第6回日韓共同世論調査の結果をどう読み解くか

2018年6月18日


後半:朝鮮半島の新しい秩序形成で日韓が協力する意義とは

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kudo.png工藤 :今、皆さんとお話しさせていただいた北朝鮮問題が、今回の日韓の世論調査にかなり色濃く、全ての設問に反映されているのは間違いないと思います。ただ、今度はもう一度原点に戻って、その中での日韓の国民の意識がどうなのか、ということに話を移したいと思います。

 この世論調査を見ると、ちょっと気になったのは、韓国の国民の中で日本に対する印象がかなり改善しているということです。これは、韓国人の日本への渡航客が去年だけで700万人を超え、中国人と並ぶくらいのレベルになっている。その人たちが日本を実際に見て、「日本人は非常に親切な国民だ」という形で印象が改善し、若い世代にも「印象が良い」という人たちが出てきているということです。そういう意味で改善はしているのですが、日本人は全く、韓国に対する印象をなかなか改善できない。ただ、日韓の政府関係に対して「悪い」という認識はかなり減っています。一方、「良くなった」という認識もそれほどない。だから、本当の改善と言える状況が、世論からは確認されない。

 一方で、二国間ではお互いに「相手国は重要だ」という認識が、日本側は6割弱、韓国側は8割強を占めているのですが、その比率はだんだん減ってきています。特に、「なぜ相手国が重要なのか」という設問を見ると、日本の国民は「隣国同士だから」などというレベルの話しかありません。韓国人はそこにプラスアルファで「経済や産業の面で共通の利益があるから」という意見も多くなっています。ただ、今のいろいろな局面を考えながら、「日韓関係が重要だ」という認識に、国民がなかなかなり切れない構造も見えてきています。お互いの国民の相互理解の状況について、この大きな変化の中でこの調査結果が出たのですが、それをどうご覧になっているかということをお聞きしたいです。


歴史問題を巡り日本人に生じている韓国への「諦め」

nishi.png西野 :昨年の世論調査で見られたように、韓国では、やはり日本に対する認識が基本的に改善してきている傾向が続いていると思います。他方で日本は、昨年もそうでしたが、小康状態にあるのかなと。たぶん底は打ったのだと思いますが、改善に向けた具体的な兆しはまだ見えていない。

 それは、文在寅政権が発足し、果たして韓国がどうなるのか、という状況の中で、日韓関係について言えば、昨年12月末の、いわゆる慰安婦合意に対する韓国のタスクフォース(特別部会)の検討結果の発表。それから、今年1月9日の慰安婦合意に対する後続措置の発表は、「再交渉は求めないけれども、和解・癒やし財団に日本政府が拠出した10億円の使い道については、日本と改めて協議したい」という内容でした。韓国の立場をどのように考えたらいいのか、政府も分かっていないし、日本国民も「韓国は何を考えているのか分からない」という状況が、昨年来、依然として続いてきているのだと思います。その中で、まさに1月9日、日韓合意に対する後続措置が韓国政府から発表された後に、南北関係が急速に動き始めたわけです。そういう状況の中で、日韓関係は今、若干の小康状態、つまり政府で管理はされているけれど、具体的な措置がとられているわけではなく、「日韓関係は今後どうなるのかな」という認識がある。その中で、「相手国が本当に重要なのだ」という認識は、なかなか芽生えてきにくい状況が続いていると考えています。

sawa.png澤田 :「相手国に対する印象」について、6年間の経年変化を見せていただいたのですが、韓国側は、日本に対して良くない印象を持っている人が2013年には76.6%いたのが、今回は50.6%まで落ちている。他方、日本側はそこまで大きな変化がない。それを見て一つ思い出したのは、2012年8月に当時の李明博大統領が竹島に上陸したということがあって、そこから日韓関係が急速に悪くなったことです。そのときに、日本のある外交官が状況を心配して言ったことがすごく印象的で、「韓国の人は、本当に熱しやすく冷めやすいので、日本に対して否定的な評価がグッと上がってもすぐ冷める。しかし、日本人はここまで韓国への印象が悪くなると、たぶん回復するのにすごく時間がかかる、そう簡単には変わらない」と言っていました。実際に起きていることはまさにその通りだな、と思います。

