの世論調査を行っている目的は、日本と韓国の国民の相互理解を進めることです。お互いに国民感情がなかなか改善できないという状況をどのように改善すればいいのか、ということを、経年変化を見ながら、その手掛かりを得たいということでやってきました。ただ、今回に関しては、北朝鮮の核問題がかなり大きな動きを見せています。ということで、北朝鮮に関する設問のところから皆さんのご意見を伺って、その次に、日韓の国民の相互理解の状況という問題について、きちんと分析してみたいと思っております。

 初めに、今回、南北首脳会談、米朝首脳会談が行われたわけですが、この世論調査自体は米朝首脳会談の前に行われています。つまり、南北首脳会談の後に行われました。ただ、その時点では、米朝首脳会談が行われることはもう分かっていましたので、たぶん、韓国の国民はそれを意識してこの調査に答えたのだと思います。

 ただ、それにしても、日本と韓国の間の国民意識の差が、かなり大きく出てきています。つまり、韓国の国民は、去年と比べても大きく変わっているのですが、「北朝鮮の核問題が今後解決に向かうのではないか」という意識を持つ人が6割くらいいます。去年はそのような人はあまりおらず、「解決は難しい」と答えた人が約7割を占めていましたので、かなり大きく変わっています。それだけではなく、朝鮮半島の今後についても、統一を含めた形の大きな変化を期待する人たちが、韓国の中で増えているわけです。

 しかし、日本は、そこから取り残されているような状況で、依然、去年と同じような認識のままです。「北朝鮮の核問題は解決しないのではないか」とか、「10年後の朝鮮半島の状況は今のままと同じだ」という人が多数を占めています。ただ、「分からない」という人も出てきています。何かの変化を感じながらも、どうなるか分からないということです。このような意識の構造が見えてきたのですが、まず、このような状況の変化をどのように受け止めればいいのか、というところからお聞きしたいのですが、西野さんからどうでしょうか。


緊張緩和に期待を持つ韓国人と、北朝鮮を依然厳しい目で見る日本人

nishi.png西野 :やはり、今年に入ってから、朝鮮半島の軍事的な緊張がとりわけ緩和してきている、その中で南北首脳会談が行われた、ということで、韓国の方々は、この軍事的な緊張緩和について基本的に歓迎していて、かつ、この動きが今後も続くのではないかという期待を込めて、このような数字になっているのではないかと思います。

 他方で、日本は依然として、今後どうなるのか分からない、とりわけ、南北首脳会談が終わり、米朝首脳会談も終わった今の状況を見ても、「朝鮮半島の完全な非核化」という極めて包括的な部分での合意しかなされていないわけで、今後、果たして本当に非核化が進むのか、朝鮮半島、北朝鮮問題が我々の望んでいる方向に進むのか、ということについては、やはり依然として非常に厳しい、あるいは懐疑的な目で見ている。それが今回の調査結果によく表れたのではないかと思います。

 私が個人的に興味深いと思ったのは、10年後の朝鮮半島の姿について、日本で「分からない」という回答が34.3%に達していることです。当事者ではないということもあり、「今後どうなるのか本当に分からない」という回答が極めて印象的でした。それからもう一つ、韓国側で、将来の朝鮮半島の姿について「国家として完全に統一される」という答えが33.7%と出ているのですが、これを多いと見るのか、あるいは少ないと見るのか、ここはちょっと検討が必要な部分かなと思いました。昔、この調査をやっていたら、たぶんもっと多い数字が出ていたけれども、私の基本的な認識では、今、統一を望んでいる韓国の方はそれほど多くはないのではないかと思います。ですから、この約30%という数字をどのようにとらえるのか、というのは、興味深いところだと思いました。

sawa.png澤田 :私も基本的には西野先生の意見と同じです。私が新聞に所属しているから言うわけではないですが、この間のメディアの報道の仕方も、ある程度は影響を与えているのかなという気がします。また、この調査は、日本でも韓国でも、南北首脳会談と米朝首脳会談の間に行われました。そのような状況になってくると、韓国の方は、今年に入ってからの対話の流れがどんどん進んでいる。先ほど西野先生がおっしゃったように、皆、基本的に、軍事的緊張が緩和されることは歓迎しますから、そういう中で、政権もそうですし、すごく楽観的な情報がどんどん流れています。

