「第14回 東京-北京フォーラム」は10月14日、都内のザ・プリンスパークタワー東京で開幕。日中平和友好条約の締結から40周年となる節目の年に、「アジアと世界の平和と協力発展に問われる日中の役割----日中平和友好条約の今日的な意味を考える―」を全体テーマとする議論がスタートしました。
初日の全体会議ではまず、司会を務めた本フォーラムの実行委員長である工藤泰志(言論NPO代表)が開会の挨拶。工藤は、既存の国際秩序が動揺し、さらに北朝鮮情勢が大きく展開していることを踏まえながら、「日中両国は歴史的な局面に直面している」と指摘しました。そうした中で、来週には安倍首相の中国への公式訪問が行われますが、その直前に行われるこのフォーラムを、政府間関係の先駆けとなるものであると位置づけるとともに、「会場に集った両国の知性が、未来に向けて責任を果たすような対話にしていく」と決意表明しました。
日中両国は全人類的視点から、アジアや世界の問題についても共通の意識を持ち、関与していくべき
この後、本フォーラムの実行委員長を務める明石康氏(国際文化会館理事長、元国連事務次長)が、日本側主催者を代表して挨拶に登壇しました。
明石氏は冒頭、1972年の日中国交正常化以降の日中関係改善に向けた先人たちの努力の足跡をたどることは極めて有益とした上で、その中でも「恒久的な平和友好関係を発展」や「反覇権」など、今日でも妥当する原則を盛り込んだ日中平和友好条約を振り返ることの意義は大きいと指摘。当時の両国の首脳同士による交渉過程のエピソードを交えながら、同条約の持つ重みを再確認しました。
もっとも明石氏は、同条約締結から40年を経た現在、日中関係はトップ同士による「国と国との戦略的和解」から、いまや「両国国民の相互理解に基づく真の和解に進む時期にきている」と語ります。そのためには、相互訪問など直接交流を拡大することや、福祉や医療、高齢化、地球温暖化など日中両国の前に広がる新しい課題に、共に取り組むことを通じて新たな日中関係を構築していくべきと主張。今回のフォーラムでも、政治・外交、経済、安全保障、メディアだけでなく、地球規模で進展する脱炭素とデジタル経済など、新しい領域での日中協力を議論テーマとして採用したと語りました。
最後に明石氏は、自身も国連在籍時に深く関わった25年前のカンボジアにおける国連平和維持活動への中国の初参加を振り返りつつ、「中国はいまや、アフリカなどで他の常任理事国に先んじてグローバルな協力に従事している。これは日本にとって良い刺激となり、模範を示している」と高く評価。そして、「反グローバルリズムの偏向したナショナリズムや民族主義が各地で強まっているが、両国は力を合わせて全人類的視点から、アジアやその他地域、全世界の問題についても共通の意識を持ち、関与する必要がある」と語り、今回のフォーラムでは、両国の知識人がそうした新たな日中協力を後押しするような議論を展開することに期待を寄せました。
人々と時代の声に応え、協力の種を蒔き、共に果実を得るための議論を
中国側主催者挨拶に登壇した方正輝氏(中国国際出版集団副総裁)も、明石氏と同様に日中平和友好条約に携わった先人たちの努力に思いを馳せつつ、習近平国家主席が打ち出した「運命共同体」や「新型国際関係」などの中国外交の新たな理念に言及。その上で、2000年以上にわたる長い交流の歴史を持つ日本と中国であれば、そうした新たな二国間関係をつくり上げることは可能であり、またその成功例を示すことで「世界の手本となるべきだ」と説きました。
さらに方正輝氏は、11日に公表されたばかりの「第14回日中共同世論調査」の結果にも触れ、両国民が日中関係の重要性を強く認識し、自由貿易を支持し、民間交流に期待を寄せていることが浮き彫りとなった結果を「これは人々の善意の表れであり、時代の声である」と評しました。そうした人々の声に応え、政府間関係を新たな次元に引き上げるためにも、今回のフォーラムでは「協力の種を蒔き、共に果実を得るための議論をしてほしい」と日中のパネリストに呼びかけました。
関係改善と協力拡大には両国民の支持が不可欠
