12月1日、前日から2日間にわたって開催されてきた「第16回 東京-北京フォーラム」(主催:言論NPO、中国国際出版集団)は、全てのプログラムを終えて閉幕しました。
人類は運命共同体である、コロナに打ち勝つには世界の団結が必要だ
2日目の全体会議では、まず日中両国の大使が挨拶に立ちました。
まず孔鉉佑氏(駐日中国特命全権大使)は、16回目の「東京-北京ファーラム」がコロナ禍においてもオンラインで開催されたことについて祝意を述べました。続いて孔鉉佑氏は国際的な秩序が不安定化し、国際社会が様々なチャレンジを受ける中で、コロナによって世界は逆戻りできない状況になったと指摘。さらに、人類は運命共同体であると同時に、コロナに打ち勝つためには、世界が団結し、協力・連携して課題に向かい合うことが唯一の道だと強調しました。
さらに孔鉉佑氏は、中国の立場は自由貿易体制や世界経済を守り、サプライチェーンを維持することであり、それが世界経済の回復にとっては重要だと語り、今後、中国がCPTTPへの加入を検討していること、さらに中日FTAの進展などにも言及しました。
最後に中日両国は中日間に存在する4つの文書の原則と精神に則り、各分野の協力と相互信頼を構築し、中日両国がWin-Winを果たすことがコロナ後の世界に向けた積極的なエネルギーを発することになるだろう、と語りました。
日中両国民が不十分な理解や感情的なしがらみを乗り越え
重層的に関わることが重要
続いて11月26日に在中国特命全権大使に着任した垂秀夫氏は、隔離中の公邸からリモートで参加しました。まず、垂氏は「東京-北京フォーラム」が、日中間の率直なコミュニケーションを支えるプラットフォームとして、これまで16年間、日中関係が困難な時期にも一度も途切れることなく開催されてきたことに対して敬意を表しました。
その上で、菅義偉首相の就任直後の習近平国家主席との首脳電話会談、並びに11月末の王毅国務委員の来日などを挙げ、日中関係は進展の方向にあるとしながらも、言論NPOが10月に公表した日中共同世論調査結果を示しながら、「日中関係が深刻な事態に至った原因はどこにあるのか、また、それを反転させるために何ができるのか、ということを真剣に考える必要がある」と強調し、「日中双方でより多くの人が、不十分な理解や感情的なしがらみを乗り越えて、虚心坦懐に相手国の実情に向き合い、互いに重層的に関わっていく必要がある」と語り、挨拶を締めくくりました。
大局的な視点から日中関係を見るという意見が出始めた
日中両国の大使からの挨拶の後、パネルディスカッションが開催されました。参加者からは、オンライン化で行われた対話ではあったものの、非常に有意義な議論が行われたとの見方が大半を占めました。
まず、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、コロナ感染や米中対立が深まる中で、今回の議論では、世界の分極化や危機の封じ込めに対してどのような合意があったのか、さらに成果は何だったのかと問いかけました。
政治・外交分科会に参加した宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表)は、今回の対話で強く感じたこととして、世界の中で日中関係が影響力をもつ時代になったこと、そして大局観を持ち、世界の中から日中関係を見るという視点が出てきたことを紹介。さらに、安全保障の分野においても米中対立が影を落としており、バイデン政権になっても大きな戦略は簡単には変わらないが、競争だけではなく協力する分野も出てくるのではないか、との見方があったことを報告しました。
さらに今回の対話では、軍事力増強の話だけではなく、軍備管理や軍縮といった話題も議論の俎上に上がったこと、さらに軍事の現場では米中間で意思疎通をしているという新たな動きがあり、日中間でもそうした現場の意思疎通が必要だとの意見が出された指摘しました。そうした点を踏まえながら、我々の世代を含めた有識者の知恵の出し所であり、後世の人たちに「この時代の人たちは何をやっていたのか」と言われないように両国間で議論し、実行していく必要性を強調し、議論を振り返りました。
政治・外交分科会に参加した程永華氏(前駐日本特命全権大使)は、今回の世論調査でも中米対立に注目が集まっていたが、中米対立はアメリカが一方的に行ったものであり、中国はお互いを尊重し合う日米関係を望んでいると中国側の見解を主張。その上で、参加者からは、世界の平和と繁栄のために、自国の利益に立脚しつつも、中米日の関係を見直していく必要があること、さらに、懸念事項はあるものの、「東京-北京フォーラム」のような民間の対話のみならず、政府間の対話、軍関係者間の対話等、様々な対話を通じて、相互理解を深めていく必要があるとの意見が出されたことを紹介しました。
安全保障対話に参加した呉懐中氏(中国社会科学院日本研究所研究員)は、共通認識として得られたのは朝鮮半島から南シナ海まで、地域の安保情勢は楽観できなという点だと指摘。しかし、安全保障だけが中日関係の全てではなく、コロナ対応における国際協力や、地域の自由貿易としてRCEPに合意したことなどを挙げ、紛争だけに目を奪われないようにしながら、中日の利益を損なわないように大所高所に立って物事を見ていくことの必要性を訴えました。
中国の過剰なまでの自信が垣間見えたものの、グローバル化の推進では一致
