北東アジアの平和への最大の不安は「北朝鮮問題」
言論NPOは2020年1月21日の「アジア平和会議」の立ち上げに合わせて、北東アジアの平和を脅かす10のリスクに関する評価を行いました。
その結果、この地域の平和を脅かす最も高いリスクとして「米朝非核化交渉の決裂と、核保有国・北朝鮮の行動」がトップとなり、以下、「米中間の通商やデジタル覇権をめぐる対立の展開」「米国大統領選の行方」が続きました。
北東アジアの平和を脅かす10のリスク | 点数 |
|
1 |
米朝非核化交渉の展開と、核保有国・北朝鮮の行動 |
8.17 |
2 |
米中間の通商やデジタル覇権をめぐる対立 |
8.08 |
3 |
米国大統領選の行方 |
6.71 |
4 |
南シナ海での中国の行動と増大する中国の軍事力 |
6.25
|
5 |
香港の民主化運動の行方 |
5.33
|
6 |
蔡英文総統再選後の台湾と中国の関係 |
5.29 |
7 |
領土・領海や、宇宙・サイバーなど新領域における危機管理メカニズムの未整備 |
5.29 |
8 |
日本と韓国の対立 |
5.25 |
9 |
米韓同盟、あるいは日米韓協力関係 |
5.00 |
10 |
習近平主席の日本訪問と今後の日中関係 |
4.88 |
(次点) |
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11 |
異常気象と地球温暖化に伴う様々な現象 |
4.83 |
12 |
核不拡散や、INF失効後の今後 |
4.75 |
この評価は、言論NPOの活動に参加する有識者307人のアンケート結果(4点満点)から、北東アジアの平和への脅威を12項目抽出した上で、その12項目について外交・安全保障の専門家24氏に、「北東アジアの平和に与えるインパクト(3点満点)」「この地域に平和の困難や障害として表面化する可能性(3点満点)」の2つの軸で評価してもらい、その結果を集計したものです(合計10点満点)。※詳細な評価基準は次の各項目をご覧ください。
評価方法①:有識者アンケートによる評価
まず調査の第一段階として、言論NPOの活動に参加する有識者2000人を対象にアンケート調査を実施し、回答を得た307人の調査結果を集計しました。
この中で最も多くの有識者がリスクと考えたのは、「米国と北朝鮮の非核化交渉の進展」(30.6%)で3割を超えました。「北朝鮮が核保有国として行動すること」と「米国大統領選の行方」がいずれも27.0%で続き、「習近平主席の日本訪問と今後の日中関係」(22.5%)、「日本と韓国の対立」(20.5%)が2割を超えるという結果となりました。
一方、外交・安全保障の専門家による評価で多くの専門家が2020年に表面化するリスクに挙げた南シナ海問題については、「南シナ海での中国の行動と増大する中国の軍事力」(16.6%)となったように、1割台にとどまっています。
この有識者アンケートの結果から、第2段階目の評価となる専門家による点数評価の対象とする12のリスク項目を抽出しました。
有識者アンケートの結果、12のリスクを抽出
12のリスクの順位集計においては、下記評価基準の通り、回答者の30%以上がリスクだと答えた項目に4点、20%以上に3点、10%以上に2点、5%以上に1点を配点しました。なお、今回評価を行った12のリスク項目のうち、1つのリスク項目に2つ以上の有識者アンケートの選択肢が該当する場合は、関連する選択肢への回答を足し合わせた数値によって配点を行いました。
その結果、リスク項目「米朝非核化交渉の停滞と、核保有国・北朝鮮の行動」では、「米国と北朝鮮の非核化交渉の進展」(30.6%)と「北朝鮮が核保有国として行動すること」(27.0%)への回答を合計すると30%を超えたため4点を配点しました。続いて、リスク項目「米中間の通商やデジタル覇権を巡る対立」で、「米中経済対立の展開」(17.9%)と「米国のデジタル面での中国との覇権争いと日本の立ち位置」(16.3%)の合計34.2%で、この2項目が有識者アンケートによる評価では4点となり、日本の多くの有識者層が北朝鮮と米中対立を最もリスクだと考えていることが明らかになりました。
