言論NPOと中国国際出版集団は10月11日、「第14回東京-北京フォーラム」(10月14~15日、東京)の開催に先立ち、都内の日本外国特派員協会で共同記者会見を開き、「第14回日中共同世論調査」の結果を発表しました。
会見には日本側から言論NPO代表の工藤泰志、慶應義塾大学総合政策学部教授の加茂具樹氏、中国側からは中国国際出版集団副総裁の高岸明氏と中国零点有数デジタル科技集団董事長の袁岳氏が出席しました。会場には、日中両国のメディア関係者およそ40人が参加するなど、国内外から高い関心が寄せられました。
この調査は2005年から日中共同で毎年、行われているもので、中国で国民の意識を継続的に調査しているものとしては、世界で唯一の調査となります。今年の調査は、9月上旬から下旬にかけて日本全国と中国の北京、上海、南京など主要10都市で実施されました。日中両国間の相互理解や安全保障問題、経済問題、朝鮮半島の非核化など東アジアの将来に向けた様々な課題などの設問に貴重な世論が寄せられ、14日からのフォーラムの基礎的資料にもなります。
今回は、14回目の調査で初めて日本に「良い」印象を持つ中国国民が4割を超え、日中関係に対する意識がこの一年で大きく改善したのが、大きな特徴です。「良い」印象は、昨年の31.5%から42.2%に上昇し、「悪い」は56.1%と昨年の66.8%から10ポイントも改善しました。この傾向が続くと、来年の調査では「良い」が「悪い」を上回る可能性があります。しかも、この改善は全面的なもので、これまで日中関係の大きな障害となった中国人の歴史認識も含めてこれまでの対立的な感情は沈静化し、日中関係の今後に楽観的な見方が強まっています。
ここ数年、顕著になっている中国人の日本の印象の改善は、両国民間の観光客などの直接交流の増加と若者層を主体とした情報源の多様化がその基本にあります。中国人の訪日観光客の増加は、今年も昨年の736万人をさらに上回る勢いを見せていますが、本調査でも訪日経験があると回答した人は、昨年の15.7%から18.6%に増えました。そして、この訪日経験者の9割は、5年以内に日本を訪問した、と回答。さらにこの訪問者の実に74.3%もが日本の印象を「良い」と感じていて、訪問経験がない人の34.9%を大きく上回っています。
こうした構造自体は昨年と同様ですが、今回は昨年と状況が異なっています。それは、世代や情報源の違いを超えて、意識の改善は国民各層で全面的に進んでいることです。日本の印象を「良い」とする20代未満は63.1%と突出していますが、30代から60代以上に至るまでの各層でも昨年から一転して、それぞれ4割前後が日本に「良い」印象と答えています。また、従来型メディアのテレビや新聞を情報源とする層にも変化が見られました。日本の印象を「良い」とする人は、テレビが38.9%(昨年25.4%)、新聞が42.2%(同20%)へと増加し、年代や情報源別を超えて日本に対する意識の改善が進んでいたのです。その背景には、日中関係の改善に向けた両国政府の動きと、中国側の既存のメディアを通じた広範な努力があります。日中間では今年、政府間や政治家の関係改善に向けた動きが加速し、中国メディアはこれらを積極的に報道しました。その結果、今回の調査でも中国人の86.6%と9割近くが、中国メディアが日中関係の改善に「貢献した」と回答しています。ちなみに、日本メディアが「貢献した」と見る日本人は30.2%しかありませんでした。
その一方で、日本人の意識は中国のようには改善せず、8割を超える日本人は依然として中国に「悪い」印象を抱いています。この傾向は2012年からずっと続いていて、今年の調査の第二の特徴として、日本人の意識が中国人の意識と対称的な傾向を示していることです。幾つかの設問から、日本人が最近の中国の行動に違和感を覚えていることも明らかになり、日本人の中国への印象が改善しない直接の要因となっているようです。中国に「良くない」印象を持つ理由としては、「中国が日本の領海や領空をたびたび侵犯している」が58.6%(昨年は56.7%)で最も多く、「中国が国際的なルールと異なる行動をする」が48%(同40.2%)で続き、いずれも昨年を上回っています。
こうした日中双方の意識変化などについて工藤は、「中国人の意識の改善といっても、例外がある。日本に軍事的な脅威感を持つ中国人は逆にこの一年で増大していて、日本が世界で最も軍事的脅威を感じる国となっている。日本人の中でも、中国の行動に脅威を感じる人がこの一年で増えており、安全保障に限って言えば、両国民間に緊張が広がっている。こうした傾向をどう考えればいいのか、それが今回の調査に求められた課題となる」と指摘しました。
さらに、今年は日中平和友好条約の締結から40周年という節目の年となります。そこで、今年の調査では、初めて同条約の評価を日中両国民に聞きました。工藤が注目したのは、その理念が「実現できていない」と考える日本人が40.4%も存在していることでした。これについて、工藤は「『実現できていない』と判断する人は、日中関係やお互いの相互理解の状況に懐疑的な人が多く、また日中の軍事的な不安が、この条約の成果に疑問を投げ掛けている」と分析。日中平和友好条約の今日的意味を考える上で、両国政府の立ち位置が重要になってくるとの見方を示しました。
(工藤の論考全文はこちら)
記者会見に同席した加茂氏は、日中両国民の間に、親近感、重要感、脅威感の三つの見方が存在することを指摘。この3つの見方がどのように推移してきたかを時系列的な観点も含めて見ていくことは、特に中国の世論を知る上で重要だと語りました。
さらに加茂氏は、相手国への感情は、自国の政治、自国にかかわる相手との経済関係、国際環境や安全保障、主権に対する国民の関心がどう変化してきたか、という要素が関係し合って形成されると指摘。だからこそ、今回の調査結果の1つ1つのデータに一喜一憂することなく、日中関係がどのような問題に直面しているのか、何を解決しなければいけないのか、ということを冷静に見て行くための材料として、冷静に調査結果を分析することの必要性を強調しました。
記者会見の最後には、日本のメディアから「日本人の中国への印象が好転するには何が必要か」と質問がありました。これに対し工藤は、「中国に旅行に行くこと。中国人と直接的交渉が少なければ、相手をメディアで間接的に知るしかない。まずは自分の目で確かめることだ。そして、お互いが知り合うだけでなく、協力しあう関係で問題解決を実現すれば、お互い、より知り合うことができる」と答えました。中国の高岸明・副総裁は、「交流が足りないのは、両国にとってマイナスだ。中国の発展は急速だが、日本のメディアにはよりバランス良く、偏見もなく報道してほしい」と注文をつけました。
今回の調査結果を踏まえながら、言論NPOは10月14日・15日の2日間にわたって14回目の「東京-北京フォーラム」を開催します。ぜひご注目下さい。
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