セッション2は、4カ国から11氏が参加し、「将来、この地域に持続的で安定的な秩序をどのように実現するのか」をテーマとして議論が行われました。ここでは、アジア平和会議が、誕生した意義や合意した平和原則をもとに、各国は北東アジアの将来でどのような「夢」を描こうとしているのか、といった突っ込んだ議論が行われました。
その実現のためにも民間側から政府に対してこの地域の平和ビジョンを突き付けていくべき、といった「アジア平和会議」の積極的な役割を求める意見が相次ぎました。
平和原則で合意した「不戦」、「反覇権」、「法の支配」の具体化を進める
まず日本側からは、言論NPO代表の工藤泰志が「アジア平和会議」を立ち上げた目的などを説明。その中で工藤は、「アジア平和会議」創設の原点は、013年の「東京―北京フォーラム」で打ち出した「不戦の誓い」であり、それを北東アジア全域に広げる、という当時の合意から準備始まった、と振り返りました。また、北東アジアのこの間の不安定化に背景に国民間の感情対立があったことを指摘し、外交は政府だけでは不十分であり、民間の役割が大きい、と強調、6年にも及ぶ長い準備の積み重ねで民間の力が結実して、この日を迎えた、と語りました。
この地域に平和を実現するためには現在、不安定化している二国間関係を安定化させるだけではなく、まず現状の平和を維持するために紛争を予防し防止する危機管理に仕組みをさらに強化すると同時に、信頼醸成の仕組みを二国間から多国間に広げる努力が必要と語りました。
また将来の平和の枠組みづくりは時間がかかるが、この日は4カ国間で、この北東アジアに目指すべき平和原則で、「不戦」のほかに「反覇権」と「法の支配」も大原則とすることで合意したことを報告。今後、これらの原則を骨格にしたビジョンや、この原則を実現すための行動規範に具体的に話を進めていきたいと、意欲を語りました。
もはや安全に責任を負えない米国。"ミドル・パワー"の国々は民間も含めた自助努力を
米国からは、ダグラス・パール氏(カーネギー国際平和基金ディスティングイッシュド・フェロー)が登壇。パール氏はまず、第2次世界大戦以降のアジア太平洋地域は、多様性ある国々で構成され、欧州のように決して協調的ではなかったのにもかかわらず目覚ましい発展を遂げてきたとした上で、その一因としては米国の関与とプレゼンスがあったからだ、と振り返りました。
しかし冷戦終結後、イラクやアフガニスタンで失敗を重ねた米国はその国力を疲弊させる一方で、日本や韓国の成長、そして中国の著しい台頭によって、この地域における米国の存在感は相対的に低下したと指摘。加えて、米国自身の内向き傾向もそうした存在感の低下に拍車をかけたと語りました。
その上でパール氏は、こうした状況では米国はこの地域においてあらゆる責任を負うことはもはや不可能であるとし、日本をはじめとする"ミドル・パワー"を有する国々は自らの責任によって自らの安全を確保していくことが求められてくると語りました。同時に、民間も知恵を絞るべきであるとし、「アジア平和会議」の意義を強調しました。
米中の信頼回復のためには、既存の対話だけでなく新たなプラットフォーム創設も不可欠
中国の賈慶国氏(北京大学国際関係学院前院長、政治協商会議常務委員)はまず、北東アジア地域においては、北朝鮮以外の国々は総じて現行のリベラルな秩序による恩恵を享受してきたとし、そうである以上秩序を維持することへの強い動機はあるはずであり、したがって協力は十分に可能であるとの見方を示しました。
しかし賈慶国氏は、その協力を阻害する要因としてはやはり、米中対立は非常に大きな難題であるとし、とりわけ両国間に相互信頼が欠如している現状を強く嘆きました。したがって、喫緊の課題は米中間に信頼関係を構築することであるとしましたが、その際の問題点として両国間で様々なレベルの対話が大幅に減少している現状を指摘しました。
その上で。いまだ残っている各種の対話をグレードアップすることや、ASEAN地域フォーラム(ARF)など地域の対話メカニズムを上手く活用しながら、信頼関係回復に努めるべきだと主張しました。
