言論NPOは、11月30日開催の「第16回東京―北京フォーラム」に向け、パネリストの方々にインタビューを行いました。
新規無料登録はこちらご入会はこちら
米中対立の深刻化に加え、新型コロナウイルスのパンデミックによって世界が混迷し、さらに日中関係も厳しい状況にある中、日中間で民間対話を行う意義とは
初日の全体会議に登壇する岸田文雄氏(自由民主党衆議院議員、元外務大臣)はまず、新型コロナウイルスのパンデミックや、国家間、各国内における経済や社会の分断が進んでいることのマイナスの影響が「経済、政治、安全保障はもちろん、貧困や難民、保健、さらには平和構築など幅広い分野に及んでいる」と強い懸念を表明。その上で、「しかし、政府レベルの対話だけでは、こうした様々な問題に対して、細かく、丁寧に目を配ることはできない。やはり、裾野の広い民間レベルでの議論があってこそ、こうした幅広い課題をフォローすることができる」とし、そうした幅広い対話が可能な「東京―北京フォーラム」の意義を強調しました。
同じく初日全体会議に参加する玉木林太郎氏(国際金融情報センター理事長、元経済協力開発機構(OECD)事務次長)は、日本と中国の関係を、「単なる二国間関係としてのみ捉えることは、問題を矮小化しすぎているし、議論のステージを限定しすぎてしまう」と指摘。両国が直面している問題は、「おそらく他のどの国も直面している問題であるので、同じ次元で共に考え、共にソリューションを見つけていくべき」と語りました。そしてそのためには、「官であれ民であれ、知恵を持つ人が参加する。日本にとって有利なソリューションだけ、中国にとって有利なソリューションだけを追求するという人ではなく、視野の広い人が、様々な角度からソリューションを見つけ出すための議論をすることは非常に有意義だ」と民間対話の意義を示しました。
「不安定化するコロナ禍の世界と日中両国の責任」をテーマとする政治・外交分科会に参加する川口順子氏(武蔵野大学国際総合研究所フェロー、元外務大臣)は、「国と国との関係というのは、もはや中央政府同士の関係にとどまらないものになっている。今や、物事を動かすのはマルチステークホルダーになっている」と指摘。個人や企業、地方自治体など様々なアクターの声が反映されるようにする必要があり、そのためには民間も参加するこの対話が最適な舞台になると語りました。
同じく政治・外交分科会に参加する玉木雄一郎氏(国民民主党衆議院議員、同党代表)は、米中対立の激化、アメリカの新政権発足に加え、「ウィズコロナ、アフターコロナ」という新たな課題に直面した世界は、重要な転換点を迎えているとの認識を提示。そのような状況の中、今後の世界で大きな役割を果たしていく中国と世界に先んじて対話を行うことには世界的な意義があると語りました。そして、急激な変化の中で新たなモデルを各国が手探りで模索する中、それを形作ることを、自由な発想を持つ民間が主導して行うことには、大きな可能性があるとし、その意義を強調しました。
「メディアは両国関係の将来にどう希望を持っているか」をテーマとするメディア分科会で、日本側司会を務める川島真氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)はまず、「軍事・安全保障、それからテクノロジー、人権問題も含めて、米中対立が様々な領域に広がっている。また、国家体制をめぐる問題で、民主主義体制か、それとも権威主義体制か、といったいろいろな論点がある」と問題提起。その上で、「そこでの大きな問題は、国と国の争いになってしまっているなど、国家が前面に出てきているということだ。経済関係やテクノロジーの問題であれば、本来であればもっと企業ベースの議論があってもよいはずなのに、技術の管理など、国が何を管理するべきか、といったようなことに皆の注目が集まっている」と指摘しました。
こうした国家が前面に出てきている状況に違和感があるとした川島氏は、「社会の方が考えて、何かを発信していく、ということがもっとあってもいい。だから、こういう対話で、民間の声、それも国境を超えて民間の声を上げていく。そこにこの『東京―北京フォーラム』の意義がある。民間同士でやればすべて丸く収まるという単純な話ではないが、国家同士でやり合うのとは違う観点を得たり、ダイナミズムを生み出すことが、今こそ大事だ」と語りました。
