1.お互いの国に対する印象
2.日中両国の情報への関心
3.日中両国・日中関係の情報源
【日中相互の基本的理解】
4.知っている20世紀の歴史
5.日中両国の政治思潮
【双方の印象と日中関係に関する認識】
6.日中両国に対する印象
7.現在と今後の日中関係
【歴史問題】
8.解決すべき歴史問題
9.靖国神社参拝問題
10.ここ一年の歴史問題の認識
【アジアの将来と日中問題】
11.日本と中国の経済関係
12.軍事的な脅威
a.日本側
b.中国側
13.資源問題をめぐる協力の是非
14.お互いの国への訪問
15.行きたいとは思わない理由
1.調査目的
言論NPOと中国日報社および北京大学は、昨年夏北京で立ち上げた「東京--北京フォーラム」の第2回の東京大会を2006年8月3日から東京で開催した。この第2回フォーラムで、私たちは6月頃から日中双方の国で同時に実施された、共同世論調査および日本の有識者アンケート調査および中国5つの大学(北京、清華、中国人民、外交学院、国際関係学院)の学生アンケートを昨年に引き続き、公表した。
調査目的は、日中関係について両国の国民の相互認識や相互理解の状況、両国の懸案課題に関する両国民の認識や理解を把握することにある。世論調査にさらに二つのアンケートを組み合わせたのは、中国では学生、日本では社会で活躍するインテリ層の平均的な意見を加えることで一般世論を補完しようと考えたからである。
これらの設問体系や設問は昨年同様、言論NPOが北京大学などと協議し、合意に基づいて作成したものである。
私たちはこの調査結果を会議の場で公表することによって、今後10年間にわたって開催するフォーラムでの議論に、両国民の民意をできるかぎり反映させたいと考えている。昨年も調査結果の公表を受けて、日中両国民の間の認識ギャップの大きさに対する危機感が共有され、それが議論形成に大きく寄与した。
2.調査概要
日本では、世論調査と有識者アンケート調査を行なった。世論調査対象は、日本全国の18歳以上(除く高校生)の男女で、有効回収標本は1000本で、訪問留置回収法によって実施された。また、標本は、全国50地点で、1地点の標本数は20を選び、性・年代別の回収構成比が平成12年度の国勢調査の日本全国の構成比に合うように割り当てた。日本の有識者アンケートは、これまで言論NPOの議論活動や調査に参加していただいた人から2000人を選び、世論調査の内容にさらに専門的な内容を加えたアンケート票を郵送した。回答数は327件であった。学歴は大卒が68.6%、大学院卒が24.8%で、企業幹部、公務員、サラリーマン、マスコミ関係者、学者など日本社会で活躍する男性インテリ層の平均的な姿を示している。
中国では、世論調査は北京、上海、西安、成都、瀋陽の5都市の18歳以上(除く高校生)の男女が対象であり、有効回収標本は1,613本で、調査員による面接調査が行なわれた。標本抽出は先の対象都市から無作為に調査世帯を選ぶ、多段無作為抽出方法がとられた。
学生アンケートは、先の5大学から、専攻、学級、出身地域などを考慮して学生を選び、1,140人から回答を得た。
3.調査結果総括
調査分析結果を、(1)相互の交流経験・情報源、すなわち日中両国の国民が互いの国とどのような接点を持ち、情報を得ているのか、(2)両国の国民が互いの国の歴史や政治思想など基本的状況をどのように理解しているのか、(3)両国の国民が現在の互いの国についてどのような印象を持ち、日中関係をどのように捉えているのか、(4)日中関係の争点とされている歴史問題や靖国参拝問題について両国の国民がどのように考えているのか、(5)アジアの将来における日中問題の5点に分けて説明する。(1)相互の交流経験、情報源
日中は隣国でありながら依然、遠い存在であり、両国民間の直接交流は少なく、双方のメディアで両国の情報を知る程度である。日本人は中国を、中国人は日本を訪問したことがあるか、という質問に対して、訪問した経験を持つのは、日本人で12.9%、中国人で1.2%である。日本人の中国訪問の多くは観光である。また、互いの国に知人が存在するかという質問に対して、知人を持っているという日本人は17.6%、中国は 6.8%である。隣国でありながらも、両国の間の交流経験者が少ないことがわかる。
