日中関係が非常に深刻化する中、中国の識者は現在の日中関係をどのように見ているのか。そして、どのように解決しようと考えているのか。
今回は、北京大学国際戦略研究センター(CISS)副センター長の朱鋒氏に突撃インタビューを行いました。
工藤:北京大学国際戦略研究センター(CISS)副センター長の朱鋒氏にお話を伺いたいと思います。早速ですが、国家主席の習近平さんは今後の対日関係をどのように構築していくとお考えでしょうか。
中日関係と島の問題を切り離して考える
朱鋒:私が思うに、おそらく中国の新しい指導者が考えていることは、まず中日関係を安定化させ、改善し発展させること。 3つ目は中国でいう釣魚島問題に関して、現在の安倍政権の元では、双方が迅速な話し合いによって、お互いに妥協するということはそもそも望めないということについて、心の準備をしておくことだと思います。ですから、私どもとしては、例えば中日関係と島の問題を区別して考えなければなりません。すなわち、(島の問題を)切り離して中日関係を安定化させ、発展させていかなければならないと思います。
工藤:私たち言論NPOも同じような姿勢で臨んでいます。尖閣問題が日中関係の全体に影響しないよう、「contain」というか、封じ込めていかないといけないと考えています。それにしても日中間のコミュニケーシヨンがあまりにも少ない、これを何とかしていかなければならない。関係改善のきっかけはどういう形で作られるとお考えですか。
朱鋒:最も大事なのは双方が問題を直視しないとならないということだと思います。国交正常化して 40年以上が経っていますが、なぜ双方のとった政策が失敗したのか、なぜこのような危険な局面を迎えたのかをよく反省をしなければなりません。振り返ってみますと、当時、我々が国交正常化を実現し、今まで中日友好、世代友好、不再戦ということを繰り返し言ってきました。しかしこのような原則が、なぜ、この時期において機能しなくなったのか、より深い次元での反省が必要ではないでしょうか。
工藤:中国国内で、尖閣問題と日中関係を分籬するという考え方は正当性を持つというか、国民が納得する、と思われますか。
朱鋒:大多数の中国人はそのような分離を受け入れることはできない、賛成してくれないと思います。しかし、それぞれの国の指導者にしてもエリート、有識者にしても、信念を持たなければいけません。この島の問題がどんなに悪化したとしても、お互いに相手を敵として捉えるべきではないと思います。相手を敵としないためにも、この中日関係と島の問題を切り離していかなければなりません。
工藤:その考えには非常に賛成です。私たちも、そういった健全な世論を作らないといけないと思っています。一般の大衆は、ナショナリズムをベースにして議論をする感じを持っていますが、やはり有識者がきちんと、そうではないという議論を作っていかないと一つの流れを作れない気がします。中国は、例えば尖閣問題で船を出して、日本から見ると挑発しているような感じがします。これを中国はやめることは可能なのでしょうか、どうしたら可能になりますか。
日中の政府双方が挑発的な言葉を使わないことが重要
朱鋒:ここは、この問題のキーになるところだと思います。中国側の立場ですと、釣魚島に公船を出したのは、日本が先に釣魚島を国有化したからです。双方が当初、合意していたコンセンサスの了解を(日本側が)破ったわけです。ご存知の様に、それまでの間、中国は釣魚島海域には入りませんでした。でも、現状においては、中国側が公船を出さない、釣魚島の海域に行かせないわけにはいかないということです。
工藤:では、どうすればよいのでしょうか。何かの形で船などが接近しないような仕組みを、どうやったら作ることが出来るのでしょうか。そうしないと、絶えず緊張感があるような状況になってしまうのですが。
朱鋒:現在において最も重要なのは、双方がいずれも挑発的な言葉を使わないこと。例えば、双方の公船はいずれも釣魚島の海域で出入りをしていますが、政府が、相手側の侵入を挑発的な言葉で非難するのを政策的に弱めるべきだと思います。この点中国は、まあまあよくやっていると思います。中国のこの2カ月間の状況を見ていますと、中国の公船の進出に関して、メディアがあまり報道しなくなっており、報道する頻度は減っています。政府が意図的にそれを取り上げて、報道しない方がいいでしょう。それと同時に、双方が接触し、対話を続けることが大事です。どのようにして、海域における偶発事件を防止するか、ということについて、管理メカニズムを構築する為の対話を率直に行っていくべきだと思います。
工藤:その対話というのは、誰と誰の対話なのでしょうか。
朱鋒:もちろん政府間の対話もあるし、軍隊間の対話、そして、皆さんのようなトラック2の対話も必要です。一番重要なのは、対話を重ねることによって、色々な建設的で積極的な意見を出して、双方の政府がそれを採用するよう働きかけることが大事だと思います。
工藤:私たちも今回そのためにやってきました。今まで尖閣諸島をめぐる日中間の暗黙の合意があったわけですが、日本がある意味で、それを壊したという点は少しあると思います。ただ、今のような状況になった場合、朱鋒さんは元には戻れないと思っていますか。元に戻れないのであれば、尖閣問題についての新しいシステム、秩序はどのように形成するべきなのでしょうか。
尖閣問題を「超越」した中日関係築いていく
朱鋒:それが正しく双方が議論すべきテーマだと思います。どのようなステータスが一番望ましいのか。双方が接触し、議論してどういう秩序、仕組みがあるべきなのか、ということをディスカッションしなければなりません。それと同時に、国民にもより多くの情報発信をして、この海域における理解を深めてもらうことです。政府としては、この釣魚島の問題を「超越」していくという決意で臨まなければいけません。
