北東アジア地域に多国間対話の舞台をつくり出す一歩に
   ~「日米中韓4カ国対話」報告~

2019年1月16日


⇒ 「日米中韓4カ国対話」非公開会議 報告
日米中韓を代表して4人が語った「北東アジアに平和秩序をどう実現するか」
⇒ 「北東アジアの現状についての有識者調査」結果 はこちら

~「日米中韓4カ国対話」後半報告~

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 4氏の発言を受けて工藤は、北東アジアで安定した秩序を構築していくためのチャレンジが今求められているが、そうした中ではやはり米中対立の行方が気がかりとした上で、この米中対立をどうコントロールしていくべきかを問いかけました。


米中対立をどうコントロールすべきか

YKAA0640.jpg かつて米国の国務省で、東アジア・太平洋担当の国務次官補を務めたダニエル・ラッセル氏はまず、どのような北東アジアを構築していくべきなのか、原点に立ち返って考えるべきと切り出しました。そして、日米韓は民主主義という価値を共有し、加えて中国とは自由貿易も共有しているとし、そこに協力の基盤を見出せると指摘。米中両国のリーダーがこれまでとは異なる方向に進もうとしている中、こうした共通の基盤に立脚した上で、競争ではなくアクティブな協力を志向していくべきだと主張しました。

YKAA0514.jpg これに対して、中国国防大学教授の欧陽維氏は、米中関係は海上衝突回避などをめぐってポジティブなアプローチもみられることを紹介し、対立一辺倒ではないことを指摘。競争だけでなく、共存・協力など様々な面もあるとし、過度に対立を煽らず、対話によって潜在的な衝突の可能性を低減させていくべきと説きました。

 同時に、40周年を迎えた日中平和友好条約について言及し、こうした共存・共栄に向けた過去の外交努力から学ぶべき点があると語りました。

YKAA0499.jpg 元海軍少将で、パシフィック・フォーラム理事長のロバート・ギリエ氏は、米中対立の核心に、急速に進展する情報技術をめぐる対立があるとした上で、こうした新しい現象に対しては過去の解決策では対応しにくいとその困難さを指摘。打開策としては、時間はかかるが小さな協力を積み重ねながら互いの共通項を見出し、相互信頼を構築していくしかないと語りました。

ka.jpg 北京大学国際関係学院院長の賈慶国氏は、相互信頼の必要性は認めつつもその前提として冷静な事実認識が不可欠であると主張。ワシントンには中国に対する感情的な問題意識がみられるので、戦略的な共通利益は何かということをよく考えるべきだと米国側パネリストに目をやりながら語りました。

 賈慶国氏は同時に、中国は既に知的財産権や市場アクセスなどで大幅な譲歩をしているとした上で、米国側の歩み寄りもないと対立は解消できないと訴えました。

YKAA0333.jpg これを受けて米国の前駐韓大使のマーク・リパート氏は、確かにワシントンでは対中強硬論が過熱し、思考がタカ派的になっているとしつつ、伝統的にこれまでも中国に対する見方にはアップダウンがあったことを考えると、こうしたタカ派的傾向が今後何十年も続くとは限らないと解説。衝突がないところ、可能なところから協力関係を深めて、これ以上過度な競争関係に陥らないようにしていく必要があると語りました。


米中の狭間で日韓は何をすべきなのか

 米中双方のパネリストの発言を受けて、工藤は次に日韓のパネリストに対して、米中対立が深刻化する中でこの地域の平和を守るために今何をすべきなのか、日韓はどのような立ち位置をとるべきなのかを問いました。

YKAA0575.jpg 西野氏は、日本の取り組むべき課題について三点を提示。まず、地域の秩序を考える上では、「力のバランスが重要なのか、制度が重要なのか」という問題に直面するとしつつ、「力のバランスがないところに制度がつくれるのか」と問題提起。まずはある程度のバランスが必要であり、これが急激に壊れないように安定的に管理することが日本の課題になると語りました。その上で、地域協力の制度構築の試みをしていくべきと主張。CPTPP(TPP11)はその有力な足がかりになるとの見方を示しました。

