政治・外交分科会の後半では、前半で議論された日中平和友好条約の価値を踏まえ、日中二国間やアジア、世界の平和と発展に向け、これから日中間でどんな協力を進めるべきか、意見が交わされました。
地域ガバナンス構築への指導力が日中両国に必要
まず日本側から、川口順子氏(武蔵野大学国際総合研究所フェロー、元外務大臣)が問題提起を行いました。川口氏は、2008年の日中共同声明で合意した協力の5本の柱、すなわち「政治的相互信頼の増進」「人的、文化的交流の促進及び国民の友好感情の増進」「互恵協力の強化」「アジア太平洋への貢献」「グローバルな課題への貢献」が今後も日中協力のベースになるとの見解を示した上で、同声明から10年を経た今、環境問題や北朝鮮の非核化、AI(人工知能)発展に伴うサイバーセキュリティ等が、具体的な協力のテーマとしてますます重要になっていると語りました。
その中でも川口氏が最も重視するのは、地域のガバナンスの問題です。アジアにはASEANを中心とした地域協力の枠組みはありますが、EUのような意思決定の場、NATOのような機能的な安全保障メカニズムにはなっていません。そうした中で川口氏は、米国、インド、ロシアなど地域の主要国全てが参加するEAS(東アジアサミット)の場を活用することを推奨するとともに、その中でのリーダーシップを日中両国に求めました。
また川口氏は、前半で出された「協力の基本原則を作るのが大事」という意見に対し、「まずルールを考えるのでなく、協力の過程で原則が生まれる。その方が物事が円滑に進む」との見解を披露しました。
中国側の問題提起者を務めた劉洪才氏(中国国際交流協会副会長、元中国共産党中央対外連絡部副部長)も、「2008年の声明をまさに今、実行に移す段階」と、第三国市場での日中協力などを例に発言。
また、日中の政治家同士の交流については、「政治家の定期交流が盛んだった80年代に比べ、2000年代以降の日中関係の冷え込みによって交流が縮小している」ことを憂慮。国が健全な発展をするように促進することや、政策に関する意見交換といった明確な目的を持てば、政府間外交の状況に影響を受けず交流を続けられる、と述べ、政治家同士の交流が国民間の誤解を解くことにつながる、と主張しました。
日本側から2人目の問題提起に立った自民党衆院議員の木原誠二氏は、国民感情の問題について、今回の世論調査結果から、中国人が持つ日本への国民感情が改善する一方、日本人の中国への感情はむしろ悪化している点を紹介。その原因として、「日本人が中国に共感を持ちえない」ことを指摘します。木原氏は、南シナ海や人権の問題などを抱える中国に日本人が共感を持つことの難しさを認めながらも、「未来に向けて日中で規範意識、価値観を共有し、共通の認識を持つ。これは政治家の課題だ」と自任していると語ります。そして、「若い政治家は交流の実績が深くないので、これから取り組んでいきたい」との決意を語りました。
一方、木原氏は前半で中心的なテーマになった「覇権」について、「中国は既存の国際秩序そのものを変えていこうとするのか、それとも既存秩序の中で自国の意思を実現しようとしているのか」と問いかけました。
「公共外交」の重要性
3氏の問題提起を受け、自由討論を開始。日中のパネリストからは、政府が相手国の国民と直接コミュニケーションを取り自国への理解を高める「公共外交」が果たす役割を指摘する声が相次ぎました。
中国側の韓方明氏(中国人民政治協商会議第13期全国委員会外事委員会副主任)は、公共外交が特に取り組むべき課題として、相手国を中傷するインターネット上の極端な民意を挙げました。具体的には、双方の政府が不適切な意見をうまく抑え、冷静で建設的な声を引き出していく努力の必要性を主張しました。
