言論NPOとは

平成26年度 言論NPO活動報告

 言論NPOの平成26年度の活動は、平成24年度からスタートした「3年計画」の最終年でした。本計画では「中立・独立・非営利のネットワーク型のシンクタンクの完成」の達成時期を、初めて東京五輪が開催される平成32年と定め、そのための資金基盤の基礎作りと、「言論外交」と「民主主義」の取り組みではこれまでの集大成を行うと同時に次の準備に取り組むことが、平成26年度の課題でした。

 まず、組織の基盤づくりでは、この一年間で①会員組織運営の見直し、②資金基盤の整備に取り組みました。ここでは会員組織の運営や言論NPOの会員サービスについて様々な検討や討議が行われ、言論NPOを言論ネットワーク化してより影響力のある存在として機能させるために運営の見直しに着手し、この具体化に関しては、平成27年度からの3年間で取り組むことになりました。資金の基盤作りでは、海外の助成財団の開拓に重点が置かれ、延べで米国の20の助成財団やシンクタンクとの協議等を行い、事業に見合った申請を行いましたが、結果的に現時点で海外では助成に至ったものはありません。しかし、国内では事業への助成や補助金で規模を拡大した他、事業をプロジェクトベースで取り組む体制を構築し、多様な資金源構築のための基礎固めはできました。

 「言論外交の展開」では、「第10回東京-北京フォーラム」を9月に東京で開催し、国交正常化の42回目の記念日に10周年の記念パーティを行いました。日中関係が冷え込み政府間の神経質な展開の中で、継続して課題解決に向けた議論を行える貴重な対話の場として、本フォーラムは中国側からも期待を集めており、フォーラム閉会後には、次の10年も継続して開催していくことを新しく中国国際出版集団と合意し、調印しました。また、「日韓未来対話」を7月18日にソウルで開催し、「日韓共同アピール」を両主催者で合意をし、課題解決に向け議論を継続していくことを発表し、第三回目の対話を東京で行うことを合意しました。近隣国との対話をこれまでの集大成から、次のステージに引き継いだ点では平成26年度の事業目的は達成したことになります。さらに、3月には日中韓米インドネシアの有識者を東京に招き、北東アジアの平和と民主主義の課題に関する議論を行いました。

 「民主主義のための議論・発信」では、12月の衆議院選挙に合わせて、「安倍政権2年の実績評価」と「主要5政党 マニフェスト評価」を実施しました。「実績評価」はメディアとも共同で行われ、幅広く報道されました。また言論スタジオでの議論発信にも力を入れ、平成26年度は週1度のペースで中継し、12月には8夜連続で各政策分野での評価議論を公表しました。これらの議論は全て公開され、延べ1700人の有識者がアンケートで議論に参加しました。言論NPOの活動は平成26年度、558件メディアで報道されましたが、ウェブ訪問者はわずかに減少、活動の発信や影響力の向上に課題があることが分かりました。


Ⅰ.会員組織運営

1.会員参加に関する新しい試み

 言論NPOでは2013年より、言論NPOのメンバーと政財界のキーパーソンを交えて議論する場として「モーニング・フォーラム」を開催しており、平成26年度は計6回行いました。今年は3月のインドネシアとの対話でパネリストとして参加したハッサン・ウィラユダ元インドネシア外務大臣をゲストスピーカーにお招きし、講演をして頂きました。シンポジウムのパネリストとして海外から招聘した有識者を、会員との交流の場にご参加いただくといった新しい試みにも取り組みました。

 また、会員が交流し議論する場として「会員交流会」も開催し、平成26年度は計2回行いました。2015年第1回の会員交流会では、これまで言論NPOからの活動報告をさせて頂いていた形式から、会員の問題意識から参加会員全員に意見を述べてもらうことしに、参加した会員から好評を得ました。しかし、開催回数が2回にとどまり、今後の定期的な開催に課題を残しました。