 次に西野氏は、最近の深刻化している日韓関係の亀裂にも言及し、1965年の日韓基本条約など「これまで日本が積み上げてきた外交努力が今崩れかかっている」とし、こうした事態をどう食い止めるかが問われているとしました。

 最後に、歴史認識問題における和解について、日本人には"歴史疲れ"があると話し、この地域に平和秩序をつくり上げるためには避けては通れない道で、地道に和解のプロセスを積み重ねていくことへの日本の覚悟覚悟が求められると語りました。

YKAA0584.jpg これに対し、日本の防衛省で事務次官を務めた西正典氏は、過去の歴史を振り返ると、巨大な消費メカニズムとしての側面を持つ戦争は、経済面での"矛盾"を修正する機会となっていたと指摘。したがって、戦争がない現在、とりわけ米中両国は大量の資本を持て余すなど、矛盾を解消できずもがいていると説明します。かといって、それを戦争で解消することはもはや許されないため、日米中韓4カ国は国際経済システムの立て直しなど矛盾解消に取り組むことこそが北東アジアの平和秩序を実現にもつながっていくと語りました。

k1.jpg 韓国の国家安全保障会議で理事を務める亜州大学教授の金興圭氏は、米中対立はいったん収まったとしても双方に不信感は残り続けると指摘。周辺国に翻弄され続けてきた韓国の悲哀と相まって、現状では北東アジアの将来について悲観的な見方にならざるを得ないと語りました。

 その上で、こうした状況を打開するためには、アーキテクチャが必要になってくると指摘。そのための明確なアイデアはこれまで誰も提示できていなかったが、政治・経済・文化など多面的な観点から再検討すべきと述べました。

 日本と韓国がなすべきこととしては、ビジョンを共有した上での協調と協力を取り戻し、秩序の真空状態が生じないようにすることであると話します。さらに、ミドルパワーの重要性についても言及。大国間の戦略競争時代においては、その狭間にあって両者の橋渡しをし、バランスを保つことに腐心する国が必要であると語りました。

k2.jpg 文政権の外交アドバイザーを務めた延世大学教授の金基正氏も、同様の視点から日韓両国が協力して米中対立を抑えるべきと主張。それができないと新冷戦の最前線が、朝鮮半島になってしまうと警鐘を鳴らしました。冷え込む日韓関係については、国交正常化以降の50年を振り返ってみても上下の動きが多かったとし、短期的に関係悪化してもその都度過敏に反応すべきではない、と訴えました。

 こうしたミドルパワー論に対しては、ギリエ氏は情報技術の飛躍的な発展により、小国や中堅国でも影響力を発揮できる手段を持ち得るようになったと指摘し、ミドルパワーがその役割を発揮できる環境が整備されつつあると補足しました。


北朝鮮の非核に向けた協力はどうあるべきか

 続いて、議論は北朝鮮の核開発問題に移りました。

 工藤が非核化実現の見通しについて尋ねると、ラッセル氏は、金正恩氏の「非核化はオプション」という発言の真意は、「朝鮮半島から米軍の脅威がなくなった後のオプション」という意味であると読み解き、「要するに、非核化の意思はないということだ」と分析しました。

 金興圭氏は、結局核を放棄しなかったこれまでの交渉経緯に鑑み、関係各国はコンセンサスを持って圧力を継続すべきと主張。もっとも、経済制裁だけでは限界があるとも指摘。やはりカギを握るのは米中協力であり、そのためにも現下の対立解消が不可欠であるとしました。

 賈慶国氏は、これまで北朝鮮に対しては経済制裁という"ムチ"ばかりであったが、それが徐々に功を奏さなくなってきているとした上で、「中韓は核放棄の見返りとしての経済協力のビジョンを見せている。一方、日米はそうした"アメ"を示していない」と指摘。このアメのビジョンを具体的に示さない限り、安心して核放棄に取り組めないだろうと、主張しました。

