北東アジア地域に多国間対話の舞台をつくり出す一歩に
   ~「日米中韓4カ国対話」報告~

2019年1月16日

⇒ 「日米中韓4カ国対話」非公開会議 報告
日米中韓の識者11人が白熱した議論を展開「日米中韓4ヵ国対話」で何が語られたのか
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~「日米中韓4カ国対話」前半報告~

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 言論NPOは1月16日、東京・千代田区の学士会館で、「日米中韓4カ国対話」を開催し、北東アジアの平和構築に向けて議論を開始しました。この日の公開会議にはパネリストとして11人が登壇しました。

YKAA0262.jpg 公開フォーラムでは、まず、主催者を代表して言論NPO代表の工藤泰志が挨拶に立ちました。その中で工藤は、北東アジアには平和を維持する仕組みが存在せず、日米同盟と中国が対峙している現状を説明。さらに、言論NPOが毎年行っている世論調査を引用しながら、日中関係は改善に向かっているものの、安全保障分野については日中両国民とも、お互いを脅威と見ており、中国国民の中に、日本が米国をバックに中国を攻撃するのではないか、という意見が存在していることを紹介し、安全保障に限って言えば両国民間に緊張が広がっていると分析しました。

 その上で工藤は、「こうした状況を放置していていいのか。その強い思いから北東アジアの平和を作るための作業を開始することにした」と語り、今回の日中韓米の4カ国対話はそのための準備会議だと説明しました。また、2013年の「東京-北京フォーラム」で日中両国間で「不戦の誓い」に合意し、18年には多国間の対話の枠組みを作ることで中国側と合意に至ったことを紹介。そして、「民間にできることには限界があるとの指摘がある一方で、民間が動かなければ政府間外交も始まらない。今回の対話を、北東アジア地域に多国間対話の枠組みをつくり出す一歩にしたい」と意気込みを語りました。

 最後に工藤は、各国を代表して4人のパネリストに、「米中対立が深刻化し、進展が見えない米朝交渉では、北朝鮮の核保有を実質的に容認する形にもなりかねない状況に陥っている。そして、皮肉なことに友好国同士である日韓関係には亀裂が生じている。こうした状況をどう乗り越えていけばいいのか」と質問を投げかけました。


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米中経済摩擦の対立は不可避なのか

miya.jpg 最初に発言した元駐中国大使の宮本雄二氏は、「北東アジアの安全保障環境がさらに厳しくなる状況の中で、米中関係が最も重要になる。2015年からその萌芽はあり、米中は戦略的な対立関係に入った。この対立を、どのように軟着陸させるかが、大きな課題だ」と指摘。その上で宮本氏は、中国が自国の対外的な経済政策や平和・安全保障政策の方向性について調整、修正が可能であるなら、本質的な米中対立ではなく、米中双方に大きな共通の利益があり、どこかで着陸するのではないかと分析。しかし、時期はわからず、それまでは対立の関係を続けていくことになるだろう、との見通しを示しました。

 北朝鮮の核問題については、トランプ大統領のイニシアチブで、北朝鮮の核の実態を国際秩序に突き付け、喫緊の課題であるという認識をつくり出したことについては、積極的に評価すべきだと説明。今後のポイントとして、国際協調がない限り北朝鮮の核問題は解決できず、主要国が歩調を合わせること、その中でも特に、米中関係の改善を最重要ポイントに挙げました。そして宮本氏は、日本政府に対しても、北朝鮮の核問題、米中の問題に積極的に関与し、能動的に動いて汗をかくことで、解決に向けて大きな役割を果たすことができる、と期待を寄せました。

 最後に、北東アジアに平和を築くために必要なこととして、短期的には、危機管理メカニズムを構築し、相手国は何を考えているのか、関係国同士が対話を行い相互理解が必要になってくるだろうとの見通しを示しました。中長期的には、どういう原理・原則が守られるべきかを各国が合意すべきで、既に存在する国連憲章や平和五原則、日中平和友好条約などに基づいて、原則を守るためのルールブックや組織を作っていくことが重要であり、そう遠くない将来に、そういう動きが始まるのではないか、と語りました。

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4カ国の絆 ――平和と繁栄

YKAA0333.jpg 続いてアメリカの前駐韓大使のマーク・リパート氏は、4つの柱を強化すれば、持続可能な平和秩序を北東アジアに作ることができると語ります。

 1つ目として「繁栄」を挙げ、日米中韓4カ国の絆となっているのは、共に繁栄したいという願いと、地域が発展して、商業が発展する経済的側面の重要性を主張しました。2つ目に、どのような原則に従わなければいけないのか、ということについての議論の必要性を強調。そして、自由で開放された商業、法の支配、平和的な紛争解決など、共通の原則を導き出し、その導き出された原則を4カ国でどのように実施するのか、についても合意する必要があると語ります。3つ目として、長年続いてきた日米同盟、米韓同盟を重視し、強化しながら、恒常的な平和秩序をどのように構築するのか、そのための対話が必要になると話します。YKAA0696.jpgそして最後に、俊敏性や寛容性の重要性を指摘しました。具体的には、地域で協力するアドホックな多国間の枠組みが必要で、多国間のメカニズムを通して持続可能な解決策を生み出す場を設けなければいけないこと。それと同時に、北東アジアでは人口動態に違いがあり、さらには、気候変動や自然災害も発生しており、そうした課題に素早く対応する俊敏性の必要性を強調しました。
 