工藤:「超越」ということはどういうことでしょうか。
朱鋒:「超越」という言葉を用いたのは、現在、釣魚島問題は双方の国内政治にとって、非常に大きなジレンマになっていると思います。現在の安倍政権を見ていますと、紛争が存在していることを認めない、そして対話を望まない、更には棚上げを拒否するという、スリー・ノー、三つのNOという主張を取っております。このような状況では短い期間で、中国側が対応することはできません。すなわち中国側にしても、日本側にしても、自分の望んでいる解決法を相手側に強いることができません。
現在の日本の姿勢では、例えば、日本の方から中国側が一歩先に譲って、「公船を当該海域に派遣しないで下さい」というようなことをよく言われます。しかし、今の安倍政権のスリー・ノーの主張の下では、中国側は公船の派遣をやめるわけにはいかないのです。そういう中で、少し引きずりそうな釣魚島問題を超越して、それによって中日両国の関係全体が悪影響を受けないようにしなければならない、という意味での「超越」です。
工藤:三つのNOの中で、何かを改善したら、何かの事態を解決、切り開けるようなところはあるのでしょうか。
「紛争がある」と認めるところから対話がスタートする
朱鋒:この三つのNOはセットになっています。すなわち、まず当該海域で領士問題が存在しているということを認めなければなりません。それを認めて初めて対話がスタートできるのです。しかし、対話がスタートし、交渉に入っても、おそらく、すぐに解決策は見いだせないでしょう。ですから結論として、おのずから棚上げになってしまうわけです。最も重要なのは、領土問題が存在していると認めること。最初のNO(の否定)が必要なのです。
工藤:言論NPOは認めています。つまり、認めて、話し合いが始まることが重要ですね。
朱鋒:おっしゃる通りです。
工藤:どう考えても、紛争はありますよね。
朱鋒:中国においても、私のようなリベラルな学者の間でも、1972年に国交正常化がなされ、もう40年以上も経った。にもかかわらず、未だに日本側が領土問題の存在、紛争が存在していることを認めないというのは、我々としても納得ができません。なぜかと言いますと、我々にとって感情的に受け入れられないからです。中国側としては、その日本の態度が倣慢すぎる、と受け止めています。
工藤:この領土問題はあくまでも2国間で解決するという問題なのでしょうか。というのは、今回の領土問題については、一方で中国の軍の拡張、中国そのものの大きな拡大が、この領士問題の背景にある、という見方が日本の中にあります。さらに、南沙諸島の問題もあり、東アジアの海域全体が非常に不安定になっています。これをどう考えればよいのかという問題も、一つの大きなテーマになっている気がします。これはあくまで2国間問題なのでしょうか。それとも、もう少し別な視点が必要なのでしょうか。
中日間に新しいコンセンサスをつくり、新しい現状をつくり出していく
朱鋒:確かに、現在、中国が抱える領土問題は、日本との間にあり、南沙諸島含めた南シナ海においても、各国との間にあります。これはなぜでしょうか。やはり振り返ってみますと、1949年に共産党は政権を取りますが、実はその後に二つの中国が存在していたということが影響していると思います。
最初は革命の中国、その後は開発発展の中国です。革命の中国の時には、むしろ海洋に関してはあまり興味を持っていませんでした。その時代は、イデオロギーが最も重要で、中国の革命を輸出しようとしていたわけです。ですから海洋権益はあまり重要視しませんでした。しかし79年に、中国はようやく正常化して開発の道を歩み始め、海洋を重要視するようになりました。これは、別に軍の拡張とかはあまり関係はなく、中国全体の戦略そのものに変化があったからだと思います。今、急に海洋問題がフォーカスされていますが、おそらく、この時期だからこそ強調されている一面があるかもしれません。急に海洋問題が、中国の外交の重要な1つになっています。この中国の海洋問題に関しては、例えば、中国の軍事力の増強が背後にある、それが領士問題をもたらした、というふうに思われるのは間違っています。それが根本的な理由ではありません。もしも、72年に国交回復する時に今の中国が存在していたとすれば、おそらくこの釣魚島の問題は棚上げされず、強硬姿勢を取っていたと思います。そういう歴史的な経緯があります。
現在、日本は中国に対して海洋問題を色々と抱えていて、これを非難する声がありますけれども、中国側が軍事力を増強したから、そういう問題が発生し、中国が悪いと非難されるべきではないと思います。大多数の中国人、とりわけ、私のような学者にしてみれば、二つの中国が歴史的に存在したのは、むしろ歴史の痛みそのものなのです。中国の思惑は、釣魚島問題に関して、そのまま現状維持を望んでいましたし、中国側が現状を変えようとはしませんでした。日本の方の中には2008年から、中国は釣魚島に関する戦略を変えたと主張する人がいますが、これという根拠はないと思います。今、最も喫緊の課題は、中国と日本の間に新しい共通コンセンサスを踏まえた上で、新しい現状を作り出さなければならないということだと思います。
工藤:色々と難しい段階ですね。どうもありがとうございました。
日中関係が非常に深刻化する中、中国の識者は現在の日中関係をどのように見ているのか。そして、どのように解決しようと考えているのか。
今回は、北京大学国際戦略研究センター(CISS)副センター長の朱鋒氏に突撃インタビューを行いました。