 西野氏も、状況の変化に応じた飴と鞭の再構成が必要と発言。中国や韓国が経済協力再開に意欲を見せる中、金剛山観光など例外を認めるべきか否かについても再検討が必要になってくると語りました。

 同時に、非核化のゴールは何か、ということについても関係各国は認識をすり合わせる必要があると指摘。どこがゴールか明確でないから不安や疑心暗鬼を生むとし、在韓米軍の今後や、"核の傘"のあり方、国連軍司令部をどうするのか、などといった様々な問題も含めて各国で認識を共有すべきと主張しました。

 最後に西野氏は、日本も直面する課題として、金正恩氏が最近打ち出したマルチ対話の設置に言及。従来、北朝鮮は米朝、米韓会談など二国間の対話で局面の打開を狙ってきたが、それが思うように功を奏さなかったため、中国も引き入れた4者協議を設定しようとしていると解説。当然、そこに入らない日本は影響力を発揮できないことになるとしつつ、かつて同じように4者協議の構想が浮上した際には、日本が異を唱えて6者協議になったという経緯について説明。今再び4者協議が浮上している中、日本の対応が問われていると語りました。

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北東アジアの平和実現のためには何が必要か

 最後に工藤は、今回の対話の直前に実施した有識者アンケート結果を紹介。その中で、北東アジアの平和秩序実現のために必要なことを尋ねた設問では、多くの有識者が「対話」と回答していることを挙げ、今、4カ国にはどのような対話が必要なのか、と各パネリストに質問をぶつけました。

miya.jpg 宮本氏は「一刻も早く対話を始めるべき」と主張。すぐに結論が出ることはないが、「対話では『もっと対立しよう』などという発想には至らないはず。そして、別の選択肢を求めるようになる」としました。

 ラッセル氏も対話の重要性を口にします。その際の留意点として、あまり広範に手を広げ過ぎず、マネージできる分野、特定の分野での対話から始め、そこで成功を収めたらその成果を政策に反映させ、社会にインパクトを及ぼしていくというプロセスが大事だと指摘しました。

 賈慶国氏は、「何をすべきか」ではなく、「何をすべきではないか」という視点が今求められていると発言。米国からの要請でカナダ当局がファーウェイのCFOを逮捕した事件を引き合いに、「こうした感情的な過剰反応は慎むべき」と強張。改めてワシントンの対中強硬論を牽制しました。

 これに対しリパート氏は、「ワシントンでも、ほとんどの専門家は米中関係を重視しているし、実務的、実際的な対話をしようと模索している」とし、ここに米中関係再構築の希望の目があると期待を寄せました。

 ギリエ氏は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の50年の歴史を振り返り、この間の信頼醸成の取り組みは北東アジアにとっても参考にすべきと話し、「次世代のためにも今対話を始めなければならない」と訴えました。

 会場からの質疑応答を経て、最後に宮本氏が総括を行いました。

 宮本氏は、米国は相対的な力が低下しているのに対し中国の力は増大しえいるとしながらも、中国がこれまでの米国のように世界をリードすることはないと予測。GDPで米国を超えることは可能であるにしても、大きく引き離すことはできないだろうし、すぐ後ろにインドやインドネシアが迫っていることを考えると、世界は中国一強、さらには米中二強にもならないとの見方を示しました。その上で、多極化した世界の中で、その一部でしかない北東アジアの秩序をどう形成するのか。そのカギとなるのは新たな科学技術の進歩と、それに伴って求められる新たな発想であるとしました。

 さらに宮本氏が、今後も今回の4カ国対話のような議論を継続し、発想を磨いていくことが必要であると語ると、工藤も「そうした作業を続けていく」と応じ、3時間にわたる白熱した議論は閉幕しました。

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