日本では「自民党をぶっ壊す」と主張した小泉内閣が誕生、世界の多くの目がニューヨークを襲った「9.11」の衝撃的なテロに釘づけとなったのが、2001年でした。
その激動の変化の中で、日本では民主政治の将来に向けた新しい動き、特定非営利活動法人、言論NPOが発足しました。言論NPOは、政府とは独立した中立で非営利のシンクタンクです。
「私たち有権者が強くならない限り、日本の民主主義は強く機能できない」、「有権者が政治や将来を自己決定できる適切な判断材料を提供できる、質の高い、かつ参加型の言論の場を非営利でつくりたい」。それが創立者、工藤泰志の強い思いでした。
当時、東洋経済新報社で『論争東洋経済』編集長を務めていた工藤は、日本の将来に危機感を覚えていました。既存メディアの報道が課題に本格的に取り組まず、真面目な言論が形骸化していることもその大きな要因だと考え、今、日本で問われるべきは「言論不況」だと主張し、多くの知識層が、日本の将来と内外の課題に当事者として取り組むことを、呼びかけました。
東洋経済は、戦前を代表するジャーナリストで戦後、首相となった石橋湛山氏などを輩出した出版社であり、工藤はその論争誌の編集長を務めていました。
こうした問いかけに、より本質的な議論をする場が必要だと考えていた小林陽太郎氏(故人、当時は経済同友会代表理事)を始めとした当時の多くの論者が賛同、そうした多くの論者の協力で、言論NPOが誕生するのです。
それ以降、言論NPOはこうした思いを共有する、多くの個人のネットワークとして、政府や政党の政策評価や世界グローバル課題やアジアの平和のための取り組み、さらに市民社会の強化へと、活動を広げています。
言論NPOが当時、呼び掛けたのは、個人の自立と参加に基づく民主主義の強化であり、直面する課題に取り組むための理念と現実感を持ったより影響力を持つ議論の舞台を民間側に作り出すことでした。
私たちは「市民が強くならなくては民主主義も強く機能しない」と考えています。
そのために、2004年から政権の政策の実績評価や、選挙の際の政党のマニフェスト評価を継続し、この国の将来を考える議論を一貫して提供し続けています。
代表制民主主義は、有権者が自らの代表を選挙で選び、その政治家が課題に取り組むことで機能します。このサイクルが有効に機能しない中で、多くの有権者の中に政治不信が高まっていることが、私たちが行う世論調査でも確認されています。言論NPOの活動が、設立時から一貫として、この民主主義の課題に向かい合ってきたのは、それがミッションということだけではありません。民主主義という仕組みをより強く機能させなくてはと、考えるからです。
そのため、私たちは世界の有力なシンクタンクとも連携して共同の世論調査を行い、世界の民主主義が直面する課題を議論し、その改革に向けての世界的な会議を開催するほか、2019年からは、市民の信頼を失い始めている日本の代表制民主主義を修復するため、民主主義の仕組み自体の総点検の議論も開始しました。
アジアでは、関係悪化が深刻化していた中国との困難を民間の努力で乗り越えるため2005年、「東京-北京フォーラム」という民間対話を北京で立ち上げ、以後一度も中断することなく対話を行い、今では代表的な民間対話の舞台に発展しています。
私たちがこの時から毎年、継続する中国国民の世論調査は世界唯一の資料として、高い評価を受けています。
日中対話に続いて2013年に韓国との「日韓未来対話」、2017年には「日米対話」を創設しました。こうした二国間対話と並行し、世界で最も危険な地域と言われる北東アジアで、紛争を防止し、安定的な平和を実現する日米中韓4カ国のトラック2の舞台「アジア平和会議」を2020年に立ち上げています。
こうした二国間や多国間との対話を、私たちは「民間外交」とも呼んでいます。アジアでは世論が悪化し、政府間外交が断絶する、ことが何度もありました。その時でも私たちは対話を行い、環境づくりに努めています。2013年には尖閣諸島問題で緊迫した日中間で、民間レベルですが、「不戦の誓い」を日中で同意し、その内容を世界に公表しました。
言論NPOは日本でもまだ若い小さなシンクタンクですが、活動は世界の最前線に立っています。私たちは世界的シンクタンクである米国の外交問題評議会(CFR)が2012年に設立した世界20カ国のシンクタンク会議「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC) 」に日本から唯一選出されました。
以来、言論NPOの活動は世界の代表的なシンクタンクや知識層とも幅広く連携し、2017年には世界10カ国の民主主義国の世界を代表するシンクタンクと共同で、地球規模の課題を東京で議論し、世界に発信するという画期的な「東京会議」を立ち上げました。