言論NPOとは

令和2年度 言論NPO事業計画

日本の民主主義への信頼を立て直す事業に集中する

 コロナウイルスの感染の脅威は言論NPOの活動にも深刻な影響をもたらしている。

 私たちが取り組む多くの活動は自粛に追い込まれ、3月末から6月末までは事務所での活動は実質的に休業に陥った。

 会員の総会が一カ月近く、延期となったのはそれが理由である。ただ、その休業の間でも私たちは次に向けた準備をそれぞれが連絡を取りながら進め、7月初旬には議論や活動を再開し、ウエッブサイトの全面的な見直しを成功させている。

 令和2年度の事業はこれからの9カ月間に絞られるが、私たちはこれまで進めてきた取り組みを大きく見直し、国内の議論や活動基盤の再構築を今年の最優先の取り組みと定め、そのための作業を急ピッチで進めている。

 言論NPOは、コロナ感染の拡大で日本自体が社会的な自粛に追い込まれるまさにぎりぎりの3月末まで世界やアジアの多くの事業に取り組んできた。その多くの事業が軌道修正を迫られている。

 ただ、私たちが国内の活動基盤の強化を最優先課題に据えたのは、こうした国際部門の見直しとは無関係である。世界の要人を集めた会議や対話は当面、全てがテレビ会議に代わることになるが、むしろこうした会議のデジタル化は様々な対話の可能性を広げている。

 私たちが事業を今回、大きく見直すのは、日本の将来やコロナ危機を軸にした世界の急速な変化に強い危機感を持つからである。このコロナ危機はそう簡単に収束することはなく、コロナ危機後にこれまでとは全く異なる世界を生み出す可能性がある。

 日本ではこのコロナ渦への危機対応で政府への信頼は大きく低下しており、こうした世界的な変化の中で日本の将来への展望が全く見えない状況にある。もはやそれは、理解する局面ではなく、乗り越えるために準備を開始する局面なのである。

 7月の議論再開にあたって、私たちは「日本の民主主義への信頼を立て直す」との言論NPOとしての覚悟を表明している。今年の初めから、多くの研究者とこの国の統治機構や民主主義の仕組みの総点検作業を始めているが、危機対応で見られた日本の統治構造の混乱や脆弱さは根が深く、このままだとこの国が将来に向かって課題を克服ができない可能性がある。

 ピーター・ドラッカーがかつて「経済人の終わり」で指摘したように、こうした状況では無関心的な傍観者的な行動はそれ自体、罪である。多くの人が声を上げ、この国の未来に向け力を合わせるべきなのである。

 言論NPOの創立の原点がそうだったように、私たちはそのための言論の舞台として機能しなければならない。令和2年の私たちの事業の全ては、こうした強い問題意識に基づいて組み立てられている。

 この歴史的な試練に立ち向かうためには、私たちの言論や議論への取り組みが日本国内でより大きな影響力を持ち、多くの人の参加と理解に支えられる必要がある。そのためにも、私たちは自身の基盤をより強靭なものに作り直さなくてはならない。これはかねてから、私たちの活動に問われてきた大きな課題でもあるが、それに令和2年、言論NPOは本気で取り組もうと考えている。この社会に責任を果たすためである。

 来年には言論NPOは設立から20周年を迎える。それまでの2年間で、私たちはこの歴史的な試練に立ち向かう覚悟である。そのスタートが令和2年の取り組みなのである。


この二年で実現すべき課題、令和はその初年度となる

 私たちが、この2年間で達成すべきことは以下の三つである。

  • 第一に、多くの人が、言論NPOが提起する議論や社会への発言に参加できる仕組みを整えることである。
  • 第二に、社会の広い支援を集めることで、我々の活動が継続できる体制を構築することである。
  • 第三に、日本や世界の多くの有識者や専門家と連携して、私たちが直面する課題に取り組む言論のサイクルを軌道に乗せることである。