一方、高原明生氏(東京大学公共政策大学院院長)は、公共外交の別の側面として青少年交流の充実を提案。「第1次安倍政権以降、日本は中国の青少年を数千人、ホームステイに招いている。ただ、中国はそこまでの規模になっていない」と、中国側への日本人の青少年の受け入れ拡大などについての要望を語りました。曹衛洲氏(第12期全国人民代表大会常務委員会委員)は、竹下登・元首相がかつて島根の青年組織の団長だったことを誇りに思っていた、というエピソードを紹介し、「青年時代の交流は一生忘れられることはない」と具体的な効果に言及。さらに、「青年交流の中で、日中の歴史を青年にもっと教えるべきだ。日中の歴史のうち友好の時代が2000年を占め、戦争していたのは数十年にすぎない。この点を青年に知ってもらうことは将来の協力にも役立つ」との主張を展開しました。
岩手県知事を経験した増田寛也氏(野村総合研究所顧問、元総務大臣)は、地方間交流の重要性を指摘。「国政レベルで波風が立って冷めると、自治体同士の関係もそれに比例して急に冷める。自治体間で、いろいろな共通理念のもとに作り上げた友好が別の要因で消えてしまうのは避けるべき」と、現在の自治体間交流の課題を指摘しました。加えて、両国がこれから直面する高齢化、少子化の克服を協力のフィールドとして提案。その舞台の一つに、 日中のシンクタンク間の交流を挙げました。
玉木雄一郎氏(国民民主党代表)も、国民の相互理解、信頼が高まっていくという意味で、「地方都市に住む国民同士の理解が深まることは極めて大事だ」と発言。地方間交流が持つビジネス面での影響にも注目する玉木氏は、「重慶市の人口は3400万人に上るが、日本企業はあまり進出していない。日中の地方都市同士をLCC(格安航空)で結べれば、相互理解だけでなく、双方のビジネスチャンスも広がる」と、自身が中国の地方都市を訪問した最近の経験をもとに見解を述べました。
テクノロジー分野の協力は若い世代の新しい関係につながる
遠山清彦氏(衆議院議員、公明党国際委員長)と加藤鮎子氏(衆議院議員)は、テクノロジー分野における協力の可能性に注目しています。遠山氏は、「近年、中国側から『質の高い経済成長を目指す』という発言が増えた。実際、中国人の間でも日本製品の質への信頼は高い。同時に、中国が質の高い成長を実現している電子商取引やAIなどの分野は、日中とも若い技術者が活躍している」と、最先端のテクノロジー分野での日中協力が、若い世代の新しい協力関係につながることへの希望を語る遠山氏でした。
加藤氏は若手国会議員の立場から、「日中関係の未来を見据えるなら、未来の社会がどうなっていくのかを展望することが重要」と語ります。「AI、IoT、ブロックチェーンが進化すると、社会の様相、人々の考え方、政治のあり方も変わっていく。特に、偏在するデータは簡単に国境を超える中、それをどう管理するかは国際社会全体の課題だ。日中間でもそれについて話し合っていく」と述べる加藤氏。こうした分野で若い世代が持つ感覚の重要性を指摘し、テクノロジーの課題をどう解決するのか、日中の若い世代で話し合う枠組みを提案したい、と語りました。
藤田幸久氏(参議院外交防衛委員会筆頭理事、元財務副大臣)は、中国を巡って指摘される「チャイナ・リスク」の裏返しにある概念として、「チャイナ・オポチュニティ(機会)」を紹介します。具体的には「中国のAI開発には軍事転用の懸念があるが、同時にアジア経済を中国が牽引していくことで日本にも好影響が期待できる。また、中国の海洋進出も、PKO(国連平和維持活動)や海賊対策への中国の参加につながるのであれば機会になる」など、様々な例を提示。こうした考えを用いて、両国関係の論点を整理していってはどうか、と提案しました。
楊伯江氏(中国社会科学院日本研究所副所長)も、日中協力を具体的なプロジェクトに落とし込む上で、協力の深さやルールを整理する必要性に言及。5月に李克強首相が訪日した際、両国政府が結んだ10項目の協力協定を引き合いに出し、どのような協力ができるのか、できないのかをはっきりさせることが重要だと指摘。同時に、米国など多数の国が絡む協力へ発展させることは、難しのではないかと語りました。
中国は既存の国際秩序を変えようとするのか
