言論NPOは10月17日、今年から新たに創設した「日韓若者対話」を開催しました。日本と韓国両政府の感情的な対立が深まっている中、両国関係の未来を切り開くにはどうしたらいいのか。今年から創設された「日韓若者対話」は、日韓の学生と、その課題に取り組んでいる40歳以下の社会人の参加者同士が、なにものにも囚われることなく、率直に意見を交わし、日本と韓国の未来へ向け、豊かで開かれた関係の構築に糸口を見出そうという狙いから生まれました。
対話には日本側から高校生一人を含む大学生、学術研究者、政府関係者、メディア関係者ら12名、韓国側からは大学生、大学院生、政党関係者ら6名が参加しました。司会は、言論NPO国際部長の西村友穂が務めました。
今年の言論NPOの日韓世論調査で、日本側に驚きを持って受け止められたことがあります。日本のアニメ、漫画、食事、ショッピングなどへの関心、興味から、それまで日本に対して韓国の2、30代の好感度が徐々に高まっていたのが、今年の調査では逆に悪化してしまったからです。そのきっかけは、なんだったのか、日韓政府間のやりとりが原因だったのでしょうか。
気候変動など世界の普遍的な課題に日韓が取り組み、信頼関係を結び、そこから韓日間に残っている問題に繋げていく
世論調査によると、今の若者の情報源は、新聞、テレビではなく、携帯アプリなどのニュースサイトで、メディア・リテラシーの低下を指摘する識者もいます。また高齢者はテレビの過激報道に毒されやすい傾向が心配されています。日本側の一橋大学大学院法学研究科准教授の権容爽氏は、「1990年代初頭に比べれば、日韓はお互い本音で語れるようになってきた。歴史問題では、加害者の日本と被害者の韓国、それぞれがお互いの論理を築いてきて、今は関係の正常化、成熟化に向けての"陣痛"を迎えている」と説明。ただ、最近の韓国の若者の対日関心が極めて低くなっているのが懸念材料で、文化体験のあり様が個人的に変化してきているのか、との見方を示しました。こうした背景から、日韓の対話参加者には、三つの基本的な問いが用意されました。①今では当たり前となってしまった反日、反韓の声をどう思うか、それは、どう解決すべきか、②日韓関係は重要だと思うか、③日韓関係のどの分野で、両国は協力すべきか、との問いが司会の西村から投げかけられました。
韓国側の代表的な意見の一つとして、日本で政治を研究している韓国の女性は、「歴史、領土問題など懸案事項は別にして、韓日文化交流で双方の若い人たちが、ドラマや料理などへの想いを共有している現実は押さえておくべき」とした上で、徴用工問題では、歪曲された世論を信じるのではなく、韓日の未来の政治リーダーは、気候変動など世界の普遍的な課題に取り組むことで、信頼関係を結び、そこから韓日間に残っている問題に繋げていけばいい。問題を複雑化することなく、世界市民の観点から話し合うべきだと、新しい韓日関係構築を呼びかけ、「愛に勝つものはいない」と語りかけました。
また、「過去二年間、慰安婦問題とか徴用工問題などで問題があったのは、その内容よりも、相手を無視するなど韓日双方の態度が、問題をこじらせている」、「米中対立の中で、米国につくか、中国につくかではなく、戦略的に韓日関係には接点があるはず。私たちで東アジアの地域秩序を作っていくべき」と、お互いの態度を改め、真摯に話し合っていく、という前向きな発言が続きました。
過度に日韓の若者に期待せず、直接交流できる時を待つしかない
一方、特派員としてソウルに五年間駐在していた日本側の女性記者は、客観的視点として、「過度に日韓の若者に期待せず、直接交流できる時を待つしかない」と冷静に語ります。「慰安婦問題の合意で、韓国の若者世代で特に反発が強かったのは、反日というフレームではなく、今の若者が"公正"、"正義"という価値観を重視しているからで、それが日本の一連の輸出規制への反発や韓国世論の悪化に繋がったのではないか」と指摘。一方で、日本の若者の韓国文化への関心が高まっているからといって、そこに歴史問題などが絡んでくると、日韓の大きなギャップが出てしまうため、オンライン交流を続けながら、コロナが落ち着くまでの間に、感情面も落ち着かせて、直接交流できるのを待つことが大事だと語りました。
コロナ禍という通常の生活ができなくなっている状況では、それまでのように日韓を往来できず、等身大の経験がなくなります。そこで、ニュースサイトやテレビだけの情報収集に引っ張られるようになっては、日本への関心も興味も薄れていくのは必然ではないか、との発言もありました。
16歳の高校生から見た、日韓関係の現状と未来
対話の場で参加者の耳目をひいたのは、16歳の日本の男子高校生の発言でした。彼は「反日、反韓というのは当然だ」と言います。学生時代、日本で韓国について学ぶことと言えば、伊藤博文を暗殺した安重根、そして韓国を植民地支配してきたことなど、負の歴史ばかりであり、韓国も同様であると指摘し、こうした教育の時点で日韓の生徒は負のバイアスを持ってしまうと語り、日本と韓国の若者が歩んできた道を明解に掘り起こして見せました。さらに、日韓両国の教育システムが大学受験を一つの目標としていることを挙げ、「暗記が重視され、頭を使わずに考えることなく周りの情報に流されてしまう、という教育構造から反韓、反日は来ているのではないか」と語りました。そうした点を克服するためにも、グローバル化の中で一人一人が考えられる国民になって、将来のリーダーになっていく。コロナの時期なので、表面的な文化交流のみならず、オンラインでの中高生のディスカッションが必要ではないか」と語り、日韓関係の未来に明るい希望を見出すような16歳の声でした。
今回の若者対話を皮切りに、日韓若者間で課題に取り組む大きな流れづくりに
一時間半に及んだ日韓の若者対話を見守ってきた言論NPOの工藤泰志代表は最後に、「皆さん、自分の言葉で語っていて、とても面白い対話だった」と総括。専門家たちが自分の持ち場だけで話し合っているよりも、個人の体験がとても重要であり、こうした若者同士の対話が大きな流れになっていくには、一つの課題に取り組むチームを作らなければいけない。この動きを来年以降にも繋げていき、共鳴を起こす。そうした日韓間の流れを変える時には、若者の力が必要だと両国の若者代表に呼びかけ、日韓未来対話初の若者対話は幕を閉じました。