「地域の紛争防止と目指すべき東アジアの平和秩序」をテーマとする安全保障分科会に参加する神保謙氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)は、「日本と中国は世界のGDPでも二位、三位の国で、地球全体のグローバルな状況から見ても、本当にトップの大国同士の二国間関係である」ことを重要なポイントとしつつ、だからこそ「この二国間の関係をどう安定的に管理するか、というのは単なる二カ国だけの問題ではなく、地域に対する責任問題になる」と語りました。
その上で神保氏は、「そうであるが故に、地域秩序をどうするか、ということを、お互いの英知をもって話し合わなければならないが、今までそういう対話はあまりなかった」とし、「政府ベースだけでなかなかできないのであれば、民間ベースで、日中関係にとどまらず、地域秩序をどうするかということに関する議論をしていくことが大事だ」と民間対話の役割を指摘しました。
「デジタル技術の将来と日中技術協力の可能性」に関する「特別分科会」に参加する岩本敏男氏(NTTデータ相談役)は、企業人のあり方として、利益追求をする一方で「ビジネスを通じてより良い社会をつくっていきたい」とも考えているとし、「そういう意味で見ると本来、政治では扱えないような本音の議論を、民間の企業人がやっていくということはとても重要だ」と語りました。そして、この「東京―北京フォーラム」は、そうした企業だけではなく、文化、メディア、研究者などの多種多様な民間の知恵と力を結集していく良い機会であるとの認識を示しました。
今回新設の新型コロナウイルス分科会で、「日中両国やアジアでコロナ収束と経済再開をどう進めるか」について議論する押谷仁氏(東北大学教授)はまず、今回の新型コロナ対応をめぐっては、「非常に政治的になってしまって、WHOも必ずしもリーダーシップをとっていない」と問題点を指摘。WHOが機能不全であるために、国同士の様々な対話のチャネルによって情報や対応の仕方、反省点などを共有していくべきであるのに、それができていないとし、こうした現状の中では対話チャネルのひとつとして「民間の対話も必要だ」と指摘。特に、新型コロナ感染拡大に比較的成功している日中両国の知見は世界にとっても重要になるとの見方を示しました。
「分極化する世界経済の行き方と日中両国の立ち位置」をテーマとする経済分科会に参加する森浩生氏(森ビル取締役副社長)は、「なんとなく相手を悪者にして、自分たちの価値観だけを押し付けていく」という昨今の言論空間の傾向に懸念を示しつつ、「それは対話ではない」と指摘。「中国を悪者だと決めつけるのはおかしいし、そういう凝り固まったイメージを払拭するためにも、民間レベルでストレートに話し合うべき。逆に、日本からも中国に中国政府が一国二制度を守ることは、世界に対する良いメッセージになるということを伝えるべき」と対話の意義を強調しました。
今回のフォーラムで、我々は何を中国と議論すべきなのか
経済分科会に登壇する中尾武彦氏(みずほ総研理事長、前アジア開発銀行総裁)は、米中対立に関して、アメリカ側にも大きな問題があるとし、中国を封じ込めたり、対立軸をことさらに強調すべきではない、ということは対話でも伝えていくべきとしました。
しかしその一方で、南シナ海や東シナ海、そして香港やウイグルをめぐって世界を失望させたり、挑発的な態度をくり返している中国の姿勢も問題視。こうした挑発的な態度は問題であることを「中国側にも分かってもらわなければならない」と語りました。
その上で中尾氏は、「中国国内の一般世論は、テレビを見ているだけだから、そこまで分からないかもしれないけれど、リーダーやインテリ層は中国がやっていることがいろいろな問題を生んでいるという面も知っている。中国が穏健にやっていけば、誰も中国を封じ込めるようなことはしない、ということを分かってもらう必要がある」とし、日本が中国を善導するような議論をしていくことへの意気込みを示しました。
