10月16日、東京都内のロイヤルパークホテルで、明日の「第8回日韓未来対話」公開会議に先立ち、両国のパネリストによる非公開会議が行われました。8回目を迎える今回の対話は、新型コロナウイルスの影響もあり、初めてオンライン形式で行われることになりました。
過去の日韓関係構築の意義を明らかにし、若者が未来について語る機会に
まず、開会の挨拶として両国から3人が登壇。東アジア研究院理事長の河英善氏は、「握手の交換はもう終わった。具体的な解決策を提示する時期に来ている」として、ポストコロナ、米中対立下の世界秩序の行方、北朝鮮の核開発問題といった山積みの懸案に対して、両国パネリストに知恵を出していくことを求めました。
続いて、国際交流基金顧問で、元駐韓国大使の小倉和夫氏は、新型コロナウイルスが顕在化させた世界を覆う「暗雲」として、アンチグローバリズムや民主主義に対する疑念の拡大、さらには反中国の世論の世界的拡大といった懸念要素に言及。こうした状況の中では世界的視野に基づきながら日韓両国が協力できることを考えていくべきとしました。また、今回は、「日韓若者対話」という新たな対話を創設したことに鑑み、人生の先輩たちが過去の日韓関係の構築の意義を明らかにしてこそ、若者も未来について語ることができると呼びかけました。
最後に、駐日韓国大使の南官杓氏は、「過去は変えられないが、未来は変えられる」とした上で、未来に向けた日韓協力の可能性を探るような議論を求めました。特に、全世界が新型コロナウイルスのパンデミックによって深刻な打撃を受ける中では、「コロナ対応の優等生である日韓両国の出番だ」としつつ、ここに協力の余地は大いにあると語りました。
悪化した韓国世論の中にも希望はある
第1セッションでは、「日韓共同世論調査結果と日韓関係の分析」をテーマとし、昨日結果が公表され、日韓両国の各種メディアでも大きく取り上げられた今回の世論調査結果で見られた主な傾向について意見交換を行いました。
冒頭で、言論NPO代表の工藤泰志と東アジア研究院院長の孫洌氏が、この一年間の日韓関係の悪化が国民感情に影響し、韓国国民の対日印象の急激な悪化を浮き彫りにした今回の調査結果について、改めて報告。こうした世論の動向を踏まえ、日韓関係の解決の糸口を探とるような議論を居並ぶパネリストたちに求めました。
ディスカッションに入ると、国民感情の現状を憂慮する声が相次ぎましたが、生活や文化レベルでの認識は変わっておらず、悪化の"主犯"はあくまでも機能不全の政府間外交であるとの指摘が多く見られました。同時に、「改善に向けた努力を行うべき」といった両国民の声が多いことや、韓国世論にも文政権の外交や徴用工判決の強制執行に慎重な見方が一定程度存在していることなどから、改善の希望はあるとの見方も寄せられました。そして、国民交流が途切れないように継続していくことが重要であるとの認識で両国のパネリストは一致したものの、政府間外交の回復も急務との意見も見られ、菅首相には輸出管理措置の撤廃を、文大統領には元徴用工問題で「第三の道」を模索するように求める意見が寄せられました。
安保、経済両面で世論がすれ違う中、戦略の認識共有や政府間外交の機能回復は急務
第2セッションは、「変化する国際情勢の中で日韓両国の課題」がテーマとなりました。米中対立が深刻化する中、対立の狭間で厳しい立場にある点では日韓は同じ境遇にあり、さらに、新型コロナウイルスは世界各国の内向き志向をより強めています。こうした国際環境の変化の中で、日韓関係の今後について議論を行いました。
まず日本側の問題提起者は、日本世論の方が中国に対する厳しい見方を強める中、政府もインド太平洋構想の下、日米豪印の連携強化など対中連携の「制度化」を進めていると解説。一方の韓国はどちらの陣営にも与さない「戦略的曖昧性」を志向しているとし、中国の台頭が今後も続く中、こうした両国の戦略の違いを埋めて、どう共通認識を形成するかは大きな課題であると語りました。