※1「米朝非核化交渉の展開と、核保有国・北朝鮮の行動」は、有識者アンケートの「1. 北朝鮮が核保有国として行動すること」と「2. 米国と北朝鮮の非核化交渉の展開」を合計
※2「米中間の通商やデジタル覇権をめぐる対立」は、有識者アンケートの「9. 米中経済対立の展開」と「10. 米国のデジタル面での中国との覇権争いと日本の立ち位置」を合計
※3「領土・領海や、宇宙・サイバーなど新領域における危機管理メカニズムの未整備」は、有識者アンケートの選択肢「東シナ海での偶発的な事故」と「過熱するサイバー攻撃や宇宙等の新領域のガバナンス欠如」を合計
※4「核不拡散や、INF失効後の今後」は、有識者アンケートの「核抑止や核拡散体制の今後」と「INF(中距離核戦力)全廃条約の失効と中国のミサイル能力」を合計
4点:リスクだと考えている人が30%以上
3点:リスクだと考えている人が20%以上
2点:リスクだと考えている人が10%以上
1点:リスクだと考えている人が5%以上
0点:リスクだと考えている人が5%未満
評価方法②:専門家による2つの評価、平和へのインパクトと困難の可能性
次に、外交・安全保障の専門家24人に有識者アンケートで浮かび上がってきた12のリスク項目に対して、①各リスクが北東アジアの平和に与える影響、②この地域の平和を脅かす事象として表面化する可能性、の2つの軸から評価いただきました。
1. 平和へのインパクト
まず、各リスクが北東アジアの平和に与える影響を3点満点で評価いただいたところ、最も大きな影響を与えるリスクは「米朝非核化交渉の展開と、核保有国・北朝鮮の行動」(平均:2.46点)でした。続く、「南シナ海での中国の行動と増大する中国の軍事力」(平均:2.04点)までが全回答者の平均で2点を超え、外交・安全保障専門家が最も大きなリスクとして意識していることが明らかになりました。
3点 事態が、この地域の軍事紛争を引き起こしうる状況 HIGH(高)
2点 事態が、この地域の緊張感を高め、危機管理を必要とする状況 MODERATE(中)
1点 事態が、この地域の平和に影響を及ぼす懸念がある状況、LOW(小)
0点 平和の問題とは直接関係ないか、あったとしても影響は軽微
2. 困難や障害として表面化する可能性
続いて、外交・安全保障の専門家24人に、2020年にこの地域の平和を脅かす事象として表面化する可能性について、各リスクを3点満点で評価してもらったところ、「米中間の通商やデジタル覇権をめぐる対立」(2.42点)が最も高い点数となり、「すでに問題が発生している(3点)」と評価した専門家が全体の実に3分の2に達しました。その他「南シナ海での中国の行動と増大する中国の軍事力」(2.21点)が2点を超え、専門家間ではこの2つが2020年内に問題が表面化する可能性が高いリスクと考えられています。
3点 すでに問題が発生している
2点 2020年内に発生する可能性が高い
1点 2020年に発生するかは半々
0点 2020年に発生する可能性は低い
北東アジアの平和を脅かす10のリスク
Top 10 Risks Threaten a Peace in Northeast Asia
2020
米朝非核化交渉の停滞と、核保有国・北朝鮮の行動 8.17点
2019年2月のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談の決裂以降、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や、短距離弾道ミサイルの発射を繰り返している。さらに、金正恩朝鮮労働党委員長は12月の党中央委員会総会で「新たな戦略兵器」に言及するなど、核・ミサイル開発を再び進めようとしている。北朝鮮は10月の実務者協議でも、今年の秋に大統領選を控えて外交成果をアピールしたいトランプ大統領の足元を見て、強気な態度を取っており、2020年も北朝鮮の核・ミサイル能力はさらに増強する危険性がある。
