日中両国が自国の将来像を語り、 北東アジアの未来を議論する対話に ~「第11回 東京-北京フォーラム」事前協議を終えて~

2015年4月14日


明石康(元国連事務次長、国際文化会館理事長)
宮本雄二(元駐中国大使)
山口廣秀(日興リサーチセンター株式会社理事長)
工藤泰志(言論NPO代表)



工藤:皆さん、お疲れさまでした。
 今回は、11回目の「東京-北京フォーラム」の準備で北京に来ています。今回のフォーラムは2005年に創設されて10年が経ち、次の10年の第1年目に当たります。私たちがこれまで10年間で培ってきた財産を活用して、この対話をどのように発展させていくのか、ということが問われていると思っています。

 皆さんは、今回の「東京-北京フォーラム」が持つ意味をどのように考えているのかについて、お聞かせいただきたいのですが、まず、実行委員長の明石さんからお願いします。


「未来志向」をどのように実現し、結果を出せるかが問われている

明石:今年は11回目のフォーラムになります。昨年のフォーラムが無事に終了し、日本と中国両国において高い評価を得ることができました。次の10回のフォーラムを実施したいという声は、日本からというよりも、中国の方から上がりました。どちらかというと、日本側は中国の申し出に受けて立つ、という形になりました。

 ここ数年、日中関係は危機状態を深め、昨年11月のAPECにおいて首脳会談が行われて改善の方向には向かいつつあります。しかし、まだまだ日中間の不信感というのは深く、相手国に対する見方も決して改善されているわけではありません。このフォーラムにかけられた期待は高いのに、こういうチャレンジに本当に答えられるかどうか、瀬戸際を歩むような緊張感があります。

 しかしながら、このフォーラムを成功させようという気構えは両国にあるし、日中関係を危機の連続としてみるのではなくて、両国をもっと安定させ、より平和な状態に置くことを目指しながら、息の長い民間対話の大きな流れにしようという決意は日本にも中国にもあると思います。そうした決意を確かめることができただけでも、今回の事前協議の意義はあったと思います。

宮本:2005年、日中間にきちんとした対話がないということで「東京-北京フォーラム」を立ち上げ、10年間続けてこられた。その間、日中関係が個別具体的な問題で、更にうまく折り合いがつかないという状況を迎えた。しかし、よく考えてみると、その間に中国が日本の経済規模を抜き、ますます中国が強くなっていくという、日本と中国の関係が大きく変化する中で、お互いにどのように付き合っていけばいいのかがわからなくなってきた。そうした状況下で10年が経ち、中国側にこの対話を続けていくべきだという意見があり、日本側にも当然その必要があるということで、次の10年を始めようとしたわけです。

 多くの人たちが、これからの日本と中国の関係をどうしようかと暗中模索している中で、今度の10年間をどうするか、どういうことでやらなければいけないか、という問題意識があります。平和と協力的な関係を両国の間につくらないと日本と中国もうまくいかないし、アジアもうまくいかない、下手をすると世界全体がうまくいかない。だからこそ、我々はしっかりとやらなければいけないのだ、という志というか、そうした物の考え方をできる人が、10年の間に日中両国にいて、お互いにこうした連中がいるということを確認し合うことができて、その人たちが中核になって次の10年を始めていく。だからこれからの10年というのは、非常に不安定で曖昧模湖とした日中関係の中で、どのようにして我々の道を切り拓いていけばいいのか、ということを考える中での、次の10年の始まりになるのではないかと思っています。

山口:私は経済問題に関心を持ち、力を傾けながら「東京-北京フォーラム」にかかわってきました。この間を振り返ってみると、私がフォーラムに出るようになってから5年ぐらいになりますが、いつでも何か問題事がありました。何の問題もなく、安心してフォーラムを迎えられたということはほとんどなかったと思います。ある意味で、これだけ一衣帯水というか、近くにある国同士の関係としては、ひょっとすると異常なことなのかもしれないと感じる一方、急速に成長して国としてのありようがどんどん変わっていく中国という国を相手にしている中では、異常なことではなく、むしろ当然のことなのかもしれないな、という気もしています。