森氏は、先日、日中韓、ASEANなど15カ国が東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定に合意、署名したように、この地域で一つの巨大な地域経済圏が出来つつある一方で、日本には米国との別の経済圏があることを指摘。「この二つが対立するのではなくて、共存する方が大事」とし、「中国の顔も立て、アメリカの顔も立て、その中でそれぞれの経済圏を発展させるための役割を果たすこと」を模索する議論が経済分科会では必要だと語りました。
玉木雄一郎氏は、政治・外交分科会では、「中国に対して持っている思い、あるいは期待するところ、むしろ逆に変えてもらいたいところ、大国として世界の中で責任ある役割を果たしてもらいたいというところを、政治家として直接対話の中で率直な意見交換がしていきたい」と抱負を語りました。
川口氏は、政治・外交分科会で議論する際に必要な視点として、「日中関係は地域、そして世界の発展のために重要である」ことを提示。その上で、「この認識を双方が持った上で議論しなければならない。単に日中二カ国間だけの話ではなく、そういう大きな視点を意識しながら議論していきたい」と述べました。
これに関連して岸田氏は、政治・外交分科会に対し、「日本外交のあり方も議論していただきたい」と要望。世界が大きく変化する中で、「日本という国がどうあるべきなのか。どういったポジションを取るべきなのか。この複雑な国際社会の中では、強かな外交をしていくことが求められるが、では、どういった外交を進めていくのか。皆で議論することによって、何らかのヒントやアイデアを出してほしい」と期待を寄せました。
岩本氏は、リアルの世界で米中デカップリングが囁かれている中、インターネットの中でも分断の議論が出てきていることを指摘。デジタルが堂世界を変えていくか予測不可能だからこそ、議論が必要だと主張しました。
岩本氏はさらに、AIが秘める可能性にも着目。AIが人知を超えて、「社会構造を変化させてしまうような、そんな大きなパワーを持っている」からこそ、「AIを利用したり開発するためのガイドラインをつくらないと、不測の事態が起こってしまうかもしれない。そこでは、データ超大国となった中国を抜きにしては議論はできない」とし、ガイドラインや倫理原則に関する議論をしていくことへの意気込みを語りました。そして、「人権や政治的な仕組みの話になってしまうと、異なる体制間では話がかみ合わないが、このテクノロジーの世界は違う」とも語り、特別分科会での議論の成功に自信を滲ませました。
川島氏は、メディア分科会での議論としてまず、軍事・安全保障面やテクノロジー面、民主主義や自由をめぐる価値をめぐる問題といったような、国家間関係において、現在主要な論点になっているものについて、「それは社会から見るとどう見えるのか、民間から見るとどう見えるのか、社会ベースではもっと折り合えるようなことがあるかもしれないし、むしろ逆に対立が深まるというようなこともあるかもしれない。両方の可能性があるが、それを様々な観点から探っていく」と語りました。同時に、民間自身にも問題もあるはずであり、それを探る議論もしていくと語りました。
神保氏は、米中対立と世界の分断が進む中でも、「日中という二国間関係を見ると、必ずしも分断が続くという流れの中に置かれているわけではない。独自のダイナミズムというものがそこにある」と指摘。安全保障では競争的な側面が強いものの、この競争を安定的に管理させることはできるはずであり、それを探ることが議論の一つのポイントになると語りました。
同時に、インド太平洋構想と一帯一路構想には重なり合う部分があると指摘しつつ、この重なり合う部分をどう探求していくことが、地域の安定や発展にもつながっていくとし、安全保障分科会ではこうしたことにまで視野を広げた議論をしていくことへの意気込みを語りました。
押谷氏は、これまでの各国の対策を通じて、成功例も失敗例も蓄積されているとし、「ベストプラクティスを共有できるような議論をしていくべき」としました。特に、新型コロナ感染拡大抑制に比較的成功している日中両国の知見は、世界にとっても重要になると新型コロナウイルス分科会の果たす役割を強調しました。