1.評価の目的
特定非営利活動法人が寄付金無税団体としての公益性を十分に満たす団体であるためには、その活動が特定の政治的ないしは宗教的な立場に偏らずに行なわれる必要がある。本評価では言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」注1)を満たすものであることを示すため、2005年度の活動全体について自己評価を行った。
注1)「非政治性・非宗教性」とは特定非営利活動促進法(NPO法)第2条第2項の二に規定された次の要件を満たす活動を行っていないことを指す:A.宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教科育成すること。B.政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対すること。C.特定の公職の候補者、若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対すること。
2.評価対象
2005年度における言論NPOの活動を評価対象とする。
A.「言論活動等」(7つに分類)
(1) 政策評価事業(2005年9月の総選挙に向けて行われたマニフェスト評価事業)
(2) 日本の将来像の形成に向けた「アジア戦略会議」事業
(3) 地方の自立・再生の議論形成に向けた「地方再生戦略」事業
(4) 日中での議論のプラットフォーム形成に向けた「北京-東京フォーラム」及びその関連事業(アンケート調査等)
(5) 会員等向けフォーラム(一般フォーラム、モーニング・フォーラム、その他アドホックに行われたフォーラムや会議)
(6) ウェブ論壇(HP上で行う言論活動。上記(1)~(5)について行われたものは、それぞれの活動の一環として審査。ウェブ論壇独自のものとしては、工藤代表の見解表明、言論ブログ、その他アドホックな記事)
(7) 出版・広報宣伝(出版は、「マニフェスト評価書2005年版」、「第1回 北京-東京フォーラム 報告書」、冊子「言論ブログ 日本の外交どこがおかしいのか」の3点であるが、これらはそれぞれ(1)、(4)、(6)の一環として評価。広報宣伝は、メルマガ、行事等の案内等のうち「言論活動等」に該当する部分。)
B.その他、「言論活動等」の実施に必要な諸活動
会員拡大活動、寄付拡大活動、言論NPOの組織運営など
(注)ここでは、「言論活動等」を次のように定義する。
(1)当該団体の正式な活動として設営する場や当該団体が管理運営する発信媒体上において、設営された場への参加者、社会の特定の層(当該団体の会員等を含む)、ないしは不特定多数の者に向けて発信することを想定して、当該団体関係者あるいはそれ以外の者が行なう、①意見表明、講演、報告などの発言、②質疑応答を含む討論、③論文などの執筆、④これらの編集。
(2)当該団体以外の者が設営する場や当該団体以外の者が管理運営する発信媒体上において、当該団体あるいは代表者がその名の下に、設営された場への参加者、社会の特定の層(当該団体の会員等を含む)、ないしは不特定多数の者に向けて発信することを想定して行なう、①意見表明、講演、報告などの発言、②質疑応答を含む討論、③論文などの執筆。
(3)上記(1)の内容を社会の特定の層(当該団体の会員等を含む)、ないしは不特定多数の者に向けて発信する活動。
(4)上記(1)の活動への参加を呼びかけ、場を設営するなど(1)の活動の準備を行ない、あるいは議論を設計する活動。
3.評価方法
自己評価は2005年度における言論NPOの全ての事業について、最初にネガティブチェックリストによる評価を行い、その要件で「非政治性・非宗教性」を満たすとするには疑わしい事業については、「コンテンツ判定基準」で再評価を行う、2つの評価基準を組み合わせて評価を行った。各評価基準による評価方法は次の通りである。
1)「ネガティブチェックリスト」による評価
米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて言論NPOが作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価(「非政治性、非宗教性」を満たすためにクリアーしなければならない項目に対する該当有無のチェック)を基本とする。
言論NPOの2005年度の全ての事業を対象に、このリストの項目毎に評価し、外形上から明らかにその活動が「非政治性・非宗教性」を満たす事業は「○」、「非政治性・非宗教性」を満たさない事業は「×」とした。外形的な判断のみでは評価できない事業は「△」とした。(評価結果の詳細は別紙2参照)
ネガティブチェックリストのチェック項目は「禁止項目」と「注意を要する項目」の2つに分けられる。前者は「非政治性・非宗教性」を満たすためには必ずクリアー(「○」)しなければならない項目で、後者はその要件を満たすのは望ましいが、その要件を満たさないからと言って、直ちに「非政治性・非宗教性」を満たさないとは言い切れない項目である。
「△」とされた事業(例えば別表2のチェック項目2-1の(1)政策評価事業)であっても、その詳細を更に追加のチェック項目(例えば同表 項目 2-1-1)で検討し、その要件を満たすとされた場合には、ネガティブチェックリストによる対象事業の評価は「○」として、救済することとする。なお、別表2において、このように追加の項目で更に詳細をチェックした事業は、「△」との混同を避けるため「▽」と表記し、追加項目の行で「○」「△」「×」の評価を行っている。