一方で賈慶国氏は、そうした政府レベルの外交だけでは不十分であるとも指摘。したがって、新たなプラットフォームもつくるべきであり、それは非公式で柔軟性の高い議論が可能であり、さらに民間の知恵も活かせるトラック2による枠組みが望ましいと語り、「アジア平和会議」の今後の展開に意欲を示しました。
各国の「夢」をパズルのように組み立てて、北東アジアのビジョンをつくっていくべき
韓国からは崔剛氏(アサン研究所副所長)が問題提起。これまでの日米中からの問題提起を受け、この4カ国による「アジア平和会議」の重要性に強く賛同しました。その上で崔剛氏は、この枠組みによってまず目指すべきものとして「共通認識の形成」だと強調。その中で、各国はそれぞれどのような北東アジアの将来を構想しているのか、それぞれの「夢」を持ち寄った上で、それをピースとしてパズルのように共通認識を組み立てていくべきである、と今後の議論の進め方について提案。そこでは一方的なアプローチに陥ることなく、互いの接点を模索するようなアプローチをしていくべきと説きました。崔剛氏は最後に、そのようにして民間がまとめ上げた北東アジアのビジョンに関するステートメントを各国政府に突き付け、その実行を迫ることこそが「アジア平和会議」に課せられた使命であるとしました。
その後、工藤が司会に戻り、この崔氏の問題提起を受け、北東アジアの未来にどのような夢を持っているのか、とそれぞれに尋ねました。
「アジア版NATO」に向けて
中谷元氏(衆議院議員、元防衛大臣)は、北東アジアの平和をめぐる現下最大の課題を、米中新冷戦の勃発を阻止することとした上で、とりわけ中国も含めた軍縮・核軍備管理の仕組みがない現状においては、緊張緩和のための国際会議の開催は急務であるとしました。
また中谷氏は、関係各国の信頼関係構築のためには、共通の課題に共に取り組むことが有効であると指摘。中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎のような問題への対応や、宇宙・サイバーといった新領域でのガバナンス整備などの新たな課題はその好機となるとしました。
最後に中谷氏は、自らの夢は「アジア版NATO」の創設であると発言、工藤の再質問に答える形で、その中には「中国も入る」と語りました。
北東アジアの将来は日韓連携の再構築次第
ミドル・パワーという言葉自体を世に出したことで知られる添谷芳秀氏(慶應義塾大学法学部教授)は、パール氏がその問題提起の中でミドル・パワーに論及したことに応じて、米中両国に影響を及ぼし、行動を変えさせることは一国だけでは非常に困難である以上、ミドル・パワーの国々が連携することが重要と主張し、その連携に際して日本にとってとりわけ重要なパートナーとなるのは韓国であることも強調しました。
添谷氏は、中国は米国を排除し「日中韓」を、米国は中国を排除し「日米韓」の枠組みをそれぞれ志向している、いわば米中の綱引き状態の中で日韓が連携することの重要性は大きく、日韓は様々な対話の機会を捉えて互いの重要性について再確認する必要があると述べるとともに、逆に言えば、日韓連携さえできれば北東アジアの明るい将来も一気に切り拓けてくるとの見方を示しました。
添谷氏は最後に、政府間関係の悪化にしばしば国民感情が引きずられてしまうことを指摘しつつ、民間が政府から一定の距離を保ちながらアイデアを出していくことが必要であるとし、「アジア平和会議」の果たすべき役割に強い期待を表明しました。
北朝鮮の非核化は米朝交渉や政府間交渉では不十分、民間も知恵を出すべき
韓国の李尙澈氏(元国家安保室第1次長)はまず、韓国の「夢」とは朝鮮半島の平和統一であるとした上で、しかし、現在の朝鮮半島は北東アジア最大のホットスポットになってしまっているのが現状だと嘆きました。その上で、米朝交渉の停滞に鑑み、事態の打開はもはや米朝だけに委ねるべきではないと主張。関係各国も積極的な関与をすべきだとしました。同時にこれまで政府間外交では十分な成果を出せなかったことを踏まえ、民間も知恵を出して提言をしていくことが重要であると指摘。それこそがまさに「アジア平和会議」の使命であると語りました。
北東アジア多国間枠組みの実効性と日米同盟
