言論NPOは6月21日、「日韓関係をどう立て直すのか」をテーマとした「第7回日韓未来対話」(言論NPO、東アジア研究院、崔鍾賢学術院共催)を都内で開催しました。第1セッションに続く第2セッションでは、工藤と崔鍾賢学術院院長の朴仁國氏の司会により、「北朝鮮の非核化の行方と日韓協力の課題」について議論を行いました。
2月の米朝会談の決裂など北朝鮮の非核化に停滞ムードが漂い、さらに日韓防衛当局間にも亀裂が生じる中、日韓の協力関係を回復させるためには何をすべきか、議論しました。
朴仁國氏はまず、ただでさえ解決困難な北朝鮮の非核化が、米朝会談の決裂のみならず、米中対立の長期化や日韓防衛当局同士の対立などによってさらに複雑な問題となりつつあることに懸念を示しました。その上で、「第7回日韓共同世論調査」結果が示すように日韓両国世論は、北朝鮮情勢に対する楽観論が減少すると同時に、日韓協力を求めているとし、「現状を正確に把握するとともに、解決の方向性を示すような議論を」と参加者らに呼びかけ、議論がスタートしました。
非核化実現は長期的プロセスで取り組むべき
韓国側の問題提起者はまず、2018年の南北首脳会談で平壌を訪問した際に自ら確認したこととして、金正日氏は主体思想に染まっていたのに対し、金正恩氏は必ずしもそうではないこと。食糧配給制の破綻と市場化の進行や、携帯電話・DVDの普及に伴う西側の情報流入などの要因から、朝鮮労働党による統制が機能しなくなってきていることなどを紹介。
そのため改革・開放路線への移行など大きな変化の過程にある北朝鮮は、非核化について喫緊に取り組む余裕はなく、長期的な課題として位置づけていると指摘。トランプ政権とは非核化に向けたスパンが異なることが米朝会談決裂の背景にあると分析しました。
もっとも、長期化の要因はそれだけではなく、中国・ロシアが背後にいることも大きいと併せて指摘。さらに、金正恩氏は文在寅政権の行方も注視しており、今後も時間稼ぎを続けるとの見方を示しました。その上で、こうした問題の長期化の中では日韓、あるいは日米韓の連携も長期的な視野に立ちながら進めるべきだと主張しました。
さらに同氏は、北朝鮮情勢の悪化で最も被害を受けるのは日韓であるからこそ、両国は対立を長引かせず、スムーズな意思疎通を回復すべきと強調。防衛相同士でコミュニケーションを密に取ることで事態のエスカレートしないように管理したり、マスメディアが報道を抑制的にすることなどが必要であるとしました。
一方で、北東アジアの安全保障体制の枠組みとして、"日米韓同盟"については、北朝鮮だけでなく中ロとも対峙しかねないとし、これを否定。豪州やニュージーランド、カナダなども巻き込んだ緩やかな多国間枠組みを志向すべきだとしました。
最後に、今後の日朝対話の必要性についても言及。日本の考えを北朝鮮に伝えるチャネルとして韓国も動くべきだとし、こうしたことも日韓協力に回復につながっていくと語りました。
"2021年"に対する備えが必要
続いて、日本側の問題提起者はまず、北朝鮮の核保有を許せばイランやサウジアラビア、さらには南米でも核開発が進むなど、"世界規模核拡散"になってしまうため、北朝鮮核問題とはすなわち「人類社会の問題」であると強調。
しかし、現状の非核化交渉は過去の失敗の繰り返しになっていることを指摘。昨年の米朝会談についても、両国間で非核化プロセスに関する「越えがたい溝」があることが露呈したこと、北朝鮮側はポンペオ米国務長官のカウンターパートすら決まっていないこと、そもそも米国側にも精緻に練り上げられた対応策と戦略が欠如していること、そして第2回米朝会談の実質的決裂など様々なマイナスの要因を列挙しながら「この先もいばらの道が続く」と悲観的な見方を示しました。
さらに同氏は、米中ロにとっては北朝鮮問題は数ある課題のうちのひとつという位置付けにすぎないとも指摘。こうしたことも問題の長期化の要因となっていると語りました。一方、この24年間進まなかった事態が動く大きく可能性がある場合として、「2021年のトランプ氏再選」を挙げ、「重し」が取れたトランプ氏が軍事行動も含めた積極攻勢に転じることを予測。そうした事態に備え、今のうちに日韓・日米韓の連携を拡幅させる必要があると主張しました。
問題提起の後、意見交換に入りました。
議論では、日韓が反目し合い、協力関係が進まないことは「北朝鮮の思う壺」であるため、対立などしている場合ではなく早急に関係改善を図らなければならない、という点では両国のパネリストは一致。また、日米が進めるインド太平洋戦略も議論の俎上に上るなど対北朝鮮に限らず、様々な点について話し合われました。
もっとも、防衛当局間での対立や認識の違いについては、厳しい現状の報告も相次ぎました。この対話でも北朝鮮版「マーシャル・プラン」など経済支援については、その必要性では一致しましたが、導入のタイミングに関しては見方が分かれる場面も見られました。
こうした議論を受けて、韓国側のパネリストは「認識にギャップがあるからこそ、すぐに対話ができる環境が必要。レーダー照射事件にしても私と小野寺前防衛相の関係であれば電話一本ですぐに解決できた話だ」と主張。
日本側からは認識の違いは日韓だけでなく、米朝間でも大きいため、「我々が冷静な目でその違いを検証する必要がある」と指摘。同時に、日韓の軍事力の巨大さから、両国が協力すること自体が「北朝鮮、さらには中ロに対しても明確なメッセージになる」と語りました。
最後に工藤は、世論調査と並行して行った日本の有識者調査結果に言及。有識者は日韓防衛協力を強く求めているとともに、日本が朝鮮半島の非核化や平和プロセスに積極的に関与することを求めていることを紹介。その上で、「逆に言えば、今の日韓分断の状況は北東アジアの平和にとってリスク以外の何物でもない」と強調し、明日の公開会議で改めて日韓関係改善に向けた妙案を出すことを参加者に期待し、非公開会議を締めくくりました。