韓国側の問題提起者は、中国の台頭だけでなく、核・ミサイル能力の向上を止めない北朝鮮への対応は両国にとっての共通課題であるとしつつ、日本の安全保障戦略の方向性が分かりにくい点を指摘。そうした不透明さが、日米韓安全保障協力を必要と考えながらも、竹島周辺での軍事紛争勃発を懸念したり、日本を軍事的脅威と見做す韓国世論の増大にも反映されているとし、日本の中長期的な戦略を韓国も共有することがまず必要と課題を提示しました。
ディスカッションに入ると、まず安全保障面では、米軍の世界展開を支える日米同盟と、対北朝鮮が主眼の米韓同盟では自ずと性質が異なり、日米韓協力が進展しない一因であるとの指摘と同時に、それにもかかわらず「本筋ではないところで揉めて、日韓軍事交流が停止している」ことに対する懸念の声が寄せられました。
経済面では、世論調査結果において「相手国の経済発展は自国にとって脅威である」との認識が両国で拡大している現状が明らかになったことを受けて、「従来、日韓は政治で対立しても、経済は動いていた。しかし今は、政治も経済も安保も一体化してしまっている。これではまさにトランプ大統領のやり方と同じではないか」との指摘が日本側から寄せられ、この一体化をどう解くかが今後の課題になるとの認識で両国パネリストは一致しました。
その上で、こうした課題が山積みの状況でも、政府間外交の機能停止を問題視する発言が再び相次ぎ、特に菅首相が日中韓首脳会談への出席に前提条件を付けたことに対しての苦言が相次ぎました。
協力のメニューが多彩な新型コロナウイルスへの対応
最後の第3セッションでは、「コロナ対策における日韓協力の可能性と今後の展望」について議論を行いました。
日本側の問題提起者は、欧米で感染が再拡大する中、日韓両国は抑制できているとの見方を示しつつ、「本来は、こうしたベストプラクティスを世界が共有すべきだが、それを広めるべきWHOが機能不全にあるため、共有できていない」と指摘。また、日韓がビジネス往来を再開する予定であるなど、今後人の往来が活発化させていくにあたっては、リスクアセスメントが不可欠であるものの、それもWHOの機能不全故に十分にできていないことも併せて指摘。こうした"WHO不在"により二国間、小数国間での取り組みを余儀なくされている中で、容易に国境を超えるウイルスに対して、どう国際協力を進めていくかは大きな課題になると語りました。
韓国側の問題提起者もこうした見方に同意しつつ、日韓両国は保健分野では協力を積み重ねてきた十分な実績があるため、WHOの動向如何にかかわらず、今後も粛々と協力を進めていくべきと指摘。それが世界の保健ガバナンス向上にもつながるとしつつ、具体的な検討課題として低開発国向けのワクチン確保などを提示しました。
ディスカッションでは、世論調査では、ある程度感染抑制ができているはずの日本の対応に対して、韓国国民の評価が低い結果となっていることから、双方の感染対策の現状と成果について、実務的な観点からの説明を行い、互いの理解を深めました。またそれに関連して、韓国の成果の要因となった個人情報管理型の感染対策と民主主義との緊張関係について、掘り下げた議論も展開されました。一方で、日韓のみならず世界で、コロナウイルスに対する対策についての意思疎通が図れていない現状が述べられ、早急な共有を行っていく必要性も指摘されました。
さらに、感染症のような国境を超えた課題に対しては、極力政治性を排除しつつ、専門知に基づいた科学的判断を重視すべきといった意見や、両国の高齢化を鑑み、新型コロナウイルスに対して脆弱性のある高齢者への対応で協力すべきといった意見が両国から相次ぎました。同時に、ビジネス往来の再開を控え、国境開放のルールや経済活動のあり方などについても、両国で議論を進めるべきといった点でも各パネリストは一致しました。
議論を受けて河英善氏は、「新たな複合的なモデルが求められている中で、実務的、実際的な議論ができた」と手応えを口にしつつ、明日の公開対話にも期待を寄せました。