「戦後70年 東アジアの『平和』と『民主主義』を考える」有識者アンケート

2015年3月19日

調査の概要

 言論NPOの活動にこれまで参加していただいた全国の有識者約6000人を対象に、2015年
3月15日から3月19日の期間でアンケートの回答を依頼し、回答のあった258人の回答内容を分析
した。


回答者の属性

※各属性で示されている数値以外は無回答の割合。この頁以降、数値は小数点第2位を四捨五入しているため、合計が100%とならない場合があります。


1.アジアの民主主義に関する問題

アジアにおけるデモクラシーの展開について「発展していく」との回答が最多

 「アジアの民主主義の衰退」が指摘される中、日本の有識者は、今後のアジアにおけるデモクラシーの展開をどのように予想しているのか。

 最も多かった回答は「発展していくと思う」の42.6%で、「衰退していくと思う」の10.1%を大きく上回った。

 ただ、「どちらともいえない」との回答も32.9%と3割程度あり、日本の有識者の中にはアジアにおけるデモクラシー発展の可能性について、慎重な見方も一定数存在している。

【図表1 アジアの中で、今後デモクラシーはどうなるか】


デモクラシーで最も重要な基準は「個人の基本的な人権の尊重」

 そのデモクラシーの中で、最も重要な基準は何かを尋ねたところ、最多の回答は「個人の基本的な人権の尊重」で、34.5%だった。これに続くのは「政治的な自由」が14.3%、「表現・結社・信教の自由」が12.8%、「法の下の平等」が10.5%といずれも1割程度にとどまっており、日本の有識者は「個人の基本的な人権の尊重」を特に重要視していることが浮き彫りとなっている。

【図表2 デモクラシーで重要な基準】


インドネシアの民主化改革について、有識者の間でもほとんど知られていない

 今回、言論NPOは初めて東南アジアの民主主義大国であるインドネシアとの民間対話に臨む。それに先立ち、インドネシアが1998年の民主化以降に行ってきた様々な改革についての認識を尋ねた。

 その結果、9つの主な改革項目を選択肢に入れたものの、「全て知らない」が50.8%と5割を超えた。有識者レベルでもインドネシア政治に対する認識度が低いことが浮き彫りとなったが、だからこそ、今回の対話の持つ意味が大きくなったともいえる。

 比較的知られている項目としては、「大統領の任期は2期10年までとし、長期的な権力の保持を抑制」(31.0%)、「国軍が軍務と政務を担当するという『二重機能』の廃止、政治的中立を求める国防法、国軍法の成立により、国軍の政治的な機能を制限」(26.0%)、「大統領の立法権が否定され、法案の提案権を持つのみなど、大統領の権限縮小」(19.8%)などがあった。


【図表3 インドネシアの民主化改革】


アジアの民主主義国の課題

 アジアの民主主義国の課題について尋ねたところ、「政治・行政などに腐敗が存在し、国民の信頼が形成されていないこと」(36.8%)と、「国内での貧富の格差が大きく、改善に向けた政治の取り組みが進んでいないこと」(33.7%)の2つが3割を超えた。

 問2ではデモクラシーの基準として、個人の基本的な人権の尊重が最も重視されていたが、「個人の基本的な人権が十分に保障されていないこと」を選んだ回答が23.3%とここでも一定数あった。東南アジア諸国で見られる軍政を念頭に、「一部の国では軍の政治介入が正当化されていること」を選択した有識者も21.3%と2割程度見られた。


【図表4 アジアの民主主義国の課題】


2.北東アジアに関する問題

東アジアに平和的な秩序をつくり出すための枠組みとして、アメリカの参加がポイントに

 昨年実施した「第10回日中共同世論調査」や、「第2回日韓共同世論調査」では、日中間、あるいは日韓間で互いに相手国に対する軍事的な脅威感が高まっていることが明らかになった。また、特に日中間では軍事紛争勃発に対する懸念も増加傾向にあった。
そこで、アンケートでは、東アジアで平和的な秩序をつくり出すための枠組みとして、どのようなものに期待しているのか尋ねた。

 その結果、「日中韓など北東アジア各国にアメリカなどを加えた多国間協議」が38.0%と4割近くにのぼり、最多となった。これに「日中韓など北東アジア各国による多国間協議」が21.7%で続いている。有識者は多国間の枠組みを重視しているが、その際、アメリカの参加をポイントとして見ていることが浮き彫りとなった。


【図表5 東アジアに平和的な秩序をつくり出すために期待している枠組み】


民間外交の役割に「期待している」との回答が約8割に

 有識者は東アジアに平和的な秩序をつくり出すために、多国間の協議に期待しているが、現在、この地域では「政府間外交」があまり機能していない状況にある。そこで、民間が行う外交である「民間外交」の役割に対する期待を尋ねた。

 これに対しては、「期待している(「どちらかといえば」を含む)」との回答が79.4%と8割近くに達した。「期待していない(「どちらかといえば」を含む)」は9.3%と1割にも満たず、有識者は民間外交に対して強い期待を寄せている。

【図表6 民間外交の役割に期待しているか】


民間外交に期待する役割は「民間同士の交流や両国民間の相互理解の促進」が最多

 それでは、「期待している」と回答した有識者は、民間外交に対して具体的にどのような役割を求めているのか。

 これに対しては、「外交というよりも民間同士の交流や両国民間の相互理解の促進」との回答が42.4%で最も多かった。日中共同世論調査と日韓共同世論調査では、国民間の直接交流の乏しさや、相互理解の欠如が浮き彫りとなっていたが、これを民間外交で補っていくことへの有識者の期待は大きい。

 また、「政府間外交と共に課題解決に向けた推進役」(24.8%)、「政府間外交が動き出すための環境づくり」(23.3%)と、より積極的な役割を期待する声もそれぞれ2割程度見られた。

【図表7 どのような役割を期待しているのか】  


北東アジアに「不戦の誓い」を広めていくことに「賛成」との回答が8割を超える

 北東アジアで不安定な状況が続く中、言論NPOは一昨年の「第9回 東京-北京フォーラム」において中国との間で「不戦の誓い」を合意した。言論NPOは今後、こうした動きを、北東アジアの平和な秩序づくりに向けて広めていきたいと考えているが、これについての賛否を尋ねた。

 その結果、「賛成(「どちらかといえば」を含む)」が86.0%と圧倒的多数を占め、「反対(「どちらかといえば」を含む)」はわずか2.3%に過ぎなかった。

【図表8 「不戦の誓い」を広めていくべきか】


「不戦の誓い」は北東アジアの平和構築のための合意としてふさわしいか

 このように多くの有識者の賛同を得た「不戦の誓い」であるが、これは将来、北東アジア地域における平和構築のための合意として、ふさわしいものなのか。賛同した有識者に尋ねてみたところ、ここでも「ふさわしいと思う」と回答した有識者は、77.9%と8割近くを占めた。

【図表9 「不戦の誓い」は平和構築のための合意としてふさわしいか】


目指すべき価値観や理念として最多の回答は「民主主義」

 最後に、アジアの将来を考えた場合に、目指すべき価値観や理念は何かを尋ねた。その結果、「民主主義」(26.0%)と「平和」(22.5%)の2つが2割を超えて並んでおり、有識者の中でも、この2つの価値観が重要との認識が広がっている。これに「不戦」(14.0%)と「人権」(12.0%)が続く構図になっている。

【図表10 目指すべき価値観や理念】


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