 そうしたことに対して、日本人の方が、寛容さが無かったのではないか、という思いを持っていく必要があるのかもしれません。どこかで、「反省」という気持ちをしっかりと自分の心の中に持っておく必要がある、ということを最近、つくづく感じているところです。

 そういうことを踏まえて、これから先の10年をどのようにやっていくのか、ということを考えると、ある部分は、我々に反省の気持ちと同時に謙虚さということが必要なのですが、一方的に我々が持つのではなく、中国側もそうした意識をしっかりもってもらいたい。そして、お互いを理解しようという気持ちを我々も持たなければいけないし、中国側にももっと持ってもらいたいと思います。

 また、明石委員長、宮本副実行委員長もずっと言ってこられたことですが、「未来志向」という形をどのように現実のものにし、志向だけではなく、どのような結果を出せるのか、ということが問われる10年になると思いますので、その点についてしっかりやっていきたいと思っています。

工藤:今年は、まさに戦後70年という年に、この「東京-北京フォーラム」が次の10年に向けた1年目を迎えます。まさに、戦後70年という問題について、日中間に神経質な展開がある中で、今年、どのようなチャレンジをしようかということが非常に問われていました。今回の事前協議には、中国から趙啓正(中国人民大学新聞学院院長、元全国政治協商会議外事委員会主任)さんや、呉建民(元中国駐フランス大使)さんなど、これまでの、このフォーラムの中核的な中国のメンバーと、明石さん、宮本さん、山口さんという日本側の中核的なメンバーに参加していただいて、かなり議論を行いました。

 その結果、今年の対話は、10月に行うということで決まりました。今年の戦後70年ということ、そして10月に「東京-北京フォーラム」を行うということの意味について、少しお話していただければと思います。


10月のフォーラム開催に向け、有意義な意見交換ができた今回の事前協議

明石:我々の当初の希望は、7月にやったらどうかというものでした。それは、いわゆる安倍談話を何とかいいものにしていただきたいという共通した希望がありました。むしろ、10月にフォーラムを行うということで、単なる談話の内容をどうすべきか、ということから、日中関係をもっと長いスパンの中で見てみようという観点が導入されるようになったのは、むしろ喜ばしいことではないかと思います。

 先程ご指摘があったように、日中相互の関係としては、何千年にもわたる歴史があるわけですが、長い期間、中国の方が優位で、日本は教わる立場、学ぶ立場にありました。しかし、19世紀の半ばごろから力関係が変わり100年程、我が国にとって優位な時代でした。こうした力関係が再び、中国が強い立場になるということについて、日本側で謙虚にそれを受け止められない人たちがたくさん出てきている、というのが今の危機の背景にあると思います。今回の事前協議で確かめられたことは、日中両国共に、この状態を情緒的に捉えるのではなくて、冷静に理性的に捉えなおしてみる。そして正常化することができるはずだ、そのことが日本にとって、中国にとっても利害に合致しているのだ、という考え方の人たちが多くいること。そうした人たちが率直な対話を行うことによって、日中関係を日々の出来事からやや離れた全体的な絵の中で、見ることができる可能性があるのではないかと感じています。そうした中では、今回の協議の上に立って、フォーラムの本体をもっと厚みのある形で行うことができるのではないか、というある程度の見通しを持って、日本に帰れるのではないかと思っています。

宮本:今回、中国の方々と意見交換をし、私が常日頃から中国を観察してきて感じたことですが、中国も日本との関係が、ぎすぎすしていてはよくないということ、また、中国の抱えている最大の問題は国内の経済であり、これをどうにかしないといけないというのは今回、節々で感じられました。そういう立場からすると、日本との関係はできるだけ早く改善したいということになります。それが、いわゆる総理談話がどういうものになるのか分からない、ということで前に進めないでいるという状況なのだと思います。

 ただ、今回、事前協議に参加して感じたことは、日本との関係を大事にしなければいけない、もっと発展させるにはどうすればいいのか、という問題意識から、彼らなりに日程を提案してきたという感じがしています。したがって、真摯に日本と話をして、何か物事を前に進めていきたいということに対して、本気になってきたと感じました。とりわけ、このフォーラムに参加している人たちは、日中関係が非常に悪い中でもやらなければいけない、というある意味で信念を持った人たちですから、今のような状況下で、関係を更に進めなければいけないと思うのはある意味で自然なことだと思います。そうした気持ちが、私たちにも伝わってきたと思います。