oku.png奥薗 :韓国の日本に対する印象が良くなってきているということで、私が非常に大きいと思うのは、やはり700万人を超える人が直接日本を訪れている、しかも、東京ばかりに行くのではなく地方を訪れてくれる韓国人がかなり増えているわけです。これは、国家と国家の間で日本を見るという視点から、実際に日本に行ってみることによって、少し抜け出すことができ、そこで体験したことが非常に大きな影響を与える、ということが無視できないのだろうという気がします。あと、韓国ではここ数ヵ月の間に、人々の関心が一気に南北関係の方に向かいましたので、対日関係への関心が占める比重が小さくなったということもあるでしょう。また、平昌オリンピックのときの日韓の非常に良い雰囲気もありました。そういうオリンピック効果も、もしかしたら少なからずあるのかもしれない。そういうプラスの面があるのでしょう。

 日本側は、先ほど西野先生がおっしゃったように、慰安婦問題等を経てくる中で、言葉は適切ではないかもしれませんが、「韓国とはこういう感じでやっていくしかないのだ」という、若干の諦めのようなものを受け入れてしまっている傾向が出てきているのではないか、という気がします。文在寅大統領は、朴槿恵前大統領の弾劾、罷免という特殊なプロセスを経て大統領に就任されたわけですが、今までやってこられた外交政策を見ても、朴槿恵政権を否定するというプロセスは絶対に必要なのですが、結局、対米関係も対中関係も、そして慰安婦合意を巡る対日関係も、朴槿恵政権がやったことを否定しつつも、それほど大きな変化なく、同じ線上で維持してきているところがあります。結局、昨年末から今年正月にかけての、慰安婦合意を巡る、日本からすると非常に失望するような方針が示されたにもかかわらず、その後非常にうまくマネージして、2トラック、つまり、歴史は歴史、それ以外はそれ以外ということでやってきている。その中で、日本側からすれば、「韓国との関係はこのままやっていくのがいいのだ」というような、現状をこれ以上良くしようというより、これを受け入れてやっていこうという傾向が出てきているのではないかという気がします。


北東アジアの平和秩序を作る上で、日韓協力の重要性が一層高まっている

工藤 :皆さんおっしゃっている通り、調査結果の中に、揺れというか、矛盾したものがかなり見え始めています。南北問題があって、歴史的な大きなステップに入り始めているという状況に、今までの日韓関係の延長にある、諦めのような問題が一緒にくっつき始めているわけです。また、韓国の中でも、確かに北朝鮮に対する軍事的な脅威は減ったけれど、日本への軍事的な脅威はそのまま残ったり、まだ日韓間で軍事紛争があり得るのではないかという認識があったりしています。一方、歴史問題に関して、韓国の中にも、「日韓関係が改善するにつれて歴史問題も改善するのではないか」という楽観的な見方が出てきています。だから、日本に対する強硬な反発感情が、韓国国民の意識の中でけっこう穏やかになってきている、というのはあると思います。

 しかし、奥薗さんがおっしゃったように、日本の中には諦めのようなものがあって、実際、私たちが行っている日韓未来対話の寄付集めも大変なのです。応援する人が少なくなるという環境を、非常に痛感しています。しかし、先ほど来出ている朝鮮半島、北東アジアの大きな歴史的な転換があるときに、本来、日韓関係の重要性というものが再確認されなければいけないのではないか、と私は思うのですが、世論にはそういう意識が全く見えず、逆に漂流しているような状況です。だから、皆さんに改めてお聞きしたいのですが、日韓関係は重要なのでしょうか。

西野 :根源的な問いなのですが、もちろん大切だと思います。今、この局面で言えば、一般的には「北朝鮮問題があるから協力すべきだ」ということが、とりわけ北朝鮮の軍事的な脅威が高まってきて以降、盛んに言われてきており、それが日韓関係をある意味でくっつける役割を果たしてきたのは事実です。

