セッション1に続いて、「変化する国際情勢の中での日韓両国の課題および今後の展望」と題して、セッション2の議論が行われました。
まず、韓国側司会の崔鍾賢学術院院長で国連大使も務めた朴仁國氏から、日韓両国は一対一の関係から、北東アジア地域、あるいはアジア全体といったグローバルな中で、お互いの戦略を構想するべき時期に来ているのではないか、と指摘。そうした中で、このセッションでは、日韓両国の過去について話をするよりも、私たちが直面する問題を未来志向でどのように解決していくことができるのか、様々な視点で意見交換を行いたいと語り、議論はスタートしました。
米中対立は日韓両国を接近させる機会になるかもしれない
日本側の問題提起者として発言した慶應義塾大学名誉教授の小此木政夫氏は、今回の世論調査結果で意外だった点として、徴用工の問題について、韓国側で一番多いのが「市高裁の判決に従い、強制執行を行うべき」が36%で最多となっているものの、「金銭的支援は韓国政府や民間が代わりに務めるような政治的決断が必要」(18.2%)、「日本企業は強制執行に従う必要はない」(14.0%)、「日韓両国の企業や個人の寄付で財団を設立し、被害者に保証する」(6.2%)といった柔軟な考え方を併せると36%を超えることから、韓国側の考えも軟化しつつあるのではないかと指摘しました。
さらに、米中対立を懸念しているという点では日韓共通であるものの、日本は南シナ海や領土問題に神経を尖らせているが、韓国は中国の韓国に対する強圧的な政策に神経を尖らせているとの相違点を主張。その上で、世論調査結果で語られていない重要な点として、「米中対立は日韓を接近させるのか、それとも遠ざけるのか」と述べました。小此木氏自身は、「米中対立の深刻化は日韓を接近させるのではないか」と語り、その根拠として、9月24日の日韓首脳会談で文在寅大統領の「日韓は戦略的な利益を共有している」との発言から、日韓は戦略的な利害を共有しつつあるという印象が両国の指導者の中で生まれつつある兆しではないかと説明し、日韓関係にとってこれからの数年間は非常に重要な時期になると語りました。
議会や政治家がリードして日韓関係の門戸を開くべき
韓国側の問題提起者のソウル大学教授の朴喆煕氏は、日韓両国ともに、自国が正しくて相手国が間違っているのだから、相手国が譲るべきで、自国やるべきことが無い、と自己優越主義に基づいているために、それ以降の解決の話し合いができない原因になっていると述べ、日韓両国の認識が悪化している責任は、日韓両国に責任があると指摘します。その上で、日韓関係を半歩でも進めるためには、歴史が日韓関係の全てであるような認識を改め、日韓両国が互いに善意を表明し、コンテンツや民間交流を強化し、お互いに対する認識の改善に努力する必要があると語りました。そのために朴喆煕氏は、議会がリードして門戸を開くべきであるし、政治家がやるべきことの役割が大きくなると強調しました。
共に民主党の国会議員である盧雄來氏も、これまでの韓国の政界では、日韓問題を国内政治に悪用し、問題を大きく拡大して煽っていたような側面が大きかったとし、政治家も反省すべきだと自戒も込めて振り返りました。また、徴用工問題については、それぞれの主張をしているだけでは解決策を模索するのが難しく、日本企業の韓国国内の資産を現金化するための手続きが進んでおり、実際に現金化されてしまうと日韓関係は更に悪化してしまうために、韓国の国会議長である文喜相氏の解決案を一つの方策として改めて議論すべきではないか、との提案がなされました。
国民の力の国会議員である趙太庸氏も、徴用工問題について国会や政治、さらに文在寅大統領が国の世論を調整する必要があると指摘。同時に、日本政府や国会を巻き込んで議論することで、問題の解決策を模索する努力が必要だと語りました。一方で、国際司法裁判所への提訴については解決策にはならないとし、否定的な見方を示しました。
政府間関係が悪化する中、日韓関係の底を支えているのは民間
こうした韓国の政治家の発言を踏まえて、慶応大学名誉教授の添谷芳秀氏は、政治的な関係と民間の見方は完全に一致しておらず、今回の世論調査結果についても悪化しているものの、総合的に見ればそれほどでもないという印象も受けると語り、政府間関係がここまで悪くなっていても、民間が日韓関係の底を依然として支えている側面があると指摘しました。そして、日韓両国は同じ船に乗っており、「どのようなアジアが望ましいのか」という将来に向けたアジェンダを共有している。政治家はもちろんのこと、民間を含めたオールジャパン、オールコリアで対応していく必要性を訴えました。
自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は、日韓関係の将来について語る上で重要なこととして、日韓両国にとって同盟国であるアメリカとの付き合い方、さらにアメリカと対立する中国との付き合い方、そしてハイテク分野で日韓両国がどのような協力をできるのか、という3点を挙げました。特に2つ目の中国との付き合い方については、日韓両国で温度差があることを指摘し、基本に据えるべきは民主主義、自由、人権といった価値観や理念であり、中国と手を組むというわけにはいかないと強調します。その上で、アメリカの大統領選挙が終わった後、日韓は中国にどのように対峙していくのかを話しておかないと、中国が暴れだしたときにブレーキを踏むことはできないとの危惧を示しました。
アジア一カ国では対抗できない中国という巨人に対して、
中国が暴走する時にブレーキをかける横の連携づくりが必要
静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授の奥薗秀樹氏は安全保障の分野から、日本が主張する「自由で開かれたインド・太平洋」構想(FOIP)や「日米豪印戦略対話」(Quad(クアッド))は、中国に敵対しようという明確な意図に基づいたものという認識ではなく、中国が暴走しないように既存の秩序を中国に守らせるために、FOIPやQuadという枠組みが必要だと主張。その上で、韓国はイシューごとに立場を変えながら、時にはアアメリカや日本と行動し、時には中国と一緒に行動しながら自らの国益を確保するという方向に踏み出すのであれば、日本やアメリカは極めて深刻な問題として対応せざるを得ないとの危惧を示しました。
香田氏も同調し、Quadは中国というアジア一カ国だけでは対抗できない巨人に対して、横の連携を保つというものであり、もし韓国が参加しないとなると、韓国はアメリカと中国のどちらにつくのか、という由々しき問題に直面すると主張。日韓の価値観が同じというのであれば、政策調整をやりながらQuadに韓国も参加し、中国が暴走する時にブレーキをかけ得るための団結を中国に見せる体制づくりが重要だと語りました。
日中韓サミット開催のためにも、文在寅大統領は徴用工問題についての解決方法を一刻も早く提案すべき
最後の締めくくりとして小此木氏は、来年は日韓両国ともに選挙シーズンに突入するために、日韓関係を改善していく余裕は失われると指摘。そのためにも、年内に開かれる予定の日中韓サミットは開催されるべきであり、それをきっかけに日韓関係の改善に弾みをつけるべきだと主張。そのためには、文在寅大統領は徴用工の問題について、両国政府と全ての関係当事者が受け入れられる最適な解決方法を一刻も早く出すべきだと語り、徴用工問題についてのボールは韓国側にあることを指摘し、議論を締めくくりました。