 逆に、日本はそこまで楽観的ではなかったのかなと。やはり、北朝鮮に対する猜疑心、疑いを持つ気持ちは、どうしても日本の方が強く出てきてしまうという点があるので、そうすると、報道ベースでも、米朝首脳会談で進展があるかもしれないけれども、簡単に「進展がある」と決めつけるわけにもいかない、という留保をつけていたのですね。ですので、そこのところも若干影響が出ているのかなという気はします。今回の調査にもあるように、テレビなどの自国のニュースメディアを日韓関係についての情報源にしている人が多い、ということであると、そういうことがあるのかなという気がしました。


朝鮮半島の将来に対する、韓国人の現実的な見方

澤田 :あと、将来の朝鮮半島の姿については設問が二つあって、「10年後の朝鮮半島がどうなっていると思うか」という問いと、「将来の朝鮮半島において、韓国と北朝鮮がどのような姿になることを望むか」という問いです。「10年後の朝鮮半島」について、「南北統一に向けた動きが始まる」は1割強で、日本と同じくらいです。「韓国と北朝鮮は関係を改善する」が約6割で圧倒的に多くなっています。一方、「将来の朝鮮半島」について、「国家として完全に統一される」ことを望む人が3割います。ということは、この「将来」というのは、韓国人の感覚としては、おそらくかなり先、もしかしたら自分の世代ではないかもしれない、けれども統一はされていた方がいい、という人が3割いるということではないかと、私は思いました。

oku.png奥薗 :日本の場合、やはり北朝鮮に対する不信感が非常に根強くて、疑心暗鬼の状態から全く抜け出せていないのだろうと思います。韓国の場合、お二方がおっしゃったことに私も賛同するのですが、「今回の北朝鮮の動きはこれまでまでとは違う」という本気度を、韓国人は感じているということがあるでしょう。今年の正月以降の急激な動きは、文在寅大統領が主導し、それに北朝鮮が応じた、という見方と、逆に北朝鮮がうまく文在寅さんを利用したのだ、という見方の両方があるでしょうが、いずれにしても、「民族で今の朝鮮半島の動きを主導している」という自負のようなものが、おそらく韓国の人々にはあるのだろうと。もしかすると、過去の歴史を振り返っても、これだけ「朝鮮半島を自分たちが主導している」という感覚を彼らが持ち得るというのは、それほどないことなのかもしれないのです。その意味で、今の動きに対して希望を見出したいという意識が表れているような側面もあるのかな、という気がします。

 あと、将来の朝鮮半島について面白いと思ったのですが、南北が「国家として完全に統一される」ことを望む韓国人が33.7%というのは、私は逆に「ちょっと少ない」と思ったくらいです。さらに、「南北をそれぞれ独立の州とする連邦政府」と「南北が別国家として存在する、EUのような連合制」の選択肢を見ると、連合制、これは韓国が言っているような中身になりますが、この連合制の方がより支持が高く20%強で、連邦制となると10%台に落ちる。かなり現実的な見方をしているという気がします。


北朝鮮問題のどこに焦点を当てて見るのか、日本と韓米の世論が乖離している

工藤 :皆さんから、かなり良い視点で、いろいろな角度から分析していただいたのですが、この問題はかなり重要なところなので、再度聞かせてもらいたいと思います。

 実は、私たちが6月8日に公表した日米共同世論調査では、アメリカの国民にも同じ設問で朝鮮半島情勢について聞いています。その結果、日米韓3ヵ国の国民の多くは共通して、金正恩朝鮮労働党委員長の平和実現に向けた意思を疑っています。にもかかわらず、アメリカですら、「北朝鮮の核問題が10年以内に解決する」という見方が、5割近くに上っているのです。それから、「朝鮮半島が非核化に向けて動き出す」という期待も、韓国の方が多いのですが、アメリカ国民も同じような状況です。

 しかし、日本だけは違うのです。奥薗さんがおっしゃったように、確かに、北朝鮮に対して、我々は非常にネガティブな意識がある。あと、澤田さんがおっしゃったようなメディアの報道の問題があるかもしれないけれど、本当はなぜそうなっているのか。日本人が冷静に考えることが正しいのか、それとも日本人は国際的な変化に乗り遅れているのか。後者であるとすれば、我々はもう少しきちんと考えないといけない段階に来ていると思います。このあたりは、皆さんの見解をお聞きしておきたいのですが、西野さん、どうでしょうか。