 これから、今の局面の中では、朝鮮半島の緊張を緩和し、さらにはいわゆる新しい秩序を作っていく上で、日本と韓国が協力していくという意味での重要性が、さらに高まってきていると思います。朝鮮半島の新しい秩序を作る、すなわち朝鮮戦争の休戦協定を新しい平和協定に変えていく、平和体制を作っていく、ということは、基本的には南北朝鮮とアメリカ、中国の4ヵ国が中心的な当事者になるわけですが、日本ももちろん、この北東アジア地域の一員として、そこに加わっていかなければいけない。逆に言えば、日本が加わらない新しい秩序は、安定的ではあり得ないと思います。そういう意味では、韓国にとっても日本が必要だし、日本も朝鮮半島の新しい秩序に参加することが必要だと思っている。そういう意味で、日韓はともに協力できる関係だし、協力していかなければいけないと思います。

 それからもう一つ、今の局面で重要なのは、日本も韓国も、アメリカの同盟国として、トランプ大統領のアメリカが今後どういう方向で朝鮮半島問題をマネージしていく、あるいは引っ張っていくのか、ということに対する、韓国では期待も込めた不安感、日本では「本当に大丈夫かな」という意味でのかなり厳しい見方が出てきている。日本と韓国で見方は違うけれど、やはりトランプ大統領のアメリカに対する不安感は共有していると思います。歴史的に見ても、アメリカの同盟国である日本と韓国がともに手を携えて、アメリカをこの地域にしっかりと引き留める、あるいはアメリカのこの地域における建設的な役割を促していくという意味で、日本と韓国の協力の重要性がかつてなく高まっていると思います。

 今、安全保障の観点を中心に申し上げましたが、その他の面でももちろん、重要なところはたくさんあると思います。


日韓関係が持つ真の意義を、世論は認識できるのか

工藤 :西野さんのお話を伺うと、日韓関係の重要性は本当に再認識しなければいけない、これからの未来に向けてより高まっている、ということでした。私も全く同感で、それを思っていろいろな対話をやっているのですが、この世論調査を見てみると、「なぜ日韓関係が重要なのか」という問いで、「隣国同士だから」とか「同じアジアの国として歴史的にも文化的にも深い関係を持っているから」という答えが多くなっています。一方で、「民主主義などの共通の価値観を有する国同士だから」を理由に挙げた人は、韓国で9.2%、日本で9.4%と、1割にも満たない。また、「アメリカの同盟国同士として安全保障上の共通の利害を持っているから」という答えは、韓国の国民は14.7%、日本は23.4%にすぎないという結果でした。そういうことを考えると、国民の意識というものをきちんと考えないといけない段階に来ているのですが、この国民意識が変わる可能性はあるのでしょうか。

澤田 :「国民意識が変わる可能性」と言われても、なかなか展望は難しいのですが、西野先生がおっしゃったように、安全保障の観点から言うと、アメリカの同盟国として「日米韓」という枠組みは基本になっていますので、その重要性はお互いにもう少し認識を高めた方がいい、というところがあると思います。もう一つ、これも西野先生がおっしゃったように、米朝首脳会談の後、これから新しい秩序形成に向かって動く可能性があるわけです。そうなると、今までの北東アジアの安全保障秩序、安全保障環境から、いろいろな変化が起きていく可能性がある。

 そのときに、韓国は自分たちが今、主体的な役割を果たしたいと思っている中で、彼らとしても日本の協力を得たい、日本の協力がないと困る、と思っている。そうしないと、アメリカや中国といった大きなプレーヤーと一緒にやっていく中で、うまく転がしていけない、ということがあります。日本としても、韓国と協力をしていくことによって、日本の住みよい環境、日本にとって不利でない、心地良い安全保障環境になるべく近づけていくために動かないといけないのですが、そのときに一番協力してもらえるのは韓国であろう、というウィンウィンの関係にあると思います。

 そこで、奥薗先生がおっしゃったように諦めというものはあるのですが、歴史認識の問題を突き詰めてやっていくと、なかなかそんなものは簡単に解決できる問題ではないし、そもそも竹島のような領土問題が簡単に解決するなどということはあり得ない。ですから、日韓関係と歴史問題の関係性について聞いている設問の中で「歴史問題が解決しなければ両国関係は発展しない」という回答は韓国側で3割くらい、日本も2割強いますが、なかなかそんなことはあり得ません。「両国関係が改善するにつれて、歴史認識問題は徐々に解決する」と考える方も、韓国で3割強、日本で2割いらっしゃいますが、そういうことはない。両国関係を発展させる必要、両国が協力していく必要はあるけれど、だからと言って歴史認識問題が自動的に解決したり、あるいはなくなったりということではありません。そこのところは、逆にお互いが「諦める」必要があるのだろうと思います。


