第2回 東京-北京フォーラムが東京パレスホテルにて開幕、第一日目の8月3日午前の全体会議には、内閣官房長官の安倍晋三氏、中国大使の王毅氏始め、多数の来賓や参加者が挨拶あるいは基調講演を行ったほか、日中共同世論調査結果の内容も併せて公表しました。
第2回東京-北京フォーラムが、8月3日午前9時から東京パレスホテルにて始まりました。このフォーラムは、中国側から34名の各界を代表する方々を代表団としてお迎えし、日本側も各界を代表する論者約50名が集い、日中両国併せて約400名の参加者のご参加を得て、盛大に開催されました。初日である8月3日の午前は、国分良成氏(慶應義塾大学法学部教授)の司会により全体会議が行われました。
最初に、日本側を代表して、福川伸次氏(元通産次官、機械産業記念事業財団会長、言論NPOアジア戦略会議座長)より、昨年の北京での第1回フォーラムの成功に続き、今年は、日中が成熟した関係を結び、新たな未来を切り開く議論の場になるよう、前回を上回る活発な議論ができることを期待している旨の開会挨拶を行いました。
続いて、中国側主催者チャイナデイリーを代表して、朱霊総編集長より、両国のマスコミの双方向の動きが重要であり、胸襟を開いて交流し、相互理解信頼の醸成を目指すことが東京北京フォーラムの主な趣旨である旨の開会挨拶が述べられました。
次に、今回、会場に駆けつけていただいた内閣官房長官の安倍晋三氏から、「お互いに遠慮して、距離を置きながらの脆弱な「友好」から、正面から向かい合って議論し、摩擦を恐れず対話を重ねることによって得られるパートナーの関係へと、今、歯車を動かそう」と発言、またこうした日中の対話の機会を大いに歓迎し、今回の議論を政策形成にも活用したいとするなど、概ね、次のような内容の挨拶がありました。
「第二回フォーラムの成功にお慶びを申し上げる。日中間の相互認識に関しては、78%と32%という二つの数字がある。日中国交回復直後は、 78%が中国に対して親しみを感じた日本人の割合だった。この25年で日中関係は緊密化し、かつて年間10万人未満の交流人口は400万人に達する。それが、現在では、中国に親しみを感じる日本人の割合は32%まで低下している。これをどう考えうるべきか。中国ブームに乗っただけの良いイメージは長続きしない。本音で議論する関係になれば、摩擦も大きくなることは避けられない。体制が異なる国であってはなおさらである。これは生みの苦しみであり、悲観しすぎることなく、真の日中友好のために、通らなければならないプロセスだ。日本人に親しみを感じる中国人も13%に過ぎない。これが向上するような日中関係を目指すべきだ。低い数字にとどまっているのには誤解もある。相互誤解を相互理解に転化させる努力が求められる。
そのためにはお互いを正しく認識することが大事である。かつて、中国経済の発展は脅威だとの世論が高まる中、小泉総理は脅威ではなくチャンスだと言ったが、それはその後の推移が立証している通りだ。「軍国主義の復活」はほとんどの日本人の想像を超える、ありえない話である。日本は戦後六〇年、一度も武力行使をすることなく、国際貢献を果たす国家をつくりあげて、現在もそれを続けている。中国側が、この日本の姿勢を理解して、初めて建設的な議論が実現できる。
今般、安保理に提出した決議案が最終的には全体一致の合意を得て、北朝鮮に強いメッセージを発した。これは日中が大局観をもって協力した成果である。両国はこのような協力、対話を実現していかなければならない。日中の協力が求められる場面は増えている。共通利益の拡大とともに、アジアの大国としての役割を果たすことは、アジアのみならず世界中の国に歓迎される。私自身も一人の政治家として閣僚としてこれを実現したい。日中関係は最も重要な二国間関係の一つである。個別の問題が起こっても、直接の対話を通じてお互いを正しく認識し、建設的な議論によって、両国の発展を目指すべきだ。摩擦を恐れずに対話を重ねることで得られる、より高い次元の両国関係の構築を目指していく。
これには政府間の取り組みだけでは十分ではなく、あらゆるレベルでの交流が必要。日本は中国から1,500人の高校生を日本に呼び、そのうち40人は一年以上ホームステイし、日本の学校で学んでもらう計画を立てている。
民間のイニシアチブにより、本日のようなフォーラムを開くことが、まさに求められている。現在の日中関係おいて国民感情は大事である。国民感情はときには行き過ぎることもあるが、成熟した世論がその安全弁になる。政府としても、こうした日中の対話の機会を大いに歓迎し、評価する。今回の議論を政策形成にも活用したい。この場での率直かつ活発な議論が、日中関係のさらなる発展に結びつくことを願っている。」
続いて、駐日中国大使の王毅氏からも、中国大使館を代表して挨拶が行われ、①相互理解、②政治的困難の克服、③相互信頼、④ウィンウィン の4点について、その重要性が強調されました。
その後、全体会議は、日本側、中国側それぞれによる基調講演に移りました。
まず、日本側の小林陽太郎氏からは、新日中友好21世紀委員会日本側座長として、そこでは、日中間の誤解を生み出している大きな原因の一つとして、両国がそれぞれ、将来どういう国になることを目指しているのが明確ではないことが合意されたことなどを紹介しつつ、情報をメディアに公開して透明度を高めることの重要性を指摘し、必要以上に摩擦の解決に時間をかけないよう、将来の展望が開ける建設的な議論を互いに行っていけるようにしたい旨などを内容とする基調講演が行われました。
