2017年9月7日(木)
出演者:
西正典(元防衛事務次官)
香田洋二(元自衛艦隊司令官)
古川勝久(元国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
最後の第3セッションでは、北朝鮮の非核化に向けて、日本が何をすべきかについて話し合われました。
日本自身が手を汚すことの覚悟も必要
西氏は、新たな制裁の成否は「日本としてどう行動するか」にかかっていると主張。特に中国へのアプローチについて、「これまで北朝鮮問題では『中国の役割が大事』という論調が主だった。では、『中国が北朝鮮に圧力をかけるようになるために何をすべきか』ということを考えなければならない」、「単に『圧力をかけてください』とお願いするだけでは駄目だ。日本自身が手を汚すことも考えなければならない。そうした覚悟がないと間に合わなくなる」と喝破しました。その上で西氏は、中国に対してプレッシャーをかける方策として、「日本自身が法体制を着々と整備していく。そういう地道な取り組みこそが実は中国にとってはプレッシャーになる」と指摘しました。
北朝鮮政策では新たなアイディアが求められる
古川氏は、「司令塔の創設」、「禁輸物資の追加指定」、「実務能力構築支援」、「米中間の仲介」といった様々な提言をしました。まず、「司令塔の創設」については、日本はアメリカの方針に追随するのを基本方針としているが、実はそのアメリカはこれまで北朝鮮制裁に対して人的な資源を投入してこなかったと指摘。したがって、「日本は主体的に何をすべきか考え、さらにアメリカに進言すべき」であるが、日本の対北朝鮮政策も外務省内で責任の所在が明確になってないなどの課題があるため、中心となる司令塔を作るべきだと語りました。
「禁輸物資の追加指定」については、北朝鮮は技術的に部品その他を海外から輸入しないとミサイルを製造できないため禁輸を強化すべきであると述べました。同時に、原子力関連資機材・技術の輸出国が守るべき指針に基づいて輸出管理を実施している「原子力供給国グループ(NSG)」を紹介し、「こういった輸出管理は大変複雑な作業であり、そこに加盟していない中国やASEAN諸国に対して、『同じことをやってくれ』と言っても実務能力的に難しい」ため、「実務能力構築支援」が必要になると語りました。
「米中間の仲介」に関しては、「これまでイラン核合意ではフランスがアメリカとイランの間を、リビア問題ではイギリスがアメリカとリビアの間の橋渡しをした」と振り返った上で、「北朝鮮問題では中国の役割が重要だというのであれば、日本が米中間の仲介をすべき」と語り、そのための体制を整えることを提言しました。
古川氏は最後に、日本には上記のような北朝鮮政策のアイディアが不足しているため、「提言していくシンクタンクが必要だ」と主張しました。
欧州を引き込むべきか否か
「仲介」に関して、香田氏は、北朝鮮のICBMは理論上欧州も射程内におさめているため、新たな当事者としての「欧州への働きかけが必要」と主張。特にドイツに期待を寄せ、「メルケル首相に『話をしたい』と言われたら金正恩氏も『No』とは言えないだろう」とし、そのためにも「日本が欧州を引き込む『場』を設定すべき」と主張しました。
一方、この発言に対して古川氏は自身の国連在籍時の経験から「英仏は偏狭な国益に拘るし、ドイツもこれまでの制裁を着実に履行していない」ために欧州には期待すべきではないとし、あくまでも日本がリーダーシップを発揮することが必要とするなど見方が分かれました。
議論を受けて最後に工藤は、北朝鮮問題は「もう私たち国民にとっても関係のない話ではない」段階に入っているとし、今後も判断材料となるような議論を続けていくと語りました。