10月26日に開幕した「第15回 東京-北京フォーラム」は、午前の全体会議に続き、午後からは5つの分科会に分かれて議論が行われました。「アジア太平洋地域の平和と繁栄に向けた日中戦略協力」を議題とする政治・外交分科会は、日本側の司会を言論NPO代表の工藤泰志、中国側司会を楊伯江・中国社会科学院日本研究所所長がそれぞれ務めました。
今回の議論では、中国の不透明な対応に対する疑問が呈される一方、アジア太平洋地域の平和と発展に向けて、日中両国が信頼関係を構築し、相互に尊重しあうようなパートナーになることが必要だ、との見解で一致しました。
最初に工藤は、全体のテーマである「世界の繁栄とアジアの平和で日中が背負うべき責任」について、「責任」が持つ意味を二国間だけでなく、視野を広げて知恵を出し合い、大きな視点から議論を進めたいと主張。その上で、「責任」の具体的協力の方法についても議論することとなりました。
日中間で、イデオロギーを超えた政治的相互信頼と相互尊重することが不可欠
まず、明石康・国立京都国際会議理事長(元国連事務次長)が問題提起者として、「戦後の日本は、米国民主主義のダイナミズムに憧れ、米国の存在は大きいものだった」と語り始めました。「それが今、米国は同盟国としての日本を信頼しているのか、疑惑が生まれ、そこに代わる存在としてGDP世界2位の中国が存在している。経済的に明るい見通しのない日本にとって、中国のソフトパワーには魅力があることから、米国と中国、どちらが魅力ある存在か」と現状を解説。「しかし、中国に魅力があっても、まだまだ中国は力不足で十分ではないのか、日本には迷いがあるのだ」と日本の立ち位置を分析し、日本自体が、どういう方向を目指すのか内向している状態と説明しました。一方の中国は、国連常任理事国としてアフリカなどへのPKO活動において、最も多くの兵力を出し、若い中国の外交官の発言などから、核軍縮でも新しい仕事を果たしそうだ、との感触を語る明石氏でした。
一方、劉洪才・中国国際交流協会副会長は、100年に一度という変動期で世界の流れが変わる中で、それぞれの国が違う主張を持たずに、「世界二位と三位の国が担うべき責任が世界から注目され、期待が大きくなっている。持続可能な経済発展の実践プロセスで協力強化することが大事」と力説し、「イデオロギーを超えた政治的相互信頼と相互尊重することが不可欠だ」と述べました。
元外相で武蔵野大学国際総合研究所フェローの川口順子氏は問題提起として、日中は、これまでどういう責任を果たしてきたか、と会場に問いかけ、2018年の成長率が高い国は、バングラデッシュ、カンボジア、モルジブであって、日中はそれまでの高い成長率でアジアの経済発展を支援してきた、と説明。アジアが発展することができたのは、リベラルな協力と平和構築、アジアだけで終わらず太平洋の向こう側とも関係を持つ、三条件があったからと話しました。
しかし、日中共同世論調査を見ると、中国の日本に対する印象と、日本の中国に対する印象度に大きなギャップがあり、これがお互いの発展を妨げているのではないか、との見解を示しました。また、これからは日中首脳が経済協力で意見の一致を見ても、日本から見れば、中国の行動の意図や、どういうルールに基づいて行動しているのか、その理由の説得性のある説明が十分でなく、結局、中国は自国の利益が大事なのではないか、と中長期的に懸念がある、と率直に中国側に問いかけました。
日中両国に問われている「責任」とは
ここで日本側司会の工藤は、世界の問題でも協力していきたいが、国民間の感情がまだ歩み寄れていない。日本へのイメージが覇権主義だという人もいれば、資本主義、軍国主義、民族主義の国だとも思われている、と共同世論調査の結果を指摘し、日中にはどういう責任があるのか、具体的な中身をパネリストに投げかけました。