経済分科会に参加した山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長)は、ここ数年、グローバリズムにブレーキがかかり、多国間主義に疑問符が付く中、非常に困難な道のりになるとしながらも、コロナや地球環境等の課題解決に向けて、もう一度グローバリズムや多国間主義に戻るということでは日中間で共通の理解が得られたと語りました。さらに、中国がRCEPに合意し、CPTPPに加盟する意志を示したことなどに触れ、日中関係や、日中協力における今後の展望は明かるのではないか、との見通しを示しました。
しかし、今回の対話で自信過剰とも呼べるほど、中国が強い自信をもっていることを感じた、と率直な感想を漏らした山口氏は、そうした中国の自信が他国からどう見られているのかということを中国は頭に入れ、大国として求められるおおらかさや、謙虚な姿勢も同時に中国側も求められていると中国に注文を付けることも忘れませんでした。
これに対して、同じく経済分科会に参加した魏建国氏(中国国際経済交流センター副理事長)は、中国のパネリストは自信過剰であると形容されたが、日本と同様に真摯に向き合ってきたと、山口氏の見方を否定しました。一方で、山口氏と同様にポストコロナを見据えて、世界経済が分極化し、不確実情勢が出てくる中、世界がアンチグローバル化に向かっている中でも、中日は前面になってグローバル化を推進していくことで合意したことを紹介しました。
年に1回の対話ではなく、定期的な会合の開催で合意
デジタル分科会に参加した岩本敏男氏(NTTデータ相談役)は、冒頭、司会を務めた山﨑達雄氏(国際医療福祉大学特任教授、元財務官)から、言いっぱなしの議論にするのではなく何らかの結論を得よう、ということで始まったと議論を振り返りました。その中で、日本側からファーウェイの製品にはバックドアを実装していないのか、と直球の問いかけに対して、中国側からは政府からのそうした問い合わせは一度もないし、クライアントの保護が絶対だと、情報の保護に対する積極的な姿勢が示されたことを報告しました。
さらに、監視社会は、我々の目指すべきデジタル社会なのか、などの疑問が提起されたり、AIの重要性についても議論がなされたと語りました。そして、こうした対話を年に1回だけではなく、今後も定期的に続けていくことで合意したことも報告されました。
来年のフォーラムに残された課題とは
続いて工藤が、来年の「東京-北京フォーラム」に残された課題は何か、と問いかけました。
山口氏は、かつて政冷経熱という状態があったものの、もはやそういう時代ではないとし、政治が熱して始めて経済も熱する状態であり、政府間でどのような対話が行われ、どのような行動がなされるのか、といったことが重要であると指摘しました。その上で、「東京-北京フォーラム」での議論をうまく政治のレベルにつなげていくような道筋を作り出していくことが必要であると述べ、さらなるフォーラムの発展に期待を寄せました。
岩本氏は、その道の専門家はどこが問題か、課題かはわかっており、それ自体は政治体制が違ったとしても直面している課題は同じであり、来年もデジタル分野で、1年に1回の議論ではなく、定期的に研ぎ澄まされたテーマで議論することが重要だと語りました。
程永華氏は、今年の分科会の議論を通して、政治・外交の分野での相互信頼関係の再構築が必要だと感じたと指摘。さらに、マイナス面の問題をバネにして両国の関係改善を図る必要性を強調した上で、来年のフォーラムは東京五輪終了後になるとすれば、若者の交流、スポーツの交流などが行われていることが想定され、そうした交流と相通じる対話が必要ではないか、との見方を示しました。
宮本氏は、経済だけではなく、政治が需要だとした山口氏の指摘に同調しつつ、今、政治が何かやろうとしても国民感情があるからできないのは客観的な事実だとし、だからこそ国民同士が相互に信頼関係を持つことが重要であると指摘。その上で、来年のメディア分科会では、日本のメディアは中国の立場に立ち、中国のメディアは日本の立場に立って、どうしたら相手を説得できるのか、ということをやり合うのはどうか、と提案しました。
房氏は、イデオロギーを超越した対話が必要であり、紛争を棚上げしできることからやるということが重要だと簡潔に述べました。
「第16回 東京-北京フォーラム」は「東京コンセンサス」を採択し閉幕
パネルディスカッション終了後に行われた閉幕式では、まず言論NPO代表の工藤から、2日間にわたる議論を経て、日中両国間で合意された共同声明「東京コンセンサス」が発表されました。
続けて工藤は、オンラインでの「東京-北京フォーラム」というこれまでになかった方法での開催に不安を抱えつつも、今回の会議が無事に終了したことに、パネリストを始め、スタッフ、ボランティア、その他全ての関係者に謝意を示しました。
さらに工藤は、世界共通の課題を政治化してしまうことは大きな問題であり、国境を越えた課題に対しては、世界が協力して解決しなければ意味がないとし、我々は自分たちで課題解決に向かい合っていくためにも、民間で対話や議論を行っていく重要性を強調。こうした対話を今後も継続していくことを約束し挨拶に代えました。
中国側の主催者を代表して高岸明氏は(中国外文局副局長)新型コロナの影響でオンラインでの開催になったものの、2日間にわたって率直な議論ができたと振り返り、全ての関係者に感謝を示し、閉会の挨拶を締めくくりました。
その後、日中両国のメディア向けに、「第16回 東京-北京フォーラム」の実行委員が参加する記者会見が行われ、オンラインで行われた今年のフォーラムは無事に閉幕しました。