「第14回 東京-北京フォーラム」特別分科会 (脱炭素社会)
特別分科会では、脱炭素に関する議論も行われました。
脱炭素における日中協力によって、平和友好条約の理念を実現していく
中国側からは高氏が、問題提起を行いました。高氏はまず、習近平思想の骨格のひとつである「五位一体」の中には「生態文明建設(エコ文明建設)」が含まれていることを説明。また、全国政治協商会議でも2008年に最重要政策課題である第1号提案として脱炭素が打ち出されているなど、脱炭素社会の構築は中国にとっても中心課題であるとしました。
そしてそうした状況の中、日中両国は脱炭素社会実現に向けて、「競争から、新しい質の高い協力の時代に入るべき」と主張。両国は現状、技術・制度の成熟度に差が見られ、「産業構造も異なるとしましたが、それ故に「補完性が強く、協力する余地は大きい」と語りました。
高氏は次に、日中間における様々な協力プロジェクトについて説明。過去にはODAの環境プロジェクトとして様々な事業が実施されていたことに加え、都市の廃棄物処理や農村における環境事業などが2010年代以降も実施されるとともに、現在進行中のものも多数あると語りました。
最後に高氏は、日中平和友好条約の理念を実現していくにあたっては、政治面ではやや抽象的な議論になりがちである一方で、環境面では実務的な協力プロジェクトを具体的に構想しやすいという利点を指摘。脱炭素分野での協力こそが同条約の理念実現の大きな原動力になると強調。また、それが世界の環境ガバナンス向上にもつながっていくと語りました。
デジタル技術の発展は、脱炭素社会の実現にも直結している
日本側から問題提起を行った佐々木氏は、デジタル技術と脱炭素の関連性について言及。デジタル技術の発展は、世界の脱炭素化において不可欠であり、デジタル技術をあらゆる分野に適用することこそが、パリ協定の2度目標を達成する上で非常に重要になると主張。また、これまでの活用は部分最適が中心であったものの、今後は既存の枠組みを超えて全体最適化を可能にするために、デジタル技術が必要になるとも述べました。
さらに富士通の取り組みについても、スマートシティソリューションを提供する中国企業と協業し、製造、品質、費用、エネルギー消費等の重要なKPIをリアルタイムで可視化するスマートでグリーンな工場を実現したことなどを紹介しました。
さらに自身が勤務する富士通の取り組みについても、スマートシティソリューションを提供する中国企業と協業し、製造、品質、費用、エネルギー消費等の重要なKPIをリアルタイムで可視化するスマートでグリーンな工場を実現したことなどを紹介しました。
最後に佐々木氏は、さらなる脱炭素社会実現に向けて提言。例えば、環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資である「ESG投資」をはじめとして、真に持続可能な社会構築に繋がるデジタル技術を提供する企業を評価できるような仕組みを構築すべきと述べました。
続いて、フリーディスカッションに入りました。
サステイナブルを意識しつつ、日中環境協力を進めるべき
木下氏は脱炭素での日中協力のあり方について提言しました。まず、日本と中国は共に製造業大国であるため二酸化炭素(CO2)排出量が多く、2017年には世界で中国が1位、日本が5位で、合計すると世界の排出量の約3割を日中で占めていると解説。そうした中で脱炭素社会を実現していくにあたっては、日中が覚悟をもって協力していくことが不可欠であると主張しました。
同時に、これから急速なエネルギー消費の増大が見込まれるアジアの新興国など第3国で、日中が協力して先進的なモデルを構築できれば、両国が「リスペクトされる」とし、地域や世界をリードしていくことにも資するとの見方を示しました。
ただ、そうした第3国での協力にあたっては、当該国の利益を考慮し、サステイナブルな成長を担保することを第一とした日中共通のルールが必要としました。
一国主義を打破し、国境を越えた協力が不可欠
高氏は、木下氏の発言に対し、「脱炭素社会は一国主義では実現できないため、国と国との協力が不可欠」と応じました。とりわけ日中協力については、これまでも省エネ、環境保護の分野に関して、日本がリードするかたちで中国と協力してきたと回顧。政府間関係の改善を追い風として、さらなる協力拡大を模索していくべきと語りました。
また、このフォーラムの直前、中国商務部の官僚に日本から学びたいと考えている分野を尋ねたところ、「水素エネルギー社会の構想」との回答があったことを紹介。その上で、中国は「表面的にグリーン経済、エコ経済を唱えているが、しかし電力構成の80%以上は火力発電、とりわけ石炭火力に頼っているという現状がある」と解説し、日本の水素エネルギー社会に向けた新たな構想とその取り組みから中国が学ぶことは大きいとしました。
高氏は次に、民間の環境意識変革の必要性についても語りました。企業については、温暖化対策は企業経営にとってはネガティブなものだと捉えられがちであると指摘。しかし、そうした発想をポジティブなものに転換し、新たなビジネスチャンスと捉えるべきだと主張しました。また、一般消費者については、環境意識が高まるように世論形成をしていく必要性を指摘。さらに、自身の豊富な海外駐在経験から例えば、洗濯物の干し方についても、外で干すか、それともCO2を排出する乾燥機を使うかによって国民意識に差があることを紹介。環境意識の変革についても国境を越えた取り組みが必要と述べました。
脱炭素イコール脱石炭ではない
木下氏は、脱炭素の議論になると、「どうしても石炭を使うべきではない、という話になりがちだ」と指摘。石炭を利用しつつ、CO2発生源からの排出量を改善する「低炭素」の視点も提示しました。その具体的な例としては、発電所や化学工場などから排出されたCO2を、他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する「CCS:Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留)」や、その分離・貯留したCO2を利用する「CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)」について言及。油田などでこうした新技術の需要が大きい中国と技術的に進んでいる日本の間では協力可能な分野であるとしました。
また、高氏が評価した水素活用に関しては、「燃料電池自動車(FCV)」の開発促進での日中協力を提言。さらに、日中は共に高炉を使った鉄鋼業が主体であるとした上で、この高炉から排出される大量のCO2を抑制するための技術である水素還元製鉄法の開発でも協力できるとしました。
これを受けて佐々木氏は、石炭という資源は世界中に豊富にある以上、地球環境に十分配慮しながら、これをできる限り活用すべきという観点から、現実的な利用方法を模索していくべきと語りました。
最新のデジタル技術を活用しつつ、小さな試みから始めるべき
一方、陳氏は現在のいかなる先進国でも、その発展段階においてはCO2を大量に排出していた時期があったことを指摘。その上で、巨大な人口を抱え、エネルギー需要も膨大な中国が一気に脱炭素に舵を切ることには大きな困難も伴うとし、中国側の事情にも理解を求めました。
これに対し岩本氏は、日本では2011年の東日本大震災、さらに今年の北海道胆振東部地震などの際、深刻な電力不足に直面したことを振り返りつつ、エネルギーの総需要そのものを抑えることも意識すべきと指摘。特に、企業レベルだけではなく一般消費者レベルでも取り組みが必要とし、例えば、電球をLED照明に変えるだけでも長期的には大きな電力消費量抑制につながると語りました。さらに、駐車場の照明管理をAIが担うことによって電力使用量を抑えてきたという米国の事例を紹介。このように最新のデジタル技術を活用しつつ、小さな試みから始めるべきだと語りました。
こうして脱炭素の現状と課題、そして日中協力のあり方について様々な意見交換がなされた後、議論は終了しました。