衆議院議員で佐藤茂樹・公明党外交安全保障調査会長は、北朝鮮の非核化で日中は共同して取り組めないか、と提案しました。トランプ大統領のように、「短距離弾道ミサイルを問題にしないのではなく、北朝鮮に影響力のある中国と日本が、完全な非核化、弾道ミサイル廃絶で協力の形を作っていく」と語ります。自民党衆議院議員の古川禎久・元財務副大臣は、日中共同世論調査で、中国人の多くが日本は軍国主義と捉えていることを、「なぜ、そうなのか、誤解を解いていくことが大事」と、協力関係を築く前提の姿勢を口にしました。さらに憲法については、「日本では憲法改正論議があり、これが軍国主義ではないか、と思われてしまう。平和主義の規定がある憲法9条第1項を変える話しは一切ない」と強く断言。「それよりも現憲法は米国の押し付けだから、日本人はこれを変えたい、と見ているだけだ」と語り、中国側の理解を求めました。
午前の全体会議で、日本で大使を9年も務めたのは世界記録と福田康夫元首相から紹介された程永華・前中日大使は、「訪日観光客、それも体験型訪日客が増えたことは、明るい兆しで、1対1の交流が少ないだけに、こうした日中交流を強化することが重要」と、日本を知る立場からの意見を述べました。さらに、「100年に一度の大変革期はチャンスであり、これを逃してしまうと、二国間の関係に悪い影響を及ぼしてしまう」と懸念を示すと同時に、これまで日中両国が長年、積み重ねてきた交流や努力によって関係改善しており、こうした努力が今後も必要だと語る程氏でした。
中国への訪問が少ない日本人、その原因は不透明な中国の対応
訪日客の急増が日本への印象を良くしているのは間違いなく、工藤は、来年か再来年には、中国人が日本に「良い印象を持っている」が、「悪い印象を持っている」を超すのではないか、と予想します。このように直接交流が増えることで印象は良くなるのですが、中国に渡航経験がある日本人の数が、14年前と同じなのは、どうしてなのか。「この病巣をえぐり出さなければいけない」と問いかけました。
中国側司会の楊氏は、「中国を訪れる日本人が少ないのは、少子高齢化で子供への過保護があり、旅をさせたくないのではないか」と、苦笑しつつ日本側の原因を推測しました。これには川口氏も、「過保護はあると思う」とはっきり肯定しつつも、「観光は、お互いの競争だ。欧州にいくのか、米国に行くのか、中国に行くのか」という選択だとして、日本人の中国訪問が少ないのなら、プラスになるように競争すべきだ、と中国側に呼びかけました。さらに川口氏は、「銀座は中国語ばっかりで、これは素晴らしいことだが、香港は一国二制度でなくなっているから心配している。中国にとって一国二制度は大事だろうが、説明のチャンスを逃していないか」と疑問を投げ掛けました。
衆議院議員の中山泰秀・自民党外交部会長は、「中国政府が日本人を拘束して、返還されなかったり、天安門事件で軍隊が人民を抑えるイメージがある。日本では戦後、そのようなことはないので、中国側はしっかりと説明する責任があるのではないか」と問題提起。これに対して劉氏は、「中国の説明不足と日本の説明不足。お互いが努力すべきだ。政府間のコンセンサスで、関係改善がされているのだが、国民が十分、理解できておらず、実際に上手くできていない。しかし、これを政治差別の根源としてはいけない」と日中双方に注意を呼びかけました。
また曹衛洲・中国留学人材発展基金会理事長は、今、騒がれている香港問題について、「一国の次に、一国二制度はあり、中国が作った非常に素晴らしいもので守らなければいけない。国の品格は絶対にないがしろにされるものではなく、香港基本法でしっかり裁くべきで、外国として関心を寄せるのはいいが、干渉するのは良くない。心配は不必要だ」と、中国として基本的な態度をはっきりと示しました。
