メディア対話の後半は、工藤に替わり近藤誠一氏(前文化庁長官)が新たに参加して開催されました。
まず日本側から高原氏が、今回の調査によって明らかになった日中両国の世論をどう解釈すべきかについて、問題提起を行いました。高原氏は、市場経済の負の側面が生み出した時代の閉塞感や若者の情報への接し方といった日中の共通性を指摘する一方、中国の若者は日本に比べて国家主義的な意識が強いと指摘。その例として、自身の経験から、国家間に問題が発生したとき相手国の製品に対して不買運動をするかという質問に対して、日本人の学生はしないと答え、中国人の学生はほとんどがすると答えた相違を挙げました。そして、その理由は、中国の愛国教育にあるのではないかと問いかけ、日本の過去の経験から、ナショナリズムは暴走し、コントロールできなくなるので大変危険だと警鐘を鳴らしました。その一方で、インターネットの発達によって情報共有が進み、中国でも国家にとらわれない人たちも増えていると指摘しました。また、日本についても、内閣府の調査を例に挙げ、日本で中国への嫌悪感が強くなったのは60代で、親近感が最も強いのは20代であると紹介し、「そこに何らかのヒントがあるのではないか」と述べました。
中国側の高氏は、「我々は責任あるメディアとして、公平・正確な報道をしなければならない」と訴えたうえで、両国の体制の違いに言及し、「今ある体制の中でどうやって課題解決を図るかを話し合うべきである」と主張しました。そして、日中のメディアによる共同の記事発信や、互いに相手国を訪問してのより深い取材を可能にすることを提案しました。
ここで、日本側議長の小倉氏が、日中関係の最大の問題は日本人の対中感情が急速に悪化していることだとし、「これに対してメディアは何ができるのか」と意見を求めました。後半から参加した近藤氏は、「複数メディアの論調を読み比べてバランスを取るという読み手側のリテラシーの向上をはかる」「災害の克服など日中協力によりアジアの課題に貢献できる活動を行う」「東洋的な優しい資本主義の提案」などを提案し、高原氏はそれに加えて、ニュース報道とは別に相手側の実際の姿が実感できる番組を製作したらどうかと提案しました。
一方、王衆一氏は、ニューメディアの発展によるペーパーメディアの凋落といった背景を踏まえ「日本のメディアには偏向的な報道が増えているのではないか。政府の意図が入っているのか。とくに最近の、多くのメディアが揃って一部メディアを糾弾する攻撃的な動きがあるが、それを懸念している」と述べ、日本の世論やメディア環境の動向について危機感を示しました。これに対し若宮氏は「日本では国がメディアをコントロールすることはほとんどない。売れるネタに集中するという、ある意味、極めて商業主義的な偏向だ」と反論したうえで、「日中とも相手国より韓国に親近感を持つ人が多い。日中の対話に韓国を入れることが反感を中和する要因になりうる」と提案しました。
それに対して、中国側からはメディアの商業主義について、「多数の週刊誌が同じ事件で特定メディアを叩く傾向は、若い人の文章を読み解く力に悪影響を与えるのではないか」と、世論形成に及ぼす負の側面を懸念する意見が出されましたが、日本の山田氏は、「そのようなペーパーメディアは、行き過ぎた営業右翼ともいえるが、若者は読まないのでご心配なく。悪しき商業主義は自然に淘汰される」と反論。杉田氏も「米国はじめ、自由主義社会とされるほかの国でも悪しき商業主義はあるが、自然淘汰されるだろう」とし、むしろ、それをあえてコントロールしようとすることには違和感があると意見を述べました。
坂尻氏は、自身が中国総局長を務めた経験を振り返って「中国共産党について、連載記事を書いたら、外交部に『批判的な記事ばかり書くな』と言われてウェブサイトが封鎖されたが、中国の一般市民にはたいへん多く読まれていた」と語り、日本と中国でこのように対応に違いがあることを指摘しました。
孫氏は、前半でも話題となった文化交流の必要性について、日中の文化は根源を一にしているものが多く、「相手国の文化を愛していればその国を嫌いになることはない」と述べ、次回のフォーラムでは文化に関する対話の場を設けるよう提案し、小倉氏も検討を約束しました。高氏は、文化の面から自分たちが重要だと思うものを相手に紹介する取り組みが必要だと述べ、「今回の世論調査では両国関係の様々な問題点が指摘されているが、中国の若者は理性的になっており、現代日本のいろいろな良い面も見ている」と強調しました。
高原氏は、日本では社会・文化の交流により中国人の存在が身近になっている一方、中国には日本の国際交流基金のような交流のプラットフォームがないと指摘。「中国も作ってはどうか」と提案しました。これに対し周氏は、民間交流促進に賛意を示し、「ぜひ若手記者に交流させたい」と具体的なプロジェクトに結び付ける意向を示しました。さらに金氏は本日の議論を有意義だとしつつ、観光は一つの突破口になると述べ、日本のテレビ番組「中国鉄道の旅」を例に、「日本鉄道の旅」といったような、政治性がなく中国人が日本の魅力を感じられるような番組を中国で製作・放映したらどうかと提起しました。近藤氏は、日中メディアの共同取材の取り組みについては、「確かに難しいと思うが、その困難を乗り越えることに意味がある。世界遺産など価値観の違いが出ないテーマから始めてはどうか」と提案しました。
最後に小倉氏が「この場で議論されたことをいかに実践するかが課題である。いままで提案されたことをどう具体化するか、来年に向けてこれからも一人ひとりに考えてもらいたい」と、今後の期待を述べました。そして、中国側司会の王丹丹氏は「中日の問題に関心を持っていただいていることに感謝する。私たちは友人としてともに努力していきましょう」と呼びかけ、メディア対話を締めくくりました。
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