日本世論に根強く残る、文在寅政権へのネガティブな認識

工藤 :今、澤田さんがおっしゃったように、日韓関係の重要性はかなりあります。日本のメディアはそういう論調になっていますか。

澤田 :そうなっていると思います。

工藤 :たぶん、多くの国民は分からないのではないでしょうか。例えば、相手国の首脳に対する評価を見たときに、安倍首相に対する韓国人のイメージは改善できていないのですが、韓国の文在寅大統領に対しても、日本の国民はまだ判断ができない状況になっています。この調査を実施したのは南北首脳会談の1ヵ月後くらいで、この進展が分からないということもあるのですが、今の国民が、韓国に対する重要性以前に、何となく「何をやっているか分からない」という状況にまだあるのではないかという気がするのですが、どうでしょうか。

澤田 :距離感があるのだと思います。もう一つは、メディアの論調でいうと、「韓国との協力が重要だ」ということは当然の前提として言いますが、その重要な協力をするパートナーとしての文在寅大統領個人をどうやって評価したらいいのか、ということでは、当然、メディアによってかなり色合いが違ってくる部分はあると思います。当初は「大丈夫のなのかな」という視点が日本側にあったことは事実です。ただ、実際に1年間政権運営を見ていて、「対外政策はかなり現実主義でやっている」という評価も芽生えてきているという状況ではないかと思います。

奥薗 :当初、文在寅政権が誕生したときは、日本の見方は、非常に乱暴な言い方をすれば「盧武鉉政権のシーズン2」のような見方をしてしまったいたわけです。ところが、1年以上経って、まだ80%に迫るような高支持率を維持しているのです。それがなぜかという背景を考えたとき、文在寅大統領は盧武鉉政権の中枢を経験している方ですが、盧武鉉政権の失敗をちゃんと教訓として活かして、「対米関係や対日関係を犠牲にしてでも南北関係を強引に前に進める」ということをやったらどこかで破綻するのだ、と考えています。南北関係というのは、対米関係、対日関係、あるいは対中、対露関係まで含めてうまくマネージしながら進めないと結実しないのだ、という考え方、それを澤田さんは「現実的だ」とおっしゃいましたが、まさにそうだと思います。

 そのように考えると、日本の世論が文在寅政権に対して依然としてあまり良くならないというのは、そこのところの認識がきちんとされず、「親北朝鮮」というイメージで見てしまっている、そんな単純なところがまだまだ根強く残っているのではないかという気がします。


渡航者が増えても改善しない相手国へのイメージ

工藤 :そこは来年の調査では変わるかもしれません。

 あと、いつも気になることを専門家の方にお聞きしたいのですが、韓国の人たちは、日本への渡航客が増えるなど、国民レベルの交流が進んでいるにもかかわらず、今の日本を「軍国主義」とか「国家主義」と見ている人が圧倒的に多いのです。これはどうしてなのでしょうか。日本人も韓国を「民族主義」と考える人が圧倒的に多い。今のような本当に大事な関係であれば、もう少しお互いを理解する視点があってもいいと思うのですが、かたくなにそういう状況が続いている理由は何でしょうか。

奥薗 :「軍国主義」とか「国家主義」という言葉なのですが、韓国と日本は同じ漢字文化圏に属していますので、同じ言葉をそのまま用いるわけですけれども、語幣を恐れずに申し上げますが、韓国人は、日本人が「軍国主義」とか「国家主義」という言葉を日本人が使うときほどの覚悟をもって、そうした言葉を使っていないような気がします。すごく安易に使っている。私は韓国の友人に「あまりそういう言葉を安売りするべきではない」と時々言うのですが、単に、安倍さんに対する「極右政権」というイメージにのっとって、旧態依然としたワーディングを受け入れてしまうような安易なところがあるような気がしてなりません。

澤田 :奥薗先生が言っている通りだと思います。国というものに対して思っているイメージだけの問題です。もう一つ、「旅行客が多いから」ということが言われますが、1週間旅行して、すごく良いイメージを持つのですが、それが国家へのイメージにそこまで深い影響を及ぼすかというと、そんなに深いところまで影響を及ぼすことを期待するのはなかなか難しいかなと思います。