また、互いの国の情報にどの程度接しているのかという質問に対して、日本、中国双方とも「メディアで情報を知る程度」が最も高いが、中国が 76.0%で日本より10ポイント高くなっており、中国人の日本に対する関心のほうが相対的に高い。日本は前年に比較して中国に対する関心は若干ながら減少傾向にある。昨年の反日デモのような大きな事件がないためメディアで扱う記事数が減ったためと考えられる。
日中両国や日中関係を知るための情報源については、日中双方ともニュースメディアが9割近くと高くなっている。だが、最もよく利用するメディアでは、日本の一般国民はテレビが74.7%と最も高いが、有識者は新聞が52.1%と最も高くなっている。中国の一般国民はテレビが77.9%と最も高いが、中国人学生はインターネットが53.4%と最も高い。
ただ、メディア情報の客観性について尋ねると、日本では「客観性がある」と回答したのは一般国民で33.0%、日本側有識者で29.4%とそれぞれ3割程度だったのに対し、中国は一般国民の72.0%が、学生は47.5%が「客観性がある」と回答しており、中国人の方が自国の報道により信頼をおいている。
日本側では、「日本側に立った主観的な報道」と「日中間の対立を強調する報道」と感じているのは、一般国民で36.6%、有識者で50.8%であり、その客観性に疑問を抱いている回答が比較的高い。
(2)日中相互の基本的理解
中国側に多い、日本は「軍国主義」「民族主義」との理解 日本側の中国理解は「「共産主義」「社会主義」が依然多いが、「国家主義」などが増加日中両国の一般国民の互いの国の基本理解を把握するために、「20世紀以降の歴史」および「政治思想」等について尋ねた。日本人の中国の歴史に関する理解としては、天安門事件が79.2%と圧倒的に高い。だが、昨年と比較すると、天安門事件など政治史に関する回答がいずれも若干減少した反面、「人工衛星の成功」「原発実験・原発保有」、「国産自動車の誕生」の回答が増えた。日本人一般の中国の関心は、天安門事件等の政治・党の史実から、軍事や経済面へ少しずつ変化し始めているように思われる。
中国人の日本の歴史に関する理解としては、「満州事変あるいは日中戦争」が89.3%と最も高く、昨年とほぼ同じ値を示している。中国人の多くが日中戦争を軸に日本を理解しているのに対して、日本人は現在の中国をベースに理解している。
双方の現在の政治思潮の理解については、日本の一般国民の中国に対する理解は、共産主義47.5%、国家主義40.3%である。昨年「共産主義」を選んだのは72.2%で、昨年対比で大幅減少となったが、これは今年の選択肢に「社会主義」の項目を加えたためで、今回の「社会主義」の33.7%を加えると81.2%となる。昨年と比べて今回増加したのは、「国家主義」が32.1%から40.3%と8ポイントほど上昇したほか、「経済中心主義」も昨年の20.9%から25.6%と約6ポイント増加した。
これに対して日本の有識者は一般国民とは異なる傾向を示しており、大国主義が50.2%と最も高く、「経済中心主義」「覇権主義」「国家主義」がそれぞれ4割程度に並び、「社会主義」「共産主義」は2割台だった。
中国の一般国民の57.7%が日本を軍国主義、54.4%が民族主義であると理解しており、この傾向は昨年と同程度である。また中国の学生で最も多いのは「民族主義」の74.7%で、「国家主義」、「軍国主義」はそれぞれ56.8%と52.5%だった。
(3)双方の印象と日中関係に関する認識
双方のイメージは日本が「どちらとも言えない」が最も多いのに対し、中国人の日本へのマイナスイメージは昨年よりも若干改善された。 日中関係は依然日本側に厳しい認識があるが、中国人は昨年の日中関係に関する印象はやや改善し、今後の日中関係を楽観視する見方が多い。中国・日本に対してどのような印象を持っているのかを尋ねたところ、日本の一般国民は、「どちらとも言えない」と回答したのが51.5%、「どちらかというと良くない」が30.8%、「大変良くない」が5.6%となっている。昨年と比較すると、「どちらかというと良くない」、「大変良くない」という回答は同じ水準だが、「どちらともいえない」とうい回答が46.8%から51.5%へと4.7ポイント上昇している。また、この一年の意識の上での変化を尋ねた設問では、「やや悪くなった」が28.6%、「非常に悪くなった」が11.3%もある。
中国の一般国民は、日本に対する印象を「良くない」と回答したのが42.8%、「大変良くない」が14.1%で総じて中国人の日本に対する印象は、日本人の中国に対する印象よりも悪い。