米中間の通商やデジタル覇権をめぐる対立の展開 8.08点
2019年12月、米中両政府は貿易協議の第1段階で合意に達したと発表した。しかし、米国側の発表に追加関税の段階的撤回への言及はなく、今後の展開は依然として楽観視はできない。さらにデジタルなどハイテク分野での覇権争いも激化するとともに、米国は香港、台湾、ウイグルといった中国の急所ともいうべき領域にも介入姿勢を強めている。
米国内では、対中強硬論は共和党・民主党の党派を越えたコンセンサスになっており、大統領選の結果に関わらず、対決基調は続くとみられる。一方の中国側も、習近平指導部は求心力維持のため、米国に対して弱腰とみられるような妥協はしないと思われ、米中対立の行方は2020年も予断を許さない状況である。
米国大統領選の行方 6.71点
トランプ大統領はこれまでTPPやパリ協定からの離脱、米朝首脳会談など外交面で様々なサプライズをみせてきた。現在、米国下院では民主党が多数派を占めているため、国内政策で成果を挙げることは難しい状況にある以上、2020年秋の大統領選での再選のためにこれまで以上に外交面でのアピールに出てくる可能性がある。
仮に、それが対北朝鮮政策で行われ、核放棄との引き換えとして在韓米軍の撤退などを打ち出したとしたら、北東アジアの安全保障環境は激変する危険性がある。他にも、対中強硬姿勢をさらに強めたり、日本に対して在日米軍駐留経費の大幅な増額を迫ってくることなども考えられ、北東アジアに及ぼす影響は大きいとみられる。
南シナ海での中国の行動と増大する中国の軍事力 6.25点
中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は、南シナ海における紛争防止に向けた「行動規範(COC)」の策定を進めている。2018年8月に各国の主張を列記した草案を取りまとめた後、今年7月の中国・ASEAN外相会談で第一段階の条文整理が完了した。
もっとも、こうした協議の傍らで中国は依然としてベトナムやフィリピン等を排除しながら同海域の軍事拠点化や資源開発を進めている。また、中国はCOC策定の中で、「域外国との合同軍事演習に関係国の事前同意を義務付ける」、「資源開発を域外国とは行わない」など、日米欧など第三国の関与の排除・制限につながるような提案をしている。中国とASEANの国力の差は軍事的にも経済的にも歴然としており、事実カンボジアは既に経済援助と引き換えに中国側に取り込まれている。このままCOCが中国主導で策定されれば、南シナ海は事実上"中国の海"となりかねない状況であり、この海域を利用する第三国にとっては大きなリスクとなり得る。
香港の民主化運動の行方 5.33点
香港では、犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改定案を発端として、2019年6月から大規模な抗議運動が続いている。11月の区議選では、デモを支持する民主派が圧勝したが、中国は民主化の要求には一切応じない姿勢を崩しておらず、混乱はさらに長期化するとみられる。
さらに、米国では11月に香港での人権と民主主義の確立を支援する香港人権・民主主義法を成立させた。これに対して中国は、内政干渉だと強く反発し、米軍艦艇の香港寄港拒否などの報復措置を即座に打ち出すなど、香港も米中対立の舞台と化しており、こうした状況は2020年も続くとみられる。
蔡英文総統再選後の台湾と中国の関係 5.29点
中国の習近平国家主席は、2019年1月の演説で武力行使もちらつかせながら台湾に「一国二制度」での統一を迫ったが、2020年1月の総統選ではこの一国二制度を明確に拒否する蔡英文総統が、過去最多となる817万あまりの票を獲得して再選した。中国は今後、外交・経済・軍事面で台湾に対する締め付けを強め、中台関係がさらに悪化する可能性がある。
また、米国はトランプ政権発足以来、F19戦闘機の台湾への売却を認めたり、国防権限法に米国が台湾の軍事力を支援する内容を盛り込むなど、台湾への接近を続けている。台湾が有する半導体の最先端技術はハイテク覇権争いで中国を抑え込むカギとなるし、米国にとって台湾は中国抑止を念頭に置く「インド太平洋戦略」の要衝であることから、今後も米台接近は続くことが予想され、台湾海峡での緊張も高まり続けるとみられる。