工藤 :つまり、本当の交流が必要だということですね。

澤田 :そうですね。ただ、そのような深い交流にはなかなか人数を割くことができないのです。何百万人が深い交流をする、ということは難しいですから。

工藤 :渡航客は増えたのですが、韓国で「日本人で親しい知人がいるか」という設問への回答には全く変化がありません。なぜ友人ができないのでしょうか。

西野 :基本的に、韓国の方が日本に来る場合、ほとんどは旅行でいらっしゃると思います。日本でおいしいものを食べて、観光地に訪れて、それで終わる、ということになってしまう。そうすると、渡航経験がある方、年間700万人以上日本に来ているわけですが、日本に本当の友達がいる人は非常に少ないと言わざるを得ないのではないでしょうか。

 それから、日本も韓国も、相手の国、あるいは他の外国を見る際には、その国の政治情勢、さらに言えばその国の指導者をどうしても見てしまうと思います。韓国から日本を見る際には今の安倍首相、とりわけ安倍首相が選ばれるプロセスを見ているわけですし、日本からすれば文在寅大統領が選ばれるプロセスを見ると、盧武鉉政権で中枢にいた人であり、かつ弾劾のプロセスを経て大統領になったということで、「ポピュリスティックな指導者ではないか」というイメージが固まっていると思います。ただ、実際には、奥薗先生がおっしゃったように、韓国について言えば、文在寅政権が発足して1年経った今の状況、この1年間の文在寅政権のあり方は、果たして我々が想像していた文在寅政権のあり方と同じなのか、というと、かなり違う。一言で言えば、いわゆる現実主義的な政権運営に努めてきた。そういうところがなかなか見えてこないし、見る努力が十分ではないのかなと思います。


政府やメディアは、日韓関係の意義を世論にもっと伝える必要がある

西野 :それから、日韓関係について言えば、政府の認識と、それ以外の認識とがかなり乖離しているのではないかと思います。政府レベルでは、今、この状況で日韓関係が極めて重要だということは、かなり認識されていると思います。だからこそ、歴史の問題は依然としてあるけれど、日韓関係をマネージしなければいけないということで、両首脳が一致している。文在寅大統領は2トラックという言葉を使うし、かつ5月1日には釜山の日本総領事館の前に設置しようとした徴用工像を設置させなかった。日本もそのことを高く評価していますし、安倍首相は5月9日の日韓首脳会談の際、文在寅大統領の就任1周年のお祝いでケーキをあげるというパフォーマンスまでしているわけです。それは、お互いに、「今、この局面で日韓が喧嘩するわけにはいかない」という認識が非常に強いからだと思います。

 問題は、政府がそれを両国の国民に十分説明しているかというと、たぶん十分説明していないということです。また、あえて言えばメディアの側も、そういった側面にもう少しフォーカスしてもいいのかな、と思います。

工藤 :最後の質問になります。今の西野さんの話とつながるのですが、今回の世論調査で浮かび上がったのは、お互いの重要性というものが非常に問われている局面、つまり、ようやく「未来」というものを含めて考えないといけない局面にありながら、今の時期だけかもしれませんが、世論が、それとかなり乖離しているということです。このまま進めてしまうと、場合によっては世論が外交の足を引っ張ってしまう危険性があるという状況もかなり浮かび上がったのですが、これから日韓関係を考えるときに何が必要なのでしょうか。今回の世論調査をもとに、皆さんの結論をお聞きしたいのですが、奥薗さんからどうでしょうか。


日本側にも求められる、冷静な「2トラック」の意識

奥薗 :今回の調査の中でも非常に印象的だったものの一つに、日米間の軍事協力に対する韓国側の非常に肯定的な数字とか、あるいは、統一後の朝鮮半島に在韓米軍がそのまま駐留することに対して肯定的な韓国側の意見、といったものがあります。それらは、かなりしっかりと現実を見据えているというところが、世論は実はあるのだろうと思います。