日本側の政府挨拶に登壇した西村康稔氏(内閣官房副長官)は、日中平和友好条約の「恒久的な平和友好関係を発展」、「紛争の平和的な解決」、「反覇権」などといった各項目は、日中関係における原点であるとともに、「40年を経た現代においても欠くことのできない重要な原則」であると指摘。今回のフォーラムが日中平和友好条約の今日的な意味を考え、日中両国が新しい協力関係の構築に向けた第一歩を踏み出そうとしているのは、今まさに時宜を得たテーマであると評価しました。同時に、意見の相違があっても、対話を続けることこそが理性的な対応を生み出すことにつながる、と話します。だからこそ、両国間に困難な問題があっても14年間継続してきた本フォーラムに期待を寄せるとともに、両国のパネリストに率直に意見を交わすことを要望しました。
加えて、「第14回日中共同世論調査」で、日中両国民の4割が日中平和友好条約の理念は実現できていない、と考えていることについては、条約締結に奔走した当時の福田赳夫首相や鄧小平国家副主席ら先人達の「両国が隣人として共存・共栄していく」という強い決意を受け継ぎ、条約の理念実現に向けて努力していかなければならないと主張。同時に、日中間には同条約以外にも様々な政治文書や合意(2008年東シナ海ガス田合意など)があり、そうしたものの意義も忘れてはならないと付け加えました。
さらに西村氏は、関係改善と協力拡大にあたっては、政府だけでなく両国民の支持も不可欠と指摘。その意味で、共同世論調査で中国人の対日印象が大幅に改善したことが明らかになったことに率直に喜びを表すとともに、印象改善の背景にある直接交流の増加を、日本政府としても後押ししていく意欲を滲ませました。併せて、これまでの長い交流の歴史を振り返りつつ、「両国の"一衣帯水"の関係と悠久の友好の歴史を次世代に伝えていくことは、今を生きる我々の使命だ」と強調することも忘れませんでした。
日中経済関係の今後については、すでに強固な関係を築いているものの、新たなイノベーションや知的財産問題への対応、さらには第三国でのインフラ協力など議論と協力の余地はまだまだ大きいことを指摘。「両国民が恩恵を感じられるような協力を、政府としても進めていきたい」と抱負を語りました。
西村氏は最後に、来週に控えた安倍首相の訪中について、北朝鮮の非核化や自由貿易体制の擁護など現下の課題について、習近平国家主席と率直に議論し、日中関係をより高次のものにしていくための契機としていきたいと語り、挨拶を締めくくりました。
平和友好条約の精神の下、日中だけでなく、アジアや世界の未来についても考える必要性を強調
中国側の政府挨拶に登壇した程永華氏(駐日大使)は、本フォーラムの発足に尽力した一人であり、これまでの歩みを振り返りつつ、本フォーラムが日中関係の改善と発展に果たしてきた役割を高く評価。日中平和友好条約をテーマとした今回のフォーラムにも強い期待を寄せました。
程永華氏はこれまでの40年間、全体的に同条約の理念は実現できていると評価し、「条約の精神を守り、4つの政治文書を守ることができれば、これからも日中関係は安定するだろう」と語りました。しかし、同時に反グローバル化や保護主義、一国主義の台頭など国際社会の不確実性という外的な懸念要素があることも指摘。今回のフォーラムでは長期的な視点に立脚し、日中関係のみならずアジアや世界の未来についても議論してほしいと注文を付けました。
程永華氏は最後に、これからの日中関係を考えていく際に必要となる視点を提示しました。まず、理性に基づいて相手を認識しながら政治・外交において信頼醸成をしていくこと、これまでの意見の相違から生じた紆余曲折から教訓を見出しながら、4つの政治文書の精神を実現していくこと、相互理解に資する国民間の協力と交流を促進すること、両国共通の新たな課題を設定し、それに対する協力を進めること、両国ともにグローバル化の受益者である以上、協調して多国間主義を擁護し、保護主義に立ち向かうこと、などといったものです。パネリストにも、こうした視点を念頭に置きながら議論を進めてほしいと呼びかけました。
今こそ原点に立ち返り二国間のモメゴトを解決。そして、共に世界のオオゴトを解決していくべき