分科会前半の最後には、川口氏が、「なぜ日中両国の協力が大事なのか、中国がナンバー2、日本がナンバー3、米国がナンバー1、貴方と私が協力しなくて、一体、誰が協力するのか」と指摘。気候変動、安全保障、核問題、貧困問題、感染症など、「一国で解決できない問題では緊密な協力が必要だとは、みんな認識している」と語り、当たり前の協力がなぜできないのか、疑問を呈しました。
日中が協力していくために具体的に必要なことは何か
後半では、戦略的に日中協力をどうするのか話し合われました。曹氏は、「毛沢東は、中日関係の中では、戦争の歴史は50年と短く、友好の歴史は長く2000年ある。戦争後は両国の関係改善のために、民間、政府などが頑張ってきた。友好的な共同発展のためには、真心を持って信頼関係を構築、継続的に協力し、寛容な心を持って関係を保ち、誠意を持って世界の平和発展に貢献することだ」と協力発展の心を語りました。
こうした考え方を具体化するように佐藤氏は、①北東アジアの平和メカニズムづくり、②米国の一国主義に対抗する自由で公正な貿易、③第三国でのインフラ整備の共同開発、④少子化から見える解決策、⑤防災における協力、⑥ゴミ問題に対するモデルケースとしての問題解決、⑦地方間の交流を挙げました。
考え方の調整が必要、と言うのは程氏でした。「隣国をパートナーか、競争相手として見るのか。中日は文化面で共通点があり、その共通点を見るのか、相違点を見るのかの違いであって、夫婦仲と似ている。今こそ国交回復の原点に戻り、双方にアンバランスがあることを認めつつ、互いにパートナーとしてやっていくべきではないか」との見方を示しました。
中国は民主主義や、法の下の平等、法治をどう考えているのか
最後に工藤は、共同世論調査で感じた疑問として、中国人が"民主"について関心を持っているのではないか、と問題提起。さらに、民主主義、法の下の平等、法治などについて中国の人はどう受け止めているのか、と問いかけます。
中国翻訳協会会長の周明偉氏は、「"民主"については認識が一致しているわけではない。トランプのお陰で、中国の方向性を明確に表わすことになった」と語り、楊氏は、「"民衆"が適切な訳かどうか、孫文の三民主義とどう違うのか。スターリンとは違う特色のある社会主義で、中国にふさわしい形がある」と返答を逃れるように答えます。
この他、政党間の交流やマスコミの管理、青少年の交流を政府予算で支持していくことなどが話し合われ、上の世代が古い価値観で縛りをかけて交流をするのではなく、自由な交流をさせることが重要という声も挙がりました。
最後に一言求められたパネリストは、「未来のために、いい歴史を作っていきたい」(川口氏)、「中華民族も日本民族も偉大な民族、平等にお付き合いして、輝かしい未来を作る」(呂氏)、「今回が一番いいフォーラム、古い問題も少しずつ解決していく必要がある」(周氏)、「戦後62年後に、国会議員として南京記念館を正式訪問したのは私だ」(中山氏)、「若い世代の人たちが主役、今日の議論を踏まえて日中友好のために働いてほしい」(佐藤氏)、「歴史教育は人類の発展に重要な役割がある」(曹氏)との声が集まり、政治・外交分科会は幕を閉じました。
【政治・外交分科会】参加者
日本側司会 工藤 泰志 言論NPO代表
パネリスト 明石 康 元国連事務次長、「東京-北京フォーラム」実行委員長
川口 順子 武蔵野大学国際総合研究所フェロー、元外務大臣
佐藤 茂樹 衆議院議員、元厚生労働副大臣
中山 泰秀 自民党外交部会長、衆議院議員
古川 禎久 衆議院議員、元財務副大臣
中国側司会 楊 伯江 中国社会科学院日本研究所所長
パネリスト 劉 洪才 中国国際交流協会副会長、
中国人民政治協商会議第13期全国委員会外事委員会副主任
曹 衛洲 中国留学人材発展基金会理事長、
中国人民政治協商会議第12期全国委員会外事委員会委員
周 明偉 中国翻訳協会会長、中国人民政治協商会議第12期全国委員会外事委員会委員
程 永華 元駐日本特命全権大使、中国人民政治協商会議第12期全国委員会外事委員会委員
呂 小慶 中国中日関係史学会常務副会長