「日韓関係をどう立て直すのか」をテーマにした「第7回日韓未来対話」(言論NPO、東アジア研究院、崔鍾賢学術院共催)は22日、都内の国連大学で開催されました。午後からの公開セッションの前に開かれた非公開セッションでは、日本側の司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、「日韓関係をどう改善させるか、問題を整理した形で突っ込んだ議論をし、公開セッションにつなげていきたい」と意気込みを語りました。工藤は、重要なこととして、今起こっている短期的な問題と、中長期・構造的な問題を分けて議論すること、と話し、特に、この1年に起こっている韓国の徴用工の最高裁判決とレーダー照射問題、文政権の日韓関係に対する姿勢に対し、国民の反応が厳しいものになっていると指摘。世論調査によると、レーダー照射の問題は、若い人の多くは関心がなく、防衛当局の信頼回復が必要という声が両国民の間に強いため、解決の可能性がある、との観測を工藤は述べました。
徴用工判決問題での認識の違い
しかし、徴用工問題は、日韓、全ての世代で判決への評価が真逆で、基本的に考え方がかなり違います。日本が報復措置を取ることさえ、国民や有識者は支持しているので、この問題はまだ続く可能性がある、と工藤は予想します。また、判決があって8カ月間も放置されていたので、韓国政権にはリーダーシップをとって解決に動く意思はない、と日本の国民は判断しているのです。
中長期的な問題は、「お互いの重要性が分かっていないので、お互いはなぜ重要なのか、何をやっていくべきなのかを考えるべき」と工藤は要求。日韓の若い世代の直接交流は相互理解の回復にはつながるものの、協力の強化、新たな関係づくりを進める上では弱いと、工藤は、中国との対話の経験から話すのでした。
これに対し、韓国側司会者の孫洌・東アジア研究院院長は、「重要なのは、この対話が日本の市民にどう映り、また韓国の国民にはどう伝わるのか、を考えなければいけない。徴用工判決の次の日、河野外相は、『国際秩序の根本を揺るがす暴挙だ』と述べ、韓国国民は徴用工問題にあまり関心を持っていないのに、日本政府の出方が激しすぎて、そうした日本の反応に韓国人は戸惑ってしまった」と同問題への日韓双方の認識の違いを指摘しました。『暴挙だ』という激しい議論ではなく、発展的な、今後どう前進していくのか、午後の対話でやれると嬉しい」と双方のパネリストに要望しました。
国際司法裁判所への提訴には反対
――日韓の問題の管理、回復、そして発展を
次の問題提起で、駐日大使を務めたパネリストは、「日韓の問題では、双方とも感情が高まっている状態なので、問題を管理、回復、発展という三段階のアプローチが必要」と語ります。そして、「お互いの重要性を認識するには、メディアの役割が大事だが、双方とも敬遠していて努力をしていない。政府はメディアと一緒に努力すべきで、お互いの偏見が、SNSを通じて拡散している。これをどう防ぐかも、管理の対象になる」と指摘しました。続いて両国の最高指導者にも責任がある、と話す同氏は、G20での首脳会談の実現に関係なく、早期に指導者同士のシャトル外交を行い、会って意見交換の場を設ける必要がある、と強調しました。「ヨーロッパは問題があると、解決のために指導者が成果と関係なく随時会うが、アジアは結果を出してから会う。アジアのこうした望ましくない文化を、民主国家である日韓が乗り越え、首脳会談の制度化を検討する時期だ」と、元外交官として提案しました。
一方、日韓の一番の足かせは徴用工問題、と語ります。日本側が狙っている国際司法裁判所への提訴は適切ではない、ときっぱりと述べました。同裁判所で仲裁すれば、1965年の日韓正常化の体制の根幹を揺るがす問題になって、体制が崩れてしまう強調。「司法よりも外交的な努力、解決が大事であり、文政権が望んで判決が出たわけではない」と、同氏は日韓の協力を訴えるのでした。
司法は司法として、行政府としてできることがあるのでは
日本側の基調報告を務めた大学教授は、「韓国の最高裁判決は、65年の協定自体は否定していない。韓国の憲法を拠りどころにして、協定の中で、問題は正当に扱われていない。韓国は、三権分立で介入できない、と言うのであれば、日本は、(韓国が)国際法違反なのだから、司法は司法として、行政府としてできることがあるのでは、となる」と明解に分析しました。同氏によると、今の日韓政府間関係の構造的な起源は90年代にあって、河野、村山談話や細川元首相の韓国への謝罪など、日韓の和解が進むことで、日本国内の保守派の反発が起き、安倍首相も若い政治家として和解に否定的で日本会議などに加わっていた。韓国では逆に、進歩派が「それでは不十分」として、文大統領も法律家としてその中にいた。その二人が政府のトップにいる。日韓の協力進展に対する懐疑論が、日本は右側、韓国は左側から出るという構造が、90年代以降にできあがった、と日韓現代史を振り返るのでした。
さらに同氏は「リベラルな改革に対して保守が叩くのは自然な現象だが、何を守るのかが大事。文在寅大統領は革命的なアジェンダを掲げているように見える。文自身が持つ『健全な韓国』を取り戻すために親日派の排除など積弊を取り除き、韓国国内を分裂させる問題になっている」と指摘。こうした状況から抜け出すためには、政府間関係の悪化が民間に波及しないようにすることが需要だが、両国で「日韓は互いに必要ない」という世論が生じているのは問題だ、と懸念を示しました。