領土紛争で一方的宣言によって現状を維持し、衝突を回避するという解決策

ka.jpg 一方、北京大学国際関係学院院長の賈慶国氏は、平和秩序をどう構築するか、この問題を明確にするために、平和秩序の意味を定義することが重要であり、①現状では戦争が発生していないから秩序が存在している。その秩序を維持するために戦争をどう回避するかということが中核的な問題であること、②持続可能な平和秩序をつくり出すためには、この地域の主要国間で原則、目的、目標、規範に対するコンセンサスが必要となることだ、と語ります。

 その上で、持続可能な平和を構築するためには、ホットスポットの問題にどのように対処するのか、少なくともマネージし、軍事衝突に繋がらないようにすることが重要だと指摘します。

 具体的な1つめのホットスポットとして、北朝鮮の核の問題を挙げました。よりよい対応の仕方として賈慶国氏は、アメとムチの方法を挙げました。タフな措置、制裁を使って核兵器の開発は悪いことだということを伝える一方で、関係国が集まって議論し、インセンティブのパッケージを作り、もし核を放棄すれば、よりよい将来が待っているというアメを与える。しかし、アメリカは一方的なムチのアプローチをとっており、得策ではないと賈慶国氏は主張します。

 そして、2つめのホットスポットとして領土紛争と海上権益を挙げました。当事国は衝突や対立にならないようにマネージすることが必要であること、そのためには、「我々は現状を維持します」という一方的な宣言を出すことで、管理できるのではないかと賈慶国氏は話します。具体的には、どの国も自国の領土であると主権を主張し、各国が現状を維持するためのホットラインを開設したり、危機回避のメカニズムを構築するなどの対策をすることで、衝突自体を回避することができる、との見解を紹介しました。


民主主義、自由、平等、法の支配 ――米中の価値観は変わらない

YKAA0381.jpg さらに賈慶国氏は、ホットポイントをマネージすると同時に、恒久的な平和構築のために、経済的な基盤を作ることの重要性を指摘します。中日韓FTA、RCEPを挙げると同時に、中国をTPP11へ参加させることによって、アメリカも復帰するかもしれない。そうすることで、より自由な貿易体制の強固な基盤ができ、この地域に平和がもたらされる可能性に言及します。

 平和秩序の構築に必要なことの最後として、米中関係の安定化を挙げました。賈慶国氏は、「米中はそれほど異なっている国ではない」と主張します。米中は既存の国際秩序のステークホルダーであり、今の国際秩序を維持したいと思っている。加えて、実務面では違っても、概念的なレベルでは、民主主義、自由、平等、法の支配という点では、米中の価値観は変わらないと述べ、だからこそ、米中は協力はできるはずだ、と続けます。さらに、賈慶国氏は米中の協力には大きな便益があり、二国間が自国の利害のためにできることは、他国のリソースを使いながら国際秩序を維持することであり、共通の利益を、お互い認識して、対立を回避することだ、と話すのでした。


持続的不安定性が特徴の北東アジア

k2.jpg 最後に韓国・延世大学教授の金基正氏は、「現在の日本の社会の雰囲気は韓国に対して厳しいものがあるが、今、韓半島で起きていることが、北東アジアの平和に関連しているということを共有したい」と話し始めました。金基正氏は、「平和を達成するためのカテゴリとして、①際限なく自己防衛を行うこと、②限定的自己防衛の軍備管理、③国際的な安全保障、④戦争や暴力を放棄する、武器を廃棄することに分類しつつ、唯一これしかないというアプローチではなく、それぞれ不完全なので、YKAA0422.jpgコンビネーション、組み合わせで考えるべきだ、と説明しました。

 さらに金基正氏は、戦争は無いけれども安定的な平和も築かれていない状況下で、北朝鮮の核問題や、軍備競争も相まって、北東アジアには持続的な不安定性が存在していると主張。さらに、地域の歴史の記憶、対立の歴史が色濃く現在の問題に影響を与えていると分析しました。

⇒ 「日米中韓4カ国対話」非公開会議 報告
日米中韓の識者11人が白熱した議論を展開「日米中韓4ヵ国対話」で何が語られたのか
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【アメリカ側参加者】
・マーク・リパート(前駐韓大使)
・ダニエル・ラッセル(アジアソサエティー政策研究所バイスプレジデント、前東アジア・太平洋担当国国務次官補)
・ロバート・ギリエ(パシフィック・フォーラム理事長、海軍少将(退役))
【中国側参加者】
・賈慶国(北京大学国際関係学院院長、全国政治協商会議常務委員)
・欧陽維(国防大学教授)
【韓国側参加者】
・金基正(延生大学教授、元国家安保室第2次長)
・金興圭(亜州大学政治外交学科教授・ 亜州大学中国政策研究所所長)
【日本側参加者】
・宮本雄二(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)
・西正典(元防衛事務次官)
・西野純也(慶応義塾大学教授)
・工藤泰志(言論NPO代表)

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