「世界の繁栄とアジアの平和で日中が背負うべき責任」をメインテーマとする日本と中国の民間対話、「第15回東京―北京フォーラム」(主催:言論NPO、中国国際出版集団)は10月26日、二日間の日程で北京市内のホテルで開幕しました。
初日午前の全体会議前半では日中両国から6氏が挨拶、基調講演を行いました。
6氏に共通していたのは、日中両国の新時代に向けて、日中両国が協力して課題解決に向けて動き出すことに期待を寄せると同時に、この「東京-北京フォーラム」という場が、議論の舞台のみならず、課題解決に向けた場になることへの期待でした。
日中両国は互いに脅威とならない、競争から協調に向けたパートナーへ
まず、中国側から政府を代表して王毅外相が挨拶しました。王毅氏は、駐日大使時代の2006年に開催された「第2回 東京-北京フォーラム」で、当時の安倍官房長官と共に基調講演を行い、その後、首相に就任した安倍氏の電撃訪中の契機となったフォーラム以来の公式参加となります。
王毅氏は、「有識者が集まって中日関係改善、発展のために貢献してきたフォーラムが15回目を迎え、中国側でこのフォーラムを提案、推進してきた者の一人として感慨深いものがある」と、挨拶の冒頭、関係者への感謝を述べました。
続けて、中日の貿易は年間3000億ドルを超え、人的往来は1200万人、250の友好都市がある、と具体的な数字を挙げて、「両国の発展は直接かつ緊密につながっている」と強調。更に、中日関係が"新時代、新期待"の時を迎えた今回のフォーラムのメインテーマが、「世界の繁栄とアジアの平和で日中が背負うべき責任」であることは、大変、現実的意味があり、「国際情勢が変化していく中で、中日双方の共同の利益、責任、使命は大きくなり、新しい未来を牽引する意味でも、健全な中日関係が求められている」と指摘しました。その背景として王毅氏は、6月のG20大阪サミットでの習近平主席と安倍首相の首脳会談で、中日の4つの政治文書で確立された原則を厳格に順守し、「お互いを協力のパートナーとし、互いに脅威とならない」、「競争から協調へ」という精神に基づき、経済・貿易面などで10項目について合意したことを紹介。一方で、中日発展の基礎には両国首脳の相互信頼があり、「その基にあるのは、歴史、台湾の問題に正確に対応し、(日本は)約束を守らねばならない」と、米国と同盟関係にある日本側にクギを刺すことも忘れませんでした。
さらに、王毅氏は「中日は、共通認識によって相互のハイレベルな文化交流を促進、地域の主要大国として周辺の期待に応え、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、FTA(自由貿易協定)の交渉を活発化させる」と、将来への抱負を語りました。
その上で、来春の習近平主席の国賓としての来日が実現すれば、12年ぶりの公式訪問となり、「この重要な訪問のために中日両国が準備していくことが必要」と話す王毅氏でした。
日中関係を新たな段階へ押し上げ、「日中新時代」を切り拓きたい
次いで日本側の政府挨拶は横井裕・駐中国大使が務めました。横井大使は、「2005年という日中関係が困難な時期にフォーラムが発足してから15年、日中関係の将来について真剣に考える人々が自発的に立ち上げ、厳しい時期にあっても一度も中断することなく続けられてきたフォーラムは、ユニークかつ価値あるものだ」と、両国関係者の労をねぎらいました。横井大使は、フォーラムの度に実施している日中共同世論調査についても触れ、「日中両国民のお互いへの見方の推移を知る上で、最も信頼性の高い情報を提供している」と評価。昨年、中国人の日本に対する印象を、「良い」とする人の割合が初めて40%を超えたことが話題となりましたが、今年の調査でも、こうした傾向が一層、進んだことが明らかになる一方で、日本人の中国に対する印象は、「良くない」が依然、8割を超えているので、「この調査結果についても突っ込んだ分析が行ってほしい」と期待を寄せる横井大使でした。
さらに、横井大使も王外相と同様、メインテーマは時宜を得たものであり、「国際社会が歴史的な局面を迎える中、日中両国が二国間の懸案を適切に処理しながら、自分たちの責任を規定し、それをいかに実行に移していくか」、二日間のフォーラムで有意義な議論に期待するのでした。
