北朝鮮危機と日本の有事体制(下)
今後3年間のうちに最大の危機が訪れる

2017年6月18日

2017年6月13日(火)
出演者:
德地秀士(政策研究大学院大学シニアフェロー、元防衛省防衛審議官)
神保謙(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
古川勝久(元国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員)
香田洋二(ジャパンマリンユナイテッド株式会社艦船事業本部顧問、元自衛艦隊司令官(海将))

司会者:工藤泰志(言論NPO代表)

 言論スタジオ『北朝鮮危機と日本の有事体制』の(下)=第3セッションの議論をお送りします。第1セッションでは、依然として武力衝突の可能性が高いとの認識が示されましたが、これを受け第2セッションでは、どうすれば武力ではなく外交的解決に結び付けられるのかについて議論が戦わされました。第3セッションではいよいよ各パネリストが危機の行方と解決の方策について、持論を展開しました。


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第3セッション 危機は解消の方策はあるか

2017-06-15-(57).jpg 第3セッションのスタートに当たって、司会の工藤がアメリカでは「もはや北朝鮮が核を保有していることは事実なので、それを前提に対策を考えるほうが現実的だという議論が出ている」と、5月の訪米時の経験を報告したのち、各パネリストが考えるこれからの展開と解決策について聞きました。

2017-06-15-(51).jpg まず徳地氏が「仮に北朝鮮がミサイルに搭載しうる核弾頭を持ったとしても、抑止力を獲得したことにはならない。北朝鮮の体制保証にもならないということを、彼らに分からせないとなりません。それがやはりゴールだと思う」と述べ、「少なくとも日本としては2つやることがある」として、次のポイントを挙げました。

 一つ目が、北朝鮮が核ミサイルで脅してきても、それをはねのける「拒否力」を持つこと。そのためにミサイル防衛網を徹底して整備する。二つ目が日米同盟を強化すること。これはさらに二つに分かれ、一つは軍事行動を起こせる状態にしておく、つまり朝鮮半島の有事に備えた体制を整えておくこと。もう一つがアメリカが明確な北朝鮮政策を持てるように協議をすること。「アメリカが何をしようとしているかわからないと、中国に対しても北朝鮮に対しても同盟国に対しても混乱を呼ぶ」と指摘しました。

 これを受けて工藤が「北朝鮮を長期的に封じ込めるということは、核開発の凍結や廃絶は難しいということですか」と、香田氏に質問しました。

2017-06-15-(25).jpg これに対して香田氏は「アメリカは本当に米国本土に届く核ミサイル許すつもりはないと思う」と述べた後、今後の展開を次のように予想しました。オバマ政権時代と決定的に違うのは、オバマの時代には北朝鮮がそのような能力を持つまでに、まだ時間がかかると思われていたのに対して、現在ではあと2~3年でその能力を持つと見られていることです。

 「この半年間の危機で明らかになったのは、3年程度の期間しか残されていないということです。この3年程度で何もしないのであれば、核保有国として認めざるを得ないということになる。私がアメリカは北朝鮮を核保有国として認めないという前提でいます。何をするか分からない国の存在を許さないという理念から考えると、北とアメリカがギリギリの軍事対立をして、刀を抜く寸前で両国のコンタクトが始まると思います。今回だけは残る3年間の最後のチャンスとしてコンタクトが始まるでしょう。あとは結果次第です。核兵器開発をやめるかやめないのかで、平行線になったときに、今後3年間でもっと大きな危機が起こる」(香田氏)


交渉開始の条件に大きな隔たり

 続いて司会の工藤が古川氏に「制裁を徹底的に有効な形で機能させるということをベースにして実現する目標は、どういうところに置くべきなのでしょうか」と、問いかけました。


2017-06-15-(48).jpg これに対して古川氏は「対話と圧力とお題目のように言うけれども、対話は中国に丸投げ、圧力も中途半端ですから、それをさらに強めなければいけない。北朝鮮が核爆弾やミサイルをつくるうえでは、外国の製品や資金が必要です。だから、物の流れも止めないといけないし、お金の流れも止めなければなりません」と、金融制裁の重要性を強調しました。

 そのうえで「外交的アプローチもしっかりやらなければなりません。今は交渉するタイミングではないが、対話を始めるべきです。つまり北朝鮮が一番嫌がっているのは何か、そこを我々は重点的に突く必要があります」と述べました。さらに、実際は北朝鮮との対話の準備が整っておらず、「アメリカ、日本、韓国――ただでさえ足並みがまだ揃っていないのだが――北朝鮮とどういうタイミングで、どういう内容で話をするのか、つまりどういう条件で交渉を始めるのか。こういうところを実務的に考えなければならない」と、警鐘を鳴らしました。

2017-06-15-(37).jpg これに敷衍する形で、神保氏が「現在、交渉の条件は相当かけ離れた場所にある」と指摘しました。対話の一つの前提となるのは、2005年の6者協議(日中韓米北ロ)の共同声明で、北朝鮮が核兵器並びに核計画を放棄する見返りに、体制保証と日米との国交を正常化をするというものです。ところが、いま北朝鮮が求めているのは「2005年の共同声明は既に死んだ、我々はもはや核保有国である。交渉するとすれば、その前提を受け入れた後に始めてくれというのです。こちらから見るととても大きな開きがある話で、この隔たりを詰める作業をしなければならないのです」(神保氏)と、解説しました。そしてこの隔たりを詰めるには、パワーでアメリカが北朝鮮を圧倒することで「北朝鮮が対話による体制保証を付け加えなければだめだと認識して、初めて意味ある交渉ができる」と、指摘しました。

 最後に司会の工藤が、北朝鮮をめぐる東アジアの安全保障環境は新しい段階に入ったとの認識を示しつつも、「北朝鮮の核を凍結し、さらにそれをなくしていく交渉がどのように実現できるのだろうか。私はそのような可能性にもう少し賭けてみたいと思いました。この問題は現在進行形なので、適時議論していきたいと思います」と総括して、言論スタジオを終えました。

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