北京は残暑が続いてきた日本に比べれば涼しさも感じられますが、会場であるクンルンホテルのホールにおける8月28日午前の全体会合の開催をもって、第3回北京-東京フォーラムがいよいよ始まりました。この全体会合には、日本側から150名、中国側から250名、総勢400名の今回のフォーラムへの参加者の皆さんが集いました。
全体会合は、中国側の共催団体であるチャイナデイリーのインターネット版総裁代行の周結氏の司会の下に、日本と中国のそれぞれの側からの挨拶のあと、8人の論者の皆さんからの基調講演が行われる形で進められました。
日本側からの挨拶は、工藤泰志(言論NPO代表)、小林陽太郎(新日中友好21世紀委員会日本側座長、元経済同友会代表幹事、富士ゼロックス相談役最高顧問)の各氏が、中国側からの挨拶は、朱霊(チャイナデイリー総編集長)、孫家正(中国文化部長)、銭小竿(国務院新聞弁公室副主任)の各氏がそれぞれ行いました。
基調講演を行ったのは、日本側からは、宮本雄二(在中国日本国大使館特命全権大使)、岡田克也(民主党副代表、衆議院議員)、武藤敏郎(日銀副総裁)、三木繁光(三菱東京UFJ銀行取締役会長)の各氏、中国側からは、趙啓正(中国人民政治協商会議外事委員会副主任)、李干傑(国家環境保護総局副局長)、呉建民(中国外交学院院長)、易綱(中国人民銀行頭取補佐)の各氏でした。
全体会議は、司会の周結氏による開会の辞と、両国の主だった来賓の紹介から始まりました。同氏は、このフォーラムがすでに中国にとって新しい公共外交の場として機能していることを強調しました。
最初に挨拶に立った朱霊氏は、政治的環境の厳しい中で立ち上がり、両国関係の改善のために知恵を絞ってきたこのフォーラムで、今回は、アジアの未来をメインテーマに、これを切り開くために知恵を出すことを呼びかけました。また、中国のメディアの中で最も国際的な影響力の大きいチャイナデイリーとして、その使命を果たしていきたいとしました。
次に、中国の文化部長(大臣)である孫家正氏の挨拶では、今年は中日国交回復35周年であるとともに中日文化スポーツ交流年でもあり、両国間には隋、唐以来の1000年を超える交流の歴史があり、それは中断はあっても前に進むことを妨げることはできないのであり、この30年で交流は従来にない盛況となっていること、特に文化は、凍結できない暖流として両国の交流を絶え間なく促進していくものであることが強調されました。
次に、言論NPOの代表工藤は、このフォーラムは表面的に友好を繕う舞台ではなく、議論のための議論を行う場でもない、答を出す議論を行うのが「公共外交」であり、民間が作った対話の舞台であっても、それが政府間関係を改善し、歴史を動かす可能性を確信したこと、まさに昨年のフォーラムでは日中首脳会談や首脳の相互訪問の再開の上で直接的な役割を果たしたが、それは運によるものではなく、努力の結果であり、今年は日本の組閣の日と重なるなど大変困難な中を200人近い日本側参加者がここに駆けつけたのも、まさに努力の結果であるとしました。そして、このフォーラムは特定の団体や組織ではなく、自覚的な意識を持った個人が支えるものであり、そのネットワークこそが新しいアジアのネットワークであり、内閣改造の日であるにも関わらずこれだけ多くの人々が日本から駆けつけたのは、このフォーラムを支えようとする人が日本にはたくさんいることを中国側にも理解してほしいとしました。
今回のフォーラムには、安倍総理からもメッセージが届けられ、代表工藤がそれを代読しました。そこでは、昨年の第2回フォーラムに当時の官房長官として出席された安倍総理の、このフォーラムに寄せる大きな期待が表明され、「民間主導で日中間に本音で議論ができる新しいチャネルをつくろうとする本フォーラムの試みを日本政府としても大いに歓迎する」ことなどが強調されています。(⇒全文を別に掲載)
次に、銭小竿氏からは、長い交流の歴史を持つ日中関係について、安倍総理が氷を割り、温家宝総理が氷を融かしたことによって、新たな発展段階に入ったことへの期待が表明されました。
