国際協調とルールに基づく、世界の新しい共通の秩序を~「第16回 東京-北京フォーラム」全体会議開幕式 報告~

2020年11月30日

「第16回東京-北京フォーラム」(言論NPO、中国国際出版集団共催)は11月30日、コロナ禍の新たな波の到来が心配される中、東京と北京の会場をオンラインで結び2日間の日程で開幕しました。一度も途切れることなく毎年、継続されてきた民間対話の舞台は、新型コロナウィルスにもめげることなく"3密"を避け、異例の態勢で開かれ、zoomとYoutubeで同時配信さされました。


平和なアジア、世界の構築に向けた歴史的な一歩を踏み出すための合意を

A18I0089.jpg 初日の全体会議では、同フォーラム日本側実行委員長の明石康・元国連事務次長が主催者を代表して挨拶を行いました。

 明石氏はまず、過去16年間の活動と成果の上に、更なるレベルに発展させる絶好の機会になると強調。その上で、中国は、昨年末に始まったコロナウィルス最初の被害者となり、武漢地域で始まった感染拡大を殆ど完璧に克服している点で、日本人の私たちが学ぶべき相互の経験と知恵の意見交換ができるのではないか、と期待を示しました。

 さらに日中関係について明石氏は、国交が回復した1972年以来、日中は信頼し合える隣国として協力し、共に歩んできたとする一方、日本の国内世論には中国の東シナ海における軍事活動に違和感を抱く者も少なくないと指摘。しかし、このフォーラムでは、「相互に存在する各種の問題と疑問について忌憚なく話しあい、より平和で安定した相互の関係を構築する目的の下に、言論人、知識人、専門家などの間で、率直で冷静な対話を幅広く展開して、事態を長期的に安定させていかなければならない」と、日中両国のパネリストに強く呼びかけました。

 最後に明石氏は、私たちの基本的な立ち位置は、米中対立のどちらかに与するのではなく、国際協調と存在するルールに基づく世界の新しい共通の秩序を広げていくことが目標だと強調。その上で、日中両国の参加者が本音ベースで議論し、地球的な分断と対立の危険から少しでも遠ざかり、平和で安心できるアジアと世界の構築のため、歴史的な一歩を踏み出すことを一緒に誓うことができれば本望だと語り、今回のフォーラムでの活発な意見交換、議論に基づき、日中両国間での合意文書採択に期待を込めました。


中日新時代のウィンウィンの関係を

A18I0132.jpg 次に中国側主催者を代表して登壇した中国外文局の杜占元局長は冒頭、オンラインで開催されるのはフォーラム史上初めての試みで、対面で一同に介することは出来ないが、北京会場にはこれまでの新記録となるほどの参加者が集まり、中日関係者の確固たる信念と熱意を感じると語りました。その上で、そのコロナ禍の現状について、100年に一度の大変革期が始まろうとしており、私たち人類の暮らし、健康、命を脅かし、国際情勢にも不確定要因をもたらしていると指摘。さらに、中国共産党が10月の第19期5中全会で、社会主義現代化国家を全面的に建設する新たなスタートを切ったことに触れ、習近平主席は、高水準の開放型経済建設、人類運命共同体の構築など、日本をはじめ世界に、より多くの発展のチャンスをもたらすだろうと語りました。

 加えて、GDPが2位と3位の経済大国の中日は、アジアの繁栄のために積極的に貢献していく責任も力もあり、共通のチャンスがあり、中日社会は、新時代のウィンウィンの関係を育み、一層努力、貢献していこうと呼びかけました。


バイデン大統領になっても分断された米国の内向き志向は変わらない

A18I0177.jpg 続いて基調講演に移り、同フォーラム最高顧問の福田康夫元首相は、新型コロナウィルスの影響で、オンラインでの開催になったものの、16年間、一度も中断することなく開催し続けてきた「東京-北京フォーラム」の全ての関係者に敬意を表しました。

 続いて福田氏は、現在の世界情勢について、「世界全体の軋みはますます大きくなり、欧米ではグローバリゼーションへの反対や不満が強まり、更に内向き傾向が強まっている」と指摘。保護主義と一国主義を掲げたトランプ大統領登場以来、米国は世界のリーダーとしての役割を放棄したかに見えたが、バイデン大統領になっても、大きく分断された米国の内向き志向は変わらないだろう、との見方を示しました。

 さらに福田氏は、「米国には『世界の指導者疲れ』症候群が見られ、多くの米国民が、現在の国際秩序は米国にとり、リターン(成果)よりコスト(費用)の方が大きいという感覚になっているのではないか」と指摘しました。

 また、中国は軍事力でも彼我の差を徐々に埋めつつあり、国際安全保障、宇宙、サイバー、データ、地球環境、国際金融制度、経済協力といった「国際公共財」の運営においても、米国と並んで重要な役割を果たすようになりつつあり、21世紀の中国は、巨大かつ持続性のある超大国だということに米国が気付きだしたからこそ、ここ数年、米国内、更には米国の同盟国の間で「中国脅威論」が高まっているのではないか、との見方を示し、「仮に今、中国が成熟した民主主義国家であったとしても、中国の国力が米国を凌駕するようになれば、米中の対立と緊張は不可欠なものではないか」と予想しました。


覇権大国の「焦り」と新興大国の「驕り」
 人の心の弱さが、対立と戦争を生む

A18I0203.jpg こうした米中の対立と緊張の高まりに、私たちはどのように向かい合い、それを避けるためにどのような対応策を取ればよいのか。福田氏は、35年前の日米関係も同じようなもので、日本の経済発展で追い上げられる"焦り"の米国と"驕り"の日本だったと述べ、新興国・中国がこれからも伸びていくのは必然で、その台頭を押さえつけることはできないものの、中国もいつかは穏やかな成熟期に入るだろうとの見方を示しました。一方の米国も内向き傾向は強まるものの、世界大国としての地位は当分の間は揺らぐことはなく、バイデン大統領就任から数年間は、様々な憶測が飛び交い、葛藤が生ずるものの、この不安定な時期を乗り切りさえすれば、いずれは落ち着いた米中関係になるのではないか、と語り福田氏は希望を持って、将来の米中関係を明るく前向きに捉えました。