 これに加えて平成26年度は、会員を対象に「言論スタジオ」の中継・収録現場を公開し、各分野の有識者による第一線の議論に参加していただける機会や、会員主体のメディア評価などの検討も行われましたが、これらの取り組みは次年度に繰り越されましした。
また、会員組織の運営や会員間の言論活動への参加問題などに関して広範な検討も行いました。言論NPOを言論ネットワークしてより影響力のある存在として機能させるために会員組織の運営の見直しに着手し、この具体化に関しては、平成27年度からの3年間で取り組むことになりました。その他に、会員限定のウェブサイトの導入と活用策に関しても検討し、次年度から順次運用していくことも決まりました。


2.会員拡大・データベース登録者拡大の取り組み

 会員の拡大や言論NPOの周辺にいるサポーター層の拡大は、組織基盤の安定化や発信力の強化のために最重要課題となっています。ただ、一年を通して会員の拡大を行う体制が組めず、会員拡大の目標は未達でした。メンバー(基幹会員)は、既存会員からの紹介などにより、昨年度と比較して3人増の97人になりました。ただ、メンバーの中から、言論NPOをより強力に支える自発的な動きが始まるなど、活動の中に積極的な動きが見られました。一般会員は、講演などでの積極的な勧誘や年末キャンペーンなどで、23人増の158人に増えました。

 また、有識者のデータベース登録者の拡大については、670人増の7424人になりました。

 ただし、当初予定していた目標にはいずれも遠く及ばず、平成27年度への課題に持ち越されました。


 また、Facebookを用いた情報発信にも積極的に取り組んでいます。2012年度より継続して200件前後の投稿を行っており、その結果、2012年度末の「いいね」数は2165人でしたが、2013年には8049人と爆発的に増え、2014年度末には11568人と順調に数を増やしており、影響力の広がりに寄与しています。


Ⅱ.3つの資金基盤の確立

 言論NPOの経営基盤の安定化のためには、単一の資金源に頼ることなく、財源を多様に保つ必要が出ています。基本は会員組織の安定的な拡大ですが、その他にも財団の助成金や政府の補助金、個人や企業からの寄付の多様化が26年度も課題となっていました。
そのため、平成26年度は、会員寄付の拡大、企業寄付の拡大、財団助成金の拡大に取り組みました。企業寄付では、東京―北京フォーラムに対する企業寄付については、アドバイザリーボード・メンバーや支援者からのご紹介などのご協力を得ながら戦略的に企業回りを行い、5000万円の目標に対して、4128万円の寄付を集めました。ただ、韓国事業では、1000万円の目標に対して400万円にとどまりました。

 特に26年度の注力したのは、米国などの海外助成財団の開拓でした。延べで米国の20の助成財団やシンクタンクとの協議等を行い、事業に見合った申請を行いましたが、結果的に現時点で海外では助成に至ったものはありません。しかし、国内では事業への助成や補助金で規模を拡大した他、事業をプロジェクトベースで取り組む体制を構築し、多様な資金源構築のための基礎固めはできました。

 この他、東京‐北京フォーラムの開催に際して、朝日新聞の「フロントランナー」の1面に代表工藤のインタビュー記事が掲載されたときには個人の方から110,000円の寄付がありました。また、12月末には、年末のボーナス時期に合わせて寄付キャンペーンを実施し、90,000円の寄付をいただきました。

 ただ、これらの取り組みを通じて、寄付については寄付者の立ち位置に立ったきめ細かい対応、プロジェクトに対しては財団等との計画的なコミュニケーションと準備が必要であり、成果を十二分に上げるためには、それに対する経験の積み重ねやスタッフの体制や支援のネットワークも必要です。26年度はその基礎固めはできましたが、これらの課題は27年度に引き継がれ、再度、意識を持って取り組むことになります。