西野 :それぞれの国の立場、あるいは自分の属している国から見える北朝鮮問題というのは、かなり違うと思います。韓国の人たちにとっては、南北関係というのは自分たち、当事者の問題であるので、その当事者の問題が今、緊張の緩和に向かっている、そして、将来的な朝鮮半島の平和と安定、繁栄につながる動きが始まった、という点で、非常に高く評価している。しかも、それが、自分たちの手で選んだ文在寅大統領によってなされているのだ、というところが、非常に期待が高まっている要因なのだと思います。

 アメリカから見ても、北朝鮮との敵対関係がこれで清算に向けたスタートを切ったのではないか、という意味では、基本的にアメリカの方々もかなり賛成しているのではないかと思います。というのも、北朝鮮問題は非常に遠く離れた国の問題です。もちろん、昨年、トランプ大統領と金正恩委員長の間での激しいやり取り、軍事的な緊張の激化に関心は集まりましたが、それが今、まさに緩和されてきている。これは当然、歓迎なのではないか、というくらいの感覚で、アメリカの方々はとらえているのかなと思います。

 他方で、日本から見ると、どうしても北朝鮮の問題は、今の時点で見ればまずは非核化の問題、それから拉致の問題、この二つの観点にとりわけ焦点を当ててみています。となると、非核化についてはまだ具体的な合意ができていない。拉致問題については、進展するかしないか全く分からない、という状況です。したがって、「朝鮮半島の平和と安定、あるいは南北関係、新しい米朝関係」という枠組みで見るのか、あるいは「非核化、拉致問題」というところにフォーカスを当てて見るのか。米韓と日本の国民の間で、観点が全く異なっています。それが、現状をどのように評価するのかという認識の違いになって表れていると思います。


メディア報道に表れる、各国と北朝鮮との距離感

工藤 :今の話が一つの答えを示してくれているのですが、澤田さんにもお聞きします。メディア報道については、何が問題なのでしょうか。この前、安倍首相が米朝会談の前にアメリカに行きました。あのときの記者会見を見ていても、安倍さんは日朝の会談の話をしていたのですが、いろいろなメディアの報道は、「トランプさんは拉致問題を提起することを明言してくれた」という話が非常に多かったのです。確かに、拉致問題は日本にとって非常に大きな課題で、何とかしなければいけないのですが、しかし、世界では核という問題が動いているわけです。そのときに、我々はこの問題をどのようにとらえればいいか。そのあたりの報道が、日本の国民が朝鮮半島で起こっていることにキャッチアップできない状況を招いているのではないか。また、それを政府が誘導しているのかもしれませんが、どういうことなのでしょうか。

澤田 :どの問題でもそうなのですが、メディアの報道というのは、その国、その社会の関心と全く乖離することはないのですね。それは当然のことなのですが、自分たちの一番関心のあるもの、一番関心を持たれているものを書くということになり、それはどの国でも同じです。安倍さんがアメリカに行って日米首脳会談をやったときの話でいうと、「日朝首脳会談をやる」というのはかなり転換点ではあったので、そこにけっこう着目している報道もあったかとは思います。

 先ほど西野先生がおっしゃったような北朝鮮との距離感というのが、それぞれの国のメディアで出てきてしまうのは当然なのだと思います。アメリカにとっては遠い話なので、冷静に見ることができる。韓国の人にとっては、北朝鮮に親戚がいる人もいますし、一応同族だと思うと、感覚がすごく複雑なのですね。単純に敵でもないし、困っている、しかも子どもが飢餓に陥っている姿を見せられたら、同族だから特に「かわいそうだな」と思ってしまう。日本にとっては、拉致問題と核問題はすごくセンシティブな問題です。拉致は当然そうですし、核についても、日本人は核兵器というものに対する感覚が特殊なのですよね。韓国だけでなく、アメリカ人、フランス人などどの国の人と比べても、日本人の感覚はかなり特殊でセンシティブなのです。センシティブなものが二つ重なってしまっているということで、日本人、あるいは日本社会の北朝鮮に対する視線がなかなか解けない、ということなのではないかと思います。


