国分良成 (慶應義塾大学法学部教授、東アジア研究所所長)
こくぶん・りょうせい
1953年生まれ。76年慶應義塾大学法学部卒業。81年同大学大学院政治学専攻博士課程修了。85年同大学准教授、92年同大学教授、99年同大学地域研究センター所長就任。この間、ハーバード大学、ミシガン大学、中国・復旦大学、北京大学、台湾大学法学院等に客員研究員として留学。主著『中華人民共和国』等。
これからの日中関係を考える場合、大きな枠としては、世界やアジアの変化というものがあって、その次に日中間の変化がある。最後に日本と中国のそれぞれの国内の問題がある。そういう全体の位置付けの中で、日中関係をどう考えるかということだと思う。世界全体の流れからいくと、もちろん国際政治的にはイラク戦争とか9.11テロの問題があり、東アジア情勢では北朝鮮とか様々なことがあるが、やはりこの地域の問題でいくと、絶えず経済先行であり、それが政治的なネットワークを必ずしも強化していないという問題が残っている。
その際の大きなテーマになってきているのは、最近のフォーリン・アフェアーズなんかにも出ているが、中国が、従来の被害者意識による外交をやめ始めたということ。自信を持ち始めたのかも知れないが、中国自身が協調外交、多国間主義、そういうものを積極的に掲げるようになってきた。北朝鮮の問題とか FTAの問題もそうだが、中国自身が自ら台頭し、一方で従来の歴史の被害者みたいな立場だけだったのが、大分立場が変わってきており、ある意味では、中国自身が積極的に国際社会に関与するという事態が初めて生まれてきた。その中で今のアジア全体の中で実は、「重要なのは日中関係ではないか」という流れが出てきている。日本は今経済的に落ちこぼれてなかなか浮き上がれずに元気がないが、中国では加熱のするように経済が動いている。
だが、日中間の関係というものが、アジア全体の関係を形作るファクターとして最も重要であるのに、ある意味では最も弱い関係という状況が存在している。日中間の関係の確立というか、そういうもののお互いの相互信頼とかそういうものが十分に出来ていない。それをどういうふうに作りあげていけばいいのかということが最大のテーマだと思う。
その上で中国の台頭という現象に対して我々はどういうふうに付き合うかということを考えないとならない。その時にやっぱりアメリカとの距離、関係を考えながらアジア同士の連帯というのはどういうふうに考えるのかという、将来的に向けての議論が必要になっている。この3月に言論NPOでやったシンポジウムではアセアンからの声も聞いたが、その時の言葉に意味を感じた。つまり中国に対して「脅威だけれども付き合わなければいけない」「脅威だから付き合う」と。この中国の問題は無視できなくなっている。
もう一つ、それとの関係で少し話を広げると日中同士の関係でいけば、日中関係の中にはもちろん、従来的には歴史問題があり対話問題があり、あるいは様々な経済摩擦があり、船舶問題があり、ということだったが、しかし最近の日中関係の中ではもっと社会レベルのいろんな問題が起こってきていることは間違いない。
経済摩擦は今のところは処理しきれているけれども、それがいろんな形で相互補完だけれどもぶつかり合ってくるという可能性があり、その時に、それぞれの国内政治と関係してぶつかってくる可能性がこれから予想される。相互依存が深まればそれだけ摩擦が増えるわけで、そこのセーフティネットをどう作っていくかという問題がお互いにある。まず中国側について言うと、中国の経済体制の整備の問題、制度の問題、それが今後どういうふうに出来るだろうかという問題。それから、日本側にしても、どうしても政治的な介入があり、日本全体の戦略や国益配慮というよりは農業の問題とかそういう一部の問題での対立だけが出てくるわけでその辺をどう乗り越えるかという問題がある。
日中関係の恐らく今後起こりうる様々な問題のセーフティネットという点で言えば、やはり一過性ではない対話のチャネルをさまざまな形で社会に広めていくことが必要で、その意味では言論NPOの議論交流の努力は今後も広げていく必要がある。
今回のテーマで言えば、日本中国の将来的な可能性で10年、20年先と言えば、シナリオは無限に考えられる。20年後に中国の政治や経済がどうなっているのか、と言う問題もあるし、それは日本にも言える。しかし、そうした大きな枠組みでの議論はさまざまな形で継続的に必要だし、その意味では今回の言論NPOのシンポジウムがその第一歩になればと思っている。
これからの日中関係を考える場合、大きな枠としては、世界やアジアの変化というものがあって、その次に日中間の変化がある。最後に日本と中国のそれぞれの国内の問題がある。そういう全体の位置付けの中で、日中関係をどう考えるかということだと思う...