最後に挨拶に立った小林陽太郎氏は、昨年のこのフォーラムで当時の安倍官房長官が重要なメッセージを出し、それが首脳会談の再開、「戦略的互恵関係」の合意につながったが、今回は、それに加えて「アジアの未来」がテーマになっていること、日中だけでなく、「アジア」を考えることは大変重要なことであること、国によって制度や仕組みが異なるのは当然であり、それを取り上げて理念や価値観が異なるとするのは誤りであること、残念ながら最近の日本にはそのような発想の人が増えているが、このフォーラムが「戦略的互恵関係」につながり、第1回、第2回に負けない成功を収めることを皆さんとともに期待することなどを述べました。
基調講演
基調講演は全体として、日中の「戦略的互恵関係」はアジアの未来をともに構築していくことに共通利益を見出し、それを発展させていくことにあるとの共通のトーンで進みました。両国の共通利益の具体的な分野としては、環境やエネルギーの重要性が強調されました。また、経済における相互依存関係の進展は進んでいるものの、政治面や安全保障面では課題が多く、経済についても、域外の活力を取り込む「開かれたアジアの重要性」や、アジアでは未だ遅れている金融面での協力への取組みの重要性なども指摘されました。
趙啓正氏
中日両国の良好な関係にアジアも注目していること、日本がアメリカ、インド、オーストラリアで価値観同盟をつくろうとしていることには懸念を感じること、people to people だった民間外交をpeople to government にする点に公共外交の意義があること、欧米の中国抑止の発想の中で中日関係の緊密化が極めて重要であることなどを述べました。
宮本雄二大使
日中間で公共外交を進めるに当たっての観点として「戦略的互恵関係」をいかに考えているかを述べました。地球が一体化した今日、日中は新しい関係を構築しなければならず、それは日中を超えたアジアや世界のための戦略的関係であること、両国はアジアにとって建設的な課題解決を行う関係であるべきことなどを強調しました。
李干傑氏
環境問題について、環境保全と経済成長の両立、調和、それへの総合的取組みへの転換など中国側の取組みの進化と日本への期待などを述べました。
岡田克也民主党副代表
日中関係改善の具体的な中身はこれからであり、経済は進んでいても、問題は政治と安保であること、お互いがお互いを必要とする関係を構築し、平和で安定したアジアを目指し、その中で日中関係を捉えるべきこと、互いに強い国を目指し覇権を競い合うのはプラスではなく、中国の軍事については情報公開と相互対話が必要であること、日中の若い世代が「偏狭なナショナリズム」に陥らないための若者同志の対話も重要であることなどを中心に述べました。
呉建民氏
長い交流の歴史を持つ日中関係は新しい21世紀の流れの中で位置づけなおす必要があること、世界の中心は大西洋から太平洋に移りつつあり、その力は東アジアの台頭であり、そういう大変化にある中で中日関係を発展させるべきであること、そこには共通利益が多くあり、それを大事に発展させるべきで、環境やエネルギーはまさにそのような分野であること、共通利益を進める上でこのフォーラムが極めて重要な役割を持つことなどを述べました。
武藤敏郎日銀副総裁
アジアの相互依存関係の進展や域内統合は日本にも構造改革を促すなど最適資源配分を実現してきたが、今後は、域外の経済成長を取り込めるよう「開かれたアジア」を目指すことが重要であること、貿易・生産面の実体経済に比べてアジアの金融面の統合は遅れており、アジアの市場が不安定化することなく、外貨準備の積み上がりや膨大な資本フローといかに共存していくかが課題であること、そのためには、世界の投資家の信頼を得られるアジアの金融市場の育成が急務であり、特に直接金融による金融仲介機能の育成が課題であること、世界的な保護主義の台頭は「開かれたアジア」にとっての脅威であり、日中の「戦略的互恵関係」は「開かれたアジア」に求められることなどを述べました。
易綱氏
アジアの金融システムは10年前に比べて格段に進化したが、アジアの金融協力は始まったばかりであるとして、その信頼性の強化や制度構築が課題であるとの認識などを強調しました。
三木繁光会長
日中関係における日本の協力のテーマとして特に重要となっているものとして、東アジアの成長を牽引する中国の持続的成長の維持、それを制約しかねない環境・エネルギーの問題、中国が金融面で安定的に自由化を進めていくことの3点を指摘し、「戦略的互恵関係」として、アジアや世界の平和と繁栄に貢献することが両国の責務であるとの認識の下に共通利益を常に見出していくこと、そのために広いレベルで交流していくことが重要であることなどを中心に述べました。