領土・領海や、宇宙・サイバーなど新領域における危機管理メカニズムの未整備 5.29点
東シナ海をめぐっては、自衛隊と中国軍の偶発的な衝突を回避する「海空連絡メカニズム」の運用が始まっている。一方、海上保安庁と中国側のカウンターパートである海警との間には同様のメカニズムは存在していない。尖閣周辺への中国船の侵入の常態化に伴い海上保安庁の出動数も増加しており、偶発的な事故が起きた場合には事態がエスカレートしかねないリスクがある。南シナ海をめぐっては、「リスク9」でも触れたようにCOCの策定は進められているが、これが実効的なものとなるかどうかは不透明である。
新たな安全保障領域のうち、宇宙に関しては、宇宙条約が地球軌道・天体・宇宙空間に核兵器を含む大量破壊兵器は配備してはならない旨を規定しているが、通常兵器の配備は違法としていない。ジュネーブ軍縮会議では、宇宙空間におけるあらゆる兵器配置や利用の禁止のための軍縮条約案は提案されてはいるが、実際の交渉まで進んでいない。そもそも、地上における軍事行動が、人工衛星など宇宙空間に配備されているシステムなしでは機能しなくなっている現状が、宇宙軍縮をさらに困難なものとしている。サイバー空間についても、国連に設置されたサイバーセキュリティに関する政府専門家グループ(GGE)や有志国グループ、民間など様々な議論の舞台はあるが、国際規範が認められ、国際条約が成立するまでにはまだまだ時間がかかる見通しである。
海洋法が数百年をかけて国際規範を形成していったように、宇宙やサイバーでも同様に長期のプロセスが必要になるとみられるが、未整備の間隙を突くような不測の事態が生じるリスクは当面の間あるとみられる。
日本と韓国の対立 5.25点
日韓関係をめぐる2019年は、1965年の国交正常化以降で最悪の1年とも言われるものとなった。元徴用工問題の解決の糸口が全く見えない中、日本政府は(この問題とは無関係の措置であるという立場を取ってはいるが)一部半導体関連物品の輸出規制を対抗措置として繰り出した。この結果、両国の対立は歴史認識問題を超えて経済的分野にまで波及し、さらに8月に韓国政府が日韓両国間のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄を通告することで安全保障分野にまで拡大することになった。その後、韓国政府が破棄方針を撤回したとはいえ、あくまでも猶予であり問題は燻り続けている。12月に1年3カ月ぶり日韓首脳会談が行われたことは好材料だが、具体的進展はなく対話による解決を目指すことで一致するにとどまった。
こうした中、2020年4月以降に元徴用工訴訟の原告側が、日本企業の資産売却に踏み切る手続きが整う可能性がある。仮に現金化されれば日本政府の反発はこれまで以上に大きなものとなるが、韓国では4月に総選挙を控え、文政権としては支持層の反発を招くような対応はとりにくい状況である。また、韓国の文喜相国会議長が提出した元徴用工訴訟の解決をめざす法案も成立の見通しは立たない。
2019年には、中国とロシアが日本と韓国の防空識別圏上空で初の共同爆撃機訓練を実施したり、北朝鮮がその核・ミサイル能力の増強を続けるなど、日米・米韓同盟への脅威は依然として高まり続けている。本来であれば日米韓の緊密な連携が不可欠であり、日韓間では防衛交流さえ行うことができなくなっているこの状況自体が平和に対する大きなリスクとなっている。
米韓同盟、あるいは日米韓協力関係の動揺 5.00点
米韓同盟に関しては、事前に米国との十分な調整もないままに一旦はGSOMIA破棄の方針を示したことなど、日米韓の連携を軽視するような行動をみせる韓国に対する米国側の不信は強まっている。加えて、文政権が対北朝鮮協力に前のめりなことや、在韓米軍の駐留経費大幅負担増をめぐる協議が難航していることなども相まって米韓同盟には揺らぎが生じているといえる。仮に米韓同盟が破綻し、在韓米軍が撤退するようなことになれば、最前線国家となる日本はもちろん、北東アジア全体の安全保障環境が激変することになる。