日本人は朝鮮半島の歴史的な変化を見誤っているのか

工藤 :日本の冷めた見方と、アメリカや韓国の見方とのどちらが正しいかは、よく分からないのです。ただ、ここまで意識が正反対だという問題に関して、私たちはこの世論調査の数字から何を学ばないといけないのか、ということが非常に気になっています。確かに、これからの展開に関しては、日本の将来にとっても冷静に考えないといけない。しかし、ひょっとしたら、我々が大きな流れを見誤っているのではないか、という危険性も少し感じているのですが、そのあたりはどうでしょうか。

奥薗 :日本にとって、北朝鮮の問題を考えるときに、もちろん非核化は何よりも重要な問題ですし、拉致の問題ももちろん安易に考えることはできません。やはり、拉致問題は外交案件としてはかなり特殊で、家族の問題とか、人々が簡単に共有できてしまう性質の問題です。だから、一般国民の関心は、非核化などよりもそちらの方にサッと集まってしまう性格がある。

 一方、核の問題を考えたとき、澤田さんがおっしゃったような日本人の核に対する特殊な感覚がある、というのが一つ。もう一つ、北朝鮮が持っている核というのは、地域の覇権を狙ったものではなく、自分自身を守るための核なので、そうである以上、それを北朝鮮に「捨てろ」というのは、「丸腰になれ」と言っているのに等しい、したがって彼らがそれを捨てるはずがない、といったような考え方に、日本はいまだに凝り固まってしまっているようなところがあります。若干、決めつけに近いような側面がある。

 ただ、韓国とかアメリカの考え方は、もちろんそういう性格のものではあるのだけれど、だからといって「北朝鮮が核を手放すはずがない」と決めつけるのではなく、「核なくしてでも自分の安全が保てる」あるいは「核を捨てることによって得られるメリットとデメリット、核を持ち続けることによって得られるメリットとデメリットを考えたときに、北朝鮮がディール(取引)の材料として核とミサイルを使う可能性が十分にある」と思っている。それに対して、日本は「捨てるはずがない」という考え方に、若干凝り固まってしまっているのかな、という懸念は、個人的にはあります。

澤田 :日本人は、一生懸命作ったものに対する執着心が強いので、「皆がそういうはずだ」と思っているところはあると思います。「これだけ苦労して核を作ったのだから、捨てるなんて絶対に嫌だよね」という感覚が日本人は強いのですが、他の国の人はそうでもない、というところはあると思います。

工藤 :今回の問題は、私たちは外交の具体的なプロセスが分からないわけです。本当はどういう話がされたか、私たちもいろいろな専門家にヒアリングをしているのですが、やはり分からないことが多い。すると、多くの国民は、正確な情報は全く分からない、メディア報道で情報を得るしかない、という限界があるわけです。しかし、実際の動きが起こるという状況であれば、国民レベルでもいろいろな問題で準備をしなければいけません。

 ということで、今回の世論調査はいろいろな面白い結果が出ていると思います。北朝鮮の核問題の解決、北朝鮮と韓国の関係改善、そしてかなり先かもしれませんが朝鮮半島の今後を巡る調査結果は、今、そういうことを考えるような局面に来ている、それを反映してこのような世論があるのだ、という理解でよろしいのでしょうか。

西野 :個人的には、今回の動きは極めて歴史的な動きだと思います。それは、トランプ大統領と金正恩委員長が会ったという物理的な意味における重要性だけではなく、韓国、あるいはアメリカでもそういう見方がありますが、70年間にわたるアメリカと北朝鮮の敵対関係が清算されていくための一番初めのステップが踏み出された。今後の枠組みについても、基本的には、アメリカと北朝鮮の間、さらには南北の間で合意された、今後それに向けて進んでいくのだ、という期待が、韓国、アメリカでは非常に高いのだと思います。

 それに対して、日本の観点から見れば、もちろん、朝鮮半島の軍事的緊張の緩和は望ましいと思っている方が多いと思いますが、他方で、そのプロセスにおいては、例えば在韓米軍のプレゼンスが減っていくかもしれない、米韓合同軍事演習が中断するかもしれない、北朝鮮が本当に核を捨てるのかまだ分からない、というプロセスにおける不安感が、日本では非常に強いし、日本の報道ではそこに非常に焦点を合わせて報道されているのだと思います。その具体的な表れが、非核化についての具体的なプロセスが示されていないことに対する不安感。それから、拉致問題が置き去りにされてしまう、何も示されていない、という不安感。これが日本の国内には多くて、メディアもそういったものをくみ取って報道しているのかなと思います。