だが、昨年と比較すると、「普通」が23.0%から28.2%、「良い」が11.0%から13.8%、「大変良い」が0.6%から0.7%へと上昇傾向にあるのに対して、「大変良くない」が18.6%から14.1%、「良くない」が44.3%から42.8%に減少しており、昨年よりもマイナスイメージが若干改善していることがわかる。
両国民の双方へのイメージは中国側では沈静化、日本側では、「どちらとも言えない」との回答が増えたものの、潜在的には依然不安定な状況下にある。
現在の日中関係については、日本の一般国民は、「あまり良くない」が56.5%、「全く良くない」が12.5%と、厳しい認識を持っている人が7 割近くおり、昨年とそう大きく変わっていない。日本の有識者では「あまり良くない」(67.0%)と「全く良くない」(13.1%)は合わせて80.1% もおり、日中関係の悪化を危惧している比率は一般国民よりも高い。
これに対して中国の一般国民は、日中関係について、「良くない」が35.5%、「大変良くない」が5.7%で合わせて41.2%であり、かつ昨年よりもこの二つの項目で13.7%も減少している。中国人の日中関係に対する悪い印象は昨年から沈静化傾向にある。また今後の日中関係に関しては、中国の一般国民は、日本人よりは楽観視している傾向がある。41.4%が「良くなる」と思っており、「悪くなると思う」の20.1%を大きく上回った。ただし、 36.5%の人が「分らない」と答えている。
日本の一般世論ではこれに対して最も多いのが「分らない」の66.2%で、「良くなると思う」と「悪くなると思う」はそれぞれ18.2%と15.2%で意見が分かれている。
日中関係が良くないのは、どちらに責任があると思うかという問いに対して、日本の一般国民の49.6%が「どちらともいえない」と回答しているのに対し、中国の一般国民は「すべて日本に責任がある」が62.3%、「大半は日本の責任」が35.2%と、約9割が日本側に責任があるとしている。この点も、日中で大きな認識ギャップがあることがわかる。
(4)歴史問題
歴史問題の解決にはまだ両国民とも悲観的である。 双方の国民とも靖国神社参拝だけでなく、他にも解決すべき問題があることを認識している。日本と中国の歴史問題について、「どの問題を解決することが重要であるか」という問いに対して、日本の一般国民が最も高い回答を示したのは、「首相の靖国神社参拝」の54.9%である。しかし、「中国の教育や教科書内容」が46.2%と次に高く、さらに、中国メディアの日本についての報道 27.3%、中国の政治家の日本に対する発言26.4%など、中国側にも問題があると考える人も存在する。有識者の回答の中で最も多かったのは「中国の教育や教科書内容」の63.3%で、首相の靖国神社参拝の56.6%を上回った。
他方、中国の一般国民で最も多いのは、南京大虐殺の問題の66.3%で、続いて首相の靖国神社参拝の60.3%、日本の教科書問題の57.7%が多い。つまり、中国人は首相の靖国神社参拝以外にも解決すべき問題があると考えていることがわかる。日本人は日本側の課題としては首相の靖国神社参拝問題への対応によって歴史問題が解決されると考える傾向にあるのに対し、中国人はそれ以外にも解決すべき問題があると考える傾向がある。
では、靖国神社参拝問題について、日中の一般国民はどのように考えているのか。日本人で多いのは、無宗教の国立追悼施設を建設すべきが 33.9%、日本の政治家が参拝しても構わないが27.4%、政治家が参拝すべきではないが17.8%である。中国人は、どんな状況でも参拝してはいけないが51.1%で最も多く、戦犯をはずせば参拝してもよいが30.4%、内政問題なので口出しをすべきではないが4.2%、日本の政治家が参拝しても構わないが3.3%となっている。中国の学生は中国国民の感情にもっと配慮すべきが60.8%で最も多く、続いて戦犯をはずすことができるなら参拝してもよいが19.9%だった。
この一年で歴史問題の解決に向けて、あなたの見方は変わったか、の設問については、中国側で最も多いのは「日本に毅然とした態度を取るべき」の 51.8%で、続いて「日本の対応で解決可能と感じる」(43.5%)と「解決は困難との認識が強まった」(41.0%)が並んだ。
日本側は同じ設問に、「解決は困難との認識が強まった」の38.1%が最も多く、「中国へ毅然とした態度を取るべき」(27.9%)が続いた。 歴史問題の解決には両国民ともまだ悲観的である。
(5)アジアの将来と日中問題
ア.経済関係