 これらの3つの目標は、この混乱の局面で、私たちが議論し、声を上げるべき言論のサイクルを回すこと、そしてその広がりの中で私たちの活動を支える基盤を作ること、さらにこうした議論を最前線で動かすために多くに知識層が力を合わせることを意味している。

 私たちがこの7月に再開した議論の全てはそのために始めたものである。まだそのための準備は完全に整ったわけではないが、今年末には今考えている全ての作業を動き出すことを想定して作業が行われている。その意味ではその一年目の令和2年は、言論のNPOの新しい取り組みへの初動であり、令和3年はそれを拡張して事業の目途をつけることが、目標となる。


 私たちが、令和2年の初動で実現することは次の3点にまとめることができる。

 まず、言論の舞台を機能させ、日本が今考えるべき課題を継続的に社会に発信することである。7月の議論再開はそのために始まったものである。ただ、議論の発信だけが私たちの目的ではない。こうした議論発信に多くの人が参加すること、さらに、その議論を政府や政治に提案する動きを作るための仕組みや、多くの人がこうした課題を学べる教育動画の仕組みを構築することを今年度中に考えている。

 議論に参加できる層を拡大し、問題意識を共有し、さらに、それを政府や政治に対する提案につなげられなくては、課題解決の新しい動きを作ることは難しい。年度内にはこうした動きが始まることになる。

 またこれらの議論は幅広い継続的なフォーラムと連携し、多くの人が議論に参加できる仕組みを拡大する。

 次の課題は、言論NPOのこうした議論や取り組みを民間の舞台で機能させるため、危機感を共有する、多くの人から幅広く支援される基盤を強化することである。

 こうした基盤ができれば、政府や特定の団体から独立し、特定の利益に影響されない中立の取り組みが可能となる。そのためには寄付と会費を主要な基盤とする体制を完成させ、言論NPOの活動がより広い社会で支えられるようにする。

 これを私たちはこの2年で実現しようと考えている。

 最後は、日本国内や世界の多くの知識層と連携し、協働して進める体制を強化することである。すでに言論NPOには国内外の課題解決のために、多くの専門家や知識層が参加する課題ごとのタスクフォースがあるが、それをさらに拡大させ、我々の活動が言論のプラットフォームとして機能するように体制を構築しなくてはならない。

 世界ではこれまで以上に、メインストリームのシンクタンクや課題に取り組む多くの要人との連携を強化し、世界の課題に日本が発信し、日本の影響力を拡大するための取組みを継続する。

 これらの3つの方針は全て連動しており、ウェブサイトでの発信を軸にそれらが組み立てられることになる。


コロナ危機下での組織運営の基本的な考え方

 この2年間の組織目標は寄付と会費で、組織運営の固定費を賄う体制を実現することである。今年の組織運営はコロナ拡大の影響もあり、私たちの取り組みも一定の制約が存在するが、その目標に向かってすでにその一部は着手している。

 資金基盤や会員基盤もこのコロナの影響で深刻なダメージを受けている。これまで想定された寄付は大きく減少しており、活動を継続するための特別の寄付も必要となっている。ただ、こうした経費に見合う資金基盤を実現させない限り、私たちの活動がこの困難な局面で持続的に展開することは難しい。

 そのために言論NPOの活動や議論に参加するための枠組み作りに着手している。

 私たちは言論NPOの顧客基盤を意識的に作り出すために議論やフォーラムの参加に無料の登録システムを導入した。また会員等のフォーラム参加は同時通訳などの経費が掛かる場合を除いて原則無料でフォーラム参加が可能なようにするなどサービス体系を整え、多くの人が言論NPOの活動に参加し、協力しやすいような仕組みづくりにも着手している。

 また今年は全てのフォーラムをWEB会議方式で行うことになるが、基本的に毎週、これらのフォーラムを開催する他、WEB会議の特性を活かし、地方なども含めより多くの人に参加の機会を広げることにした。