最後に、横井大使は、茂木外相からの祝辞を披露。「日中両国は、アジアそして世界の平和と繁栄に欠くことのできない大きな責任を共有しています。習近平主席の国賓来日を見据え、引き続きハイレベルの往来を積み重ね、懸案を適切に処理しながら、あらゆる分野で交流、協力を一層発展させ、日中関係を新たな段階に押し上げ、"日中新時代"を切り拓いていきたい」とする茂木外相でした。
今回のフォーラムを契機に、日中間で地球的、創造的な作業に向けて動きたい
主催者挨拶では、中国側から杜占元・中国国際出版集団総裁が登壇し、交流の模範となるフォーラムの存在意義、影響力は高まりつつあり、注目と支持を得ているとフォーラムを紹介。その上で、日中両国の新時代は既に到来しており、「中日両国の新たな局面を探り、より多くの有識者が中日友好に力を尽くしてもらいたい」と、力強く会場を埋めた聴衆に呼びかけました。
次いで日本側から登壇した元国連事務次長の明石康・国立京都国際会館理事長は、10月22日に、東京で開催された新天皇即位の礼で、新天皇、安倍首相が世界平和について何度も繰り返されたことに触れ、「まさに日本にとっても、中国にとっても、世界の平和は私たちの主要な基盤なのだ」と、前置きして挨拶を始めました。「日中両国間の真摯な民間対話の一端を担っている『東京-北京フォーラム』は、発足以来15年、この忌憚ない対話と討論、相互市民の真の合意を目指し、存在する相違を克服しようとする努力の意義は、日中だけではなくアジアや国際関係全体にとっても、軽視することのできないものになっている」と、フォーラムの置かれた立ち位置を評価します。
その上で、明石氏は、日中両国は互いに大声で絶叫するのではなく、また独り言を言い続けるのではなく、相手に静かに話しかけ語り合うことで、両国民の思考や発想の違いに橋を架け、より高次の和解や協力に進むことが可能になるのだ、強調しました。さらに、アジアや世界ではびこる一国主義や国粋主義から、世界的な協力へ、今回のフォーラムを契機に、日中間で地球的かつ創造的な作業に向かっていけるのではないか、と期待を寄せ、挨拶を結びました。
「東京-北京フォーラム」の新時代の幕開け 両国関係を前進させ、世界に貢献する起爆剤に
その後、中国側から徐麟・国務院新聞弁公室主任が講演に立ちました。徐麟氏は、「中国共産党の指導の下で、天地を覆すほどの成果を上げてきた中国は、世界から注目され大きな影響力を与えている。日本も令和の新時代を迎え、歴史的スタートを切った」と日中両国が置かれた現状を指摘。こうした両国が新時代の要請に応える命題として、時代の流れを把握し、新時代の中日のビジョンを描くことで、平和発展に尽くし、人類運命共同体としてのWin-Winの関係を目指すことが重要だと語ります。さらに、「平和友好の政治的基盤をしっかりと守り、お互いの矛盾と相違を知り、人的交流を深めていきたい」と力説する徐氏でした。
特別講演では福田康夫・元首相(同フォーラム最高顧問)が、「中国は建国70周年、この間、中国は並々ならぬ努力を重ね、類稀なる発展を実現させた。発展の速さと規模の大きさは、人類史上空前のものであ」として、こうした中国の偉業に対し、敬意と祝意を表しました。一方で、21世紀になってからの中国の経済発展は目覚しく、それに伴って国民の意識も変化し、国際社会との協調・協力も変化を迫られていると指摘。日本と同様に、発展から生じる新たな課題や問題、特に人口減少・高齢化や自然災害の多発など、大きなチャレンジを受ける中で、「日中両国は、これまで以上に難しい局面に直面しているという認識を持つ方が正しい」と語る福田元首相は、「東京-北京フォーラム」が議論の場から、日中両国の課題解決の場に変わってきていると強調し、「東京-北京フォーラム」自体が"新時代"に入っていると語りました。その上で、「日中関係に対し、積極的、建設的な提案を行い、両国関係を前進させ、そのことを通じて世界に貢献する起爆剤になることを願ってやまない」と、これからの忌憚のない意見交換に大きな期待を寄せ、挨拶を締めくくりました。