次に基調講演を行った中国側の趙啓正氏は、両国の歴史と文化のつながりを活用すべきであり、文化の熱によって政治関係の冷え込みを温めることができれば良いとしました。同氏がここで提唱したのは「公共外交」です。それは、両国の国家指導者による外交活動以外の、あらゆる政府部門や民間、学問機関による外交活動であり、民間外交よりも広い定義だとしました。これによって色々な分野を結び付け、より良い民意のベースを作っていくことが可能になるとしました。そして、日中にある壁は、歴史の壁というよりも、心の中にある壁が問題であり、それを取り除くためにこのフォーラムに我々は集まっており、これはともに未来の課題を解決し、それに責任を持っていくための活動であるとしました。
コーヒーブレイクを挟んで、次に、中国側の陳コウソ氏(中国対外友好協会会長)が基調講演を行いました。陳氏は、このフォーラムは良いスタートを切っており、良いことだからこそ紆余曲折もあるだろうが、今回の意思疎通の会合は積極的な役割を果たすのであり、1メートルずつ前進していきたいとし、安倍官房長官の中日関係改善に対する積極的な姿勢を歓迎する旨を述べました。そして、歴史を鏡として未来志向の関係を築くことを強調し、このフォーラムでの「相互尊重」の精神は、将来に責任をある態度を取るというコキントウ国家主席の姿勢に合致するものであり、戦争による複雑な問題がマイナスにならないよう、調和の取れた世界と調和の取れた中日関係を築きたいとし、中日関係は向かい合って歩み寄り、距
離を縮めれば、二つの力はシナジー効果で大変大きなものとなるとしました。
次に、日本側の松本健一氏(麗澤大学教授)が基調講演を行いました。この中で松本氏は、冷戦体制終了後は、各国とも自分の国は自分で守るという発想をとらざるを得ず、その結果、ナショナルアイデンティティーを追求せざるを得ない中にあって、各国がナショナリズムを強める危険性を指摘しました。その中にあって、「東アジア共同体」のビジョンにも日中間で基本的な違いがあり、「中華」思想の中国がアメリカと対峙する地域覇権の場として捉えていると指摘するとともに、西欧的な価値観に同化し、それを普遍的価値観と捉える日本の考え方には根本的な欠陥があるとしました。特に危険なのは、自国の外に敵を作ることによって自国のナショナルアイデンティティーの構築を図ろうとする動きであり、今求められているのは、共通のアジアアイデンティティーの構築であるとするなど、鋭い問題提起が行われました。
その後、全体会議は、日中両国からの、世論調査・アンケート調査結果の報告に移りました。
まず、日本側より、言論NPOの工藤泰志代表が、日本側調査の結果を公表しました。工藤氏は、午後の分科会につながる判断材料として、両国国民の考え方を知った上で議論することの重要性を指摘した上で、概ね、前日の記者会見での公表内容に即した報告を行いましたが、この日は特に、次の点を強調しました。
第一に、両国民の交流の決定的な停滞が、メディア等の間接情報に依存した認識を独り歩きさせる危険性です。直接交流のない社会では「水が流れない水溜り」が生まれ、水が腐ってしまうように相互に対するイメージが悪化していく危険があります。
第二に、日本人の認識については、二つの二極化が進行しているということです。一つは、一般世論の中の中国への関心を低下させた層の増加と、昨年からの認識をさらに悪化させ、不安を強めている層への二極化です。つまり、一般世論の中では、関心を持つ層やもともと中国にマイナスのイメージを持っている層の中では、その認識がこの一年の間にさらに悪化したり、不安を高めている様子が読み取れます。中国情報のほとんどをメディアに依存している層は、報道内容で認識を形成するしかありません。
もう一つは、一般世論と有識者の間の二極化です。日本の有識者も、厳しい認識をアジアや日中関係で持ち始めていますが、こうした有識者の認識と一般世論の一部で加速する不安は性質が異なります。日本の有識者は中国のアジアでのパワーにその距離感を図りかねているのであって、メディアの中で作られた不安ではありません。
この調査で明らかになったのは、中国は大きな発展を遂げているが、その先にどのような国を描いているのか分からないという不安です。同時に、外交の停滞が国民の判断を停滞させており、交流の停滞と相俟って将来に重いコストになっている危険性を代表工藤は指摘しました。
最後に、中国側調査結果について、李玉氏(北京大学国際関係学院教授)より報告が行われました。その詳細も、概ね、前日の記者会見と同様です。その中で同氏は、第一に、中国の世論にはマイナスの見方に改善が見られるが、歴史問題では靖国問題がきわ立っていること、しかし、日本への印象は好転しつつあり、ポスト小泉に期待していることを指摘しました。そして、第二に、日本へのマイナスイメージの中には理性的な見方もあり、大局的にバランスがとられているということ、第三に、民間の直接交流の推進が重要であることを、併せて指摘しました。
以上で、午前中の全体会議は終了しました。