 そこで福田氏から、ここ10年を乗り切るために重要なこととして、①世界の大国の政治指導者は、何が何でも平和を守るという強い不動の決意を持ち、大国間の衝突は、核戦争に至る可能性があることを忘れてはいけないこと、②現在の国際秩序を発展させ強化する時代に、日中は協力し合いながら米国とも協働することは、米中関係にとっても良い効果を発揮すること、③米中双方が、相手の国、社会、国民の思想信条や思考方法、意思決定方法などをより研究し、双方をよりよく知ることが必要だ、という点を挙げ、米国の中国研究、中国の米国研究はまだまだ不十分であり、研究者の交流の拡大を深めるためにも日本は側面的に手助けできるのではないかとの見方を示しました。

 最後に福田氏は、習近平主席が使った中国の古い言葉『反聴、之を聡と謂い、内視、之を明と謂い、自勝、之を強と謂う(反聴之謂聡、内視之謂明、 自勝之謂強)』(史記) を引き合いに出し、他者の意見を聞き、自己を省み、セルフコントロールする度量を持つことが重要だと指摘しました。その上で、先日言論NPOが発表した世論調査結果では、相手国の「印象が良くない」の割合が、日本側で9割近くになり、日中関係の基礎は、国民同士の関係にあるものの、そうした現状にはなく、これまで以上に国民同士が理解し合い、信頼関係を深めることが、ますます重要になっていくと語り、今回の「東京-北京フォーラム」でも、国民同士の相互理解をいかにして深化させるかについて、建設的な提案が出てくることを願い、基調講演を締めくくりました。


中日の国民感情の管理はできるか

A18I0252.jpg 次いで中国の政府挨拶としては、訪日から帰国したばかりの王毅外相がビデオメッセージを寄せました。王氏は現在、帰国後の健康観察を受けています。中日外相会談では、未来に相応しい共通認識に基づき、中日関係を着実に構築していくことを確認したことに触れ、地域と世界の平和で安定した発展促進に共に積極的に貢献しなければいけない、と語る王氏は、外相会談での具体的成果の一つ、中日間の必要な人員の往来のための「ファストトラック」がこの日からスタートしたことを歓迎。今後の経済発展を後押しすることを期待していました。

A50K0231.jpg 一方、コロナ禍は、日中両国の運命共同体と友情を深く感じさせたと言い、「まさかの時の友こそ真の友」の言葉通り、医療関係者に日本から防疫物資が届けられた段ボール箱には、「武漢頑張れ」、「中国頑張れ」と書かれていて、勇気と自信を私たちに与えてくれた、と感謝する王氏でした。

 こうした良好な関係とは別に、世論調査によると日本人の対中国の好感度は1割で、過去最悪、中国人の対日好感度が上昇し5割に迫るのとは対照的になっている結果に王氏は、「国民感情に温度差があるのは事実で、私たちはこれを重視して直す努力が必要。これを適切に受け止めて管理できるかは、双方の国民感情にかかっている」と、中日関係の礎のあり方について述べるのでした。

 ソーシャルメディアなど情報新時代は、私たちに情報の迅速と利便性をもたらしただけでなく、挑戦も受けています。フェイクニュースなどの流通が、混乱をもたらし、誤解も独り歩きしていく現状について王氏は、「マスメディアは情報を切り取るのではなく、真実を求め、等身大のありのままの姿を伝えていく。内政問題には、理解と包容力を表せなければいけない」と、日本の一部で見られる報道に注文をつけることも忘れない王氏でした。

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胸襟を開いた対話を

 11月末に、王毅外相と外相会談を行なった茂木敏充外相のメッセージが、遠藤和也・外務省アジア大洋州局参事官によって代読されました。

A18I0302.jpg その中で茂木氏は、「日中両国の安定した関係が地域・国際社会にとって極めて重要であること、そして、日中両国が共に責任ある大国として世界の諸課題に取り組み、貢献していくことが、日中関係の更なる強化につながることを改めて確認した」と挨拶。しかし、毎年、日中両国で行われている世論調査では、2017年以降改善傾向にあった両国の国民感情が、停滞ないし後退していることにふれ、その背景として、中国公船による、我が国の尖閣諸島周辺海域における行動など、様々な懸案があると指摘。それでも日本と中国は最も重要な隣国の一つであり、同時に大切な友人でもあることから、こうした胸襟を開いた対話が重要だと語る茂木氏でした。


両国間には様々な課題があっても、対話や交流や継続することが重要

A18I0313.jpg 最後に自由民主党の二階俊博幹事長がビデオでメッセージを寄せ増した。日中の安定した関係は、両国のみならず、地域や国際社会にとり、極めて重要な問題であり、お互いに責任を果たしていくためにも、様々な難しい課題があっても日中間の対話や交流は、継続していくことが必要であると語りました。その上で、「コロナの収束と経済の再開」、「不安定化するコロナ禍の世界と日中両国の責任」など、時宜を得た重要なテーマが議論される今回のフォーラムでの議論が相互理解を促進する有意義なものになるだろうとの見方を示し、再来年に日中国交正常化50周年の重要な節目の前に、両国民間の交流が活発に行われることに期待を示しました。

 全体会議の開幕式のあいさつに続いて、パネルディスカッションに入りました。