Ⅲ.言論外交と強い民主主義について

 平成26年度は、「言論外交」と日本国内で強い民主主義を機能させるための議論作りに取り組みました。


1.北東アジアに平和的で、安定的な環境を作るための「言論外交」の取り組み

 言論NPOは、日中、日韓の二国間の民間対話を通じて、両国間の国民感情や関係改善に向けた環境作りに取り組み、さらに北東アジアの平和構築のための、新しい対話作りの準備を開始しました。

 平成26年度は、中国との2か国間対話「東京-北京フォーラム」が10回目の節目を迎えました。ここでの課題はこれまでの10回の対話の集大成を行い、さらのそれを次のステージに繋ぐことでした。フォーラムでは、「東京コンセンサス」を採択し、両国の間でこの対話を発展させること、首脳会談再開のための環境づくりをすること、尖閣諸島周辺における危機管理といった平和のための動きをさらに具体化することに日中双方で合意しました。さらに、蔡名照・中国国務院新聞弁公室主任を含めて日中両国の有力者が立ち会いのもと、次の10年を継続して行うための調印式を行いました。この民間対話が両国の間で唯一の大きな民間外交チャネルになっていることを示しました。

 また、フォーラムの最終日である9月29日に、「10周年記念パーティー」を開催し、ここには蔡名照・中国国務院新聞弁公室主任や程永華・駐日大使などフォーラムのパネリスト全員が参加し、日本側からも岸田文雄・外務大臣、石破茂地方創生大臣など閣僚が参加しました。この日は「日中国交正常化」の42周年の記念日でもあり、日中関係が冷え込んでいる中で、日中友好の象徴的な日に両国の有力者が集い、日中関係の流れを変える一つの役割を果たしました。

 韓国との間では「第2回日韓未来対話」を開催しました。今回は、日本から座長の小倉和夫元駐韓国大使、川口順子元外相のほか、研究者、メディア幹部、文化人やNPO関係者を含む多彩な有識者13名が参加し、韓国からは柳明桓・前韓国外交通商部長官や申珏秀・元駐日本国大韓民国大使等といった直近まで韓国外交の最前線にあった有力者やメディア関係者など15名、総勢28名のパネリストが参加しました。また、会場には約200名の一般参加者が集まり、質疑応答では積極的にこの対話に参加しました。

 当初は2年間の事業として創設されたこの対話でしたが、参加したパネリスト及び一般参加者から、この対話が今後の日韓関係にもたらす意義を高く評価する声が多数あり、言論NPOとEAIは今後もこの「日韓未来対話」を継続することに合意しました。
こうした二国間対話をさらに発展させて、北東アジアの平和環境の構築のために米国を含めたマルチ対話も準備も始まりました。アメリカ外交問題評議会(CFR)が主催する世界シンクタンク会議CoC(council of councils)の総会に参加するために訪米した際に、精力的に有力シンクタンクや助成財団の代表者と意見交換を行い、アメリカ国内における有識者ネットワークを開拓いたしました。

 その結果、第10回東京―北京フォーラムの最中に、米国からも安全保障の有識者を招き、非公開の会議ながら、日米中のマルチラテラル会議「北東アジア戦略会議」を開催し他、日中、日韓、日米との連携を深めながら、27年度は日米中韓の共同世論調査と連動したマルチ対話を開催する準備を進めています。


2.強い民主主義を機能させるための取り組み

 日本国内の課題解決や日本の将来の課題に関する議論にも平成26年度は注力しました。24年に言論スタジオの収録スタジオを開設し、安定的に議論を中継する環境を整えました。

 その後、25年度から本格的な配信を始め、初年度は21回の放送、2年の目の平成26年度は35回の配信と、順調に数を増やしています。
今後は毎週1回のペースで放送することを目標にしており、同時に、その議論の場所を会員に公開し、参加できる仕組みづくりを行っていく予定です。

 また、25年度の12月には、安倍政権2年の政策評価を毎日新聞と合同で実施し、その評価結果が、毎日新聞の12月1日付の1面と3面、12面に大きく報道されました。実績評価発表後には、主要5政党のマニフェストを対象に評価を実施し、また、有識者アンケート結果を発表するなど、有権者に判断材料を提供することに取り組みました。