日本側の特別講演に登壇した本フォーラム最高顧問の福田康夫氏(元首相)はまず、「戦後70年以上、世界の平和と発展を支えてきた国際的な仕組み、つまり国際秩序が動揺し始めた」と、現状を説明しました。
戦後の国際秩序は、領土不拡大、民族自決、通商の自由化、恒久的な安全保障機構の樹立など8項目の原則から成る1941年の「大西洋憲章」に基づいて作りあげられているとした上で、完全ではないものの世界の平和や経済的な発展を支えてきたと振り返りました。
一方で福田氏は、「これまで戦後の国際秩序を中心になって支えてきた欧米諸国に疲労感が漂い、熱意も薄れているように見受けられる。そして、戦後国際秩序がきしみ始めている」ため、「補強をし、修繕をする必要がある」と主張します。
さらに、「日本や中国、他のアジア諸国もこの国際秩序に支えられて経済を成長させ、発展を続けている。したがって、国際秩序を護持し、補強し、発展させることは、世界全体の利益であり、アジアの利益であり、日中の利益となる。日中は、国際秩序を守り発展させるために、ともに責任を果たし、懸命に努力をしなければならない時代となった」と訴えました。
福田氏は続けて、そういう今だからこそ日中平和友好条約の原点に立ち返る必要があると強調。自身の父である当時の福田赳夫首相をはじめ、当時の指導者たちは、未来に渡る平和、友好、協力の関係をつくらなければならないという強い信念があったから、条約締結に心血を注いだと回顧しつつ、「世界秩序が動揺しているから今だからこそ、日中はこの原点をしっかりと確認しておく必要がある」とし、二国間だけでなく世界的な視野に立って、条約の意義を問い直すことの必要性を指摘しました。そうすることが、「まさに世界を視野に入れた、これからの日中協力関係を強化するための土台固めになる」と語りました。さらに続けて、「日中が世界秩序というオオゴトを語り合い、協力し合うことを決意するのであれば、両国関係がギクシャクしていたのでは話にならない。二国間のモメゴトさえ解決できないのに、世界のオオゴトを解決しますと言っても世界はついてこない」と喝破しました。
福田氏は最後に、安倍首相の訪中で両首脳が、日中関係の未来に向けた大きな方向性を打ち出すことに期待を寄せると同時に、民間が果たすべき役割にも言及。「国民同士の関係をもっと近づけ、親近感を深め、信頼感を強めていく必要がある。それが日中関係の本当の基礎だからだ。大所高所の議論とともに、国民同士の関係をさらに近づけるために、このフォーラムが積極的役割を果たしてほしい」と語り、講演を締めくくりました。
民をもって官を促す
中国側の基調講演に登壇した徐麟氏(国務院新聞弁公室主任)はまず、日中平和友好条約の「平和・友好・協力」の精神は「民心が向かうところ」であり、まさに日中関係の原点であると切り出しましたが、これまで戦後の国際秩序を支えてきた欧米諸国から保護主義的、一国主義的な傾向が噴出している状況の中では、世界の平和と発展のためにも不可欠であると指摘。「この3つの精神を実現することは時代の要請でもある」としました。
そして、これまで日中関係の発展と国民間の相互理解増進に大きく貢献してきた本フォーラムの取り組みに敬意を表しつつも、同時に日中平和友好条約の意義を問い直す今回のフォーラムには「時代から与えられた使命を果たさなければならない」という重い責任が突き付けられていると語り、「民をもって官を促す」として民間が議論をリードすることを求めました。
徐麟氏は、これからの日中関係を考えていく上で必要なこととして、歴史の知恵に基づき、日中関係の正しい方向を把握すること、相互信頼と共通認識に基づき、4つの政治文書に盛り込まれた精神を実現し、政治的基盤を確固たるものにすること、実務協力を促進し、Win-Winの関係を進めること、国民感情を改善し、友好関係を促進すること、などを矢継ぎ早に提示。こうした視点を念頭に置きながら、両国のパネリストに知恵を出し合ってほしいと要望しました。
最後に徐麟氏は、安倍首相の訪中については、これによってさらに政府間関係は前進するとの見方を示しつつ、「民間交流がその前に土台をつくる必要がある」とし、改めて「民をもって官を促す」の精神を強調し、講演を締めくくりました。
その後、議論はパネルディスカッションに入りました。