米国のデビッド・シェア氏(元国防次官補)は、多国間の枠組みをつくる際の留意点として、実効性を担保するための抑止力が必要であると指摘。北東アジアにおけるそれは日米同盟であると語りました。ただ、米国だけで抑止はもはや困難であり、日本側も新たな役割を担うことが必要となるなど、枠組み実現に向けて現実的にクリアしなければならない課題は多いとしました。
またシェア氏は、「アジア平和会議」については、政府同士の対話の場合、「目の前の書類に忙殺されて大局的な議論がしにくかった」と国防次官補当時の経験を振り返りつつ、民間の自由な発想による議論の展開に強い期待を寄せました。
同盟と多国間枠組みの共存を模索すべき
中国の張沱生氏(中国国際戦略研究基金会学術委員会主任)は、北東アジアの将来の夢に関連して、同盟の問題について語りました。この地域には日米、米韓という2つの重要な同盟が存在しているが、同盟の性質は排他的であるため、そこでは中国は敵視され、排除されていると指摘しつつ、習近平国家主席が日中首脳会談の中で「建設的な安全保障関係」を提示したことや、中国の国防白書の中でアジア太平洋地域における多国間の安全保障アーキテクチャについて論究していることを紹介し、それは決して同盟に敵対しようとするものではなく、共存を図ろうとしているものだ、と解説しました。
その上で同盟の方が排他的ではなくなるとともに、透明性を向上してくれさえすれば、中国としても協力がしやすいと要望。とりわけ、北朝鮮の非核化など利害が共通している課題や、非伝統的な安全保障分野などは協力の呼び水となりやすいと語りました。
張沱生氏は最後にNATOについて言及。当初は軍事的な要素しかなかったが、現在は政治的な機構としての要素も大きくなっていると指摘するとともに、これをアジアでも実現すべきであるとし、中谷氏に賛同。これはやがて米中共存の仕組みにもなっていくと期待を寄せました。
中国の歩み寄りの姿勢には賛同するが、複雑な意思決定の仕組みは障害に
増田雅之氏(防衛研究所 地域研究部中国研究室、主任研究官)は、張沱生氏が「建設的な安全保障関係」に言及したことを受けて、「建設的」とはすなわち、危機管理メカニズムなどの「制度化」を志向しているものだとし、その姿勢には賛同しました。
ただ、増田氏は日米間では軍同士で対話をし、課題が明確になれば自からスタンダードが形成され、制度化につながっていくとしつつ、日中間ではこれまでもなかなかそうはならないことも指摘。中国の場合は、別に複雑な意思決定が絡んでくることがその背景にあるとの見方を示し、「制度化」の困難さを指摘しました。
米中対立は今後も続くが、米国は中国に関与し続けるべき
こうした議論を受けて、パール氏が再び登壇しました。パール氏はその中で、米中関係は既に悪化しすぎているが、両国のシステムが異なる以上、今後も競争関係は続いていくという見通しをまず提示しました。
パール氏はその時々の状況に合わせながら最適な対処をしていくしかないと語りましたが同時に、米中協力が十分に可能な領域も存在しているとも指摘。その一例として、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)及び一帯一路を例として挙げました。
これまで米国はこうした中国の動きに反対してきたものの、中央アジアをはじめとする沿線諸国には旺盛なインフラ需要があるのは事実であるし、社会の安定化はテロの予防にもつながるとして、これは米国にとっても利益になると指摘。したがって、中国のこうした新たな取り組みを正当に評価しつつ、適切に関与し、中国が誤った方向に行かないようにする、いわば新たな関与政策をとっていくべきだと主張しました。
最後に工藤が総括を行いました。工藤は、議論の結果「各国の『夢』の一端が見えてきた」とした上で、それらはある程度共通した部分もあると指摘しました。したがって信頼醸成の枠組みをつくり、対話を続けていけば、「それぞれの『夢』の実現に近づいていく」ことは困難ではないと強調。そのためにも「アジア平和会議」で議論を進め、北東アジアの平和という歴史的作業に取り組みたい、と意気込みを語りました。