 ですから、こうした協議を通じてやっていけば、これから何かやっていけるだろう。少なくとも、今年は良いスタートを切れるのではないか、という感じを持ちました。

山口:私も今回の事前協議に参加して、これまでの10年の成果というのは、日本にも中国にも非常に立派な方が多くいるということを見つけられたことではないかと思います。しかも、右に傾くわけでもなく、左に傾くわけでもなく、妙に原理的になるでもなく、理論的になるでもない。明石委員長がよく言われるように、中道的で常識的な有識者という人たちが、日本側にも中国側にもいるのだということが確認できたことは、今回、私が事前協議に出てみて、非常に大きな財産になったと思っています。

 協議の中で趙啓正さんが、「議論の中で喧々諤々行われ、議論をぶつけ合い、喧嘩のようになっても構わない。しかし、そこからブレイクスルーを見つけていく、という広い心、温かい心を持っていれば道は自ずと開けるのだ」というようなことを発言されていました。そうした意見を聞くにつけ、素晴らしい人たちが中国側にもいるし、日本側にもいるのだなということを改めて実感しました。こういうことをベースにして、これから11回目が始まり、12回目に繋がっていくのだとすれば、「東京-北京フォーラム」は、益々発展していく以外、道はない、という前途がはっきりしてきたと感じています。

 そうしたことについて、私なりに確信が持てたということでも、今回の事前協議は非常に有意義なものだったと思っています。


日中両国が自国の将来を議論し、次の展開を考えられるような対話づくり

工藤:最後の質問ですが、今回、私たちは両国の、そして自国の未来や将来、夢を語り合い、その中で、お互いが共通に発展できるようなきちんとした課題なり、領域をもう一度見つめ直してみたい、という話を提案しました。昨年、世論調査を実施した際に、両国の国民に、両国の将来について、両国はこのまま対立を続けていくのか、それとも共存共栄を図っていけるのか、ということを尋ねたところ、お互いの国民の半数以上が「平和的な共存・共栄関係を期待するが、実現するかはわからない」と回答しました。私はこの結果を見た時に、今日的な課題を非常に強く表しているな、と感じました。

 一方で、有識者層と一般の世論の間に乖離が出てきました。一般の世論は、非常に感情的な議論があるのですが、様々な課題解決に向かい合っているような有識者と呼ばれる人たちの間に、両国の将来に対して期待を持てず、疑問を感じる人がいました。こうした背景には、日中両国が、自分たちの国の将来像を語り、その中で互いに議論をするという当たり前のようなことをやってこなかったという問題があったのではないか、ということに気づいたわけです。

 この問題を、「東京-北京フォーラム」の次の10年のスタートを切る中で行い、将来を語り合いながら新しい両国の次の展開を考えていく、というサイクルをつくれないかと考えています。結果として、中国側の参加者も、同じようなことを言っていました。

 皆さんは、このように、日中両国の未来を語っていくという私たちのフォーラムの在り方について、どのようにお考えでしょうか。

明石:昨年の世論調査の時に、日中両国民の9割の人が相手国に対して、良くない印象を持っているということが判明しました。一方で、有識者は約7割の人たちがお互いに国の関係は大事である、という認識を持っていました。これは非常に顕著なことなので、有識者であれば相手国に対する情報を持っていますし、お互いに国に対して冷静な見方をしているわけです。

 昨年のAPECの時に、両国の首脳が合意した4点の認識の中に、危機管理をしっかりして、不測の事態に備えなければいけないということが入っていました。これは当然のことなのですが、できるだけ早くそういう方向に進む必要があります。また、私たちは、そうした危険な状態から、理性的に脱出する道を探すことが急務であるということが、両国で一致されたわけです。その具体的な可能性を、じっくりと専門家や実務をやっている人たちも含め、探さなくてはいけないということを身近なものとして我々が捉えるようになりました。そういう意味では、非常に長いスパンの下で、両国の関係を考え、具体的に何かできることを探し求めるという、非常に野心的なことをお互いに考え、議論し、詰めていく難しい作業が我々の前に待ち構えていると気がしてなりません。