 ただ、日本も韓国もそうですが、政治家が国内的な文脈で、お互いの民族感情を刺激するような形で日韓関係を利用してしまうということが、残念ながら今も依然として見受けられます。文在寅政権は今、2トラックということを打ち出していますが、あえて言うと、両国の間に歴史を巡る摩擦は今後もずっと続くのだと思います。しかし、それはそれで、歴史以外は、対北朝鮮や経済などの面で協力しないといけない。あるいは、先ほど西野先生がおっしゃったように、中国が台頭してくる中でアメリカがアジアに対する関心を失わないように、どうやって日韓が協力してアメリカをアジアに引き留めるか、といったことも含め、2トラックというものを韓国だけでなく日本も徹底してどこまでやれるか。

 2トラックがそんなに簡単にできるのであれば日韓関係は難しくないのだろうと思いますが、ただ、そこはもう、我々は隣国同士です。ヨーロッパの隣国でも、摩擦はいくらでもあるのだろうと思います。それはそれとしてマネージしながら、協力すべきところはきちんと協力するという意味での2トラックというのを両国がどこまで徹底できるか、ということが問われるのだろうという気がします。

澤田 :温情的に「良い関係にならないといけないのだから」というようなことでなくていいと思います。もっと冷静、冷徹に利害関係を考えた上で、自分たちにとってどのように行動するのが利益なのか、相手が現実主義的な動きをしているのであればそれに合わせればいいのだし、そこに問題があるなら指摘すればいい。変に感情的な対立を高めることは、自分にとっても全く利益にならない、ということをきちんと考えていく。大人の対応ができるような世論を作れるように、メディアを含めていろいろなことを考えていくべきなのではないかと思います。


地域の平和に果たす日本と韓国の役割を、民間でも共有するきっかけの年に

西野 :世論調査で「なぜ日韓が重要なのか」と聞くと、「隣国だから」とか「同じアジアの国だから」という答えが多いわけですが、それはその通りで、問題は、そこからさらにもう一歩進めるか、なのです。隣国だから、同じアジアの国だから、自分たちがいるこの地域の将来にとって相手国が極めて重要な協力者であり、パートナーなのだ、というような認識を持つことができれば、今の南北関係の動きに、日本もある意味で、可能な範囲で積極的にかかわっていくことによって、朝鮮半島の新しい秩序に貢献する。それが結局、日本の安全、繁栄にも資するのだ、という視点が大切だと思いますし、韓国の方々、文在寅大統領はそのような視点をかなり強く打ち出しているのではないかと思います。文在寅大統領には「日本なしには、朝鮮半島の新しい秩序は安定的たり得ないのだ」という認識がかなりあるのだと思いますし、安倍首相もやはり、「朝鮮半島の新しい秩序は日本の将来にとって決定的に重要である」というような認識は、指導者同士ではかなり共有されていると思います。

 それを一般の国民が同様に持つことができるのか。持つように努力していくことが必要だと思いますし、幸い、今年は、両指導者がおっしゃっているように、(新たな日韓パートナーシップの構築を決意した)日韓共同宣言から20年の節目です。韓国政府は去年からかなりこのことを言っていたのですが、日本政府も今年に入ってから、とりわけ南北関係が急速に動き始めてから、「やはり日韓関係は重要だ」という観点で、「今年が1998年の日韓共同宣言から20年の節目である」と盛んに言うようになりました。これは一つの重要なきっかけだし、今年、6年半ぶりに韓国の大統領が日本を訪れましたが、願わくは今年の秋に、可能であれば国賓訪問で来ていただける、そのような環境を作っていく必要があるのではないかと思います。今年が非常に重要なきっかけだと思いますので、そこに向けてもう少し、我々が相手の国に関する関心を高めていけたらいいのではないかと思います。

工藤 :今日の、世論調査に対する分析は、今までない前向きな議論になったと思います。今まではかなりがっかりしているところがありました。というのは、それだけ大きな歴史的な変化に入っている。その中で日本というものが今後、アジアの将来の平和、地域づくりにどういう役割を果たすかが、今、問われているのだと思います。その中で日韓関係の役割が非常に重要な段階になっている。

 ただ、それを民間部門でもっと揉んで、いろいろな議論をしていかなければいけないとダメだと思っています。私たちはこの世論調査をもとに、6月23日、ソウルで「第6回日韓未来対話」を開催します。ようやく「未来」を議論できる段階に来ていると思います。それについては言論NPOのホームページでも可能な限りお伝えしたいと思いますので、これを踏まえて日韓やアジアの将来について一緒に考えていただければと思います。今日は皆さん、どうもありがとうございました。


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