日韓双方の問題提起が終わり、日韓パネリストによる議論に移りました。日本側からは、日本では、韓国の前最高裁長官が刑法で裁かれていると聞き、韓国では権力者が代われば法律の性格が変わるのか。法の支配は普遍的なもので、政権が代わっても守らないといけないものであり、条約解釈も国と国の約束なので、基本は変わってはいけない、と指摘がありました。
韓国側は、加害者・被害者という考え方、
日本側は、それを含めて新しい関係を
さらに、「対立するにしても、互いに相手のロジックがあって、それを知ろうとしていない。韓国側は、加害者、被害者という考え方で、被害者である韓国は、歴史問題で尊重されるべき正義は韓国側にある、ということが前提だ」と指摘する日本側パネリスト。さらに、「日本側は、加害者・被害者という関係を否定しているのではなく、それも含めて、新しい関係をスタートさせようということで合意したのが65年の枠組みだった。しかし、韓国の司法が、根本から65年のフレームを揺るがす決断をした。外交を担うのが行政府である以上、司法がやったことだからどうしようもない、というのではなく、行政府が外交的に対処すべきだというのが日本側のロジック。そこで、韓国側のロジックを日本も知らないといけない」と語ります。
また、別のパネリストは、「日韓関係は厳しいが、互いは、互いを必要としている、引っ越しできない関係。過激な国民感情が全ての両国関係を引っ張ることがないよう、冷静にコントロールする努力を重ねていくこと。日本の一般の国民の声を耳にすると、韓国は、いつまで1945年までのことにこだわっているのかという意識、疑問を持っているが、一番気を付けるべきなのは、1945年までの36年間の韓国の歴史を、日本人はもっと勉強すべき。まだ100年もたっていない日韓の歴史を日本人、特に若い人は十分な教育を受けず、無関心で少しも理解しようとしない。韓国側は日本に対し、ある種の不信感を持っていることはよく踏まえなければいけない」と、意思の疎通を口にする前に、日本は、教育という相互理解の基本を忘れてはいけない、と自戒を込めて語るのでした。
まずは国内和解から
日本側の元外交官のパネリストは「日本と韓国が成熟した先進国になったことは大きな意味がある」と語ります。「一番大事なのは、両国共通の課題を議論することで、少子高齢化と人口問題、外国人労働者、女性の地位などがある。金大中、金鍾泌の保革連合政権は、国内の和解が成立したシンボルの政権だったので、国際的な和解も同時に進んだ。まずは国内的和解を進める努力を日韓両国はすべきではないか。そして、国と国民は区別すべき。韓国併合で、日本国は加害者だが、日本国民には被害者も多いし、植民地支配に反対した人もいる。韓国にも、植民地支配に賛成した人もいる。市民一人一人の立場をもっと考えて行動するのが、成熟した国同士の考え方ではないか」と、大所高所から知見を述べるのでした。
これに対し、韓国側からは、「天皇が謝罪をすれば済む問題だ、という話が韓国の政治家からあったが、私はその政治家が謝罪すべきだと思う。反米感情、反日感情を煽るドラマや映画が韓国にはたくさんある。それは、お金を稼ぐために利用していて、かなり誇張している。全ての問題を一緒にして『日本はこうだ』というのではなく、違う問題は、違う箱の中に入れるべき。そうしないと、日韓関係を更に悪化させる。日本政府、日本国民にお願いしたいのは、日本は韓国より国土、経済規模が大きい。もう少し辛抱強く待ってほしい。レーダー照射問題は、これ以上言及されるべきではなく、韓国の対応は間違っている」との意見が出されました。
アジアや世界の将来を見据えた議論が始まることで、対立を乗り越えてという変化が動き出す
この他、「日韓両国の既存の世代に、問題を解決する能力がないことを認めることから始めるべきだ」との意見や、「70年間、韓国は謝罪を求め続けた。それは間違っていると思う。もう少し忍耐をすれば、よい世界を作れると思う。私もそうだが、問題を複雑にこじらせてしまったことを、日本に謝罪する韓国人もいる。政治的な利害関係によって、日韓関係を悪い方向に持っていく人がいるのは残念で、全ての問題をごちゃまぜにして『いい、悪い』という結論に持っていかないようにしてほしい」などと、積極的かつ建設的な意見表明もありました。非公開セッションで、日韓双方が忌憚なく本音の議論を交わせたことは、大きな成果でした。
こうした活発な意見交換を終えて最後に工藤は、「今回の世論調査を見て、今回はチャンスだという気がしている。これまでは、韓国に対し何も思わない人が多かった。しかし、『韓国はもういい』という人は10%程度で、なぜ無視ではなく、解決という世論に変わったのか」と述べた上で、そこで必要なのは、アジアや世界の将来を見据えて考えた時、自分たちはどうすべきだという議論が始まること。そして、その中で対立関係を乗り越えるという目に見える変化が、どれくらい出てくるかだ、と語りました。さらに工藤は、「民主主義、自由市場という価値観を共有している日韓が、二国間でなくマルチに協力の次元を変化させ、世界やアジアの秩序をどう守り発展させるか、ということに納得できれば強い一歩になる」と述べて、非公開セッションを締めくくりました。