北東アジアの目指すべき将来や、理念・理想を語り合えるフォーラムに

工藤:今の未来の議論は、宮本さんが、数カ月前の『外交』という雑誌に寄稿されていた論文が1つのヒントになりました。北東アジアの将来の目指すべき理念や理想を語ったことがあるのか、ということでした。つまり、そうしたことを作るための努力が必要なのではないか、ということをおっしゃっていました。

 いよいよ、私たちの対話で、そうした理念や理想を語る対話を実現したいと思っているのですが、いかがでしょうか。

宮本:先程、昨年の世論調査で、日中両国の関係を改善しなければいけないという声はあるものの、そうした改善に向けて自信がない、ということが紹介されていました。中国がこれだけ力をつけてきて、一体、何をしようとしているのかがわからない。ですから、中国に将来あるべき姿、東アジアの未来、そういうものを彼らに語ってもらうことによって、今、日々力をつけていく中国が何を目指しているのか、ということをもう少しわかってくれば、我々も安心できる面が出てきます。そうしたことが何も分からない、ということが一番の大きな不安材料だと思います。

 我々は自分の力を過小評価していて、落ちぶれたとはいえ、日本の経済はまだ他に比べればはるかに大きく、第3位の経済大国を維持しているわけです。なおかつ、中国が日本を抜いて、このままではいけないということで、日本は眦を決してアメリカと組んで、中国の発展を妨害するし、場合によっては囲い込みを始めている、と中国は思っているわけです。つまり、中国も、日本が将来何をしようとしているのか、どのような東アジアを作ろうとしているのか、ということが中国の人もわかっていないのです。そういうものを率直に議論し合う。

 今の世界はグローバル経済でつながり、これが今後も続いていくわけです。その状況下で、俺だ、お前だと言っている余地はないのです。そういう時代において、我々は、もちろん世界全体を構想しますが、どのような東アジアを築いていくのか、ということをもっと話し合いをしていくことによって、相手に対する猜疑心や不安感というものが消えていくだろう、ということが1つです。それから、お互いにどのような東アジアを作ろうとしているのか、ということを議論した結果、合意ができると、そうした共通の目標を達成するために、今、何をするべきか、ということに対する共通の土俵ができ上がります。そうすることで、将来を見通した今の問題についての議論についても、相手に対する不信感からくる解釈ではなくて、別の解釈が可能になってくると思います。そうしたことを実現していく時期に来ているのだと思っています。

山口:今日の事前協議では、双方が双方の将来に向けての戦略を理解し合えていないではないか、という議論がありました。それは本当にその通りで、お互いに何を考えているのだろうか、ということを自らはっきりさせ、それを相手にもきっちりと理解してもらう、というプロセスが非常に重要なのではないかと思います。ただ、一方で、未来を築き上げるということと同時に、未来は変わり得るものだ、ということも同時に頭に置いておく必要があると思います。

 そして、変わり得るものだと考えると、それは相手が変化する、相手が動いていくのだということについての理解だということになるので、見る側も、変化していく側も柔軟でなければならない。このあたりは、非常に難しいことのように思います。しかし、それがきっとできるだろうという感じを、今日の事前協議を経て、友情の深さと共にそうした核心を持ちました。

工藤:今日は皆さんの話を伺って、これからの作業の持つ意味の大きさ、ということを改めて感じました。ただ、日本の将来を語るためには、日本の社会の中にそうした言論の舞台を強めなければいけない。仮にそうした舞台があったとしても、何も語らない、夢もないというのでは、話にならないわけです。

 やはり、こうした将来を語るためには、僕たち自身が知見武装をして議論する。それを中国にも迫っていかなければいけない。本当の意味でも議論の戦い、将来に向けた1つの大きなチャレンジが始まるのだなと感じました。

 ということで、皆さん、今日はお疲れさまでした。フォーラム開催に向けて、これからもがんばっていきますので、よろしくお願いします。