 また、今回の政権評価は、結果を発表するだけではなく、評価のプロセスそのものを公開し、発信していくことに取り組み、言論スタジオにおいて8夜連続で「安倍政権の通信簿と選挙の争点」について放送を行いました。


3.強い市民社会をつくる取り組み

 言論NPOでは、強い市民社会をつくるために、優れたNPOを表彰する事業を行っています。12月9日、日本プレスセンター・ホールにおいて、第3回「エクセレントNPO大賞」の表彰式が行われ、約140人の方々が参加しました。

 3回目を迎えた今回は、全国から106団体の応募があり、「2014年エクセレントNPO大賞」に選ばれたのは「シャプラニール=市民による海外協力の会」でした。その他、市民賞では「ママの働き方応援隊」、課題解決力賞では「にじいろクレヨン」、組織力賞では「シャプラニール=市民による海外協力の会」がそれぞれ受賞しました。

 表彰式後には、「エクセレントNPOフォーラム」を開催し、「エクセレントNPO大賞」の各賞受賞団体の代表者と審査委員との間で、「日本の非営利セクターは社会を変えることをできるのか」について意見交換が行われました。

 「エクセレントNPO」の見える化では、毎日新聞で表彰式翌日に表彰の結果が報道されるとともに、後日、特集面で各受賞団体の取り組みと受賞理由について大きく報道されました。また、毎日新聞の記事や言論NPOのホームページに掲載された記事には、フェイスブックの「いいね」が合わせて約1,000件に上るなど、社会の関心の高さがうかがえました。その他には、河北新報で表彰の結果が紹介されたほか、中国のメディア「人民日報」でも日本語と中国語で表彰の結果が報道されました。国外からも注目を集めています。


Ⅳ.世論への影響力強化に向けた情報発信の取り組み

 日本や世界が直面する課題について考える機会を多くの国民に提供するとともに、会員・寄付拡大の基盤となるデータベース登録者を増やすことを目的として、メディア報道やウェブサイトを通した発信力の強化に取り組みました。

 メディア報道については、日中・日韓の民間対話の取り組みを中心に、国内外で558件の掲載がありました。中でも、朝日新聞日曜版に代表工藤のインタビューが掲載されたほか、毎日新聞の社説で日韓共同世論調査の結果について「国民レベルでは、現状への懸念と関係改善を求める声が強い」ことを示す指標として紹介されました。このように、活動内容のみならずその背景にある理念やストーリー、また言論NPOが強調して伝えてきた重要なメッセージが全国紙の主要な記事で取り上げられたことは、昨年度の大きな成果だと言えます。

 また、日本の課題に関する議論を定期的に行い発信する取り組みとして、言論スタジオの実施体制の見直しを行いました。平成27年2月からは、毎週1回の放送、およびテーマに関する有識者アンケートと連動した議論の実施を原則とし、言論NPOのネットワークに参加する多くの有識者の声を輿論として顕在化させながら、課題の本質に迫る議論を展開することに取り組んできました。有識者アンケートは昨年度1年間で計11回実施し、のべ1692人が回答しています。今後は、言論スタジオの収録現場を会員に公開し、議論に参加していただける仕組みづくりを行っていく予定です。

 一方、ウェブサイトの訪問数は35万1234PVにとどまり、前年度に比べて減少しました。要因としては、フォーラムや世論調査結果発表などの事業実施時における訪問数が伸びなかったほか、言論スタジオ以外に継続的な議論発信の仕組みを構築できなかったことが挙げられます。これを受け、今年6月をめどにウェブサイトをリニューアルし、進行中の課題に向き合う論壇の盛り上がりを実感できるコンテンツの充実に努めます。加えて、音声コンテンツの提供やインターネットメディアへの露出拡大を進め、有権者が多様な接点を通して言論NPOの議論に触れられる機会づくりに取り組んでいきます。