日米韓協力関係については、これまで米国を軸とするハブ・アンド・スポークによるシステムで進められてきた。これが機能する条件としては、米国の同盟国同士、すなわち日韓の関係が良好であることが挙げられるが、現在日韓関係は国交正常化以降で最悪ともいえる状況にあるため、3カ国が緊密な連携を取り難くなっていることもリスク要因となっている。
習近平主席の日本訪問と今後の日中関係 4.88点
12月に安倍首相が訪中したのに続いて、2020年4月には中国の習近平国家主席が国賓としての訪日を予定しているなど、首脳往来が定着する流れとなっている。また、外交・防衛当局による「日中安保対話」など各種の対話も行われ、日中関係の改善基調は続いている。
ただ、尖閣諸島周辺では中国公船の領海侵入が常態化し、東シナ海で中国の一方的なガス田開発も続いているなど両国間の懸案は手つかずのままである。海空連絡メカニズムの運用は開始されているが、緊急時に相互に意図を確認するための防衛当局間のホットライン開設に関してはいまだ協議が続いており、偶発的事故が起きた場合の懸念は依然として拭い去れていない。また、中国の対日接近は厳しい対米関係と表裏にあるといえるが、米国の同盟国である日本にとっては今後、中国との距離の取り方は難題となることが予想され、2020年も日中安全保障関係の課題は多い。
異常気象と地球温暖化に伴う様々な現象 4.83点
世界気象機関(WMO)によると、2019年の世界の平均気温は観測史上2番目に高かった。その影響もあって2019年は世界各地で熱波や水害など大規模自然災害が相次いでおり、地球温暖化が人々の命や暮らしを直接的に脅かす存在になっている。
さらに中長期的にみれば、地球温暖化によって減少した食糧・天然資源の争奪や、大量移住に起因する混乱などが諸国間の紛争を招く可能性がある。また、現在の国際社会の取り組みは各国の利害の対立によって足並みが揃っていないが、こうした対立自体が多国間協調による安定した国際秩序をさらに後退させかねないリスクをはらんでいる。
核不拡散や、大国の核軍備管理体制の今後 4.75点
米朝非核化交渉は停滞し、イランは核合意で定められた制限に従わずウランの濃縮活動を強化することを発表するなど、この2カ国における核開発をめぐる状況は改善していない。
大国の核軍備管理では、米ロ間の中距離核戦力(INF)全廃条約が8月に失効し、新戦略兵器削減条約(新START)についても、ロシア側は前向きだが、米国側はここでも中国の核戦力増強を抑えられないとして期限延長に難色を示し、協議は進んでいない。
核兵器禁止条約(TPNW)の批准国が増加していることなど前向きな動きもあるが、2020年4月下旬から予定されている核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議でも厳しい議論が展開されることが予想される。2020年にNPT体制が即時瓦解して、北朝鮮やイラン以外からも核開発に乗り出す国が直ちに出現するような切迫したリスクまではないが、国際的な議論の動向は先行きが見通せず、不安定な状況である。
有識者アンケート「307人が見た北東アジア情勢の現状と課題」
言論NPOは、2020年1月21日の「アジア平和会議」補足を前に、北東アジアの平和を巡る日本の有識者の意識を明らかにし、同会議での議論に活かすため、言論NPOの活動に参加する有識者2000氏を対象にアンケート調査を実施し、307人から回答を得た。
その結果、北東アジアの現在および将来の平和のために取り組むべき課題について、「北東アジア地域の持続的な平和や安全を目的にした多国間の信頼醸成のための取り組み」が49.8%と約半数に達し、「アジア平和会議」がまず民間レベルで目指す多国間の平和の仕組み作りの必要性を、多くの有識者が認識していることが明らかになった。また、一方で、「日中、日韓、米中などの大国関係の安定」を重要と考える有識者も51.1%に上り、そのために「二国間の信頼醸成を進めるための定期的な対話・協力」を挙げる人も46.9%と並んでいる。