2)「コンテンツ判定基準」に基づいた評価
ネガティブチェックリストにおいて、いずれの事業も各チェックリスト項目が全て「○」の場合は、2005年度の言論NPOの活動は「非政治性、非宗教性」が完全に満たされているとする。一つでも「×」があった場合は、「非政治性、非宗教性」が完全には満たされていなかったものとする。ネガティブチェックリストにおける要件で救済されない事業(「△」が一つでもあった事業)が残った場合は、その事業についての評価は「コンテンツ判定基準」に委ねることとする。「コンテンツ判定基準」による評価とは、個別の事業の形成プロセスを、5つの客観的な基準(①目的の明確性、②立場の明確性、③ターゲットの明確性、④コンテンツ(事業)形成に係る方法論の明確性、⑤方針決定に係るガバナンス及び透明性、詳細は別紙1、別紙4参照)により、評価することである。ネガティブチェックリストでは評価できない事業についても、「コンテンツ判定基準」によって、個々の事業の形成プロセスが「非政治性・非宗教性」をもつと判断できる場合には、最終評価としてその事業の内容自体も「非政治性・非宗教性」をもつとみなすことができる。
3)自己評価結果の理事会での議決、言論監事による判定を経て、通常総会に提出
以上の評価は、言論NPOによる事後的な「自己評価」であり、これを毎年度、理事会で議決の上、通常総会に提出する。通常総会への提出に当たっては、この自己評価について言論監事による判定を行ない、その結果を通常総会に報告する。
4)公表
評価の信頼性を最終的に担保するものは、公開の原則に基づく評価のアカウンタビリティーである。
評価の公表は、インターネットなどにより行い、自己評価結果と、その根拠に係る概要、及び、言論監事による判定を公表する。また、公表に際しては、評価結果について疑問等がある場合には評価根拠の公開申請を受け付ける旨を明示し、一般から公開申請があった場合には、ウエブ上に評価結果の根拠をより詳細に公開する。
4.評価結果
1)ネガティブチェックリストによる評価結果
ネガティブチェックリストによる評価結果は別紙2の通りである。2005年度の言論NPOの活動は、非宗教性を完全に満たしていることが判明した。その一方で、非政治性については、明確に否定される項目はなかったものの、(1)政策評価事業5項目、(2)アジア戦略会議事業1項目、(3)地方再生戦略事業2項目、(4)「北京-東京フォーラム」及びその関連事業2項目、(5)会員等向けフォーラム1項目、(6)ウェブ論争1項目、(7)出版・広報宣伝1項目の「△」とされる項目が残った。
2)「コンテンツ判定基準方式」による評価結果
ネガティブチェックリストにおいて、「△」とされた評価対象分野について、コンテンツ判定基準方式による評価を行なったところ、いずれも「非政治性」を満たしているものとされた。これによって、ネガティブ・チェックリスト方式で「非宗教性」をもつとされた事業が全くなかったことに加え、「非政治性」について「△」とされた全ての項目について問題はないとの結論が得られた。
従って、2005年度における言論NPOの活動は全てにわたり、「非政治性・非宗教性」を満たしているものと評価される。
5.今後の課題
■「非政治性・非宗教性」の説明力をより強化するために
今般の評価結果には影響しないが、「言論活動等」のプロセスの非政治性・非宗教性の説明力をより強化するためには、2006年度の言論NPOの活動において、もう一段の努力が必要である。
例えば、①2005年9月の総選挙に際して行われた「政策評価事業」については、それまでの同事業においては必ず行なわれていたアンケート調査が行われなかった。これは言論NPOの評価内容や評価作業に広く意見を集め、参考にするという努力が欠けている。また、②同事業は本来、有識者で構成する「マニフェスト評価会議」での議論や決定を受けて行なわれることが同事業の開始以来、想定されていたが、今回はこの会議が開催されていない。加えて、③アジア戦略事業については、過年度において、ウエッブとフォーラムと雑誌を有機的に組み合わせた議論の展開が求められたが、2005年度は、正式の会議が4度にわたり開催されているものの、その概要がウェブ上に紹介されているだけで、この議論の展開が中断されている。こうした議論の公開と展開はそれ自体が議論形成のプロセスの非政治性・非宗教性を体現するものであり、2006年度はさらにそれを徹底する努力を行う必要がある。
上記は、いずれも、言論NPOの事業の広がりに比して、それにふさわしい人員や資金などの体制が未だに整備されていないことから、物理的・時間的に困難だったとの事情によるものであり、やむを得なかった面もある。特に、政策評価事業については、2005年9月の総選挙に向けた8月の衆議院の解散が極めて急な動きであった一方で、その時期は、言論NPOが全体として、第1回「北京-東京フォーラム」事業で忙殺されていたという事情もあった。
いずれにせよ、言論NPOとして、そのミッションを十分に担い得るための体制を整備することが、非政治性・非宗教性の説明の観点からも急がれる。
以上