続いて、「日韓共同世論調査結果と日韓関係の分析:日韓関係に対する回顧と評価」をテーマとした第1セッションが行われました。
今回の調査結果は、この一年間の日韓関係の悪化が国民感情に影響し、韓国国民の対日印象が急激に悪化していることが浮き彫りとなっています。このセッションでは、こうした世論の動向を踏まえ、日韓関係の解決の糸口を探りました。司会は、東アジア研究院院長の孫洌氏が務めました。
正確な情報の確保、そして、日韓協力の成功の歴史を振り返るべき
冒頭で、孫洌氏と、言論NPO代表の工藤泰志が、今回の調査結果のポイントについて、改めて報告。
その後、ディスカッションに入ると、ソウル市立大名誉教授で、前東北アジア歴史財団理事長の鄭在貞氏は、韓国側の対日印象悪化の背景として、日本に関する情報の不正確性を指摘。政府や大手メディアの流すバイアスのかかった不正確な情報の影響力が強く、それが日本に対する表面的で不正確な理解につながったり、「日本は嫌いだけど日本には行きたい」など、相反する感情を生み出していると分析しました。
鄭在貞氏は、改善策として政府やメディアの情報の質向上だとしましたが、それが現状困難であるならば、専門家や市民レベルが正確な情報を伝えていくべきとしました。
同時に、韓国側の意識面では「自省」必要であるとし、積弊史観に囚われることなく、これまでの日韓協力の成功の歴史を振り返るべきと語りました。
国力接近をポジティブな意識の転換に
慶應義塾大学名誉教授の添谷芳秀氏は、地政学的緊張や両国の国力の接近など構造的変化の中で、日韓関係は重要な転換点を迎えているとし、今回の世論調査結果はそうした変化の中での混乱も反映しているとの見方を提示。とりわけ、これまでは韓国側が日本の行動に対してすぐに反応する「敏感性」が高かったものの、今では日本側にもそうした敏感性が高まっていることが調査結果からも垣間見えると指摘。
もっとも添谷氏は、「日韓関係は重要」、「関係を改善すべき」といった声は、両国で完全なマジョリティであることを踏まえ、こうしたポジティブな声を強調していくべきとも主張。同時に、両国は友好国関係であることを実感させるような取り組みが必要であるとしました。また、両国の国力接近を踏まえ、韓国側に対しては、「もはや日本に頼る必要はない」といった意識になるよりも、「同じレベルの協力をしていこう」というような、ポジティブな発想の転換を求めました。
2021年、東北での日韓首脳会談に向けて
中央日報編集局長の金玄基氏は、日本世論の性質を空母に例え、「方向を変えるのには時間がかかるが、一旦変えてしまえば速く、安定する」と指摘。その上で、方向性を変えるきっかけとなるのはやはり首脳会談であるとしました。もっとも、年内の日中韓首脳会談は仮に実現したとしても「会うだけに終わる」とし、具体的成果が出る来年以降になるだろうとの見方を示しました。そして、来年以降政治が進めるべきこととして、1965年日韓基本条約の遵守や1998年日韓共同宣言の精神の確認、日本側の輸出管理措置の撤廃と、韓国側のGSOMIAカードの封印、元徴用工問題で両国の政治が知恵を出し合うこと、などを提示。そうした上で、来年が東日本大震災から10年であり、さらに菅首相が秋田出身であることを踏まえつつ、東北で日韓首脳会談を開催し、そこから日韓関係を仕切り直すべきだと提言しました。
日韓関係の特殊性や敏感性を熟知したスタッフが不在のまま、外交方針を決めている両国
静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授の奥薗秀樹氏は、日本の輸出管理措置を「賢明ではない」と批判しつつ、しかし、そうした措置を取らざるを得ないほど、韓国大法院判決は日本にとって深刻な衝撃であることを韓国側も鑑みるべきと指摘。また、その深刻さへの認識共有が韓国政府と全くできていないことへの切迫感が、菅首相の首脳会談に対する留保につながっているとも語りました。
一方で、教科書問題や靖国神社参拝などとは異なり、輸出管理措置は生活に対する直接的な脅威であると韓国人の多くは認識しており、それが日本へのかつてない反発につながっていると指摘。
その上で奥薗氏は、両国政府が相手の反応を見誤っていることへの背景には、安倍政権下の日本では首相官邸に、韓国では青瓦台に、日韓関係の特殊性や敏感性を熟知したスタッフがそれぞれ不在のまま、外交方針が決定されていることが一因であるとの見方を提示。その点、安倍外交のスタイルを継承しないことを明言している菅首相が、今後どのような対応をするか、注視していく必要があると語りました。
"上から目線"の中高年と、日本が重なって見える韓国の若者
一橋大学大学院法学研究科准教授の権容爽氏は、これまで対日印象が良かった韓国の若い世代も、今回調査では大幅に悪化した背景として、韓国社会の流行語を紐解きながら指摘しました。例えば、自身の経験を一般化して若い人に考えや行動などを一方的に強要する中高年世代のことを指す「コンデ」を挙げながら、「若い世代にはこうした"上から目線"への反発が大きいが、彼らには日本の対応も同様に見えている」と分析しました。
同時に、新型コロナウイルスへの対応や、文化面での成功から、もはや韓国の方が先進国だという意識も広まってきていることも、日本に対する見方の変化につながっていると指摘。もっとも、スポーツのみならず、他の分野でもあたかも日韓戦のように、「日韓どちらが上か」といったような過度な競争意識が広まりつつあることには懸念も示しました。
コンテンツの交流拡大を今すぐ始めるべき
韓国で、ドラマをはじめとして様々なコンテンツ制作を手掛けるChorokbaem Media代表取締役の趙亨眞氏は、こうしたコンテンツが相手国の好感度や認識形成に寄与することの大きさは、調査結果からも明らかであると語りました。したがって、日韓関係の改善はコンテンツ拡大こそ有効であり、その具体策として、ドラマの共同制作や、韓国内での日本原作の積極利用などを提言。「今から準備を始めれば、二、三年後には確実に成果が出てくる」と自信をにじませました。
議論は休憩をはさんで第2セッションに続きます。