また、北東アジアの持続的な平和のために目指すべき原則や理念では、「不戦」を選んだ有識者が39.7%と最も多く、言論NPOが6年前に中国と合意し「アジア平和会議」創設の出発点となった「不戦」の理念への支持が、有識者の間で強いという結果になった。以下、「法の支配」(32.6%)、「領土主権の相互尊重などの平和五原則」(30.0%)と続いている。
一方、北東アジア等における軍事紛争や衝突が勃発する可能性を尋ねたところ、「南シナ海」については「数年以内に起こる」と「将来的には起こる」の合計が54.0%と5割を超えている。以下、「香港」(45.4%)、「朝鮮半島」(42.9%)などでも、4割近くの有識者が数年以内または将来の紛争の可能性を予測している。
「北東アジアの平和に関する有識者アンケート(2020年1月)」概要
北東アジアの平和のため、二国間の関係安定や対話・協力だけでなく、
地域の持続的な平和を目的とした多国間の信頼醸成が重要という声が約半数に
調査では、北東アジアの現在および将来の平和のために取り組むべき課題を選択してもらった。その結果、「日中、日韓、米中などの大国関係の安定」(51.1%)と、「日中、日韓、米中などの二国間の信頼醸成を進めるための定期的な対話や協力」(46.9%)の合計が9割を超え、有識者は日米中韓それぞれのバイの関係改善を強く意識している。「北東アジア地域の持続的な平和や安全を目的にした多国間の信頼醸成のための取り組み」(49.8%)も5割に迫り、「この地域の信頼醸成だけではなく、非核等の軍備管理を目的とした多国間の取り組み」(28.0%)と合わせるとマルチの枠組みを志向する回答も8割近くになっている。
北東アジアの平和のために重要な原則・理念は「不戦」が約4割で最多
北東アジアに持続的な平和を実現するために目指すべき原則や理念に関する質問に対しては、言論NPOが2013年に中国との間で合意し「アジア平和会議」創設の出発点になった「不戦」を選択した有識者が39.7%で最も多い。以下、「法の支配」(32.6%)、「協力発展」(30.3%)、「領土主権の相互尊重などの平和五原則」(30.0%)、「反覇権」(24.4%)の順となっている。
北東アジア地域等での紛争の可能性について、「南シナ海」で5割超、
「台湾」「香港」「朝鮮半島」「尖閣諸島周辺」でも4割近くの有識者が予測
続いて、北東アジアを中心に6つの地域を挙げた上で、それぞれにおける軍事紛争や衝突が勃発する可能性について質問した。
その結果、「数年以内に起こる」と「将来的には起こる」という回答の合計が最も多かったのは「南シナ海」で、54.7%と唯一5割を超えている。以下、「香港」(47.2%)、「朝鮮半島」(46.6%)、「台湾」(43.6%)、「尖閣諸島周辺」(38.1%)がそれぞれ4割前後で続いている。ただ、「数年以内に起こる」という、より切迫性があるとの判断は「香港」の20.5%が突出している。
「アジア平和会議」の参加国拡大を求める意見が7割。
このうち、ASEANやEUなど域外国の参加を望む声が3割を超える
言論NPOは2020年1月、北東アジア全域に持続的な平和を実現するための多国間協議「アジア平和会議」を発足させる。まずは「日米中韓」の4カ国でスタートするが、今後さらに参加国を拡大する計画もある。そこで、その場合の参加国について尋ねたところ、北朝鮮やロシアといった北東アジア諸国に加え、「さらに、ASEANやEUなどの域外国もオブザーバーで加えたほうがいい」という回答が33.2%で突出している。
德地秀士氏、阪田恭代氏、園田茂人氏、近藤誠一氏、澤田克己氏、三浦祐介氏、塚本壮一氏、加茂具樹氏、宮本雄二氏、道下徳成氏、伊藤信悟氏、小倉和夫氏、西正典氏、小野田治氏、奥薗秀樹氏、松田康博氏、神保謙氏、松原耕二氏、香田洋二氏、高原明生氏等
並びに
今回のアンケート結果にご回答いただいた307人の皆様に御礼申し上げます。