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金正恩氏の非核化への意思を過小評価するのは危険

工藤 :私たちが米朝会談の翌日に日本と中国の安全保障関係者を集めて議論したとき、「非核化は難しいけれど、もし金正恩氏がそれに対して本気なのであれば、周りの国はもう少し協力し合うべきではないか」という意見がありました。一方で、「非核化などできっこないのだから、周りの国は協力しなくていい」という議論も成り立ちます。つまり、今の報道や世論の動きは、今後の日本のこの地域に対する動きに影響力を持つ可能性があるわけです。そこに関しては、澤田さんや奥薗さんはどのように整理されているのでしょうか。金正恩氏の非核化への意思は嘘なのでしょうか、それとも西野さんがおっしゃったように歴史的な一歩になったと考えればいいのでしょうか。 

sawa.png澤田 :米朝首脳会談は、トランプ大統領が事前の期待値をかなり高めたこともあって、はっきり言って肩透かしだったという感じがあったのは事実です。しかも、首脳会談で共同声明に署名した後のトランプさんの会見が、我々から見ていると「何なんだ」という驚きというか、呆れてしまうような部分がありました。そうすると、かなりネガティブな印象を受けるのですが、ただ、実際には、「立ち止まって考えてみよう」という話になると、西野先生がおっしゃったように、動きとしては確かに前向きなのです。いろいろとできていない部分があるということで、心配なことを数え上げたらキリがないのですが、「流れがどちらに向かっているか」と言われたら、ポジティブな方に向かっていると見るのが正しいのだと思います。ですから、当日も、そのような基本線は押さえつつも、「やはり懸念はある」という感じで紙面を作ろうかという話にはなりました。

 ただ、日本は社会全体がそうで、新聞やテレビなどのメディアも全てそれに影響されていくのですが、細かすぎるのです。「これができていないからダメだ」と、ネガティブになりやすい。もちろん、細かいことは大事なのですが、他の国のメディアはもっとザクッと記事を書くのです。そのように細かく見ていくと、どうしてもネガティブな部分が目立ってしまう、というのはあると思います。

奥薗 :この1月以降の急激な動きを見たときに、ちょっと冷めた目で俯瞰して見ると、南北が動いて、米朝が動いて、そして中朝も動きました。日本だけが、「では、どうなのか」というと、トランプ頼みで、全てトランプさんにすがるしかないような構図で報道されますし、それが事実という面もあります。国民は、日本だけが置き去りにされてしまうのではないか、と感じている。それは核の問題もそうですし、拉致という非常に特殊な問題もあります。その中で、焦りというものが、メディアも含めて、日本の中に漠然とできてしまっているところがあるのだろうと思います。

 ただ、北朝鮮が本当に変わる可能性、変わった可能性というものを排除してしまうと、それこそ「気が付いたら、日本の居場所がなくなってしまった」ということになりかねない。北朝鮮を巡る問題は、中長期的には、北東アジアの安全保障秩序を多国間で考えるような流れにつながっていくものです。であれば、なおさら、「気が付いたときに日本の居場所がない」ということは絶対に避けないといけない。

 そう考えると、北朝鮮について考えないといけないのは、北朝鮮はこれまでとは違って、核兵器の開発途中ではないということです。彼らは国家核武力の完成を宣言し、核搭載可能なICBM(大陸間弾道ミサイル)をほぼ手中にしつつあるような段階に来ています。つまり、彼らが「核を捨てる」といっても、その気になればいつでも再び作れる状況にある、ということを考えるべきです。そういういろいろな条件を考えると、北朝鮮が核を捨てる選択肢を真剣に考えている、つまり逆に「核なくしても自分たちの安全を確保できる」「アメリカの先制攻撃を抑止できる」という考え方が北朝鮮の中で判断として成立している可能性についても、少なくとも日本は、決めつけを排して念頭に置いておくべきではないか。そうしないと、「気が付いたら居場所がなくなっている」ということになりかねない気がしてなりません。

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