日本と中国との経済関係について、日本の一般国民は、「互いの国民にとって良い関係」が22.1%、「中国経済が日本経済を脅かしている」が 35.7%となっている。この点、有識者は異なる回答傾向を示しており、「互いの国の経済にとって良い関係」が69.4%と最も多い。日本側ではさらに、中国の発展に伴うアジアへの影響力について質問を行ったが、「中国は経済だけでなく、政治面でもアジアに影響力を拡大している」と考えているのが54.7%、国内問題解決が不十分であるためこのままの発展を続けるのが困難と回答したのが27.7%であり、今後、中国がアジアにおいて経済力のみならず政治力においても影響力を拡大するとの見方は多い。
中国の一般国民は、日中の経済関係が「互いの国の経済にとって良い関係」(29.5%)が最も多く、次いで、「中国経済が日本経済を脅かしている」が26.7%となっている。中国人学生は、両国に対して有利が58.9%と半数を超えており、日本の有識者の回答と同様の傾向を示している。
イ.軍事力
「軍事的な脅威だと感じる国はどこですか」という質問を日本人のみにしているが、北朝鮮が72.4%、中国が42.8%、アメリカが18.7%となっている。中国を脅威と回答した人にその理由を尋ねたところ、「中国は核兵器を保有しているから」が50.9%、「軍事力増強を続け、近い将来脅威となると思う」が47.4%、「中国の軍事力はすでに強大だから」が44.9%と答えている。逆に、中国人に対して、日本は軍事的脅威の国家であるか、という質問に「はい」が40.9%、「いいえ」が48.5%と日本は軍事的脅威ではないとの見方が若干多い。脅威と考える人に追加で「軍事的脅威と感じる理由」を尋ねているが、軍事戦略でアメリカと一体だから、が38.9%と最も多くなっている。
さらに、中国側では、「中国の軍事力拡大が日本にとって脅威だという意見が日本の一部にみられるが、この点についてどう思うか」という質問をしているが、「中国が防衛力を強化するのは当然」が43.5%、「中国側には日本に侵犯する意図がない」が38.4%となっている。
ウ.資源問題
中国が進める東シナ海での天然ガス田の開発をめぐる日中間の対立について、どう見ているかという質問について、日本、中国とも次のような回答傾向を示している。日本の一般国民は、日中関係全般に悪影響となる可能性が50.1%と最も多いが、中国の一般国民は、悪影響になる可能性が高いと回答したのは19.3%に留まっており、日中の協力関係や協議の行方を楽観視する傾向が強い。ただ、中国の資源問題での日本側の対応について、日本の国民は「話し合いで合意を得る努力」(53.5%)「協力関係」(43.5%)を期待する見方は強かったが、中国の世論では、こうした話し合いや協力は合わせて33.4%で、「日本と対立しても権益・国益を守る」が37.1%、「日本とは無関係に独自の戦略」が19.2%で、日本との関係よりも独自の考えや権益を優先すると考える中国人が合わせて56.3%にも達している。
エ.交流
ただ、日本と中国の両国民とも、日本と中国の交流の重要性を強く認識している。両国の首脳会談について日本側は8割近い人(79.1%)が「重要」「まあ重要」と答えており、また中国側も76.9%が「重要」「まあ重要」としている。また民間レベルの交流について日本側は72.3%が、中国人は 76.6%がそれぞれ重要性を感じている。日本の一般国民に対して、今後中国を訪問したいかを尋ねたところ、「観光で行きたい」が52.9%で半数近くが観光訪問を希望しており、同時に「行きたいと思わない」が43.5%と、4割が行きたくないと回答している。中国に行きたくない理由については「日本との関係が険悪だから」が 34.3%、言葉が通じないからが31.3%で、日中関係の悪さが中国を訪問したくない第一の理由となっている。
中国の一般国民に対して、日本に行きたいかを尋ねたところ、「行きたいと思わない」が60.2%と、「行きたい」の33.5%を大幅に上回っている。行きたくない理由を尋ねたところ、「お金がかかるから」が47.8%、「言葉が通じないから」が46.3%、次いで、「日中関係が険悪だから」が 32.6%となっている。
言論NPOと中国日報社および北京大学は、昨年夏北京で立ち上げた「東京--北京フォーラム」の第2回の東京大会を2006年8月3日から東京で開催した。この第2回フォーラムで、私たちは6月頃から日中双方の国で同時に実施された、共同世論調査...