 この他、寄付者に実質的な負担がない「ふるさと納税」の拡大や、クラウドファンディングによる寄付の活用も今年の注力すべき課題である。

 またすでに事務所の引っ越しや不要不急のものの削減を開始しており。こうしたリストラも加えて、令和3年度末には会費と寄付でほとんどの固定的経費が賄える体制を実現する。


海外事業への取組み

 今年1月には、アジアの紛争回避と持続的な平和のための歴史的な事業となる日米中韓の「アジア平和会議」を1月に立ち上げ、コロナ危機が広がるギリギリのタイミングとなった3月には世界10カ国のシンクタンクの代表や要人を東京に集め、コロナ対策に世界の協力やルールベースでの自由の強化や世界の分断を回避するための声明を東京から世界に発信している。

 言論NPOはアジアや世界のメインストリームにいる多くのシンクタンクや知識層と連携してこれらの事業を展開しており、これは私たちの大きな強みとなっている。

 アジアではその他、中国との対話である「東京-北京フォーラム」や韓国との「日韓未来対話」も政府外交を補完する民間外交の場として機能している。

 これらはいずれも、このコロナ禍で今年は実質的な軌道修正は避けられない。米中対立に伴う地政学的な対立はさらに深刻化しており、また渡航がコロナで制限を受ける中で対面式での協議は難しくなっている。ただ、これらの世界やアジアとのコミュニケーションチャネルはこうした不安定な環境だからこそ、その意義はむしろ高まっている。

 そのため、今年はこうした協議を継続的なテレビ会議方式に全てを変え、イベント志向ではなく、議論を継続的に広範に行うなど、議論の発展に重点を移す。

 既に、「東京-北京フォーラム」を今年は11月末にテレビ会議方式で実施することを中国側と合意している。こうしたデジタル会議への転換は今後も追及する。また、私たちが毎年行う、中国等との共同の世論調査は今年も実施する。


最後に

 コロナ禍での影響で、多くのNPO法人がそうであるように、言論NPOも活動の継続に多くの困難が存在する。ただし、私たちはこれをむしろチャンスと考え、長らく課題としていた言論NPOの日本社会での基盤づくりに向けて本格的に取り組む。

 日本が直面する課題は、このパンデミックの危機の中でより大きなものになっている。

 この間、私たちは世界各国の政治家や専門家とコロナ対策の対応で連日、テレビ会議で意見交換を行っているが、対応の明暗を分けたのは、各国の信頼のインフラであり、政府の行動自体がその国の市民に信頼されたのかということである。

 民主統治のあり方に多くの問題を抱える国はこの変化に十分対応できず、多くの混乱を招いている。

 これに対して、日本は特殊な位置にある。他国と比べ死者は圧倒的に少ないが、多くの市民は日本政府への信頼を失っている。被害が相対的に少ないのは多くの人が、政府を信頼するよりも自分や家族の健康を考え、独自にこの危機に対応しているからである。

 これは、日本人の意識の高さや医療衛生インフラの成熟という評価もできるが、私たちが注目しているのは当事者として危機と向かい合う個人の行動である。

 多くの人は今回のコロナ危機で実際に危機を感じ、家族や友人の健康を心配し、社会を持続させる仕事の大切さを感じ取っている。社会に発言をし始めた人たちもいる。

 こうした当事者としての行動をどのように考えるべきなのか。私たちはむしろ健全な社会に向けた新しい動きと捉えたい。この動きが社会の現状を考え、解決に向かうものかはこれから次第だが、少なくてもこの変化を、日本の未来に向かう新しい変化に発展させる言論側の責任が私たちにある。

 令和2年度の取り組みの表題に、「日本の民主主義への信頼を立て直す事業に集中する」と書いたのは日本に先行きに強い危機感があるためである。

 今の日本は、その危機感を政治や企業、多くの市民が共有してその解決に力を合わせる局面なのである。そのためにも、私たちはここで掲げた事業を必ず成功させ、その責任を果たす覚悟である。会員、メンバーの方には参加と協力を是非ともお願いしたい。