ここで、冒頭に日本側から問われた「中国は今の国際秩序を変えようとするのか」という質問に賈慶国氏(北京大学国際関係学院院長)が答えます。その答えは、「中国は既存の秩序を変えたいとは思わない。なぜなら、今の秩序からメリットを受けているからだ。ただ、少しは変えたいと思っている」というものです。さらに、日本など先進民主主義国で懸念が出ている、「中国式」発展モデルの他国への共有については、「相手国の国情に照らしながら共有し、同じやり方を強要するわけはない。西側の発展モデルを代替するものになるかどうかは分からない」と明かしました。それ以上に賈慶国氏は、米国主導で進めてきた国際秩序に、米政権自身が挑戦していることを疑問視、国際秩序の衰退に強い懸念を表し、「既存の秩序から裨益してきた国同士である日中が、自由経済や多国間貿易で協力する余地は大きい」と話しました。
「一帯一路」と「インド太平洋戦略」は連携できるか
日本側の高原氏は、「中国が進める『一帯一路』構想と、日本の安倍政権が掲げる『自由で開かれたインド太平洋戦略』をどう折り合わせていくのか、考えることはできないか」と中国に問いかけます。
これに対し楊伯江氏は、二つの構想の間で戦略的な対話をすることに賛成している、と表明。しかし、インド太平洋戦略に関わる日本、米国、オーストラリア、インドの4ヵ国で戦略上の目的は同じなのか、という疑問も呈します。楊伯江氏は「インド太平洋が目指しているものは何かを、日本はもっと説明すべき」と注文した上で、2つの構想のポテンシャルをさらに掘り下げていくことへの意欲を示しました。
川口氏も、「2つの構想がカバーする地域に違いはあるものの、物理的なインフラの建設だけでなく、経済発展を促す取り組みである」という共通点を指摘。「それぞれが独立して進んでいくのは世界にとって不幸だ」と述べ、「両構想はつなげていかねばならない。コンセプトを共有できるところは共有していくべきだ」と主張しました。
木原氏も、両構想に「シナジーはある」との見方を提示します。ただ、一方、日中間の違いとして「援助の仕方」「相手国への債務の手法」に関する価値観の差を指摘。この点で共通認識を形成することが大事だと述べるとともに、知的財産や技術移転、国有企業改革といった中国自身の課題解決に取り組むことを求めました。
藤田氏は、中国とインドを一体の経済圏として考えることは歴史的にみても自然だと主張。「アヘン戦争以前の、世界におけるアジアのGDPの割合は50%を占め、中国だけでも29%に達していた。アジアが世界経済の10%にすぎなくなったのは欧米の植民地主義、第二次大戦を経た後の特殊な現象であり、インドと中国が世界経済の中心、というのはもともとの状態に戻っているだけだ」と解説しました。そして、アジアの潜在力を活かすためにも、日本が両構想の間の疑心暗鬼をなくす仲立ち役を務めることが必要だの期待を示しました。
日中間の相互理解、相互信頼を進めるため、政府と民間の両輪の役割が求められている
その後、会場との質疑応答を経て、日中双方の司会者が総括発言を行いました。
中国側の賈慶国氏は、様々なテーマで意見が交わされた後半を振り返り、「中日間には協力すべきイシュー、スペースがかなりある」と述べる一方、「そのためには相互理解、相互信頼が不可欠」とし、信頼を取り戻すために、政府間のコミュニケーションと民間の交流が両輪の役割を求められる、と語りました。そして、政府間関係から独立した民間対話の仕組みとして、「東京-北京フォーラム」がこれまで14年間で果たしてきた役割を評価し、「中日の多くの有識者が、このフォーラムをより良く運営することに多くの力を傾けてもらいたい」と呼びかけました。
日本側の高原氏は、「2012年の国交正常化40年時と異なり、政府間関係が改善した今年は平和友好条約40年の記念行事が日中両国で良い雰囲気のもと開催されている」と評価。
一方、高原氏は前半の議論を念頭に、「同条約の実施状況への理解を巡っては、日中間に大きなギャップがある」と指摘しました。「今日集まった日本側の政治家は、日中関係を前に進めたいと心から願っている人ばかりだが、それでも近年の中国の行動には深い懐疑を持っている。今回日本側から出された意見は、中国がアジアや世界の発展でより大きな役割を果たすために言っていることだと理解してほしい」。高原氏はこのように、中国側パネリストが帰国した後、今回の議論をどのように役立てていくか注視していきたいとの考えを示し、政治・外交分科会を締めくくりました。